モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています

雪本 風香

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会わない決断

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『あかりちゃん!?』
 電話口でも焦っているのが伝わってくるくらいの理貴の声量にあかりは驚き、思わず耳に当てていたスマートフォンを離した。
 実家から家に帰って、ひとっ風呂浴びたあかりが理貴のメッセージに既読をつけた途端、待ち構えていたように電話が鳴ったのだ。そしてあかりが電話に出るなり冒頭の一言を発した理貴は、冷静になったようだ。

『ごめん、あかりちゃん。しつこく連絡して。でも、本当に彼女とは何もないから』
 このことが言いたくて理貴はあかりが出るまで連絡をしてきたのだろう。本当に理貴が彼女と関係ないとしたら焦る理由はわからなくはない。帰り際にネットの記事を確認しても、藤井理貴と早見七星の熱愛はSNSのトレンド入りするくらい話題になっていたのだから。
 理貴が交際を否定したのとは反対に、早見七星は「良いお付き合いをさせていただいています」と発言したことから紛糾しているのだ。
 
「別に気にしていないから」
 自身が動揺していたことを巧みに隠したあかりは、理貴にサラリと告げる。そのことに食いついたのはさっきまで慌てふためいていた理貴だった。
『そこは気にしてほしいんだけどな』
 電話の向こうで理貴が苦笑しているのが伝わる。それでも隠し玉を持っていたのは理貴の方だった。
『師範はお元気だった?』

 理貴の言葉に絶句したのはあかりだった。
 はぁー、と息をついて気持ちを立て直したあかりは理貴にチクリとイヤミを言った。

「なんでも筒抜けなんだね、アンタたちって」
『そうでもないんだけどね。……まぁ実際ユキの猛プッシュに助けられてはいる。そうでもしないとあかりちゃんの近くに居なかった時間は埋められないから』
 正直に告白する理貴に、あかりも素直に答えることにした。


「理貴」
『なに、あかりちゃん』
「あのさ、……ショックだったんだよね、正直。あの写真」
『……えっ!?』
 突然のあかりの告白に電話口で理貴が息を呑む気配がする。理貴が固まっている間にあかりは残りの気持ちを伝えることにした。
「そこで理貴の存在が思いの外、大きいことに気づいて。でも昨日あの記事が出たのを知った颯さんが、無理やり仕事抜け出して家に来てくれて、……キスされて揺らいだ」
『……そっか』
 あからさまに落ち込む理貴に、あかりはけど、と続ける。
「けど、翌朝理貴の会見を見て……。理貴が怒っているのを見て、また揺さぶられた」
『うん』
「だからおじい……祖父のところに行って、雑念が消えるまで竹刀振って……。びっくりするくらい鈍っていたから師範にどやされて、勘が戻るまで散々打ち込まされた。……おかげで明日筋肉痛確実だよ」
 あかりと祖父の姿がありありと想像できたのだろう。電話の向こうで理貴が笑う。あかりもつられて少し笑って、口を開いた。
 
「あのさ、私。しばらく理貴とは会わない」
『……それは週刊誌のせい?』
「違うよ」
 あかりはきっぱり言い切る。
「私の問題だから」
『あかりちゃんの?』
「うん」
 あかりは深呼吸を一つすると、心中を吐露する。 
「私ってモテたことないんだよ。だから恋愛経験も少ないし。颯さんと理貴、同時に言い寄られるなんて考えてもみなかったんだ」
『……うん』
「でもさ、今、実際にそんな状況になっていてさ。それぞれに真剣に想いを伝えてくれるし、困ったことにどちらも嫌いじゃないんだよ。むしろ好きなのよ」
『……うん』
「それにさ、二人とも私が欲しいものくれるんだよ。颯さんは元々そういう人だったけど、理貴もさ、絶妙なタイミングで私を楽にしてくれる言葉や態度で示してくれる」
『僕がそうしたいだけだよ』
「わかっている」
 あかりは一呼吸置く。続きを口にするのは、自身の愚かさを公言しているようで恥ずかしくて堪らない。だが、言わなければダメだとあかりは気持ちを奮い立たせた。

「ズルいんだけど、どちらにもいい顔しようとしている。そして自分で決めきれないからって……流された方が楽だからって……体を重ねたら楽になると思い込んで颯さんに『抱いてほしい』って言ったんだ」
『!?』
 理貴が絶句している。あかりは自嘲するように笑いながら口を開く。
「颯さんは抱かなかったよ。その代わり『人に流されて意思決定していいのか』って怒ってくれて。私の気持ちを尊重して一晩中添い寝してくれた」
『……その役目、俺がしたかったんだけど』
 理貴の剥き出しの感情にあかりは不覚にもときめいてしまう。目の前に理貴がいなくてよかった、と思いながらあかりは言葉を続けた。

「私が弱いからさ。ちゃんと選ばないといけないのに、流されてしまっていた。どちらにと不誠実なことしていた」
『そんなことないから!』
「あるよ」
 断言する理貴とは反対にあかりは静かに答えた。
「あるの、そんなこと。私は弱い。前に警察官辞めようと悩んでいた頃があったんだけど、その時も楽な方に流されようとしていた」
『……』
「けどさ」
 これだけは自信を持って言える。あかりは力強く宣言する。
だと、胸を張っていえるように、キチンと答えを出す。それが真剣な想いを伝えてくれる二人に、私が唯一出来ることだから。だから……」
 唾を飲み込んだあかりは、囁くように理貴に言った。
「信じて待っていてくれる?」

『待つよ』

 間髪容れずに返ってきた理貴の答えに、あかりは胸をなで下ろす。
 あかりの話を聞き終えた理貴は今度は自分のターンだというように想いを口にする。

『本当は今すぐ会いたい』
「……」 
『会って抱きしめたいし、好きだって沢山伝えたい』
「うん……」
『けど、あかりちゃんの気持ちは尊重する。っていうか、あの記事のせいで現実的に僕も今すぐには動けないし』
「あっ……」
 半分茶化す理貴だが、対応に苦慮しているのはあかりにも想像がつく。一瞬にして時の人となった理貴は、現状マスコミに追い回されているのだから。多少なりともあかりにも経験があるが、マスコミ彼らは一度決めたターゲットにはビックリするくらい執拗に追い回す。ほとぼりが冷めるまで付きまとわれるのは容易に想像できる。

『あかりちゃん』
 理貴が呼びかける。あかりが答えると、理貴は何かを押し殺すような声だ。そっと理貴は押し出す。
『あかりちゃんは昔から物事を深く考えすぎるけれど、もっと周りを頼っていいんだよ。そのために僕は……』
 その先の言葉は小さすぎてあかりの耳には届かなかった。理貴が何を言おうとしたのかわからない。あかりは少しだけ逡巡した。
「理貴は買いかぶりすぎだよ、私のこと」
『そんなことはないよ。あかりちゃんの本質は昔から変わっていない』
 力強く断言する理貴の勢いに押されたあかりは、思わず肯定してしまう。
「そう……かなぁ?」
『うん。昔、僕が虐められていたのに気づいて、それとなく道場で居場所を作ってくれた頃からあかりちゃんは変わっていない』
 同意しようとして、はたと気付いた。

 ――このことは理貴には内密にしていたんじゃなかったのか?――

 あかりの戸惑いを察した理貴は電話口で笑う。

『小学生ができることって限られてるし、ほら僕、聡い方だったじゃん?』
 サラリと頭の良さを自慢する理貴だが、あかりはそれどころではない。当の本人にバレバレだった事実は、過去のこととはいえ顔から火が出そうだ。
 一人恥ずかしさに悶えているあかりに理貴は寂しそうに伝えた。

『待っているから。だから……』
 小さくなった理貴の声に、あかりは「うん」と囁くように返事をしたのだった。
 
 
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