モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています

雪本 風香

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久しぶりの顔合わせ

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 はぁ、とあかりがついたため息を早野は目ざとく聞き留めて、「どうしたの?」と聞いてくる。
「何でもないです」
「そうなの? でも、あかりがそのテンションでため息をつくときは決まってプライベートの時だよね。三角関係に進展があったりした?」
 さすが早野だ。ため息一つで察しがよすぎる。指摘通りプライベートで悩んでいるあかりは、心の動揺を隠して平然と答える。
「三角関係って……。それに進展も何もありません」
「ホントにー?」
「本当です。山科係長とは別れていますし、彼とも付き合っていません」
 きっぱり言い切ったあかりを、何故か早野はマジマジと見つめる。そしてポツリと呟いた。

「山科くんのことは吹っ切れたんだね」
「なっ……!?」
 早野の言葉にあかりは絶句する。早野はあかりをそっちのけで一人頷いて、少しだけ寂しそうに頷いた。
「そうか、山科くんの悪あがきは成功しなかったか。なんだかんだ言いながらあかりは情に絆されると思っていたけど。君たちの結婚式で上司として挨拶するのが夢だったけど、こればっかりは仕方ないね。残念だけどこういうことはタイミングもあるから」
 あかりは驚愕した目で早野を見る。この上司はどこまであかりと颯のことを把握していたのか。
「全然知らないよ。あかりも山科くんもそんなこと話さないでしょ。あくまで推測だよ、す・い・そ・く」
 不思議な節をつけながら、早野は茶目っ気まじりにあかりに言った。早野の言うことは事実だろう。颯もプライベートの話をペラペラ言いふらすタイプではないし、あかりも必要以上の報告はしていない。
 早野の観察眼には驚かされるばかりだ。
 あかりはもう一度深いため息をつくと同時に、早野という警察官の底知れぬ能力に一人震えたのだった。

 ※

 颯にはきちんと自身の気持ちを告げてから早くも一月近く経っていた。その間、理貴には連絡をしていない。
 正確に言うと、連絡を取ろうと何度もスマートフォンを手に取るが、メッセージは送れないのだ。

 (どんな顔をして伝えればいいのよ!)

 理貴はあかりの返事を待っている。あかりが気持ちを伝えればそれで済むはずなのに、どうしても照れが入ってしまうのだ。
 今まで弟みたいとか、恋愛対象じゃないとか散々言ってきたのだ。それが仇となり、あかりはどんな顔をして理貴に連絡すればいいかわからなくなっていたのだ。

 早くしないと、と思えば思うほど、あかりの指は送信のボタンを押せないまま月日が流れていくのだった。


 あかりの焦れったさに神様が背中を押したのだろう。あかりが動く日がやってきた。発端は結の「飲みに行かない?」の一言だった。
 珍しく定時に終わったあかりは、同じく日勤を終えた結とかち合わせたのだ。
 残業が多いのがデフォルトの二人が偶然とはいえ、いつもより早い時間に警察署を出たのは奇跡に近い。
 ふたつ返事でうなずいたあかりを、結は行きたい店がある、と早足で電車まで引っ張っていったのだった。


「あっ……」

 サクッと飲んで近況報告をして。まだ飲み足りないから近くのバーに行くという結と別れて駅へ向かっていたあかりは、ふと気づく。

 (確か、理貴の会社ってこの辺じゃ……)

 理貴と連絡を取るかうだうだ迷っている間、気まぐれで彼の会社概要を眺めていたあかりの記憶にはバッチリ刻み込まれていた。
 念の為、携帯で場所を確認したあかりは、自分の記憶が確かだったことにホッとする。

 (行って……みるか)
 
 脳裏に浮かんだ行動を実行しようと思ったのはきっと、酒を飲んで気が大きくなっていたせいだ。決して理貴に会いたいわけではない。
 あかりは自身に言い聞かせるようにして、すぐ近くの理貴の会社へと足を向けたのだった。


 ※

 理貴の会社は、駅にほど近いオフィスビルの一角にあった。建物はすぐにわかったのだが、入口がわからなくて何度か周辺を行ったり来たりしていたあかりは、何十社もの名前が書いてある案内板を見つけてホッとする。理貴の会社が入っているフロアはわかっている。あとは社名を探すだけだ。

「あ、あった」

 会社概要によると、三十七階建ての七階に理貴の会社が拠点を移したのは半年ちょっと前だった。ちょうどあかりと再会した頃である。
 ここに来る前は、売上もいいのだし、どうせ移転するならもっと高層階に事務所を構えればいいのに、と疑問に思っていたがその謎が解けた。
 理貴の心遣いが見て取れたからだ。

 複数の路線が乗り入れているターミナル駅にあり、しかも地下で直結しているオフィスだ。利便性も高く、更に多くの人が出入りするオフィスビルらしくシャトルエレベーターが設置されていた。そのエレベーターが停まるのが七階と二十七階なのだ。
 各階に停止するエレベーターでも行けるが、シャトルエレベーターでもオフィスに向かえるのは、かなり利便性が高いだろう。

 (理貴らしいな)

 あかりはクスリと笑った。昔から細やかな気遣いを自然とする人間なのだ、藤井理貴という男は。
 年月が経っても変わらないでいる理貴の姿が愛おしい。
 あかりが自身の頭に浮かんだという気持ちに一人赤面していたその時。


「え? あかりちゃん!?」
 突然背後からかけられた驚きの声に、あかりはびっくりする。振り向かなくてもわかる。

 理貴だ。

 振り向いたあかりは予想通りの人物の姿を確認して、どんな顔をしたらいいのかわからず立ち尽くす。
 会うかもしれないとは思っていた。それでも実際に顔を見るとどうすればいいのかわからない。

「社長、その方は?」
 理貴と共にエレベーターホールから出てきた男性があかりを不審げな目で見つめてくる。理貴は、あぁ、と短くうなずいて早口で説明をする。

「友人のお姉さんだよ。ほら、何回か話したことある幼馴染の……」
「あぁ、彼女が……」
 男性は理解したというような表情を浮かべると、取り出したタブレットで何やら確認した後、理貴に進言する。
「社長、確かその方とお取引出来たら、と以前お話されていましたよね? 本日はこの後の予定はございませんし、もし彼女のご予定がないようでしたら軽くお打ち合わせされては? まだ営業の者も何名か残っていますし、お話するのでしたら早いに越したことはありませんから」
 理貴は突然の男性の言葉を瞬時に理解したようだ。サッと顔を経営者のそれへと変えた理貴はあかりにいつもは見せない、柔和だが心に壁を作ったような笑顔を向ける。
「そうですね。福田さん、お時間ありますか? でしたら少し仕事のお話でも如何でしょう?」
 問いかけているのに有無を言わせぬ圧を込めた理貴に、あかりはコクンとうなずいたのだった。 

 

  
  
 
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