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我慢できないから
しおりを挟む「あ、えっと……早……いね?」
あかりより遅れること十分。予想外に早い理貴の来訪に、心の準備ができていなかったあかりはしどろもどろになる。
それでも自分が誘ったからと、あかりは部屋に上がるように促した。
だけど理貴は首を横に振って玄関でいいと言い張るばかり。何往復か押し問答が続き、キレたのはあかりだった。
「ここでするような話じゃないから! いいから上がってって!」
あかりの言い分に理貴は珍しく、イラついた表情を向ける。その顔はどことなく赤い。
「……どうなっても知らないから」
ボソリと低い声で告げた理貴は、「お邪魔します」とようやく靴を脱いだのだった。
※
「ちょっ……!? 理貴!?」
あかりの部屋は、一LDKだ。部屋に入るなりリビングに置いてあるソファーに押し倒されたあかりは覆いかぶさる理貴を突っぱねようとする。
あかりの叱責など今は問題ではないというように、理貴は低い声で呟く。
「話って何?」
「……先、どいて」
「イヤだよ。言ったよね、『どうなっても知らない』って」
「ちょっ……」
あかりは腕に弱々しく力を込める。だがそんな力では理貴はピクリとも動かない。手荒にすることも出来ず、焦るあかりに理貴は改めて問い質した。
「で、話って何?」
「どいてくれたら話す」
「イヤ」
「どいて」
「だからイヤだって」
玄関先でもしたような応酬が続く。と、先に耐えきれなくなったのは理貴だった。フッと微笑むとあかりに切り出す。
「ってか、警察官のあかりちゃんなら常に鍛えているんだし僕のこと押し返せるし、投げ飛ばせるでしょ? そんなに力入れてないんだから」
「なっ……!?」
あかりの顔は瞬時に真っ赤になる。
「そ、それは……て、手荒にしたら、悪いか……なって……」
どもりながら視線を逸らすあかりを理貴は許さない。
片手であかりの顎を掴んて自分の方に向かせると、同じ問いを発した。
「で、話って何?」
と。
「わ、……忘れたっ!」
あかりの口から飛び出したセリフに理貴は呆気に取られる。その隙に理貴の下から抜け出すことに成功したあかりだったが、狭い家だ。すぐに理貴に捕まってしまう。
「ダメ、そんなの」
理貴は逃がすつもりはないようだ。
「今日、久しぶりに会えただけでも嬉しかったんだ。好きだしずっと会いたかったから」
「……ん」
「なのに家にまで教えてくれてさ。それも部屋の中まで招き入れてくれて」
「……」
「そんなの期待するよね。あかりちゃんも僕と同じ気持ちなんだって」
「……っつ!」
「正直さ、理性吹っ飛びそうなんだけど。でも本当に違うならまだギリギリ抑えられるから。だから……」
からかう口調から少しずつ懇願するように声が変わっていく。そして少しだけ掠れた声で理貴は囁いたのだ。
「あかりちゃんの気持ち、教えて?」
と。
※
「……すき」
「え? なんて?」
そっぽを向きながら口の中でボソッと呟いたあかりの声は理貴に届かなかったようだ。聞き返す理貴の顔を恐る恐る見たあかりは、満面の笑みを浮かべた彼の姿を見つける。
「……っつ!! 聞こえているでしょ!?」
「今のは本当に聞こえてないよ」
「今の? って何よ!?」
理貴は我慢の限界というように声を上げて笑う。
「いやっ……さっき……、僕の会社で……口滑……らしたでしょ」
息も絶え絶えにいう理貴だが、あかりは心当たりがない。ムスッとするあかりにますます笑いが込み上げてくる理貴だが、これ以上笑うとスネて収集がつかなくなるのも予想がつく。鉄の意志で笑いを引っ込めると、もう一度あかりを促した。
「あかりちゃん」
「……なによ」
若干へそを曲げているあかりは投げやりに答える。
「気持ち聞きたい」
「……っつ!」
初めて聞く甘えるような声を出す理貴に、あかりは不覚にもドキッとしてしまう。
「ねぇ、教えて?」
「……」
「お願いだから……。俺のこと、好き?」
小首を傾げるようにして、目だけは怖いくらい真剣に問いかける理貴に、負けたのはあかりだった。
「っつ……!! 好き! 好きだから! もうこれでいいでしょ!?」
ヤケクソで叫ぶあかりの言葉に、理貴はみるみるうちに顔を赤く染めた。
「ちょ……待って。破壊力すごっ……」
顔を片手で覆い照れた顔を見せないように顔を背けようとする理貴は、先程の強気の態度とは打って変わって、子どもの頃、よく見た仕草と同じだ。
あかりはもっとその仕草を見たくなる。
「理貴」
「なに?」
「好き」
「……っ!」
「大好きだよ」
「ちょっ……ダメだって!」
「なんでよ? 聞きたかったんでしょ、好きって言うのを」
半分以上仕返しも込めて気持ちを連呼していたあかりを、理貴は照れて真っ赤な顔で見つめる。
(あ、……まずいっ!)
理貴の瞳の奥に強い衝動が見て取れたからだ。
あかりが後ずさりするのと、再び理貴に押し倒されるのは同時だった。
今度はあかりが抵抗する間もなく、唇を塞がれた。
「んんんっ!!」
口の中で必死に抵抗するが、反対に理貴はどんどん執拗になってくる。角度を変え何度も口を重ねたかと思うと、舌で強引に歯の間をこじ開ける。あかりの舌を発見すると、絡めるように自らの舌でなぞってくるのだ。
それでもなんとか隙を見つけたあかりは理貴のキスから逃れると制止の言葉を発した。
「ちょっ……まっ……」
「ダメ。もう待てない」
理貴は片手でジャケットを脱ぎながらあかりに笑みを向けた。
「それに誘って来たのはあかりちゃんでしょ。ちゃんと僕は言ったよ。どうなっても知らないって。理性吹っ飛ぶって。煽った責任は取ってもらうからね」
「ひっ……あっ!」
カプッと首元を甘咬みされたあかりの口から素っ頓狂な声が出る。
「あかりちゃん。僕のことまだ幼馴染って見ているでしょう? 今日からはちゃんと恋人として見てもらうから」
理貴の手がネクタイにかかる。首元を緩めると、慣れた仕草でスッと外していく。
「ちょっ……まって!! ちゃんと恋人って見てるから! 明日仕事……!」
「奇遇だね。僕も仕事なんだ。だから……」
理貴は嬉しそうにこりと微笑んだ。
「ちゃんと手加減はするから」
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