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第一章
第十三話:ディストピア・カーニバル
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「────え?」
ガブリ。
自分の肩が何かに噛みつかれる音がした。
唐突な痛みを受け、とっさにザックから離れる。
前に立つザックはさきほどまでの健康的な姿とは異なり、腐乱死体のようにボロボロになっていた。
ザックの隣に立つリックも腐食した顔を歪ませながら、獲物を見るような目で俺を見ている。
ザックはモグモグと何かを咀嚼し、血で汚れた口を舐めながらこちらを見る。
俺の肩口からはじわりと血が滲み出し、衣服を染めたていた。
「────つッ!!…………嘘だろ……ザック……」
周囲を囲んでいた混血達は、いつの間にか全て動死体になっていた。
先ほどまでの賑やかな喧騒が嘘であるかのように、ゾンビ達は低い呻き声をあげながら、俺の方にゆっくりと近づいてくる。
「……クソッ!! <火球>!」
近づいてくるゾンビに銀杖を構え、火球で焼き払う。
前方にいたゾンビが火達磨となって倒れ、道が切り開かれる。
俺は抉られた肩を押さえながらも、蟻のように群がるゾンビ達の隙間を走り抜ける。
「……早く……ここから逃げないと……!!」
動死体に有効な火属性魔術である<火球>を放ちながら、街の外へ向かう。
しかし街中からゾロゾロと溢れでてくるゾンビ達の圧倒的な数を前に、徐々に取り囲まれていく。
「……<火球>! ……はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えに必死で走り続けたが、十三度目の火球の魔術を放ったところでついに魔力の底が尽きた。
「……はぁ……クソッ……! 俺にもっと魔力があれば……ッ!」
魔術を使えない魔術師などただの人間と同じだ。
ゾンビ達は地面に手をついて動けない俺に向かって、ゆっくりと群がってくる。
先頭には、かつての仲間だったザックがいた。
「…………ザック」
狼耳は欠け、空虚な瞳から血のような痕が残っている表情はまるで泣いているかのようだった。
俺はかつての仲間の変わりように、言いようのない悲しさを覚えながら目を瞑った。
「───《神狼貪る縄》」
目を開けると、光の縄がすべてのゾンビを拘束していた。
あれだけ街の中を溢れかえっていたゾンビ達が一斉に動きを止め、静止したように止まっている。
「ヴァ……ア……アァ………」
そして、拘束されたゾンビ達の身体は徐々に薄れていき、やがて最初から夢であったかのようにその存在を消していった。
ゾンビ達が消え、誰いなくなったレンガの街の入り口に目を向けると、そこには烏面の男と銀髪の少女が立っていた。
「無事かね? すまない、屋敷に結界を施していて遅れてしまった」
その声がマモンのものだと分かり、助かったことを理解して安堵の息をつく。
「あ……ありがと……ござい……ま………」
朦朧とした意識の中、最後に何か言われたような気がしたが、俺はそのまま倒れるように眠ってしまった。
「………師匠、一部始終見てましたよね」
「イズ、余計なことは言わなくていい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「しかし……彼もよく気絶する男だな」
眠っているセシルをおぶりながら、私は屋敷への道を歩いていた。
たしか最初に会ったときもハンクが怪我をしていて背負えなかったから、気絶している彼を私がおぶって行ったんだったな……。
……こいつ川に捨ててもいいかな。
「師匠、次はわたしをおんぶして下さい。なんなら抱っこでもいいです。いえ、むしろ抱っこがいいです」
横で騒がしく喚いている子供を無視しながら川沿いを歩いていく。しかしあまりに煩かったため、話題転換をしようと、少し疑問に思っていたことをイズに聞いてみることにする。
「………さっきは屋敷の料理を食べようとしなかったがどうしてだ? まさか本当に私に遠慮したわけではないだろう」
「あはは、そんなわけないじゃないですか。……だってあの料理腐ってましたよ……? 皆さんが平然と食べるものだから、言い出せなかったですけど……」
イズが気落ちした様子で俯きながら言う。
屋敷にあった料理は、雑草やカビの生えたパン、腐った肉などが並んでいた。
シェリア達がそれを見ても、動じた様子もなく食事を始めたことでショックを受けたのだろう。
私に対して遠慮が一切ない態度は後で改めさせるとして、彼女の疑問に答える。
「シェリア達が気がつかないのは、この川を流れている花の匂いが原因だ。最初の転移直後から、この花の香りを鍵とした催眠を受け続けていたのだよ。……まぁ、私は悪魔だから精神支配の類は効かないんだが」
私の言葉に目を丸くして驚くイズ。
そして小首を傾げながら、口元に手を当てて聞いてくる。
「……そうだったんですか。甘くていい匂いだなーとしか思ってませんでした。……わたしも半分悪魔の血が流れているから効かなかったんですかね」
「…………可能性はあるだろう。半悪魔のことは私もあまり詳しくないから何とも言えないが……ベル君だったら何か知っていたかもしれないな……」
元の世界にいる私の友人の話をされて、不思議そうな顔でイズがこちらを見つめてくる。
そんな様子をみた私は、軽く咳払いをし話を変える。
「……こほん。先程の光景を見た限り、どうやらここに来た混血達は皆アンデッドに変えられてしまったみたいだな。……ザック、と言ったか。彼の友人も動死体になっていたようだ」
私の言葉にイズは辛そうな顔をしてセシルの方を見る。
姿を消して一部始終を見ていたからわかるが、彼は混血であるザックを友として信頼していた様子だった。
「……さっきのは殺しちゃったんですか?」
「……いや、《神狼貪る縄》は対象を異空間へ封じ込める縄だ。彼らは全員生きたまま捕らえてある。………いやゾンビだから死んでいるのか?」
そして神妙な面持ちでこちらを向き、私に聞く。
「…………元には、戻らないんでしょうか」
「戻す方法ならある」
即答する私に、目を見開いて驚きを隠せない様子のイズが立ち止まる。
やがて喜びの声をあげようとするが、私は手を上げてそれを遮り話を続ける。
「────あるが、それをするには術者であるあの女を倒す必要がある」
「…………で、でも! 師匠なら余裕でしょう?」
イズの期待に満ちた言葉に、私は考え込むようにして口を閉ざす。
段々と不安そうに見つめてくる彼女に気づき、私は静かに笑いながら口を開く。
「……ふん、当たり前だろう。私を誰だと思っている」
烏面に歪な笑みを浮かべ、山頂の湖へとその真紅の魔眼を向ける。
魔眼で覗いた湖の上空では、妖艶に微笑んでいる黒翼の女性が一人優雅に佇んでいる。
彼女を視ながら私は言う。
「この世の全てを手に入れる────強欲の悪魔だよ」
ガブリ。
自分の肩が何かに噛みつかれる音がした。
唐突な痛みを受け、とっさにザックから離れる。
前に立つザックはさきほどまでの健康的な姿とは異なり、腐乱死体のようにボロボロになっていた。
ザックの隣に立つリックも腐食した顔を歪ませながら、獲物を見るような目で俺を見ている。
ザックはモグモグと何かを咀嚼し、血で汚れた口を舐めながらこちらを見る。
俺の肩口からはじわりと血が滲み出し、衣服を染めたていた。
「────つッ!!…………嘘だろ……ザック……」
周囲を囲んでいた混血達は、いつの間にか全て動死体になっていた。
先ほどまでの賑やかな喧騒が嘘であるかのように、ゾンビ達は低い呻き声をあげながら、俺の方にゆっくりと近づいてくる。
「……クソッ!! <火球>!」
近づいてくるゾンビに銀杖を構え、火球で焼き払う。
前方にいたゾンビが火達磨となって倒れ、道が切り開かれる。
俺は抉られた肩を押さえながらも、蟻のように群がるゾンビ達の隙間を走り抜ける。
「……早く……ここから逃げないと……!!」
動死体に有効な火属性魔術である<火球>を放ちながら、街の外へ向かう。
しかし街中からゾロゾロと溢れでてくるゾンビ達の圧倒的な数を前に、徐々に取り囲まれていく。
「……<火球>! ……はぁ……はぁ……」
息も絶え絶えに必死で走り続けたが、十三度目の火球の魔術を放ったところでついに魔力の底が尽きた。
「……はぁ……クソッ……! 俺にもっと魔力があれば……ッ!」
魔術を使えない魔術師などただの人間と同じだ。
ゾンビ達は地面に手をついて動けない俺に向かって、ゆっくりと群がってくる。
先頭には、かつての仲間だったザックがいた。
「…………ザック」
狼耳は欠け、空虚な瞳から血のような痕が残っている表情はまるで泣いているかのようだった。
俺はかつての仲間の変わりように、言いようのない悲しさを覚えながら目を瞑った。
「───《神狼貪る縄》」
目を開けると、光の縄がすべてのゾンビを拘束していた。
あれだけ街の中を溢れかえっていたゾンビ達が一斉に動きを止め、静止したように止まっている。
「ヴァ……ア……アァ………」
そして、拘束されたゾンビ達の身体は徐々に薄れていき、やがて最初から夢であったかのようにその存在を消していった。
ゾンビ達が消え、誰いなくなったレンガの街の入り口に目を向けると、そこには烏面の男と銀髪の少女が立っていた。
「無事かね? すまない、屋敷に結界を施していて遅れてしまった」
その声がマモンのものだと分かり、助かったことを理解して安堵の息をつく。
「あ……ありがと……ござい……ま………」
朦朧とした意識の中、最後に何か言われたような気がしたが、俺はそのまま倒れるように眠ってしまった。
「………師匠、一部始終見てましたよね」
「イズ、余計なことは言わなくていい」
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「しかし……彼もよく気絶する男だな」
眠っているセシルをおぶりながら、私は屋敷への道を歩いていた。
たしか最初に会ったときもハンクが怪我をしていて背負えなかったから、気絶している彼を私がおぶって行ったんだったな……。
……こいつ川に捨ててもいいかな。
「師匠、次はわたしをおんぶして下さい。なんなら抱っこでもいいです。いえ、むしろ抱っこがいいです」
横で騒がしく喚いている子供を無視しながら川沿いを歩いていく。しかしあまりに煩かったため、話題転換をしようと、少し疑問に思っていたことをイズに聞いてみることにする。
「………さっきは屋敷の料理を食べようとしなかったがどうしてだ? まさか本当に私に遠慮したわけではないだろう」
「あはは、そんなわけないじゃないですか。……だってあの料理腐ってましたよ……? 皆さんが平然と食べるものだから、言い出せなかったですけど……」
イズが気落ちした様子で俯きながら言う。
屋敷にあった料理は、雑草やカビの生えたパン、腐った肉などが並んでいた。
シェリア達がそれを見ても、動じた様子もなく食事を始めたことでショックを受けたのだろう。
私に対して遠慮が一切ない態度は後で改めさせるとして、彼女の疑問に答える。
「シェリア達が気がつかないのは、この川を流れている花の匂いが原因だ。最初の転移直後から、この花の香りを鍵とした催眠を受け続けていたのだよ。……まぁ、私は悪魔だから精神支配の類は効かないんだが」
私の言葉に目を丸くして驚くイズ。
そして小首を傾げながら、口元に手を当てて聞いてくる。
「……そうだったんですか。甘くていい匂いだなーとしか思ってませんでした。……わたしも半分悪魔の血が流れているから効かなかったんですかね」
「…………可能性はあるだろう。半悪魔のことは私もあまり詳しくないから何とも言えないが……ベル君だったら何か知っていたかもしれないな……」
元の世界にいる私の友人の話をされて、不思議そうな顔でイズがこちらを見つめてくる。
そんな様子をみた私は、軽く咳払いをし話を変える。
「……こほん。先程の光景を見た限り、どうやらここに来た混血達は皆アンデッドに変えられてしまったみたいだな。……ザック、と言ったか。彼の友人も動死体になっていたようだ」
私の言葉にイズは辛そうな顔をしてセシルの方を見る。
姿を消して一部始終を見ていたからわかるが、彼は混血であるザックを友として信頼していた様子だった。
「……さっきのは殺しちゃったんですか?」
「……いや、《神狼貪る縄》は対象を異空間へ封じ込める縄だ。彼らは全員生きたまま捕らえてある。………いやゾンビだから死んでいるのか?」
そして神妙な面持ちでこちらを向き、私に聞く。
「…………元には、戻らないんでしょうか」
「戻す方法ならある」
即答する私に、目を見開いて驚きを隠せない様子のイズが立ち止まる。
やがて喜びの声をあげようとするが、私は手を上げてそれを遮り話を続ける。
「────あるが、それをするには術者であるあの女を倒す必要がある」
「…………で、でも! 師匠なら余裕でしょう?」
イズの期待に満ちた言葉に、私は考え込むようにして口を閉ざす。
段々と不安そうに見つめてくる彼女に気づき、私は静かに笑いながら口を開く。
「……ふん、当たり前だろう。私を誰だと思っている」
烏面に歪な笑みを浮かべ、山頂の湖へとその真紅の魔眼を向ける。
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