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15話 ダンジョン
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主人公の初冒険にハプニングはつきものだ。
ダンジョン内に身を潜める野良死霊使いの邪悪な儀式が主人公一行が侵入している最中に完了し、ダンジョン内の全冒険者たちが絶体絶命の窮地に陥るというのが、原作でのそのハプニングだった。
そんなことが起こるとは微塵も思っていないだろうロイ一行がダンジョンに侵入したことを遠くから確認した私は、彼らと一緒に来た護衛たちを避け、少し離れた場所からダンジョンに侵入した。
ダンジョンというのは不思議な場所だ。
学者たちは長年の研究の末、それはこの世界と地獄が何かしらの理由で近づき過ぎたときに発生する特殊な現象である、と結論付けた。
ダンジョンは大別して2種類に分けられる。
常設ダンジョンと特異ダンジョンだ。
常設ダンジョンは文字通り常に同じ場所に存在しているダンジョンで、消滅することはない。
世界間の「壁」は安定しており、定期的に間引きさえすれば、内部の魔物が外部に溢れ出ることは滅多に無い。
この常設ダンジョンに侵攻し、魔物を狩り、その素材を売ったりクエスト報酬を得ることが冒険者たちのメインの収入源である。
特異ダンジョンは世界各地に突発的に発生するダンジョンだ。
世界間の「壁」は極めて不安定で、発生とともに多くの魔物が外部に溢れ出し、周囲に災厄を撒き散らす。
時間の経過でダンジョンは消滅するが、それだと周囲に与える被害が甚大なものになるため、通常はダンジョン最深部に住まう主を討伐することで強制的に消滅させる。
この特異ダンジョンの処理は貴族の重要な仕事の1つであり、対処を怠れば領地を剥奪されることもある。
また、ギルドという冒険者による強力な武力を保有する武装組織の存在が許されているのも、彼らが積極的にこの特異ダンジョンの対処にあたるからだ。
今回のこのダンジョンは常設ダンジョンに属するものだ。
空間の裂け目を通り、私はダンジョンに降り立った。
周囲には数名の冒険者がいた。
皆年端もゆかぬ若者たちだ。
その仕組は未だに解明されてはいないが、ダンジョンには侵入制限というものが存在する場合がある。
その代表的なものがレベル制限だが、種族制限、性別制限、果には身長制限などという奇々怪々な制限も確認されている。
そんな侵入制限の中でレベル制限と並んで有名なものが年齢制限だ。
絶対数はそれほど多くないものの、年齢制限付きダンジョンは各地に点在している。
年齢制限付きダンジョンの対処には若き天才が必要不可欠だ。
そのため、そういったダンジョンの侵攻の主力であるイルシオン学院を始めとする各学院に所属する学院生たちの社会的地位は高い。
周りの冒険者がイルシオン学院の制服を身に纏っている私に向ける羨望と敬畏を含んだ眼差しが正にそれを証明していた。
イルシオン学院は帝国の最高学府とも言える学院だ。
学院内では蔑まれている落ちこぼれ生徒ですら、世間一般の目線で見れば不世出の天才である。
私はすでに侍仮面としての装備を一式身につけていた。
戦士に負傷はつきもので、顔に傷を負った戦士は面具をつけることも珍しくないため、私の鬼面具のデザインが珍しいのかチラチラと見てくる人もいたが、懐疑的な目を向けられることはなかった。
私は彼らを無視し、ダンジョンの奥へ足を向けた。
ロイたちが受けたクエストはボーンウルフの頭蓋骨の収集だ。
ボーンウルフの出没地点は事前に情報屋から買っておいた。
先回りして待ち伏せする予定だ。
道中、魔物と戦う冒険者たちを何度も見かけた。
この低級ダンジョンに湧く、私からすれば愛玩用の小動物とさほど変わらない程度の脅威でしかない魔物たちも、レベル10台中盤の彼らにとっては生死を賭して戦わなければいけない大敵だ。
実力差を見誤って格上の魔物に挑んでしまい、窮地に陥っているパーティーもいくつかあった。
鬼面具を被り、侍仮面として活動している今の私にとっては、侍の名声を高めるために彼らに救いの手を差し伸べたほうが利益につながることではあったが、私は出来るだけ彼らを避けながら進んだ。
そうして先を急いでいた私だったが、運が悪いことに戦闘に負け、血だらけで潰走している4人パーティーに正面から出くわしてしまった。
彼らは私を見つけると、砂漠でオアシスを見つけた渇死寸前の人のように歓喜の表情を浮かべた。
イルシオン学院の学院生は最低でもレベル19の戦士。
このダンジョンにおいてはかなり強力な戦力だ。
「学院生さん、助けてくれ!
レベル18のホーンベアだ!
賞金は半分渡す!」
パーティーの最後を走り、殿を務めている、恐らくリーダーである騎士が叫んだ。
ダンジョン内で助太刀を求めるときは報酬を事前に知らせるのが基本だ。
しかしこちらは一人だというのに半分も渡そうとするのは、恐らく私の学院生という身分がそうさせたのだろう。
彼の背後を見ると、額に巨大な一本角をはやした巨大な熊が追いかけてきていた。
肩部に何本か矢を生やし、脇腹に浅い切り傷を負っているその熊は、目を真っ赤にして激怒していた。
その巨体が放つ威圧感は確かにレベル18のものだった。
魔物のレベル感は人間のそれとは大きく異なる。
同じレベルでも魔物の種類によってその戦闘力の差は大きく、ホーンベアのような中型モンスターは同じレベル帯の人間数人がパーティーを組むことでようやく対等に渡り合えるようになる。
レベル18のホーンベアはレベル15前後の彼らの手には余る獲物だといえるだろう。
しかし彼らも運が悪い。
ホーンベアは通常レベル15前後の魔物のはずだ。
彼らはかなり強い個体に出くわしてしまっていた。
私は刀の柄に手をかけた。
それを見たリーダーは緊迫した表情を笑顔に変えた。
「よかった、みんな、助かったぞ!」
彼らは私の近くまで駆けてくると、リーダーの合図と共に一斉にホーンベアの方に反転した。
「見慣れない武器だが、それ近接武器なんだろ?
俺たちが隙を作るからとどめを刺してくれ」
リーダーは私にそう声をかけ、盾を掲げてホーンベアに立ち向かった。
他のメンバーはホーンベアの攻撃に巻き込まれないよう、少しバラけて位置取りをし、攻撃を始めた。
防御職がホーンベアの正面を引き受け、他メンバーが撹乱と攻撃を担う、標準的な冒険者パーティーだ。
この連携の練度を見るに、彼らはこのクエストのために集まった急造のパーティーではなく固定パーティーなのだろう。
技量は十分だったが、しかしレベル差がありすぎた。
彼らには防御力に優れるホーンベアに致命的なダメージを与える術はなかった。
狂戦士は大振りな一撃を避けきれず、片腕を持っていかれながらもホーンベアの足に渾身の一撃を叩き込み、その姿勢を崩した。
私は動かなかった。
リーダーは重い一撃を正面から受け止め、大量の血を吐きながらも強引に隙を作った。
私は動かなかった。
剣士は背後から奇襲をかけ、振り返ったホーンベアの一撃をまともに食らうも、その背中を私に晒すことに成功した。
私は動かなかった。
「何をしてるの!?
チャンスは何回もあったはずよ!?」
そう私に叫んだのは手を血だらけにしながらも絶え間なく矢を放つ弓手の少女だった。
彼女の矢ではホーンベアの厚い毛皮を貫くのに精一杯で、大したダメージを与えることは出来ていない。
必死にホーンベアの目を狙ってはいるものの、激しく動くホーンベアの小さな目をピンポイントで射抜けるほどの技量はなく、試行回数を重ねることに必死だった。
私は答えなかった。
――やがて三人は死んだ。
ホーンベアに殴り殺された。
リーダーの屍を踏み潰しながら、ホーンベアは咆哮を上げた。
弓手の少女は涙を流し、絶望にくれていた
「そんな……リーダー……みんな……」
ホーンベアは少女と私を交互に見て、私の方に向かって突進してきた。
どうやら私のほうが少女よりも危険だと動物的本能で察知したようだ。
「ちっ」
舌打ちをしつつ、私はようやく動いた。
鞘に魔力を流し、抜刀。
風の魔力で形成された剣気は冒険者たちの全力の一撃でもほとんどダメージを与えられなかったホーンベアの身体をいとも容易く切り裂いた。
ホーンベアは腰のあたりを両断され、上半身と下半身に別れて地面に倒れ、強靭な生命力によって暫くもがいた後、絶命した。
私は刀を納めなかった。
一太刀でホーンベアを仕留めた私を見て、少女は愕然としていた。
「なんで……こんなに強いのに、どうしてこんな――」
心臓を村正に貫かれ、目を見開いている少女に私は首を振った。
「すまない、だがお前たちを助けたせいでイベントが起きなかったら困るんだ」
その謝罪と言い訳は彼女には届かなかった。
4人の死体を見て、私はため息を吐いた。
何も好きで殺したわけではない。
こうなるのが嫌だったから、ここまで冒険者達を避けて来たんだ。
微かな罪悪感を刃についた少女の血と共に振い落し、私は納刀した。
ホーンベアが私ではなく少女の方に向かって行ってたら、私が直接彼女を手にかける必要もなかったのだが、世の中思い通りにならないことばかりだ。
このイベントの敵キャラである死霊使いは、このダンジョンで戦死した冒険者たちの魂を集めて自身を強化するという邪悪な儀式を行っているはずだ。
私が誰かを助けたことで儀式の完了が遅れ、その間にロイたちがダンジョンを離れてしまうのは絶対に避けなければならない。
彼らは私にさえ出会っていなければ、1人2人は逃げれていたのかもしれない。
それどころか、他の冒険者パーティーに出会って、全員助かっていたのかもしれない。
原作の登場人物ではない彼らの運命は私にはわからない。
わからないから、全員死んでもらうしかなかった。
運が悪かったんだ。
彼らも、私も。
私は気持ちを切り替え、その場を離れた。
10分もすれば彼らもホーンベアも血の匂いを嗅ぎつけた他の魔物に骨まで跡形もなく食われるだろう。
ダンジョン内に身を潜める野良死霊使いの邪悪な儀式が主人公一行が侵入している最中に完了し、ダンジョン内の全冒険者たちが絶体絶命の窮地に陥るというのが、原作でのそのハプニングだった。
そんなことが起こるとは微塵も思っていないだろうロイ一行がダンジョンに侵入したことを遠くから確認した私は、彼らと一緒に来た護衛たちを避け、少し離れた場所からダンジョンに侵入した。
ダンジョンというのは不思議な場所だ。
学者たちは長年の研究の末、それはこの世界と地獄が何かしらの理由で近づき過ぎたときに発生する特殊な現象である、と結論付けた。
ダンジョンは大別して2種類に分けられる。
常設ダンジョンと特異ダンジョンだ。
常設ダンジョンは文字通り常に同じ場所に存在しているダンジョンで、消滅することはない。
世界間の「壁」は安定しており、定期的に間引きさえすれば、内部の魔物が外部に溢れ出ることは滅多に無い。
この常設ダンジョンに侵攻し、魔物を狩り、その素材を売ったりクエスト報酬を得ることが冒険者たちのメインの収入源である。
特異ダンジョンは世界各地に突発的に発生するダンジョンだ。
世界間の「壁」は極めて不安定で、発生とともに多くの魔物が外部に溢れ出し、周囲に災厄を撒き散らす。
時間の経過でダンジョンは消滅するが、それだと周囲に与える被害が甚大なものになるため、通常はダンジョン最深部に住まう主を討伐することで強制的に消滅させる。
この特異ダンジョンの処理は貴族の重要な仕事の1つであり、対処を怠れば領地を剥奪されることもある。
また、ギルドという冒険者による強力な武力を保有する武装組織の存在が許されているのも、彼らが積極的にこの特異ダンジョンの対処にあたるからだ。
今回のこのダンジョンは常設ダンジョンに属するものだ。
空間の裂け目を通り、私はダンジョンに降り立った。
周囲には数名の冒険者がいた。
皆年端もゆかぬ若者たちだ。
その仕組は未だに解明されてはいないが、ダンジョンには侵入制限というものが存在する場合がある。
その代表的なものがレベル制限だが、種族制限、性別制限、果には身長制限などという奇々怪々な制限も確認されている。
そんな侵入制限の中でレベル制限と並んで有名なものが年齢制限だ。
絶対数はそれほど多くないものの、年齢制限付きダンジョンは各地に点在している。
年齢制限付きダンジョンの対処には若き天才が必要不可欠だ。
そのため、そういったダンジョンの侵攻の主力であるイルシオン学院を始めとする各学院に所属する学院生たちの社会的地位は高い。
周りの冒険者がイルシオン学院の制服を身に纏っている私に向ける羨望と敬畏を含んだ眼差しが正にそれを証明していた。
イルシオン学院は帝国の最高学府とも言える学院だ。
学院内では蔑まれている落ちこぼれ生徒ですら、世間一般の目線で見れば不世出の天才である。
私はすでに侍仮面としての装備を一式身につけていた。
戦士に負傷はつきもので、顔に傷を負った戦士は面具をつけることも珍しくないため、私の鬼面具のデザインが珍しいのかチラチラと見てくる人もいたが、懐疑的な目を向けられることはなかった。
私は彼らを無視し、ダンジョンの奥へ足を向けた。
ロイたちが受けたクエストはボーンウルフの頭蓋骨の収集だ。
ボーンウルフの出没地点は事前に情報屋から買っておいた。
先回りして待ち伏せする予定だ。
道中、魔物と戦う冒険者たちを何度も見かけた。
この低級ダンジョンに湧く、私からすれば愛玩用の小動物とさほど変わらない程度の脅威でしかない魔物たちも、レベル10台中盤の彼らにとっては生死を賭して戦わなければいけない大敵だ。
実力差を見誤って格上の魔物に挑んでしまい、窮地に陥っているパーティーもいくつかあった。
鬼面具を被り、侍仮面として活動している今の私にとっては、侍の名声を高めるために彼らに救いの手を差し伸べたほうが利益につながることではあったが、私は出来るだけ彼らを避けながら進んだ。
そうして先を急いでいた私だったが、運が悪いことに戦闘に負け、血だらけで潰走している4人パーティーに正面から出くわしてしまった。
彼らは私を見つけると、砂漠でオアシスを見つけた渇死寸前の人のように歓喜の表情を浮かべた。
イルシオン学院の学院生は最低でもレベル19の戦士。
このダンジョンにおいてはかなり強力な戦力だ。
「学院生さん、助けてくれ!
レベル18のホーンベアだ!
賞金は半分渡す!」
パーティーの最後を走り、殿を務めている、恐らくリーダーである騎士が叫んだ。
ダンジョン内で助太刀を求めるときは報酬を事前に知らせるのが基本だ。
しかしこちらは一人だというのに半分も渡そうとするのは、恐らく私の学院生という身分がそうさせたのだろう。
彼の背後を見ると、額に巨大な一本角をはやした巨大な熊が追いかけてきていた。
肩部に何本か矢を生やし、脇腹に浅い切り傷を負っているその熊は、目を真っ赤にして激怒していた。
その巨体が放つ威圧感は確かにレベル18のものだった。
魔物のレベル感は人間のそれとは大きく異なる。
同じレベルでも魔物の種類によってその戦闘力の差は大きく、ホーンベアのような中型モンスターは同じレベル帯の人間数人がパーティーを組むことでようやく対等に渡り合えるようになる。
レベル18のホーンベアはレベル15前後の彼らの手には余る獲物だといえるだろう。
しかし彼らも運が悪い。
ホーンベアは通常レベル15前後の魔物のはずだ。
彼らはかなり強い個体に出くわしてしまっていた。
私は刀の柄に手をかけた。
それを見たリーダーは緊迫した表情を笑顔に変えた。
「よかった、みんな、助かったぞ!」
彼らは私の近くまで駆けてくると、リーダーの合図と共に一斉にホーンベアの方に反転した。
「見慣れない武器だが、それ近接武器なんだろ?
俺たちが隙を作るからとどめを刺してくれ」
リーダーは私にそう声をかけ、盾を掲げてホーンベアに立ち向かった。
他のメンバーはホーンベアの攻撃に巻き込まれないよう、少しバラけて位置取りをし、攻撃を始めた。
防御職がホーンベアの正面を引き受け、他メンバーが撹乱と攻撃を担う、標準的な冒険者パーティーだ。
この連携の練度を見るに、彼らはこのクエストのために集まった急造のパーティーではなく固定パーティーなのだろう。
技量は十分だったが、しかしレベル差がありすぎた。
彼らには防御力に優れるホーンベアに致命的なダメージを与える術はなかった。
狂戦士は大振りな一撃を避けきれず、片腕を持っていかれながらもホーンベアの足に渾身の一撃を叩き込み、その姿勢を崩した。
私は動かなかった。
リーダーは重い一撃を正面から受け止め、大量の血を吐きながらも強引に隙を作った。
私は動かなかった。
剣士は背後から奇襲をかけ、振り返ったホーンベアの一撃をまともに食らうも、その背中を私に晒すことに成功した。
私は動かなかった。
「何をしてるの!?
チャンスは何回もあったはずよ!?」
そう私に叫んだのは手を血だらけにしながらも絶え間なく矢を放つ弓手の少女だった。
彼女の矢ではホーンベアの厚い毛皮を貫くのに精一杯で、大したダメージを与えることは出来ていない。
必死にホーンベアの目を狙ってはいるものの、激しく動くホーンベアの小さな目をピンポイントで射抜けるほどの技量はなく、試行回数を重ねることに必死だった。
私は答えなかった。
――やがて三人は死んだ。
ホーンベアに殴り殺された。
リーダーの屍を踏み潰しながら、ホーンベアは咆哮を上げた。
弓手の少女は涙を流し、絶望にくれていた
「そんな……リーダー……みんな……」
ホーンベアは少女と私を交互に見て、私の方に向かって突進してきた。
どうやら私のほうが少女よりも危険だと動物的本能で察知したようだ。
「ちっ」
舌打ちをしつつ、私はようやく動いた。
鞘に魔力を流し、抜刀。
風の魔力で形成された剣気は冒険者たちの全力の一撃でもほとんどダメージを与えられなかったホーンベアの身体をいとも容易く切り裂いた。
ホーンベアは腰のあたりを両断され、上半身と下半身に別れて地面に倒れ、強靭な生命力によって暫くもがいた後、絶命した。
私は刀を納めなかった。
一太刀でホーンベアを仕留めた私を見て、少女は愕然としていた。
「なんで……こんなに強いのに、どうしてこんな――」
心臓を村正に貫かれ、目を見開いている少女に私は首を振った。
「すまない、だがお前たちを助けたせいでイベントが起きなかったら困るんだ」
その謝罪と言い訳は彼女には届かなかった。
4人の死体を見て、私はため息を吐いた。
何も好きで殺したわけではない。
こうなるのが嫌だったから、ここまで冒険者達を避けて来たんだ。
微かな罪悪感を刃についた少女の血と共に振い落し、私は納刀した。
ホーンベアが私ではなく少女の方に向かって行ってたら、私が直接彼女を手にかける必要もなかったのだが、世の中思い通りにならないことばかりだ。
このイベントの敵キャラである死霊使いは、このダンジョンで戦死した冒険者たちの魂を集めて自身を強化するという邪悪な儀式を行っているはずだ。
私が誰かを助けたことで儀式の完了が遅れ、その間にロイたちがダンジョンを離れてしまうのは絶対に避けなければならない。
彼らは私にさえ出会っていなければ、1人2人は逃げれていたのかもしれない。
それどころか、他の冒険者パーティーに出会って、全員助かっていたのかもしれない。
原作の登場人物ではない彼らの運命は私にはわからない。
わからないから、全員死んでもらうしかなかった。
運が悪かったんだ。
彼らも、私も。
私は気持ちを切り替え、その場を離れた。
10分もすれば彼らもホーンベアも血の匂いを嗅ぎつけた他の魔物に骨まで跡形もなく食われるだろう。
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