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31話 決闘状
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数日後。
天才剣士と名高いイルク・フォルダンが何を思ったのか十傑に決闘状を出すという噂は、爆発的な速度で初等部を駆け巡った。
彼を好意的にな目で見る者は「これは歴史を変える一戦になるぞ」と興奮し、そうでない者は「ロイとの決闘に負け、学院から逃げた恥をすすぐことに必死になって正気を失ったのでは?」と揶揄した。
また、ランカー上位勢ではないイルクが十傑との決闘を取り付けられるのか、と決闘自体が成り立つのか疑問視する声もあった。
ランキング戦において、決闘状が強制力を持つと定められている順位差は20位以内だ。
十傑の場合はその範囲が10位にまで縮まる。
自分より格下の相手との決闘を承諾するメリットはないため、強制力が適用される範囲外からの決闘状を承諾する例は少ない。
それはつまり、毎年4月に20歳の者たちが中等部に進級することでランキングに空白が出る代替わり期以外では、特殊な事情がない限り、ランキング外の者が十傑入りを果たすためには最低でも5勝する必要があるということだ。
ランキング外の一般生徒による十傑挑戦は常識的に考えれば成立しないものだった。
しかし今回に限っては少し事情が違った。
イルクの名声は大きすぎた。
ただでさえ第3皇女との婚約の件で入学前から高い名声を誇っていた彼は、入学してからも何度も事件を起こしては話題をかっさらい、本来であれば同世代の注目の的であるべき十傑の存在感を薄めさせていた。
注目はつまり名声であり、名声はつまり利益である。
利益を損なわれた十傑たちはかねてより彼を快く思っていなかった。
そして何より今回の決闘の噂は教授たちを動かした。
普段は自身の修行や研究に没頭し、あまり学生たちに目を向けることのない彼らは、16歳の、それも純粋な人族の少年が十傑を打倒できるのかと興味を示した。
それは今回の決闘でイルクを下した者は教授の目に留まる可能性があるかもしれないということを意味していた。
教授は皆レベル60の域にいる守護者と呼ばれる存在たちだ。
それも神域に踏み入る可能性のある可能性を持つ者たちばかりだ。
今の段階でも戦士の金字塔の頂点付近に位置し、あと一歩踏み出せば神域入りという彼らは、その身一つで一大勢力と並ぶほどの影響力を持っており、帝国政府ですら彼らには礼を尽くして接する。
もっとも神域に到達すること以外眼中にない彼らが外界と接触することは少なく、その影響力を発揮することは極めて稀なのだが。
もしもそんな彼らの目に止まり、指導をしてもらえるとなれば、そのメリットは計り知れないだろう。
万が一にも才能を認められ、弟子に取られるようなことがあれば、レベル50への道は保証されるといっても良い。
弟子に取られた者は貴族であれば一家に大きな後ろ盾を得られることになり、平民であれば一躍階級を超えて貴族にも並ぶ地位を得られることになる。
しかし教授というのは自身も若い頃は絶世の天才だったこともあり、並の天才では彼らの興味を引くことは出来ない。
彼らに時間を割いてまで指導したいと思わせられるような人材は、天才が集うイルシオン学院でもごく少数だ。
そういった背景があり、そして決闘を熱望する世論の後押しもあり、イルクの十傑挑戦は成立の兆しを見せていた。
そして昨日、イルクが十傑の誰に挑戦状を出すのか予想が飛び交う中、事件が起きた。
十傑8位のコールスの弟であるイオが、昼食時に食堂でイルクの取り巻きであるミッシェルにちょっかいを出し、その場に居合わせたイルクが激怒したというのだ。
「トルムンテ卿は子育てが苦手と見た。
私が代わりにしつけてやろう」
そう言ってイルクは取り巻きたちにイオを押さえつけさせると、鞭で彼を打った。
その暴行は駆けつけた職員によりすぐに止められたが、背中を数回打たれたイオは血だらけのまま食堂の外に放り出され、通りがかった友人に支えられながら医務室へ向かった。
現場を見た生徒によると、イオの顔には屈辱的な鞭痕がつけられていたという。
それだけでは怒りが収まらなかったのか、直後にイルクはコールスに決闘を挑むと宣言した。
「十傑なら誰でも良かったが、弟がこれなら兄の方もさぞかしひどいものだろう。
ついでに教育してやるか」
これは食堂で衆人環視の中言い放たれたイルクの挑発の原文だ。
女性を護るために怒ったイルクの男気を称賛する者もいれば、その暴虐で傍若無人な行為に眉をひそめる者もいた。
その他の多くの者は面白がって噂をし、イオの普段の素行の悪さもあり、トルムンテ家は初等部の笑いものになった。
これを耳に入れたコールスは当然激怒した。
弟を傷つけられた上に、年下の戦士に軽視されたのだ。
トルムンテ家の麒麟児として大事に育てられ、入学後も順風満帆な道を歩んで十傑に至った彼にとっては耐え難い屈辱だった。
彼はイルクからの決闘状を受けると明言し、イルクを跪かせてその生意気な鼻をへし折ってやると意気込んでいたという。
同日夕方。
イルクが事務部を通してコールスに決闘状を出し、直後にコールスがそれをを承諾したことで、イルク・フォルダン対コールス・トルムンテの十傑戦は三日後の正午に行われると正式に決まった。
天才剣士と名高いイルク・フォルダンが何を思ったのか十傑に決闘状を出すという噂は、爆発的な速度で初等部を駆け巡った。
彼を好意的にな目で見る者は「これは歴史を変える一戦になるぞ」と興奮し、そうでない者は「ロイとの決闘に負け、学院から逃げた恥をすすぐことに必死になって正気を失ったのでは?」と揶揄した。
また、ランカー上位勢ではないイルクが十傑との決闘を取り付けられるのか、と決闘自体が成り立つのか疑問視する声もあった。
ランキング戦において、決闘状が強制力を持つと定められている順位差は20位以内だ。
十傑の場合はその範囲が10位にまで縮まる。
自分より格下の相手との決闘を承諾するメリットはないため、強制力が適用される範囲外からの決闘状を承諾する例は少ない。
それはつまり、毎年4月に20歳の者たちが中等部に進級することでランキングに空白が出る代替わり期以外では、特殊な事情がない限り、ランキング外の者が十傑入りを果たすためには最低でも5勝する必要があるということだ。
ランキング外の一般生徒による十傑挑戦は常識的に考えれば成立しないものだった。
しかし今回に限っては少し事情が違った。
イルクの名声は大きすぎた。
ただでさえ第3皇女との婚約の件で入学前から高い名声を誇っていた彼は、入学してからも何度も事件を起こしては話題をかっさらい、本来であれば同世代の注目の的であるべき十傑の存在感を薄めさせていた。
注目はつまり名声であり、名声はつまり利益である。
利益を損なわれた十傑たちはかねてより彼を快く思っていなかった。
そして何より今回の決闘の噂は教授たちを動かした。
普段は自身の修行や研究に没頭し、あまり学生たちに目を向けることのない彼らは、16歳の、それも純粋な人族の少年が十傑を打倒できるのかと興味を示した。
それは今回の決闘でイルクを下した者は教授の目に留まる可能性があるかもしれないということを意味していた。
教授は皆レベル60の域にいる守護者と呼ばれる存在たちだ。
それも神域に踏み入る可能性のある可能性を持つ者たちばかりだ。
今の段階でも戦士の金字塔の頂点付近に位置し、あと一歩踏み出せば神域入りという彼らは、その身一つで一大勢力と並ぶほどの影響力を持っており、帝国政府ですら彼らには礼を尽くして接する。
もっとも神域に到達すること以外眼中にない彼らが外界と接触することは少なく、その影響力を発揮することは極めて稀なのだが。
もしもそんな彼らの目に止まり、指導をしてもらえるとなれば、そのメリットは計り知れないだろう。
万が一にも才能を認められ、弟子に取られるようなことがあれば、レベル50への道は保証されるといっても良い。
弟子に取られた者は貴族であれば一家に大きな後ろ盾を得られることになり、平民であれば一躍階級を超えて貴族にも並ぶ地位を得られることになる。
しかし教授というのは自身も若い頃は絶世の天才だったこともあり、並の天才では彼らの興味を引くことは出来ない。
彼らに時間を割いてまで指導したいと思わせられるような人材は、天才が集うイルシオン学院でもごく少数だ。
そういった背景があり、そして決闘を熱望する世論の後押しもあり、イルクの十傑挑戦は成立の兆しを見せていた。
そして昨日、イルクが十傑の誰に挑戦状を出すのか予想が飛び交う中、事件が起きた。
十傑8位のコールスの弟であるイオが、昼食時に食堂でイルクの取り巻きであるミッシェルにちょっかいを出し、その場に居合わせたイルクが激怒したというのだ。
「トルムンテ卿は子育てが苦手と見た。
私が代わりにしつけてやろう」
そう言ってイルクは取り巻きたちにイオを押さえつけさせると、鞭で彼を打った。
その暴行は駆けつけた職員によりすぐに止められたが、背中を数回打たれたイオは血だらけのまま食堂の外に放り出され、通りがかった友人に支えられながら医務室へ向かった。
現場を見た生徒によると、イオの顔には屈辱的な鞭痕がつけられていたという。
それだけでは怒りが収まらなかったのか、直後にイルクはコールスに決闘を挑むと宣言した。
「十傑なら誰でも良かったが、弟がこれなら兄の方もさぞかしひどいものだろう。
ついでに教育してやるか」
これは食堂で衆人環視の中言い放たれたイルクの挑発の原文だ。
女性を護るために怒ったイルクの男気を称賛する者もいれば、その暴虐で傍若無人な行為に眉をひそめる者もいた。
その他の多くの者は面白がって噂をし、イオの普段の素行の悪さもあり、トルムンテ家は初等部の笑いものになった。
これを耳に入れたコールスは当然激怒した。
弟を傷つけられた上に、年下の戦士に軽視されたのだ。
トルムンテ家の麒麟児として大事に育てられ、入学後も順風満帆な道を歩んで十傑に至った彼にとっては耐え難い屈辱だった。
彼はイルクからの決闘状を受けると明言し、イルクを跪かせてその生意気な鼻をへし折ってやると意気込んでいたという。
同日夕方。
イルクが事務部を通してコールスに決闘状を出し、直後にコールスがそれをを承諾したことで、イルク・フォルダン対コールス・トルムンテの十傑戦は三日後の正午に行われると正式に決まった。
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