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38話 交渉2
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私は要求を伝えた。
「あなた方のうち誰かに、フォルダン家に危機が迫った時に、一度だけ手を貸すと約束して頂きたい。
もちろん、教授自身に危険が及ばない範囲で」
「無理よ、それは」
メリルは即答した。
続けて彼女は訳を話した。
「特異ダンジョンや一般的な脅威ならともかく、あなたの言う危機は貴族同士の争いの話でしょう?
学院は絶対中立の機関。
貴族同士の戦いに介入することは出来ないわ」
帝国は貴族たちのものであり、学院は帝国のものである。
国営機関である学院が政治に影響を及ぼすことは許されない。
これは鉄則だ。
私は食い下がった。
「フォルダン流は私個人の財産ではありません。
この取引は学院生と学院のものとしてではなく、フォルダン家と教授個人の間の取引でないと成立しないものです」
これはぜひとも勝ち取りたい保険だ。
具体的な時期はまだ決めていないものの、少なくとも最終決戦前にはフォルダン家はクライオス家を裏切る。
原作では敗北が確定したクライオス家は、直系メンバーを逃がすための陽動として、主力を分散させて帝国各地にゲリラ的に攻撃を加えていた。
裏切り者であるフォルダン家が標的にされることは避けられないだろう。
その時、最も驚異になりうる存在がクライオス家のレベル60台の守護者だ。
フォルダン家にレベル60台の戦士はいない。
正面からの戦いであれば、城の防衛魔法陣に加え、軍の戦陣もあるため、相手がレベル60台の守護者だろうと返り討ちにできるだろう。
しかし高レベル戦士の恐ろしいところは、それが個人だということだ。
いつ来るかもわからない守護者による奇襲。
これを防ぐのは至難の業だ。
父上なら爵位の加護と自傷的な秘術で一時的に守護者並みの戦力を発揮できるだろうが、それは別に秘密ではない。
相手も知っている以上、対策されるのは確実だ。
正真正銘の守護者である教授なら阻止、少なくとも軍の応援が駆けつけるまでは時間が稼げるはずだ。
教授の協力がなくとも襲撃をいなす手はあるが、助けがあれば小細工を弄する必要もなくなる。
会議室に沈黙が流れた。
フォルダン流剣術にそれほどの価値があるのか考えているのだろう。
政争介入のリスクは大きい。
学院教授としてではなく個人としての介入だと言い張ることは出来ても、規則違反による処罰は免れないだろう。
それに手を出せば、その教授は今後フォルダン家の味方として見られ、フォルダン家の政敵からは敵視されることになる。
教授ほど超然とした地位にいる者ならば大きな問題にはならないだろうが、敵は少ないほうが良いに違いない。
この要求は今、急遽決めたことだ。
当初の予定では、あわよくば弟子に取ってもらうことで、私自身の安全を確保するつもりだったが、教授たちが予想以上に剣術に興味を示したので、要求を引き上げた。
可能性は十分にあるはずだ。
教授たちは神域入りを追い求める求道者であり、その執念は強い。
レベル60台の守護者というのはどこへ行っても重宝される存在であり、どの勢力も彼らを最上級の待遇で受け入れるだろう。
名前を貸し、抑止力として睨みを効かせているだけで、常人には想像もできないほどの贅の限りを尽くした生活を送れるはずだ。
しかし彼らはそういった俗世間での富も栄誉も捨て、日々学院の研究等に籠もり、ただ神域に至る道を模索している。
神域入りに取り憑かれていると言っても良い彼らならば、そのきっかけとなる真髄に関わる剣術のためならば、多少のリスクは背負うはずだ。
沈黙を破ったのはイカルドだった。
自身が覚醒者だということもあり、武道の研究を主として神域への道を模索している彼は、フォルダン流に特に強い興味を持っているようだ。
「剣術を先に渡してもらおう。
それが十分に価値のあるものだったら、わしが手を貸すと約束しよう。
価値がないと判断した場合もそれなりの見返りは渡すが、約束はなしだ」
「……」
今度は私が沈黙する番だった。
イカルドの約束は強力な保証だ。
覚醒者である彼は、真っ向勝負においては教授の中でも頭一つ抜きん出ている。
時期が来たら彼をフォルダン城に招き、滞在してもらうだけで、家族の安全は確保できるだろう。
ここで剣術を渡せば、主導権を完全に失うことになる。
十分な価値。
何が十分で、何が十分でないかは曖昧であり、教授たちの気分次第でどうとでも言えることだ。
彼らのような強者は軽々しく借りを作るようなことはしない。
私の思い通りに行く可能性は薄いだろう。
しかし教授たちに渡すものが日本剣術でない以上、私の損失も大きなものではない。
それに日本剣術の研究が十分に進めば、フォルダン家は今後、現行のフォルダン流を捨て、新たな剣術に乗り替えることになるだろう。
いずれ淘汰されるであろうフォルダン流と、教授の約束を手に入れる可能性、そして好感との交換だと考えれば、これは悪い話ではなかった。
ここら辺が手の打ち時だと判断した私は、スペースリングに魔力を流し、薄いノートを取り出した。
剣術動作とその意味、技に秘められた変化について書かれた指南書だ。
私は指南書をイカルドに差し出した。
「これがフォルダン流の最新の写しです」
私が差し出した指南書は純正なフォルダン流ではない。
さすがの私もトリッキーであり、高級剣術の部類に入るとは言え、一般的な剣術の域を出ないフォルダン流だけで教授たちを騙そうなどとは考えていない。
これはフォルダン流に日本剣術を融合させようと研究を重ねた未完成品だ。
そもそも現代的な日本剣術というのは殺人のための技ではなく、精神を鍛える手段としての側面が強い。
私が戦いに使っている日本剣術も、私がかつて習っていた日本剣術そのままではなく、イルクが培ってきた戦闘経験や親衛隊たちの力も借りてアレンジを施したものだ。
剣術が戦いの手段でなくなった時代が、そしてそんな時代でも剣術に身を捧げた先人たちの研鑽が、日本剣術を、殺人技としての側面が強いこの世界の実用的な剣術よりも、より武道の本質に近いものにしたのかもしれない、というのが私の推測だ。
イカルドは剣術書をパラパラとめくり、何度か途中のページで手を止めながらも、すぐに読み終え、隣りに座っていたメリルに回した。
そして彼は目を閉じ、眉をひそめて考え込んだ。
数分後、イカルドは突然動いた。
彼は手を前に差し出すと、強力な引力を発して、私の腰にあった剣を鞘から抜き取り、空を隔ててそれを手にした。
そして彼は守護者の力でもある浮遊の力を使い、擬似的に軽業の効果を真似て、ドレアルに向かって斬撃を繰り出した。
その一連の動きはとても拳法家のものだとは思えない、熟練の剣士だと言われても納得の行く、洗練されたものだった。
「よしっ、来い!」
ドレアルは好戦的な笑みを浮かべ、手を掲げてスペースリングの中から自身の得物である槍を取り出した。
ドレアルの穂先がイカルドの繰り出した一撃を正確に捉え、容易く防げるかのように見えたその時、イカルドの斬撃は突然軌道を変え、彼の防御をすり抜けた。
「ん?」
ドレアルの反応は素早く、その巨体には似合わない素早さでひらりと身をかわし、イカルドの一撃を避けるとともに距離をとった。
地面に降り立ったイカルドは眉をひそめたまま、腕を軽く振るって剣を投げた。
剣は正確に私の腰にあった鞘に収まった。
一連の動きは非常に素早く、私がほとんど反応できないうちに終わった。
イカルドは口を開いた。
「歪で不完全だが、かつてない斬新な切り口……。
面白い。
実に面白い」
イカルドが繰り出した一撃は私が渡したフォルダン流剣術の中でも、特に日本剣術の色の強い技の一つだった。
彼の目はまるで新しいおもちゃを見つけた少年のような純粋な輝きを放っていた。
「この技を編み出した御仁はどこにいる?
ぜひ酒でも酌み交わしたいものだ」
この世界とは別の世界にある、日本という国に住む剣術家たちです、と言うわけにもいかず、私は首を振って嘘をついた。
「これは数年前に亡くなった長老の遺筆から見つけたものです。
未完成ではありますが十分な威力があるということで取り入れられました」
「亡くなった?
そうか……そうか……」
イカルドはため息をつき、続けて言った。
「何という不運」
「ええ、フォルダン家にとっても大きな損失でした」
「だが、これほどの武人がなぜ無名だったんだ?
フォルダン家に剣豪がいたという話は聞いたことがない」
実在しない人間について聞かれても困るのだが、幸い丁度いい理由はあった。
「……私も詳しくは知りませんが、長老は傍系の生まれでした」
その言葉の直後、室温が数度下がった。
実際に下がったわけではない。
イカルドから放たれた、誰に向けられたものでもない微かな殺気が、私にそう感じさせたのだ。
「ふん!
貴族め」
血筋や生まれを重んじる貴族家の中では、直系の地位が脅かされないよう、傍系の才能ある戦士の成長を妨害する悪習を持つものもいる。
これは仕方のないことだともいえる。
家族の利益を至上とする貴族家の当主といえども、よほどの落ち度がなければ自分の子に家を継いでもらいたいと願うし、そのために傍系の天才を冷遇するのもわからないことではないはずだ。
貴族家長男として生まれながらも、複雑な事情により落ちこぼれとして悲惨な幼年期を過ごし、貴族の陰湿なやり口を身を持って体感したことのあるイカルドは、私の嘘を聞き、更に貴族への嫌悪を深めたようだった。
彼は大きなため息をついて、首を振ったあと、肩を落として何も言わずに部屋を去った。
ハメロは肩をすくめた。
「ありゃあ今日は飲むね」
ドレアルが答えた。
「そうだろうな。
あいつを唸らせるほどの人物が、貴族の悪習によって才能を完全に開花させることなく、人知れず生涯を過ごしたのだから」
メリルもしみじみと、つぶやいた。
「せめて平民として生まれていれば、日の目も見れただろうに」
この会話だけ聞くと、まるで傍流に生まれることは不運なことであるかのように聞こえるが、実際はそうでもない。
学院にいると感覚が麻痺してくるが、天才というのはそう多いものではない。
突出した才能を持たない、いや、多少突出した才能を持っていようと、一般の人間からすれば、例え傍系だろうと貴族に生まれることは、生涯搾取され続けるか、冒険者にでもなってダンジョンで野垂れ死ぬかしかない平民とは比べ物にならないほどの幸運である。
メリルは私に言った。
「もう行って良いわ。
剣術の評価は近いうちに知らせるから」
「わかりました。
では、失礼します」
私は貴族礼をして部屋を後にした。
「あなた方のうち誰かに、フォルダン家に危機が迫った時に、一度だけ手を貸すと約束して頂きたい。
もちろん、教授自身に危険が及ばない範囲で」
「無理よ、それは」
メリルは即答した。
続けて彼女は訳を話した。
「特異ダンジョンや一般的な脅威ならともかく、あなたの言う危機は貴族同士の争いの話でしょう?
学院は絶対中立の機関。
貴族同士の戦いに介入することは出来ないわ」
帝国は貴族たちのものであり、学院は帝国のものである。
国営機関である学院が政治に影響を及ぼすことは許されない。
これは鉄則だ。
私は食い下がった。
「フォルダン流は私個人の財産ではありません。
この取引は学院生と学院のものとしてではなく、フォルダン家と教授個人の間の取引でないと成立しないものです」
これはぜひとも勝ち取りたい保険だ。
具体的な時期はまだ決めていないものの、少なくとも最終決戦前にはフォルダン家はクライオス家を裏切る。
原作では敗北が確定したクライオス家は、直系メンバーを逃がすための陽動として、主力を分散させて帝国各地にゲリラ的に攻撃を加えていた。
裏切り者であるフォルダン家が標的にされることは避けられないだろう。
その時、最も驚異になりうる存在がクライオス家のレベル60台の守護者だ。
フォルダン家にレベル60台の戦士はいない。
正面からの戦いであれば、城の防衛魔法陣に加え、軍の戦陣もあるため、相手がレベル60台の守護者だろうと返り討ちにできるだろう。
しかし高レベル戦士の恐ろしいところは、それが個人だということだ。
いつ来るかもわからない守護者による奇襲。
これを防ぐのは至難の業だ。
父上なら爵位の加護と自傷的な秘術で一時的に守護者並みの戦力を発揮できるだろうが、それは別に秘密ではない。
相手も知っている以上、対策されるのは確実だ。
正真正銘の守護者である教授なら阻止、少なくとも軍の応援が駆けつけるまでは時間が稼げるはずだ。
教授の協力がなくとも襲撃をいなす手はあるが、助けがあれば小細工を弄する必要もなくなる。
会議室に沈黙が流れた。
フォルダン流剣術にそれほどの価値があるのか考えているのだろう。
政争介入のリスクは大きい。
学院教授としてではなく個人としての介入だと言い張ることは出来ても、規則違反による処罰は免れないだろう。
それに手を出せば、その教授は今後フォルダン家の味方として見られ、フォルダン家の政敵からは敵視されることになる。
教授ほど超然とした地位にいる者ならば大きな問題にはならないだろうが、敵は少ないほうが良いに違いない。
この要求は今、急遽決めたことだ。
当初の予定では、あわよくば弟子に取ってもらうことで、私自身の安全を確保するつもりだったが、教授たちが予想以上に剣術に興味を示したので、要求を引き上げた。
可能性は十分にあるはずだ。
教授たちは神域入りを追い求める求道者であり、その執念は強い。
レベル60台の守護者というのはどこへ行っても重宝される存在であり、どの勢力も彼らを最上級の待遇で受け入れるだろう。
名前を貸し、抑止力として睨みを効かせているだけで、常人には想像もできないほどの贅の限りを尽くした生活を送れるはずだ。
しかし彼らはそういった俗世間での富も栄誉も捨て、日々学院の研究等に籠もり、ただ神域に至る道を模索している。
神域入りに取り憑かれていると言っても良い彼らならば、そのきっかけとなる真髄に関わる剣術のためならば、多少のリスクは背負うはずだ。
沈黙を破ったのはイカルドだった。
自身が覚醒者だということもあり、武道の研究を主として神域への道を模索している彼は、フォルダン流に特に強い興味を持っているようだ。
「剣術を先に渡してもらおう。
それが十分に価値のあるものだったら、わしが手を貸すと約束しよう。
価値がないと判断した場合もそれなりの見返りは渡すが、約束はなしだ」
「……」
今度は私が沈黙する番だった。
イカルドの約束は強力な保証だ。
覚醒者である彼は、真っ向勝負においては教授の中でも頭一つ抜きん出ている。
時期が来たら彼をフォルダン城に招き、滞在してもらうだけで、家族の安全は確保できるだろう。
ここで剣術を渡せば、主導権を完全に失うことになる。
十分な価値。
何が十分で、何が十分でないかは曖昧であり、教授たちの気分次第でどうとでも言えることだ。
彼らのような強者は軽々しく借りを作るようなことはしない。
私の思い通りに行く可能性は薄いだろう。
しかし教授たちに渡すものが日本剣術でない以上、私の損失も大きなものではない。
それに日本剣術の研究が十分に進めば、フォルダン家は今後、現行のフォルダン流を捨て、新たな剣術に乗り替えることになるだろう。
いずれ淘汰されるであろうフォルダン流と、教授の約束を手に入れる可能性、そして好感との交換だと考えれば、これは悪い話ではなかった。
ここら辺が手の打ち時だと判断した私は、スペースリングに魔力を流し、薄いノートを取り出した。
剣術動作とその意味、技に秘められた変化について書かれた指南書だ。
私は指南書をイカルドに差し出した。
「これがフォルダン流の最新の写しです」
私が差し出した指南書は純正なフォルダン流ではない。
さすがの私もトリッキーであり、高級剣術の部類に入るとは言え、一般的な剣術の域を出ないフォルダン流だけで教授たちを騙そうなどとは考えていない。
これはフォルダン流に日本剣術を融合させようと研究を重ねた未完成品だ。
そもそも現代的な日本剣術というのは殺人のための技ではなく、精神を鍛える手段としての側面が強い。
私が戦いに使っている日本剣術も、私がかつて習っていた日本剣術そのままではなく、イルクが培ってきた戦闘経験や親衛隊たちの力も借りてアレンジを施したものだ。
剣術が戦いの手段でなくなった時代が、そしてそんな時代でも剣術に身を捧げた先人たちの研鑽が、日本剣術を、殺人技としての側面が強いこの世界の実用的な剣術よりも、より武道の本質に近いものにしたのかもしれない、というのが私の推測だ。
イカルドは剣術書をパラパラとめくり、何度か途中のページで手を止めながらも、すぐに読み終え、隣りに座っていたメリルに回した。
そして彼は目を閉じ、眉をひそめて考え込んだ。
数分後、イカルドは突然動いた。
彼は手を前に差し出すと、強力な引力を発して、私の腰にあった剣を鞘から抜き取り、空を隔ててそれを手にした。
そして彼は守護者の力でもある浮遊の力を使い、擬似的に軽業の効果を真似て、ドレアルに向かって斬撃を繰り出した。
その一連の動きはとても拳法家のものだとは思えない、熟練の剣士だと言われても納得の行く、洗練されたものだった。
「よしっ、来い!」
ドレアルは好戦的な笑みを浮かべ、手を掲げてスペースリングの中から自身の得物である槍を取り出した。
ドレアルの穂先がイカルドの繰り出した一撃を正確に捉え、容易く防げるかのように見えたその時、イカルドの斬撃は突然軌道を変え、彼の防御をすり抜けた。
「ん?」
ドレアルの反応は素早く、その巨体には似合わない素早さでひらりと身をかわし、イカルドの一撃を避けるとともに距離をとった。
地面に降り立ったイカルドは眉をひそめたまま、腕を軽く振るって剣を投げた。
剣は正確に私の腰にあった鞘に収まった。
一連の動きは非常に素早く、私がほとんど反応できないうちに終わった。
イカルドは口を開いた。
「歪で不完全だが、かつてない斬新な切り口……。
面白い。
実に面白い」
イカルドが繰り出した一撃は私が渡したフォルダン流剣術の中でも、特に日本剣術の色の強い技の一つだった。
彼の目はまるで新しいおもちゃを見つけた少年のような純粋な輝きを放っていた。
「この技を編み出した御仁はどこにいる?
ぜひ酒でも酌み交わしたいものだ」
この世界とは別の世界にある、日本という国に住む剣術家たちです、と言うわけにもいかず、私は首を振って嘘をついた。
「これは数年前に亡くなった長老の遺筆から見つけたものです。
未完成ではありますが十分な威力があるということで取り入れられました」
「亡くなった?
そうか……そうか……」
イカルドはため息をつき、続けて言った。
「何という不運」
「ええ、フォルダン家にとっても大きな損失でした」
「だが、これほどの武人がなぜ無名だったんだ?
フォルダン家に剣豪がいたという話は聞いたことがない」
実在しない人間について聞かれても困るのだが、幸い丁度いい理由はあった。
「……私も詳しくは知りませんが、長老は傍系の生まれでした」
その言葉の直後、室温が数度下がった。
実際に下がったわけではない。
イカルドから放たれた、誰に向けられたものでもない微かな殺気が、私にそう感じさせたのだ。
「ふん!
貴族め」
血筋や生まれを重んじる貴族家の中では、直系の地位が脅かされないよう、傍系の才能ある戦士の成長を妨害する悪習を持つものもいる。
これは仕方のないことだともいえる。
家族の利益を至上とする貴族家の当主といえども、よほどの落ち度がなければ自分の子に家を継いでもらいたいと願うし、そのために傍系の天才を冷遇するのもわからないことではないはずだ。
貴族家長男として生まれながらも、複雑な事情により落ちこぼれとして悲惨な幼年期を過ごし、貴族の陰湿なやり口を身を持って体感したことのあるイカルドは、私の嘘を聞き、更に貴族への嫌悪を深めたようだった。
彼は大きなため息をついて、首を振ったあと、肩を落として何も言わずに部屋を去った。
ハメロは肩をすくめた。
「ありゃあ今日は飲むね」
ドレアルが答えた。
「そうだろうな。
あいつを唸らせるほどの人物が、貴族の悪習によって才能を完全に開花させることなく、人知れず生涯を過ごしたのだから」
メリルもしみじみと、つぶやいた。
「せめて平民として生まれていれば、日の目も見れただろうに」
この会話だけ聞くと、まるで傍流に生まれることは不運なことであるかのように聞こえるが、実際はそうでもない。
学院にいると感覚が麻痺してくるが、天才というのはそう多いものではない。
突出した才能を持たない、いや、多少突出した才能を持っていようと、一般の人間からすれば、例え傍系だろうと貴族に生まれることは、生涯搾取され続けるか、冒険者にでもなってダンジョンで野垂れ死ぬかしかない平民とは比べ物にならないほどの幸運である。
メリルは私に言った。
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頑張ってください
ありがとうございます!
頑張ります。
表記のミスは、ザラにあることだとおもいますので、そんなに心配されないよう、
ご本人😄様にもお伝え下さい。
感想ありがとうございます。
そのうまい励ましに対抗できるほどの返信が思いつかない、と本人が悔し涙を流しておりました。
いつも転生がトラックにひかれてなるパターンを読むと、これ運転手が罪に問われたりするんだろうかな…それにしても事故多すぎや…転生組合でもあるんかいと思っていたので
冒頭で爆笑しました。
現時点では悪役貴族は、はたからみたら超絶かっこいいキャラに見えると思います。
感想ありがとうございます。
転生方法は我ながら良い出来だと思っていたので、そこを褒められて嬉しい限りです。