ぬいぐるみのロンド

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気まぐれに神様はぬいぐるみの願いなどを聞いてみようとした。

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あれは何だ?
物珍しそうに触れるだけ触れて買っていかない客によってディスプレイを乱されて余計購買意欲を引かなくなったぬいぐるみたちがその特等席で客の到来を首を長くして待っているとエレベーターが開いて歩いてくる人の群れの中に奇妙な生き物が紛れている。茶色の毛むくじゃらで目はくりくりとして丸く、まるで自分たちとそっくりです。しかし、それは人に縄で繋がれながらも自分でしっかりと歩き、ぬいぐるみも真っ青になるほど愛嬌があります。その生き物を観察していたぬいぐるみたちは冷や汗が滴るのを覚えました。それだけではありませんどこからか「わあー可愛い」という声が聞こえてきます。
「その歓声の調子と語彙はぬいぐるみにとって最高の賛辞です。ぬいぐるみとして生まれてきたからには一度は言われてみたい褒め言葉でした。ぬいぐるみたちは途端に自信を失い自分たちの存在が全否定されたような気がしてしょげかえってしまいました。見ると同じフロアのかどっこにまるで絵本の中から出てきたような女の子が立っていました。それも「不思議の国のアリス」から出てきたような女の子です。つまりアリスみたいな可愛い娘です。色こそ黒髪ですが腰にもあと僅かで届きそうな程長い黒髪が美しいディズニー映画の主人公に相応しい笑顔の少女でした。小さな赤い靴の靴音をツカツカと鳴らしながら一息に犬の飼い主に近づき鈴を転がすような声で「可愛い、このワンちゃん触っていいですか?」その瞬間大勢のぬいぐるみたちは心の中でこう口々にツッコミました「俺を触ってくれよ!」「ただでいいからよ」「いや、むしろお礼を弾んでもいいくらいだ」「馬鹿かお前は」自分たちには目もくれず一目散に茶色の犬目掛けて走っていった少女を横目にぬいぐるみたちは言います。「おい、あのぬいぐるみみたいな生き物は一体何だ」「あれか、お前アレが何だか知らんのか」老師が言いました。老師と呼ばれるぬいぐるみの先達がいました。なぜなら老師ヤンはこの令和の時代にあって平成生まれのぬいぐるみたちの中で昭和の生まれです。何でもよく知っています。老師は言いました。「あれは犬じゃよ」「ぬいぐるみみたいなだけであんなに人から可愛がってもらえるんだな」「ああ、俺も犬になりたい」「老師は言いました。「馬鹿」「馬鹿って何ですか」「馬鹿も馬鹿大馬鹿だ」「犬なんかに憧れるなんてもうお前は犬みたいな物だ」「何ですって」「そうであろう」「いまのお前の嘆きこそが負け犬の遠吠えというのだ」「ぬいぐるみが本気を出せば二流の愛玩動物である犬などに負けはしないお前もぬいぐるみなら子ども連れの親の前で子どもに買ってくれるまでここをうごかないなどと駄々をこねさせて親を困らせてみろ」「何か犬ってお前に似ているな」ペーターはバウザーに言いました。「そりゃそうだ」「俺は犬のぬいぐるみだからな」「何だお前アレのコピーか」「そんな言い方ってあるかよ。あんな犬っころとは気位の高さが違うだろ」そうこうしているうちに少女は子犬に抱きついて頭は撫でる抱き上げて鼻の頭同士をくっつける。その上チューまでしちゃいました。「お、おいあれ見ろよ」「あんなに可愛がられてみたいよな」「うん。あんなに可愛がってもらえたらぬいぐるみ冥利に尽きるよなあ」「なあ、おれたちとあの犬っころとの差って何だ。冷静に考えりゃそこまで遜色があるってようにも思えないんだよな」「んだんだ。ルックスでも負けてねえし」「まあ、ぶっちゃけた話生きているかいないかってことだけだよな」「それを言っちゃあお終めえよ」「後、天性の媚の売り方の上手さかな」「ああ、もしこの世に神様が存在するんなら神様、どうかお願いを聞いてくださいまし」「んだ。俺達何でもいたしますけん俺達にもあの犬っころと同じような命を授けてくださいまし行きて動けるようにして下さい」ぬいぐるみたちは神様に願い事をしてそれぞれ祈りました。
偶々、今日は七夕でした。神様は彦星に天の川を渡らせるのに手一杯でそこまで面倒を見き切れないというのが本当のところでした。
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