派遣君

かにえ泉人

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派遣君

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「おはようございまーす」
妙に明るい派遣君の声を聞くといつもうんざりしてしまう。
派遣君は35歳。
10歳年上だけど俺より仕事はできない。
失敗するとすまなさそうな顔をするものの、同じミスを何度も何度も繰り返す。
派遣君が後輩だったら
「お前、何度いったらわかるんだ!」
頭のひとつもハリとばせるのだが。
腹の中では煮えたぎりながら
「気をつけてくださいね」といってしまう俺。
「自分なりに一生懸命やっているんです・・・・」といわれても
「何度繰り返したら気が済むのだ。このバカたれめ」とののしりたくもなってくる。
派遣君がきてから、俺の仕事は滞るばかり。
俺が3つこなす間に派遣君は1つしかできない。
どうやって、うまくさぼっているのかな。
横目で派遣君を眺めていた。
派遣君はさぼるどころか、懸命に仕事をしていた。
ひとつひとつの動作がのろかった。
さぼっているまら「さっさとやってよ」俺でもいえる。
しかし、一生懸命やってる派遣君に何ていっていいのかわからない。
のろいのも、いいかえれば丁重ということだけど、丁重で正確ならまだ許せる。
しかし丁重で間違ってる場合はホント困ってしまう。
派遣君の鈍なペースに合わせていたら、毎日夜中まで残業しても終わらない。
最近は面倒臭い仕事は自分でやって、簡単な仕事を派遣君にやらせている。
それでも納期にはやり残した仕事が山になる。
結局自分でやるはめになる。
「自分なりに一生懸命やっているんです・・・・」
派遣君は悠長にいった。

派遣君が発送した部品がみあたらないと下請の担当者から電話があった。
派遣君は自信をもって
「そちらでなくしたんでしょう」と冷たく言い放っていた。
下請の担当者とお偉いさんがとんできて派遣君に何度も頭をさげていた。
「これからは気をつけて下さいよ」
派遣君は踏ん反り返えって、腕組みしながら彼らの背中をにらんでいた。
彼らが帰ってしばらくして、俺のこめかみに一筋の汗がたらーっと流れた。
派遣君の机の下に発送したはずの部品がまだあった。
目の前が真っ暗になった。
事情がよくのみ込めてない上司の手を引っ張って下請会社にいった。
さっき彼らが頭を下げた以上に何度も何度も深く深く頭をさげて許してもらった。
日頃温厚な上司も冷たい目つきで
「これからは(派遣君の使い方に)気をつけなさい」
といったきり帰りは何も話さなかった。
言葉になかったカッコ書は自分なりに解釈した。

戻ってトイレにいった。
ボックスのドアが少し開いていたので覗いてみら、腰を抜かしそうになった。
中に何か生き物がいる。
おそるおそる覗き込むと、その生き物はアンパンを口にくわえて便器に座っていた。
派遣君ではないか。
さすがにズボンははいたままだったが、あまりに大胆な現実を目撃して、頭の中が真っ白になった。
「あの件でお昼をたべそこなって、お腹がすいて・・・」
派遣君はくわえていたアンパンを左手でもち、うつむいた。
俺はぼーっとしたまま そっとドアを閉め、あわてて席に戻った。
嵐のようにパソコンを叩きまくって、自分の見た光景を頭の中からかきけした。

納期間際、いつものように派遣君と残業をしていた。
派遣君が ちんたらちんたら しているので能率はまったく上がらない。
だんだん髪の毛が逆立ってきた。
俺の上司が「納期遅れたら責任取れよ」と薄笑いを浮かべながらいった。
派遣君はだまってうつむいているだけだった。
「やめさせてもらいます」という発言が出るのを期待していた俺がばかだった。
派遣君。
いままでだって嫌なことは数限りなくあっただろう。
プライドを著しく傷つけられたこともあっただろう。
それなのに派遣を35歳まで続けている。
(鈍感にもほどがある!)
俺は彼の人生を思うと腹立たしくて仕方がない。
今までに転職の機会は星の数ほどあったはず。
(何とかならないのか!)
派遣君が転職して俺の前からいなくなる。
これが俺たちにとって一番いい方法だ。

「おはようございまーす」
次の日も派遣君はやってきた。
妙に明るい声を聞いていると、どういうわけか腹が立ってくる。
どんなに失敗しても次の日には明るい声でやってくる。
どうもコミニュという奴らしい。
(コミニュだけで許されるのは30まで)心の中でののしった。
派遣君が電話をとった。
「はい。ハケンです!」
俺は腰を抜かさんばかりに驚いた。
(お前が自分の名前をいってどうするの)
しばらく沈黙が続いたあと、派遣君は受話器を置いた。
「どこから」おそるおそる聞いてみた。
「わかりませーん。黙っていたら”すみません。間違いました”といって切れました」
また電話がかかってきた。
派遣君が出ようとしたが、俺は横から手を伸ばして受話器をひったくった。
得意先からだった。
「さっき、間違ってハケンとかいうところにつながってハッハッハッ」
しらをきったほうが丸くおさまるはずと思って、俺も力なくはっはっはっと笑った。
派遣君は
「どうしてあんなこと口走ったのかなあ。うちにいるときの癖がでたのかなあ」
などと落ち着いて自己分析なんかやっていた。

大嫌いな奴が1人いる。
部長のプロパーさん。
殴られたとか、徹底的にいじめぬかれたとかいうわけではないが生理的に受け付けない。
やったらめったら 口うるさい。
それもネチネチと いつまでまでも繰り返す。
部下の前で訓示を垂れるのが大好き。
こむずかしい言葉を並べたて、
内容のあることをいっているように聞こえるが、実は簡単なことをまどろっこしくいっているにすぎない。
「コミニュをとるように」とひとこといえばすむことを30分もネチネチいっている。
おまけに訓示のおわりにこぶしを振り上げさせ
「ガンバロー」と叫ばせる。
「ヘヴィ・メタのコンサートじゃあるまいし」
俺はうしろでブツブツいいながら仕方なくこぶしだけあげている。
派遣君はいつも大声で「ガンバロー」と叫んでいる。
地声のおおきい人ならいくらでもいる。
しかし派遣君の場合は違う。
声のでかさで人の注目を引こうとする意図がみえみえなのだ。
しかし、部長のプロパーさんには可愛がられていて、2人はとっても仲がいい。
まわりは、2人のことを「史上最悪のコンビ」といってあざ笑っている。

俺の下に派遣君がついたとき
「これは夢だ。
 会社にきているのは嘘で、
 実は昨日の飲み会であまりに盛り上がったので、続きの夢を見ているだけなのだ」
深呼吸して目をつぶってみた。
目を開けたとき、自分の部屋にいますようにと願った。
恐る恐る目をひらけた。
しかし、残念ながら、目の前にはやっぱり派遣君がいた。
「こんなこと許せない」
「これは誰かの陰謀だ」
「プロパーさんに直訴する」
いろんな言葉が頭の中をグルグルまわったが、やはり最後に残ったのは、
「どうして?」しかなかった。
腹が立つとか、涙がでるとかいうのではなく、頭の中がだんだん真っ白になっていった。
まわりの奴らは派遣君のみえないところでガッツポーズをしていた。
(俺じゃなくてよかった)テレパスが聞こえた。

しばらくは平凡で穏やかな日々をすごしていた。
ところが、何日かたってスケジュール表が配られた。
納期が8月末。担当が俺と派遣君。
「8月末」という文字が赤と緑のメガメをしていないのに3Dで飛び出してきた。
あと3ヶ月しかない。とても間に合わない。
「ひえーっ」
俺はプリントを握りしめてのけぞった
「君には派遣君をつけたから」部長のプロパーさんが冷たくいった。
「うまい話には気をつけよう」悪徳霊感商法の注意をうながすポスターを思い出す。
「ああ大変。頑張らなくては」俺の隣で派遣君がボッといった。
プリントを食い入るように見つめていたが、顔をあげたら目が点になっていた。
「これって、いやがやせじゃないの」背後で不気味な声がした。
俺は机にへばりついて、嵐のようにパソコンを叩きまくってるというのに、
派遣君はいつもと同じペースで口元に微笑みをうかべなががら、ゆっくりゆっくり字をかいている。
そんな姿をみていると、毎月処理する派遣君の請求書の金額の0を1個へらしたくなる。
こんなに迷惑をこうむってる俺が手取り20万で、
ボーッとしている派遣君に時給ン千円払うのは、何といっても納得できない。
派遣君にはついていけない。

最近とみにそう感じるようになった。
そんな俺に目に入ってくるのはゆっくりゆっくり字をかいている派遣君の姿だった。
いつか自分もそうなってしまう恐れと、派遣君より仕事ができるから大丈夫という自信が入り混じった。
つまり、派遣君は俺の将来への不安をかきたてる存在だ。
いつか気が付いてみたら、ゆっくりゆくっり字をかいている第二の派遣君になってしまうのではないか。
派遣君がうっとうしいはずなのに、どうしても彼を無視できない俺がいた。
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みんなの感想(3件)

ちかこ
2019.04.26 ちかこ

折れ→俺

解除
ちかこ
2019.04.26 ちかこ

折れ→俺。

解除
ちかこ
2019.04.26 ちかこ

まあまあ おもしろい

解除

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