次の派遣はないよ

かにえ泉人

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次の派遣はないよ

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俺は40歳。ベテランの派遣社員だ。
会社の名前は老舗エンジニア派遣のメイギテック、CADで図面を書くことを主な業務にしている。
略して「姪」とも呼ばれてることもある。
社員が客先との契約を切られて会社に戻ってくる者を復帰者と呼んでいる。
その間は雀の涙の給与がでるので教育訓練室という檻の中で研修をすることが義務付けられて半年前からその檻の中にいる。

今日 新しい復帰者が何人か檻の中にやってきた。
「今まで図面かいたことないのですが」というとぼけた奴だ。それも中堅で。
「今まで何やってたの」て思わず聞き返した。
「実験と評価を5年やってた」
「レベルの低いマイナーな業務か。お前には次の派遣はないよ」と言い放ってやった。
「・・・・・。」
奴は涙をためて黙り込んでしまった。次の日 奴は出てこなかった。
少し反省した。
でも次の日 他の奴に
「次の派遣はないよ」とまた言い放ってやった。
俺は悪い奴か?。

そんなことを毎日繰り返していたら 「それは俺のせいじゃない」と開き直った奴がいた。
「お前の存在が姪のレベルをさげるんだ。迷惑なんだよ!」ドスをきかして脅してやった。
そいつも次の日から出てこなくなった。
また少し反省した。
それでも次の日には他の奴をつかまえて
「次の派遣はないよ」とまた言い放っていた。
最近、俺のまわりから少し人が減った気がする。
どういう訳か営業がヘラヘラ笑いながら俺の機嫌をとるようになった。
「教育訓練室のリーダになって」
「次の勤務地や仕事はどれがいい」いくつかの候補を持ってきた。
「そのうち考えてやるよ」踏ん反り返えって答えてやった。
客先の面接には3回いったが、だめだった。そうこうしているうちにグループ研修が始まった。
グループのリーダになった。
ドスをきかして回りをビビらせている。
あいかわらず、営業がヘラヘラ笑いながらまとわりついてくる。
「次の勤務地や仕事はどれがいい」
「他の奴にもまわしてやれや」と言ってやったら、まわりから尊敬の目でみられた。
少し、偉くなった気分になった。
それでもやっぱり俺に面接の話がきた。
仕方がないので行ってやることにした。
回りの奴はほっとした顔をして、
「頑張ってきて下さい」
すがるような眼差しで俺をみやがった。
「おぅ」
とは言ったが、激励していたのか追い出したいのかが疑わしい。
営業はヘラヘラ笑いながら
「いっしょに がんばりましょう」
「なにを がんばるんだ」と毒づいてやった。
「頑張ってきて下さい」 今度は若い復帰者がすり寄ってきた。
「俺がいなくてもまじめに研修をやれよな!」踏ん反り返えって言い放った。
遠くで俺を見ながらコソコソ話している奴らがいた。
「言いたいことがあるなら、はっきり言え!」ドスをきかして一括してやった。
面接にわざわざ来てやったのに相手は
「何ができますか」と見下した目線で偉っそうに言いやがった。
頭にきて「何がしてほしいんだ!」と言いたかったのをぐっと抑えた。
その代わり威圧した目でにらみかえしてやったら、目線の間でバチバチと火花がとぶのを感じた。
普段はヘラヘラしている営業があわててフォローに割り込んできた。
返す刀で営業をにらみつけ、黙らせた。
あれやこれやで面接は終わり、帰る車で営業がヘラヘラ笑いながら俺の機嫌をとりにきた。
「この次の面談はどこがいい」
次の日、椅子にすわって腕組みしながら両足を机の上に投げ出して、不機嫌な態度をしてやった。
誰もビビって近づいてこなかった。
「面談はどうでした」上目づかいで聞いてきたアホがいた。
「知らねぃよ!!」思いっきりドスをきかしてやった。
その日は俺に話かける奴はさすがにいなかった。
ほんの少しだけ反省した。
しかたがないので、次の日アホに声をかけてやったら、嬉しそうにシッポを振っていた。
今はまた
「今まで図面かいたことないのですが」というとぼけた奴に
「次の派遣はないよ」と言い放っている。

今までに何人か俺の前から姿が消えた。
営業はあいかわらず、ヘラヘラ笑いながら俺の機嫌をとっている。
俺の前で居眠りした奴がいた。
いきなり胸倉つかんで持ち上げてやった。脚が床から離れた気がした。
「なめとんのか!」ドスをきかした。
奴は真っ赤な顔して脚をバタバタさせやがった。
勢いで俺の向ズネを蹴りやがった。
「痛って」手を離したら奴は床にころがった。
「次の派遣はないよ」ドスをきかして脅かした。
次の日 奴は出てこなかった。
少し反省した。
俺が入るとザワザワしていた部屋がシンとなる。
俺と目を合わす奴が少なくなった気がする。
少し偉くなった気がした。
「おはようごさいます。今日も一日お願いします」
営業は、顔をあわすとヘラヘラ笑いながら上目づかいで挨拶する。
「おぅ」
威張って返事をしてやった。
また、少し偉くなった気がした。

しばらくしたら、所長に呼び出され、
「傍若無人な振る舞い・・・云々」と説教をしやがった。
誰かチクリやがったなと怒りの炎が燃えてきた。
「ふざけんじゃねぃ」
と啖呵を切りたいのをぐっと抑え、威圧した目でにらみかえしてやったら、目線の間でバチバチと火花がとぶのを感じた。
普段はヘラヘラしている営業はおろおろ右往左往していた。
返す刀で営業をにらみつけ、椅子を蹴って外にでた。
椅子にすわって腕組みしながら両足を机の上に投げ出して、不機嫌な態度をしてやった。
誰もビビって近づいてこなかった。
「何の話でしたか」上目づかいで聞いてきたアホがいた。
ピンときた。
「おまえか!!」思いっきりドスをきかして、胸倉つかんでやった。
次の日 奴は出てこなかった。
今度は反省しなかった。
その日の午後
普段はヘラヘラしている営業が俺の手下をいびっていた。面接でヘマをしたらしい。
手下は涙をためて半ベソをかいていた。
俺は奴に眼をとばして
「営業の分際で何様や!」啖呵をきってやった。
手下は目に星を浮かべて俺をみた。まわりから尊敬の目でみられた。
少し、偉くなった気分になった。

つまらん講習にひっぱりだされた。
ティアダウンやらコミニュケーションやら やたら横文字、カタカナがおおい。
コミニュケーション よく聞くとただの報連相かと理解した。
ふふんと鼻で笑って聞いていた。
コミニュケーションと称するゴマすりか。いつまでたっても進歩が無い。
だんだん腹がたってきた。
「ゴマすりの戦術はどうでもいい。技術の戦略の話はどうなった」
おもむろに立ち上がって言い放った。
普段はヘラヘラしている営業があわててとんできた。
「し、質問はやめてください」
おろおろしながら目線で後をさした。お偉ら方がいやがった。
「戦略の話はどうなった!」
後を振り返って言い放ってやった。
まわりの視線があつまった。
少し、偉くなった気分になった。
もう一度
「戦略の話はどうなった!」
もう一度 踏ん反り返えって言い放ってやった。
営業はおろおろ右往左往していた。
また少し、偉くなった気分になった。

研修発表の時間がきた。
俺の手下が自慢した。
「ティアダウンで実力がつきました」
「ふふん」鼻で笑って聞いていた。
別の奴が自慢した。
「コミニュケーションで実力がつきました」
カチンときた。
「ごますりで?。お前には次の派遣はないよ」おもいっきりやじってやった。
また、普段はヘラヘラしている営業があわててとんできた。
「や、やめてください。あなたが決めるわけではありません」
また おろおろしながら後ろを目線でさした。
無視をした。
「こいつの存在が姪のレベルをさげるんだ。迷惑なんだよ!」ドスをきかした。
奴は涙をためて黙っていた。
次の日 奴は出てこなかった。
少し反省した。

部屋に戻るとまた、いつものごとく、不機嫌な態度をしてやった。
営業が、ヘラヘラ笑いながら追ってきた。
「次の面接はどこがいい」
いくつか候補を持ってきた。
ちらっと一瞥した。遠方ばかりだ。怒りの炎が燃えてきた。
「ふざけんじゃねぃ」
「い、いまはこれしかありません」ビビりながらも言いやがった。
「営業の能力が足ねぃんじゃないか!」ドスをきかして啖呵をきった。
奴はしっぽを丸めてて出て行った。
今度は反省はしなかった

面接候補は蹴り飛ばし、むしゃくしゃするから外にでた。
ぶらぶらしたあと パチンコをした。
大当たりをひっぱった。
夕方遅くに戻ったらもう誰もいなかった。仕方ないので帰ろうとしたら所長とでくわした。
この前、俺を「「傍若無人」と言った奴。
目線の間でバチバチと火花がとんだ。そのまま通りすぎた。
遠くで「次の派遣はないよ」と叫ぶ声がした。
それから数日がすぎた。
「今まで図面かいたことないのですが」
というとぼけた奴に
「次の派遣はないよ」
と言い放ち、ドスをきかして回りをビビらせている。
いごこちがいい。
これが天職かと少し思った。

普段はヘラヘラしている営業がさらにヘラヘラしながらやってきた。
「ありました!今度はいけると思います」上目づかいでヘラヘラ笑っていやがった。
外を這いずり廻って云々と自慢話が続いている。
そのあいだ、俺は面接資料を一瞥した。
「ふむ 悪くはないな」心のなかで呟いた。
「そのうち考えてやるよ」踏ん反り返えって答えてやった。
営業はヘラヘラ笑いながら
「いっしょに がんばりましょう」
「なにを がんばるんだ」と毒づいてやった。
しかたがないから、面接にいってやった。
そこに姪の復帰者らしき奴らがかたむろをしていた。
「これだけ、引き合いがあったのか」ドスをきかして聞いてみた。
「いえ、ひとりだけです」
普段はヘラヘラしている営業があおざめた。
「ほかの人は当て馬です」必死に言い訳を始めた。
奴らを一瞥した。たしかに当て馬面をしている。
奴らを威嚇した目でにらみつけ
「お前ら これが最後のチャンスだ。次の派遣はないよ」と言い放ってやった。
返す刀で営業をにらみつけた。

面談が始まった。
「自己PRして下さい」とメーカの担当者。
当て馬が自慢した。
「ティアダウンができます」
別の当て馬が自慢した。
「コミュニケーションができます」
「すごいですね。(くだらん努力に)感動しました」
当て馬の鼻が5センチ伸びていた。
誰も言葉になかったカッコ書には気がつかなかった。
営業はヘラヘラ笑っていた。
俺の番がきた。
「リーダでドスをきかして回りをビビらせれます」と言い放った。
「すごいですね。(他で)リーダシップを発揮してください」 軽くあしらわれた。
俺の鼻が5センチ伸びた。
言葉になかったカッコ書には気にもとめなかった。
普段はヘラヘラしている営業がひきつった。
あれやこれやで面接は終わり、帰る車で営業がヘラヘラ笑いながら俺の機嫌をとりにきた。
「この次の面接はどこがいい」

翌日 営業がヘラヘラ笑いながら俺のところへやってきた。
「決まりました!!」奴の鼻が5センチ伸びていた。
どういうわけか合格したらしい。
まわりの奴は星を目に浮かべて俺をみた。
「おめでとうございます。がんばってきてくだい」
「おぅ」
とは言ったが、激励していたのか追い出したいのかが疑わしい。
最後に
「お前らじゃあ 次の派遣はないよ」と言い放って教育訓練室という檻を後にした。
「ほな さいなら」
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みんなの感想(1件)

ちかこ
2019.04.26 ちかこ

おもしろい。笑ってしまった。

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