変な話SS集

和ノ白

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おまじない

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おまじないのせいで定時退社している。

おまじないの内容は単純だ。
毎日、必ず定時で帰宅してしまう。

残業しようとすると、体が勝手に席を立つ。
「じゃ、お先です」と口が動く。
上司が「ちょっといい?」と言った瞬間、なぜかエレベーターに乗っている。

原因は分かっている。
三日前、路地裏で拾った黒い指輪だ。

その時の俺は疲れていた。

「……定時で帰りたい」

おまじないの意味を込めて何となく呟いた。
翌日から、こうだ。

会議が長引くと、俺の背後に黒い霧が出る。
時計が18時を指した瞬間、霧が「帰れ」と囁く。

同僚は気づいている。

「最近、早いね」
「いや、おまじないで」

冗談として処理されている。助かる。

問題は副作用だった。

残業代が出ない。
評価が上がらない。
あと、定時になると影がコートを着せてくる。

今日は上司に呼び止められた。

「君、やる気はあるのか?」

時計を見る。17時58分。
影がそわそわしている。

「あります!」

18時。

影が上司の足元から伸び、俺を出口へ引きずる。

「ちょ、話は――」

「おまじないなんで!」

ドアが閉まる。

帰宅途中、指輪が笑った。

「素晴らしい呪いまじないだろう?」

「解けないの?」

「解けるとも。ただし――」

嫌な予感。

「今度は“一生有給が使えなくなる”」

……。

俺は今日も定時で帰る。
世界の闇と労働環境の狭間で、
きっちり。
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