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そりゃ、笑うしかない
しおりを挟む朝からエアコンが負けている。冷たい風は出ているのに、部屋の空気は重く、肌にまとわりつく。天気予報は最高気温四十度更新と言っていた。外に出る予定はない。洗濯機を回す。
ベランダに出ると、洗濯物の向こうに白いものがあった。
雪だるまだ。
直径五十センチほど。二段重ねで、目は黒い小石、鼻はにんじん。形が妙に整っている。昨日も一昨日も見ているはずなのに、ほとんど変わっていない。
床は熱い。サンダル越しでも分かる。手すりに触ると、指先が一瞬で逃げる温度だ。
それでも、雪だるまは崩れていない。
肩のあたりが、ほんの少しだけ湿っている。だが水たまりはできていない。溶ける気配というより、汗をかいている感じに近い。
「……しぶといな」
独り言が出た瞬間、雪だるまが声を出した。
「はは」
笑い声だった。短くて、軽い。楽しそうというより、状況に納得したみたいな音。
私は洗濯ばさみを一つ留め、もう一つ留めた。特に理由はない。
笑ったあと、雪だるまは何もしない。ただ、同じ形のまま、そこにいる。
昼前、宅配が来た。玄関まで行って戻る間に、雪だるまの位置は変わっていない。目の小石も、にんじんも、ずれない。床の温度だけが上がっている。
午後、ベランダの床を拭いた。溶け水は相変わらず、ほとんど出ない。雑巾はすぐ乾く。
雪だるまは、笑わない。
「そりゃ笑うわ」
自分で言って、何に対してかは考えなかった。
夕方、排水口を確認する。詰まりはない。白い欠片も流れていない。雪だるまは少しだけ低くなった気がするが、誤差の範囲だと思うことにした。
夜になっても、気温は下がらない。ベランダの熱気が部屋に入り込む。
白い塊は、相変わらず形を保っている。
電気を消す前、もう一度だけ外を見る。
雪だるまは、黙っている。溶ける気配もない。
明日も四十度らしい。
私は戸を閉めて、いつも通り寝た。
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