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二章/大接近
ハプニング
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「あ、あの…ありがとう…」
ぎこちなく礼を言った。
「別に礼はいいよぉ。僕は甲斐君とお昼食べたかったから偶然通りかかっただけだし。よかったねー偶然僕が通りかかって」
「…は、はあ…」
なんかよくわからない人だ。さっきの笑ってないような怖い笑顔も、今の笑顔も、真意が読めない。相田拓実とはまた別の怖さがあるような人だ。
「これ、甲斐くんのお弁当?」
「え…」
先ほどの奴らに襲われたせいで弁当箱は見事に引っくり返っていた。中身は当然グジャグジャである。
「あーあ…せっかく作ったのに…」
まあ、中身が飛び出ていない分食べれない事もないのでいいか。腹に入ればなんでも一緒だし。
「これ、甲斐君が作ったの?」
穂高が甲斐の弁当の中身をじっくり見ている。
「あ、ああ。ここの食堂のメニューどれも俺じゃあ高くて頼めないから弁当にしているんだけど…」
「そっかぁ。一般中流家庭の子って大変なんだね。弁当も自分で作らなきゃいけないなんて貧乏人てすごいなぁ。僕じゃあ無理ィ」
「なんか嫌味と皮肉が同時に聞こえるんだけど」
穂高の悪気があるような言い方にちょっといらっとしてしまった。
「そんな事ないよぉ。ぼくなりに褒めてるんだよぉ。ねえねえ、甲斐君のお弁当ちょっともらっていい?」
「でも中身グジャグジャだし、金持ちのアンタの口にあうかわからないぜ」
「いいの。甲斐君が作った物ってだけでもなんか惹かれるし」
「まあ、別にいいけど…」
甲斐は穂高に弁当箱を差し出す。
「あ、これおいしそうだね。これなぁに?」
「それは唐揚げだよ。ていうか唐揚げ知らないってどんだけお坊ちゃまだよ」
元々は某ハローな猫のキャラ弁だったが、中身がグジャグジャになってしまい、顔面崩壊したハローじゃない猫になってしまっている。今じゃ顎がはずれた猫らしきようなものだ。
「あ、おいしい。唐揚げっておいしいね。ぼく初めて食べたよ」
「そっか。そりゃあよかった。食べてくれて、お世辞でもそう言ってくれてうれしいよ。料理は得意だからな」
「得意なんだー。料理できる子ってポイント高いよねー。ぼくそういう子好きだなァ」
「ふ~ん…そう。ありがと」
「もっと食べていい?」
「ああ、好きなだけ食べろよ。金持ちでも俺の料理が通用するって知れてちょっと嬉しいし」
甲斐は無意識に笑顔を見せた。穂高は我を忘れて甲斐に見入った。
「どうしたんだよ」
「甲斐君て……やっぱり可愛いね」
穂高の眼差しがいつもより穏やかなものになっていた。
「……は?」
「僕の目に狂いはなかったわけだ。やっぱりキミって…すごい子だよぉ」
「……何が言いたいかわかんねーんだけど」
「んーと…とにかく甲斐君が僕の好みだったって事」
「あー…そう。そうですか。そらようござんした」
好みってなんの意味で言っているんだろうか。
「ねえねえ今度、僕にお弁当作ってきてくれる?甲斐君のもっと食べたい。唐揚げが」
「今度な」
放課後の展望ラウンジで、直はソファーに座りながらぼうっと上の空になっていた。
隣にセフレの菜月がいるにも関わらず、頭の中はある事で占領されている。
それは午前中に見た甲斐の笑顔。
どうしてその甲斐の笑顔ばかり考えてしまうのか皆目見当つかない。だからこそ意地でも別な事を考えようと菜月をここへ呼んでも、やはりそう簡単に消えることなく甲斐の笑顔が頭から離れないのだ。
クソッ…どうしてあんな貧乏人の事ばかり考えちまうんだよ。
たかだか誰かの笑顔一つを引きずっているなんて馬鹿らしい。一体どうしちまったんだよ。
「ねえ、直~どうしたの?さっきから難しい顔したり、苦しい顔したり、何か悩みがあるの?」
隣に座っている菜月が直の手を握り締めながら訊いた。
「なんでも、ねえよ…。なあ、抱かせろよ」
忘れるには、セックスだろう。何事も忘れて没頭できるから。
「いいよ。大好きな直に抱かれるのがぼくの役目だから…」
菜月は直の首に両腕を巻きつけて色っぽい目で見つめた。菜月をソファーに押し倒し、首筋に舌を這わせる。しゅるりと制服のネクタイを外し、ボタンをさっさとはずしていく。
セックスに没頭しまくれば、きっとどうでもよくなる。
そう思って行為の前戯に入っていく。が、脳裏にはますます甲斐の顔が浮かんで離れない。
しかも、この押し倒している相手さえも甲斐に見えてしまった。直は顔を横に振った。
「ッ…チッ…」
苛立ったように菜月から退く。
「どうしたの…直」
「やっぱりどうしてか気が乗らねえ。今日はやめだ」
直は頭を押さえながら疲れた顔でラウンジを後にした。
「今日も疲れた…」
やっと放課後の時間がきた。
今日も親衛隊に追われながらの陰湿ないじめによく耐えたと自分をほめたいものだ。
朝はスプレーの落書き事件に、昼休みは大勢の奴らに囲まれるし、さっきは机に学校辞めろ等と彫刻刀で彫られた傷跡と教科書に死ねとかの落書きがあったっけ。数日もすれば自分も慣れるだろうけど、全く親衛隊も懲りないものだ。
大体よ、物は大切にしろよなー大切にー…。こんな高そうな机に彫刻刀で彫るとか勿体なさすぎ。金持ちだから物のありがたみとかわかんないだろーけど、物にまで八つ当たりすんなよな。
とりあえず今日はバイトないから教室のごみ捨てたらさっさと帰ろう。そんでもって帰ってご飯食べて風呂に入って寝てしまおう。明日もどうせこんな調子だろうし、体力温存しとかないと。
焼却炉にゴミを持ってくると、近くの体育倉庫が不用心にも開けっ放しになっていた。
六時間目に体育だったクラスが閉め忘れたのだろう。
「ったく…なんでこんな事」
甲斐が面倒くさそうに体育倉庫の扉を閉めようとすると、背後から勢いよく背中を押された。
「ぐえっ」
ずしゃりと甲斐は顔面からうつ伏せに倒れてすぐに起き上がって振り返ると、甲斐を押した者はあろう事かすぐに扉を閉めてしまい、鍵をかけてしまった。ガチャリと施錠するような音と立ち去って行く足音が遠ざかっていく。
「う、うそぉ…」
引いても叩いても頑丈な扉はびくともしない。
閉じ込められてしまった…?
「ちょっとー!開けろって!閉じ込めやがって冗談じゃねーっつうの!!このやろー!」
「うるせぇなっ…ドンドン叩くんじゃねえよ!くそが!」
背後から寝起きのような不機嫌な声が聞こえてきた。
「……は?」
ここって誰もいないはずじゃあ…。
さっと振り返ると、カラーコーンと跳び箱の死角になって見えなかったが、柔らかいマットの上で矢崎直がむくりと起き上がって姿を見せていた。午後はずっとここで爆睡していたようで、ぐっと背伸びをしている。
「げえっ…や、矢崎!」
最悪な奴と遭遇してしまった。
「…んでテメーがここにいんだよ…」
そんな直は寝起きとは別なイライラで不機嫌さMAXになっていた。
「それはこっちの台詞だ。なんでお前がこんな所で寝てんだよっ」
「眠いから寝てたに決まってんだろーが。ここはうるせーのがこねーから昼寝にはいい場所なんだよ!」
「だからってこんな所で寝てんじゃねぇよ!おかげでお前なんかとこんな場所に閉じ込められる羽目になったじゃねーかっ!」
「閉じ込められた…だと?チッ…面倒くせぇな。鍵はちゃんとオレ様が持ってて……あ」
ポケットに入れたと思ったら先ほど一度トイレに行って、トイレに置きっぱなしにしたままだった事を思いだす。
「あー…鍵は…だな…その、トイレに置きっぱなしだ…」
「は……?お、置きっぱなしって…なにそれ…」
「だからその言葉通りなんだよ!鍵は持ってねえ。開けられねえ。以上、終了」
プイっと逃げるように視線を外されてしまった。しかも背中を向けて寝やがった。
「さ、最悪だ」
甲斐はへなへなと脱力してその場に座り込む。
こんな密室空間で、薄暗い部屋で、おまけに最低最悪なこの鬼畜男としばらく過ごすというのか。うそだろぉ!?
ぎこちなく礼を言った。
「別に礼はいいよぉ。僕は甲斐君とお昼食べたかったから偶然通りかかっただけだし。よかったねー偶然僕が通りかかって」
「…は、はあ…」
なんかよくわからない人だ。さっきの笑ってないような怖い笑顔も、今の笑顔も、真意が読めない。相田拓実とはまた別の怖さがあるような人だ。
「これ、甲斐くんのお弁当?」
「え…」
先ほどの奴らに襲われたせいで弁当箱は見事に引っくり返っていた。中身は当然グジャグジャである。
「あーあ…せっかく作ったのに…」
まあ、中身が飛び出ていない分食べれない事もないのでいいか。腹に入ればなんでも一緒だし。
「これ、甲斐君が作ったの?」
穂高が甲斐の弁当の中身をじっくり見ている。
「あ、ああ。ここの食堂のメニューどれも俺じゃあ高くて頼めないから弁当にしているんだけど…」
「そっかぁ。一般中流家庭の子って大変なんだね。弁当も自分で作らなきゃいけないなんて貧乏人てすごいなぁ。僕じゃあ無理ィ」
「なんか嫌味と皮肉が同時に聞こえるんだけど」
穂高の悪気があるような言い方にちょっといらっとしてしまった。
「そんな事ないよぉ。ぼくなりに褒めてるんだよぉ。ねえねえ、甲斐君のお弁当ちょっともらっていい?」
「でも中身グジャグジャだし、金持ちのアンタの口にあうかわからないぜ」
「いいの。甲斐君が作った物ってだけでもなんか惹かれるし」
「まあ、別にいいけど…」
甲斐は穂高に弁当箱を差し出す。
「あ、これおいしそうだね。これなぁに?」
「それは唐揚げだよ。ていうか唐揚げ知らないってどんだけお坊ちゃまだよ」
元々は某ハローな猫のキャラ弁だったが、中身がグジャグジャになってしまい、顔面崩壊したハローじゃない猫になってしまっている。今じゃ顎がはずれた猫らしきようなものだ。
「あ、おいしい。唐揚げっておいしいね。ぼく初めて食べたよ」
「そっか。そりゃあよかった。食べてくれて、お世辞でもそう言ってくれてうれしいよ。料理は得意だからな」
「得意なんだー。料理できる子ってポイント高いよねー。ぼくそういう子好きだなァ」
「ふ~ん…そう。ありがと」
「もっと食べていい?」
「ああ、好きなだけ食べろよ。金持ちでも俺の料理が通用するって知れてちょっと嬉しいし」
甲斐は無意識に笑顔を見せた。穂高は我を忘れて甲斐に見入った。
「どうしたんだよ」
「甲斐君て……やっぱり可愛いね」
穂高の眼差しがいつもより穏やかなものになっていた。
「……は?」
「僕の目に狂いはなかったわけだ。やっぱりキミって…すごい子だよぉ」
「……何が言いたいかわかんねーんだけど」
「んーと…とにかく甲斐君が僕の好みだったって事」
「あー…そう。そうですか。そらようござんした」
好みってなんの意味で言っているんだろうか。
「ねえねえ今度、僕にお弁当作ってきてくれる?甲斐君のもっと食べたい。唐揚げが」
「今度な」
放課後の展望ラウンジで、直はソファーに座りながらぼうっと上の空になっていた。
隣にセフレの菜月がいるにも関わらず、頭の中はある事で占領されている。
それは午前中に見た甲斐の笑顔。
どうしてその甲斐の笑顔ばかり考えてしまうのか皆目見当つかない。だからこそ意地でも別な事を考えようと菜月をここへ呼んでも、やはりそう簡単に消えることなく甲斐の笑顔が頭から離れないのだ。
クソッ…どうしてあんな貧乏人の事ばかり考えちまうんだよ。
たかだか誰かの笑顔一つを引きずっているなんて馬鹿らしい。一体どうしちまったんだよ。
「ねえ、直~どうしたの?さっきから難しい顔したり、苦しい顔したり、何か悩みがあるの?」
隣に座っている菜月が直の手を握り締めながら訊いた。
「なんでも、ねえよ…。なあ、抱かせろよ」
忘れるには、セックスだろう。何事も忘れて没頭できるから。
「いいよ。大好きな直に抱かれるのがぼくの役目だから…」
菜月は直の首に両腕を巻きつけて色っぽい目で見つめた。菜月をソファーに押し倒し、首筋に舌を這わせる。しゅるりと制服のネクタイを外し、ボタンをさっさとはずしていく。
セックスに没頭しまくれば、きっとどうでもよくなる。
そう思って行為の前戯に入っていく。が、脳裏にはますます甲斐の顔が浮かんで離れない。
しかも、この押し倒している相手さえも甲斐に見えてしまった。直は顔を横に振った。
「ッ…チッ…」
苛立ったように菜月から退く。
「どうしたの…直」
「やっぱりどうしてか気が乗らねえ。今日はやめだ」
直は頭を押さえながら疲れた顔でラウンジを後にした。
「今日も疲れた…」
やっと放課後の時間がきた。
今日も親衛隊に追われながらの陰湿ないじめによく耐えたと自分をほめたいものだ。
朝はスプレーの落書き事件に、昼休みは大勢の奴らに囲まれるし、さっきは机に学校辞めろ等と彫刻刀で彫られた傷跡と教科書に死ねとかの落書きがあったっけ。数日もすれば自分も慣れるだろうけど、全く親衛隊も懲りないものだ。
大体よ、物は大切にしろよなー大切にー…。こんな高そうな机に彫刻刀で彫るとか勿体なさすぎ。金持ちだから物のありがたみとかわかんないだろーけど、物にまで八つ当たりすんなよな。
とりあえず今日はバイトないから教室のごみ捨てたらさっさと帰ろう。そんでもって帰ってご飯食べて風呂に入って寝てしまおう。明日もどうせこんな調子だろうし、体力温存しとかないと。
焼却炉にゴミを持ってくると、近くの体育倉庫が不用心にも開けっ放しになっていた。
六時間目に体育だったクラスが閉め忘れたのだろう。
「ったく…なんでこんな事」
甲斐が面倒くさそうに体育倉庫の扉を閉めようとすると、背後から勢いよく背中を押された。
「ぐえっ」
ずしゃりと甲斐は顔面からうつ伏せに倒れてすぐに起き上がって振り返ると、甲斐を押した者はあろう事かすぐに扉を閉めてしまい、鍵をかけてしまった。ガチャリと施錠するような音と立ち去って行く足音が遠ざかっていく。
「う、うそぉ…」
引いても叩いても頑丈な扉はびくともしない。
閉じ込められてしまった…?
「ちょっとー!開けろって!閉じ込めやがって冗談じゃねーっつうの!!このやろー!」
「うるせぇなっ…ドンドン叩くんじゃねえよ!くそが!」
背後から寝起きのような不機嫌な声が聞こえてきた。
「……は?」
ここって誰もいないはずじゃあ…。
さっと振り返ると、カラーコーンと跳び箱の死角になって見えなかったが、柔らかいマットの上で矢崎直がむくりと起き上がって姿を見せていた。午後はずっとここで爆睡していたようで、ぐっと背伸びをしている。
「げえっ…や、矢崎!」
最悪な奴と遭遇してしまった。
「…んでテメーがここにいんだよ…」
そんな直は寝起きとは別なイライラで不機嫌さMAXになっていた。
「それはこっちの台詞だ。なんでお前がこんな所で寝てんだよっ」
「眠いから寝てたに決まってんだろーが。ここはうるせーのがこねーから昼寝にはいい場所なんだよ!」
「だからってこんな所で寝てんじゃねぇよ!おかげでお前なんかとこんな場所に閉じ込められる羽目になったじゃねーかっ!」
「閉じ込められた…だと?チッ…面倒くせぇな。鍵はちゃんとオレ様が持ってて……あ」
ポケットに入れたと思ったら先ほど一度トイレに行って、トイレに置きっぱなしにしたままだった事を思いだす。
「あー…鍵は…だな…その、トイレに置きっぱなしだ…」
「は……?お、置きっぱなしって…なにそれ…」
「だからその言葉通りなんだよ!鍵は持ってねえ。開けられねえ。以上、終了」
プイっと逃げるように視線を外されてしまった。しかも背中を向けて寝やがった。
「さ、最悪だ」
甲斐はへなへなと脱力してその場に座り込む。
こんな密室空間で、薄暗い部屋で、おまけに最低最悪なこの鬼畜男としばらく過ごすというのか。うそだろぉ!?
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