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五章/あいつの元カノ
30.すれちがい
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*
一方食堂では、図書室とは打って変わって大勢の生徒達で溢れかえっていた。
直や相田や穂高の四天王三人組が来た事により、一層生徒の数はどんどん増え続けている。それにうんざりしながらも三人は二階席に着き、タッチパネルでメニューを選ぶ。
運ばれてきた高級寿司も、なんだかあんまり腹が減ってないし、食べたい気分でもない。やっぱり食堂になんて来るんじゃなかった。うるさいし、視線がうざいし、おまけにアイツがいない。
「甲斐ちゃん、食堂来ないねぇ。つまんなーい」
「そう毎回は来ないんじゃなーい?ここうるさいし、親衛隊いるし。ねえ?直君」
穂高が直に同意を求めると、直は頬杖をついてぼうっとしている。
「直君?」
「……なんだよ」と、鋭い視線を二人に向けた。
「なんか不機嫌じゃない?」
「別に不機嫌じゃねえよ」
そうは言っても眉間にしわが寄っている上に負のオーラに満ちている。
「食欲ないの?なんか全然食事進んでないみたいだけど」
「たまにはそういう日もあんだろ」
どうしてかモヤモヤする。
先ほどから入口の方ばかり気にしてしまって全然食事が進まない。
何を気にしているんだ、オレは。
別にあんな奴が来ようが来まいが自分に関係ないはずだ。でも、アイツの顔を見ていなきゃ落ち着かないのは事実で、悔しいけど心のどこかでアイツを求めている。
*
昼休みが終わり、甲斐はハルに礼を言って教室に引き返す。その途中で、前方から四天王三人が歩いてくるのを見つけてしまい、甲斐は思わず死角となる柱に隠れてしまった。菜月との約束があったとしても、別に隠れるようなやましい事なんてないのに、変に後ろめたさを感じていた。
見つかれば確実に引き止められてしまうから。
「それにしても甲斐ちゃん来なくて残念だったなあ」
「明日は来るでしょ」
「…………」
そんな会話を耳にしながら、甲斐は三人の姿が見えなくなるまで息を潜めたのだった。
そして放課後、終礼を終えて甲斐は素早く帰り支度を行っていた。
この後はすぐにバイトなので、リュックにノートやらペンケースやらを突っ込んで急いで教室を出た途端、
「架谷」
呼び止められてしまった。他のクラスメートが入り混じる大勢の生徒がいる前で。
「な、なんだよ」
長く離れていたような気がする。というか一週間ぶりに顔を見た。
「なんで食堂に来ないんだよ」
なぜか怒りを孕んでいる直。
「なんでって、別にお前に関係ないだろ。それより俺これからバイトだからさいならっきょ」
一方的に会話を終了させて通り過ぎようとすると、当然腑に落ちない直は引き下がらない。腕を強く掴まれて強引にこちらを向かせられた。
「話は終わってねえだろ」
「終わってるだろ!いいから放せよ。遅刻しちゃうだろ。なんなんだよお前は!」
「テメエがそっけないからこっちは腹立ってんだろうが!勝手に従者を辞めやがって!」
「勝手に辞めて何が悪い。そっけないのはいつもの事だろ!日頃てめえの親衛隊に散々嫌がらせ受けてるんだからてめえにいいイメージ持つはずねーだろうが!いいから放せ。みんな見てる」
「……そんなに、嫌かよ……」
「あ?」
「そんなにオレの事嫌いかって訊いてンだよッ!!」
怒鳴る直の表情が怒りと悲しみに満ちていた。思っても見なかったその表情に甲斐は面食らって言葉に詰まる。
「っ……そんなの……決まってんだろ……」
本当はこんな事を言わない方がいいけれど、こっちだっていつも迷惑しているんだ。この男に。この男の周りに。前ほど嫌いというわけじゃあないけど、少しは懲りればいい。
「嫌いだ、お前が」
甲斐は視線を合わせないようにはっきり言った。
「お前といたら毎日親衛隊に追い掛け回されるし、嫌がらせされるし、ある事ない事陰口叩かれるし、迷惑この上ない。しばらくお前と関わりたくない」
「……そう、かよ……」
悄然とした返事が微かに聞こえ、甲斐は言いすぎたかなと視線を上げると、一瞬だけ直の泣きそうな顔が視界に映った。途端、胸がずきりと痛んだ。
なんでそんな顔すんの。なんでそんなに傷ついてんの。
あんたは俺の事が嫌いなんだろ。気にくわないんだろ。
なのになんで泣きそうな顔してんだよ。
「っ、……」
声をかけようか迷ったけれど、躊躇った末に声を押し殺す。そのまま直は甲斐の視線から外れるように背中を向け、向こうの方へ消えた。
甲斐は釈然としない気持ちを抱き、それを見送ったのだった。
「あれ、直君どうしたの?」
「昼以上に機嫌わるそー」
二人の言う通り、ラウンジにやって来たばかりの直の顔はひどく歪んでいた。悲しみの方に。
「貴様らに関係ねぇよ」
そもそも最初から間違っていたんだ。
なんでオレがあんな平凡地味なんかを気にしなければならないんだという事。
あんな貧乏庶民野郎なんかを。バカみたいだ。
やっぱり、認めたくない。あいつの事が気になっているなんて。
通り過ぎる最上級の美女などより取り見取りの好き放題で、飽きてつまらなくなったら捨てればいいだけ。何が悲しくて平凡地味男などにうつつを抜かさなくてはならない。
そんなの、あってはならない事だ。
今までも、そしてこれからもあんな奴に心なんて奪われやしない。
一方食堂では、図書室とは打って変わって大勢の生徒達で溢れかえっていた。
直や相田や穂高の四天王三人組が来た事により、一層生徒の数はどんどん増え続けている。それにうんざりしながらも三人は二階席に着き、タッチパネルでメニューを選ぶ。
運ばれてきた高級寿司も、なんだかあんまり腹が減ってないし、食べたい気分でもない。やっぱり食堂になんて来るんじゃなかった。うるさいし、視線がうざいし、おまけにアイツがいない。
「甲斐ちゃん、食堂来ないねぇ。つまんなーい」
「そう毎回は来ないんじゃなーい?ここうるさいし、親衛隊いるし。ねえ?直君」
穂高が直に同意を求めると、直は頬杖をついてぼうっとしている。
「直君?」
「……なんだよ」と、鋭い視線を二人に向けた。
「なんか不機嫌じゃない?」
「別に不機嫌じゃねえよ」
そうは言っても眉間にしわが寄っている上に負のオーラに満ちている。
「食欲ないの?なんか全然食事進んでないみたいだけど」
「たまにはそういう日もあんだろ」
どうしてかモヤモヤする。
先ほどから入口の方ばかり気にしてしまって全然食事が進まない。
何を気にしているんだ、オレは。
別にあんな奴が来ようが来まいが自分に関係ないはずだ。でも、アイツの顔を見ていなきゃ落ち着かないのは事実で、悔しいけど心のどこかでアイツを求めている。
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昼休みが終わり、甲斐はハルに礼を言って教室に引き返す。その途中で、前方から四天王三人が歩いてくるのを見つけてしまい、甲斐は思わず死角となる柱に隠れてしまった。菜月との約束があったとしても、別に隠れるようなやましい事なんてないのに、変に後ろめたさを感じていた。
見つかれば確実に引き止められてしまうから。
「それにしても甲斐ちゃん来なくて残念だったなあ」
「明日は来るでしょ」
「…………」
そんな会話を耳にしながら、甲斐は三人の姿が見えなくなるまで息を潜めたのだった。
そして放課後、終礼を終えて甲斐は素早く帰り支度を行っていた。
この後はすぐにバイトなので、リュックにノートやらペンケースやらを突っ込んで急いで教室を出た途端、
「架谷」
呼び止められてしまった。他のクラスメートが入り混じる大勢の生徒がいる前で。
「な、なんだよ」
長く離れていたような気がする。というか一週間ぶりに顔を見た。
「なんで食堂に来ないんだよ」
なぜか怒りを孕んでいる直。
「なんでって、別にお前に関係ないだろ。それより俺これからバイトだからさいならっきょ」
一方的に会話を終了させて通り過ぎようとすると、当然腑に落ちない直は引き下がらない。腕を強く掴まれて強引にこちらを向かせられた。
「話は終わってねえだろ」
「終わってるだろ!いいから放せよ。遅刻しちゃうだろ。なんなんだよお前は!」
「テメエがそっけないからこっちは腹立ってんだろうが!勝手に従者を辞めやがって!」
「勝手に辞めて何が悪い。そっけないのはいつもの事だろ!日頃てめえの親衛隊に散々嫌がらせ受けてるんだからてめえにいいイメージ持つはずねーだろうが!いいから放せ。みんな見てる」
「……そんなに、嫌かよ……」
「あ?」
「そんなにオレの事嫌いかって訊いてンだよッ!!」
怒鳴る直の表情が怒りと悲しみに満ちていた。思っても見なかったその表情に甲斐は面食らって言葉に詰まる。
「っ……そんなの……決まってんだろ……」
本当はこんな事を言わない方がいいけれど、こっちだっていつも迷惑しているんだ。この男に。この男の周りに。前ほど嫌いというわけじゃあないけど、少しは懲りればいい。
「嫌いだ、お前が」
甲斐は視線を合わせないようにはっきり言った。
「お前といたら毎日親衛隊に追い掛け回されるし、嫌がらせされるし、ある事ない事陰口叩かれるし、迷惑この上ない。しばらくお前と関わりたくない」
「……そう、かよ……」
悄然とした返事が微かに聞こえ、甲斐は言いすぎたかなと視線を上げると、一瞬だけ直の泣きそうな顔が視界に映った。途端、胸がずきりと痛んだ。
なんでそんな顔すんの。なんでそんなに傷ついてんの。
あんたは俺の事が嫌いなんだろ。気にくわないんだろ。
なのになんで泣きそうな顔してんだよ。
「っ、……」
声をかけようか迷ったけれど、躊躇った末に声を押し殺す。そのまま直は甲斐の視線から外れるように背中を向け、向こうの方へ消えた。
甲斐は釈然としない気持ちを抱き、それを見送ったのだった。
「あれ、直君どうしたの?」
「昼以上に機嫌わるそー」
二人の言う通り、ラウンジにやって来たばかりの直の顔はひどく歪んでいた。悲しみの方に。
「貴様らに関係ねぇよ」
そもそも最初から間違っていたんだ。
なんでオレがあんな平凡地味なんかを気にしなければならないんだという事。
あんな貧乏庶民野郎なんかを。バカみたいだ。
やっぱり、認めたくない。あいつの事が気になっているなんて。
通り過ぎる最上級の美女などより取り見取りの好き放題で、飽きてつまらなくなったら捨てればいいだけ。何が悲しくて平凡地味男などにうつつを抜かさなくてはならない。
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今までも、そしてこれからもあんな奴に心なんて奪われやしない。
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