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七章/合同体育祭
51.王子じゃなくて魔王
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昼食後のとある部屋では――
「はい、終わりましたよー」
その声にようやく甲斐は鏡を見ると、自分の姿に驚愕した。
「だれ、これ」
甲斐は変わり果てた世にも奇妙な自分の姿を化け物を見るかのような眼で眺めた。
これが俺かよ。ありえね。
テレビでも見た事がある超人気のスタイリストや、メイクアップアーティスト達が準備万端だと甲斐を囲み、散々髪やら顔を弄繰りまわされた。おまけにドレス着用の際はインナーまで着用するようにと命令された。
午後最初の競技は、いよいよ甲斐が最もきてほしくないコスプレ障害物。その準備にと昼食後にすぐにメイクとドレスアップをするからと控室に放り込まれた末、この変わり果てた姿と遭遇したのだ。
はあ……出たくないけど外に出るか。
甲斐は競技を棄権したいほどの羞恥心を我慢して部屋の外に出た。競技場の廊下で通りすがりの生徒達が一様に自分を見ている。
どうだ、キモいだろ。これ俺なんだぜ。
ほら、あっちもこっちもヒソヒソと会話をしているのが窺える。こうなったらもうやけくそで開き直るしかない。
一生したくもなかったカマデビューが、どっかの国の架空のお姫なんて笑いたくても笑えない。コスプレオカマバーでお笑い担当として働く方がまだ我慢できただろう。きっとあまりにもひどくてその視線すべてを独占させている。
でもこれは競技。あくまで障害物競争で勝つためにやるのであって、俺は決して女装趣味なんてこれっぽっちも持ち合わせていない事をお伝えしたい。
という事で、死んだ魚の目を宿して入場門前に向かった。ハイヒールって歩きづらい。
「天弥、とっても可愛いぜ」
「本当、天使みたいな姿がより天使……いや、女神のようです」
「マジリアル女神っていうかァ」
「天弥、本当の姫、かわい」
ドレスアップを果たした日下部を生徒会達が褒めちぎっている。変装をとってからの日下部は、美顔面にさらに化粧と長い金髪をプラスしたおかげで、どこからどうみても(自己顕示欲が強すぎるオタサーの)姫である。
「時雨も格好いいんだぞ!その王子様姿!」
「ふ……そうか。お前に言われると一番嬉しいもんだな」
「ちぇっ、時雨の奴いい気になっちゃって。俺だって天弥の相手役の王子したかったなァ」
「それは私も同じです。ですが、じゃんけんで負けてしまいましたからね。勝負とは非情なものです」
「じゃんけん、おれ、よわい、残念」
「あ、そういえば開星のペアにはたしか矢崎直と架谷甲斐が出場で「キャアアーー!!」
一際甲高い悲鳴が競技場に響いた。
大勢の開星と百合ノ宮の生徒達から熱視線を向けられている一人の美男子が立っていた。
「矢崎直、か」
そこらにいる芸能人やモデルなど太刀打ちできぬ美しい容姿に加え、宮廷衣裳を纏った王子……いや、雰囲気からしてどこぞの国の皇帝陛下のようであった。
「か、かっけぇえええ!」
日下部が騒音のようにキンキン叫ぶと、直は日下部の方を向いて一瞬だけ殺人級な鋭い視線で睨みつけたが、すぐに優しい王子様のように柔和に微笑んだ。
それだけで日下部どころか大半の女子達の悶絶するような悲鳴が響き渡る。心の中では呪詛を呟いている事を当然皆は知らない。審査員が席に着席している限り、もうコスプレ障害物の戦いは始まっているのである。
「だーははは!ナオ王子の格好クソワロタ」
「ホント、直君が王子って似合わないよね。大魔王の方が似合ってると思うんだけど」
周りの反応に反して相田と穂高は終始バカにするように笑っている。
自分だって自覚している。こんな王子みたいな格好などクソ似合わない事実に。出来る事ならさっさと脱いでしまいたい。
「黙れ貴様ら」
直の顔が怒りに歪む。
「ナオ王子、素が出ていますぞ。もう審査員がこちらを採点し出している。言葉遣いには気をつけられよ」
ハルがどこぞの王子の側近のような言葉で諭した。まるで大臣のようである。
「わかっている。だが、その二人に腹が立ったので後で私が処分をくだすつもりである。邪魔をしないように」
「あらもーおクソったれなナオ王子様は沸点が低いですわねー。そのうち血圧あがって早死にいたしますわよォ。おほほほほ」
「沸点低いオージ様は姫様に見向きもされませんわよー」
「それは貴様らのせいである。よって今すぐくたばるがよい。地獄に落ちたまえ」
「おーい直ー!」
そんなアホなやりとりをしている矢先、先ほどの笑顔で勘違いしたのか日下部が頬を紅潮させてやってきた。
「さっきの笑顔はやっぱ俺に惚れたんだな、直。おれが可愛いからって笑顔で勿体つかせるなよ!俺だってお前が好きだからな!」
「……頭カチ割ってやりてぇ」
どこをどうしたらそう勘違いできるのかが知りたい。
直は審査員の手前、怒りを最小限に抑えた。
「ムサイ国の勘違いの勘助バカ姫、でしたか?私はあなたの事は存じやがりませんが、先ほどの笑顔で勘違いされても困りやがります。ムサイ国のバ会長王子とあなたはペアでございましょう。はやく戻ってあげてはいかがでしょうか。というかこっちに来ないでいただきたい。あと、肥溜めに落ちてくたばりやがれ」
「俺は直とペアになりたいんだぞ!直とイチャコラしたいんだぞ」
「貴様……いい加減に死「勘助バカ姫、ナオ王子にはもうお相手がおりますゆえ、とりあえずここはお引き取りを」
一触即発の直の暴言を遮るように、すかさずハルが日下部を戒めるようフォローする。
「俺は直と両想いなんだぞ!好きあっている者同士がペアになれないなんて変なんだぞ!」
「はい、終わりましたよー」
その声にようやく甲斐は鏡を見ると、自分の姿に驚愕した。
「だれ、これ」
甲斐は変わり果てた世にも奇妙な自分の姿を化け物を見るかのような眼で眺めた。
これが俺かよ。ありえね。
テレビでも見た事がある超人気のスタイリストや、メイクアップアーティスト達が準備万端だと甲斐を囲み、散々髪やら顔を弄繰りまわされた。おまけにドレス着用の際はインナーまで着用するようにと命令された。
午後最初の競技は、いよいよ甲斐が最もきてほしくないコスプレ障害物。その準備にと昼食後にすぐにメイクとドレスアップをするからと控室に放り込まれた末、この変わり果てた姿と遭遇したのだ。
はあ……出たくないけど外に出るか。
甲斐は競技を棄権したいほどの羞恥心を我慢して部屋の外に出た。競技場の廊下で通りすがりの生徒達が一様に自分を見ている。
どうだ、キモいだろ。これ俺なんだぜ。
ほら、あっちもこっちもヒソヒソと会話をしているのが窺える。こうなったらもうやけくそで開き直るしかない。
一生したくもなかったカマデビューが、どっかの国の架空のお姫なんて笑いたくても笑えない。コスプレオカマバーでお笑い担当として働く方がまだ我慢できただろう。きっとあまりにもひどくてその視線すべてを独占させている。
でもこれは競技。あくまで障害物競争で勝つためにやるのであって、俺は決して女装趣味なんてこれっぽっちも持ち合わせていない事をお伝えしたい。
という事で、死んだ魚の目を宿して入場門前に向かった。ハイヒールって歩きづらい。
「天弥、とっても可愛いぜ」
「本当、天使みたいな姿がより天使……いや、女神のようです」
「マジリアル女神っていうかァ」
「天弥、本当の姫、かわい」
ドレスアップを果たした日下部を生徒会達が褒めちぎっている。変装をとってからの日下部は、美顔面にさらに化粧と長い金髪をプラスしたおかげで、どこからどうみても(自己顕示欲が強すぎるオタサーの)姫である。
「時雨も格好いいんだぞ!その王子様姿!」
「ふ……そうか。お前に言われると一番嬉しいもんだな」
「ちぇっ、時雨の奴いい気になっちゃって。俺だって天弥の相手役の王子したかったなァ」
「それは私も同じです。ですが、じゃんけんで負けてしまいましたからね。勝負とは非情なものです」
「じゃんけん、おれ、よわい、残念」
「あ、そういえば開星のペアにはたしか矢崎直と架谷甲斐が出場で「キャアアーー!!」
一際甲高い悲鳴が競技場に響いた。
大勢の開星と百合ノ宮の生徒達から熱視線を向けられている一人の美男子が立っていた。
「矢崎直、か」
そこらにいる芸能人やモデルなど太刀打ちできぬ美しい容姿に加え、宮廷衣裳を纏った王子……いや、雰囲気からしてどこぞの国の皇帝陛下のようであった。
「か、かっけぇえええ!」
日下部が騒音のようにキンキン叫ぶと、直は日下部の方を向いて一瞬だけ殺人級な鋭い視線で睨みつけたが、すぐに優しい王子様のように柔和に微笑んだ。
それだけで日下部どころか大半の女子達の悶絶するような悲鳴が響き渡る。心の中では呪詛を呟いている事を当然皆は知らない。審査員が席に着席している限り、もうコスプレ障害物の戦いは始まっているのである。
「だーははは!ナオ王子の格好クソワロタ」
「ホント、直君が王子って似合わないよね。大魔王の方が似合ってると思うんだけど」
周りの反応に反して相田と穂高は終始バカにするように笑っている。
自分だって自覚している。こんな王子みたいな格好などクソ似合わない事実に。出来る事ならさっさと脱いでしまいたい。
「黙れ貴様ら」
直の顔が怒りに歪む。
「ナオ王子、素が出ていますぞ。もう審査員がこちらを採点し出している。言葉遣いには気をつけられよ」
ハルがどこぞの王子の側近のような言葉で諭した。まるで大臣のようである。
「わかっている。だが、その二人に腹が立ったので後で私が処分をくだすつもりである。邪魔をしないように」
「あらもーおクソったれなナオ王子様は沸点が低いですわねー。そのうち血圧あがって早死にいたしますわよォ。おほほほほ」
「沸点低いオージ様は姫様に見向きもされませんわよー」
「それは貴様らのせいである。よって今すぐくたばるがよい。地獄に落ちたまえ」
「おーい直ー!」
そんなアホなやりとりをしている矢先、先ほどの笑顔で勘違いしたのか日下部が頬を紅潮させてやってきた。
「さっきの笑顔はやっぱ俺に惚れたんだな、直。おれが可愛いからって笑顔で勿体つかせるなよ!俺だってお前が好きだからな!」
「……頭カチ割ってやりてぇ」
どこをどうしたらそう勘違いできるのかが知りたい。
直は審査員の手前、怒りを最小限に抑えた。
「ムサイ国の勘違いの勘助バカ姫、でしたか?私はあなたの事は存じやがりませんが、先ほどの笑顔で勘違いされても困りやがります。ムサイ国のバ会長王子とあなたはペアでございましょう。はやく戻ってあげてはいかがでしょうか。というかこっちに来ないでいただきたい。あと、肥溜めに落ちてくたばりやがれ」
「俺は直とペアになりたいんだぞ!直とイチャコラしたいんだぞ」
「貴様……いい加減に死「勘助バカ姫、ナオ王子にはもうお相手がおりますゆえ、とりあえずここはお引き取りを」
一触即発の直の暴言を遮るように、すかさずハルが日下部を戒めるようフォローする。
「俺は直と両想いなんだぞ!好きあっている者同士がペアになれないなんて変なんだぞ!」
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