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四章/複雑な兄妹
27.縮まる距離
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その後、一人で帰れると何度か言ったのだが、直が送迎してやると(強引に)促すので、(仕方なく)車に乗り込んだ。
車内は三人だけで、直と運転手兼秘書の久瀬が今後のスケジュールを話していた。甲斐は自分には関係ないと無言で窓の外を眺める。
「直様。本日も縁談に関するご連絡をいただいておりますよ。楠グループの麗子様がぜひ直様にお会いしたいとの事で」
「ふーん」
直が興味なさげな反応をしている横で、ふとその話が甲斐の耳にも入った。
縁談ってもうその年で結婚を考えなきゃいけないのか。大変だな、金持ちも。
「すべて断れって言っただろ。好きでもない女となれ合うつもりは更々ないんだ」
「しかし、社長がぜひ直様の許嫁にと話しを勧めておりますが」
「あのバカ社長はオレをさっさと跡取りにさせたいがために身を固めてほしいだけだろ。オレは好きになった相手と一緒になりたい。ただそれだけの事。人の将来を邪魔するなと正之に言っておけ」
直がそう言い放つと、久瀬は「畏まりました」と運転に集中した。
へぇ、そういう所は意外に真面目なんだな、この男でも。浮気しまくりで女遊びとかひどそうだし、貞操観念は緩そうなのに。
「まあ、そういう相手がいればの話だが……」
どうしてか、直は甲斐の方に視線を向けた。
視線が絡み、甲斐はどぎまぎする。
「なんだよ……」
なぜ急にこっちを見る。
「なんでもねぇけど」
そう言うが、直は椅子に置かれた甲斐の手にそっと自分のを重ねた。そして強く握り絡められた。
「おい……!」
なぜ手を握られるのだと甲斐は抗議の眼差し。
「お前が相手だったら……全然悪くないのに……」
ふっと直は笑う。
「何にだよ。ていうか放せ」
男同士で手なんて握り合わないだろ普通。そう言って手を振り払おうとするも、直は甲斐の手をより強く握りしめた。
「今だけだからな。優しくしてやるのは。明日からまたお前を奴隷みたいにコキ使ってやるよ」
「何を今更。いつもの事じゃねーか。変に優しくされたら調子狂うし、キモいだけだからそれがある意味一番あってるよ」
「テメ、キモいとか言うな」
「優しいなんて、お前らしくないからキモいんだよ」
「……そんなにオレが優しくしてやったら変なのかよ」
「変だろ。初日から暴力振るってきたり、嫌がらせ兼パシリにしたりするような奴がいきなり優しくしてきたら、何か裏があると考えてもおかしくないだろ」
「疑り深い野郎だな。オレは今無償でお前に優しくしてやってんのに」
「優しくしてやっているっていうのがもう優しさじゃあないだろ」
「じゃあ、どうしたらお前は優しいと感じるんだよ」
「そんなのしらねーし。お前が優しい自体が気持ち悪い。吐くわ」
「テメ……っ」
直はいらついたように握っている甲斐の手を手首に持ち替えて引き寄せた。
「うわ」
逞しい直の胸に倒れこんでしまい、そのまま長い両腕で抱きしめられた。
「じゃあ、今だけ……めちゃくちゃ優しくしてやる。砂吐きそうなくらい」
「結構でございます。放しやがれでございます。鬱陶しいし暑苦しい」
「遠慮するな。架谷クン」
もがく甲斐をがっしり掴んで放してはくれない直。
「なんで優しくするのに抱きしめるんだよっ」
「お前の抱き心地がいいからだ。体温高くてやっぱりいい抱き枕」
「くっそ!放せよバカ財閥!」
「やだね。テメエの寮につくまで嫌って言うほど抱きしめててやる。覚悟しろよ、か・さ・た・に♡」
頬にリップ音と共に柔らかい感触がした。
「ぎええっ!」
甲斐の頬が急激に真っ赤に染まった。
「ははは!頬にキスで何狼狽えてんだよ。海外じゃあ挨拶だろ挨拶。ウブな奴」
「ここは日本だアホーッ!!」
不意打ちでほっぺにキスをされ、おまけにキモく名前まで呼ばれて、甲斐はしばらく直の腕の中で甘すぎる地獄の時間を過ごしたのであった。
四章 完
車内は三人だけで、直と運転手兼秘書の久瀬が今後のスケジュールを話していた。甲斐は自分には関係ないと無言で窓の外を眺める。
「直様。本日も縁談に関するご連絡をいただいておりますよ。楠グループの麗子様がぜひ直様にお会いしたいとの事で」
「ふーん」
直が興味なさげな反応をしている横で、ふとその話が甲斐の耳にも入った。
縁談ってもうその年で結婚を考えなきゃいけないのか。大変だな、金持ちも。
「すべて断れって言っただろ。好きでもない女となれ合うつもりは更々ないんだ」
「しかし、社長がぜひ直様の許嫁にと話しを勧めておりますが」
「あのバカ社長はオレをさっさと跡取りにさせたいがために身を固めてほしいだけだろ。オレは好きになった相手と一緒になりたい。ただそれだけの事。人の将来を邪魔するなと正之に言っておけ」
直がそう言い放つと、久瀬は「畏まりました」と運転に集中した。
へぇ、そういう所は意外に真面目なんだな、この男でも。浮気しまくりで女遊びとかひどそうだし、貞操観念は緩そうなのに。
「まあ、そういう相手がいればの話だが……」
どうしてか、直は甲斐の方に視線を向けた。
視線が絡み、甲斐はどぎまぎする。
「なんだよ……」
なぜ急にこっちを見る。
「なんでもねぇけど」
そう言うが、直は椅子に置かれた甲斐の手にそっと自分のを重ねた。そして強く握り絡められた。
「おい……!」
なぜ手を握られるのだと甲斐は抗議の眼差し。
「お前が相手だったら……全然悪くないのに……」
ふっと直は笑う。
「何にだよ。ていうか放せ」
男同士で手なんて握り合わないだろ普通。そう言って手を振り払おうとするも、直は甲斐の手をより強く握りしめた。
「今だけだからな。優しくしてやるのは。明日からまたお前を奴隷みたいにコキ使ってやるよ」
「何を今更。いつもの事じゃねーか。変に優しくされたら調子狂うし、キモいだけだからそれがある意味一番あってるよ」
「テメ、キモいとか言うな」
「優しいなんて、お前らしくないからキモいんだよ」
「……そんなにオレが優しくしてやったら変なのかよ」
「変だろ。初日から暴力振るってきたり、嫌がらせ兼パシリにしたりするような奴がいきなり優しくしてきたら、何か裏があると考えてもおかしくないだろ」
「疑り深い野郎だな。オレは今無償でお前に優しくしてやってんのに」
「優しくしてやっているっていうのがもう優しさじゃあないだろ」
「じゃあ、どうしたらお前は優しいと感じるんだよ」
「そんなのしらねーし。お前が優しい自体が気持ち悪い。吐くわ」
「テメ……っ」
直はいらついたように握っている甲斐の手を手首に持ち替えて引き寄せた。
「うわ」
逞しい直の胸に倒れこんでしまい、そのまま長い両腕で抱きしめられた。
「じゃあ、今だけ……めちゃくちゃ優しくしてやる。砂吐きそうなくらい」
「結構でございます。放しやがれでございます。鬱陶しいし暑苦しい」
「遠慮するな。架谷クン」
もがく甲斐をがっしり掴んで放してはくれない直。
「なんで優しくするのに抱きしめるんだよっ」
「お前の抱き心地がいいからだ。体温高くてやっぱりいい抱き枕」
「くっそ!放せよバカ財閥!」
「やだね。テメエの寮につくまで嫌って言うほど抱きしめててやる。覚悟しろよ、か・さ・た・に♡」
頬にリップ音と共に柔らかい感触がした。
「ぎええっ!」
甲斐の頬が急激に真っ赤に染まった。
「ははは!頬にキスで何狼狽えてんだよ。海外じゃあ挨拶だろ挨拶。ウブな奴」
「ここは日本だアホーッ!!」
不意打ちでほっぺにキスをされ、おまけにキモく名前まで呼ばれて、甲斐はしばらく直の腕の中で甘すぎる地獄の時間を過ごしたのであった。
四章 完
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