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八章/嫉妬
59.自分自身の気持ち
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入学して間もないあの時は、あんなに大嫌いで嫌な奴だと思っていたのに。
いつも不敵な顔ばかり見せて、常に余裕みたいな態度だったあいつに嫌いだって言った時、体育祭でキスを拒んだ時、本当に驚くほど悲しげな顔をしていたのは今でもはっきり覚えている。
あの時から俺の事を想っていたのか。
貶すような事を言いながらも俺の事を……っ。
「架谷君」
廊下のど真ん中で名前を呼ばれて振り返ると、草加菜月が立っていた。
「傷の方、大した事なさそうでよかったね」
「それでも数針縫ったけど」
「直に比べたら全然じゃない」
「まあそうだけど」
後ろめたさを感じてしまうのは、直に近づかないという約束を破ったからだろうか。それともこの人が直のセフレだからだろうか。あるいはどちらもか。
「ねえ、直はどうして君を助けたと思う?」
「え……」
先ほどの直からの告白が脳裏によみがえる。
「あんな必死な直……ぼく、初めて見た。あの冷酷で非情で、誰がどうなろうとも決して助けるどころか貶して見捨てるような直が、キミを助けた。今まで直が特定の誰かに興味を持つ事なんて親友や一部以外はいなかったし、ましてや身を挺して誰かを守ろうとする事自体が妹さん達を除いてありえない事」
「それは……」
「直はキミに気があるのかもね」
甲斐は何も答えられなかった。
「でも、ぼくも直の事が本気で好き。キミ以上に好き。だから渡したくないんだ」
「草加……」
「キミは直の事をどう思っているかは知らないけれど、もし本気じゃないのならすぐに諦めて。ううん、忘れてほしい」
菜月は強く要求するように言う。これはお互いのためだと付け加えて。
「直が本気になる前に、キミ自ら身を引いてくれるのなら、直だってそれほど傷つかないと思うし、一時の迷いだって気づいてくれると思うから。キミだって四天王と関わらない平穏な学園生活を送りたいでしょう?」
「……まあ、それは否定しないが……」
「直はね、将来を期待されている矢崎の跡取り。彼の将来は責任とプレッシャーが常に付いて回ってるの。一時の感情の迷いで、キミみたいな取るに足らない庶民を相手にしているヒマなんてないんだよ。これ以上、彼にいろんな寄り道をしてほしくないし、余計な事に気を取られてほしくもない。だから、もし直がキミに何かアクションを起こしてきたら、直をしっかりフッてほしい。そして、二度と直に近づかないでほしい」
「……っ」
「話はそれだけ。じゃあ」
堰を切ったように話していた菜月は、元来た廊下を引き返して行った。
甲斐はなんともいえない複雑な気持ちを抱いたのであった。
俺の気持ちはどうなんだろうか……。
矢崎に対してlikeかloveか……わからない。
例えば友人としてはどうかと問えばそれはNOだろう。
あいつを友人と思えるのは同じ土俵に立っている他の四天王とかそういう人でないと無理だ。
じゃあ、恋愛感情としてはどうだと問われたら、全くもって考えた事はない。
男同士だし、金持ちだし、少し前まで本当に大嫌いな奴だったし、そんな相手に恋愛としてどう思うかなんてまず考えない。俺自身が今までノーマルだと思っていたから、男相手に恋愛感情なんて持つはずがないのだ。
少し前の俺なら、簡単に矢崎を振って草加に勝手にしろと言っていただろう。あんな奴冗談じゃないって言って。
でも、今の俺は、俺の気持ちは……よくわからない。
矢崎の事が好きなのかどうかさえも。
だけど、仮に好きだとしたら俺に何ができるんだよ。
矢崎と俺がそういう関係になったとして仮定しよう。
始めの頃は順風満帆で幸せな毎日を過ごせていけるかもしれないが、ところがどっこい。将来を考えると、ずっとその関係が続くわけじゃあない事をいつかは思い知らされるわけだ。
だって男同士というハードルを乗り越えても、アイツは御曹司で俺は庶民という現実が待っている。身分違いも甚だしい。中世でいうなら王族と貧乏平民くらいの差があるだろうか。
そんな二人がいつまでも幸せに続いていけるはずなんてない。いつかは必ず別れが訪れてしまうのだ。
そう考えると、答えはおのずと出ていた。
*
告白して一週間後、直は二日前に退院したばかりであった。
それほど怪我の状態は悪くなかったのと、直の驚異的な回復力ですぐに退院できたのである。他四天王の言葉通り、矢崎直のタフさと体力は化け物並みだというのはあながち間違いではないらしい。
「きゃーー四天王達だわー!」
「いつ見ても素敵ーー!」
「直様、退院おめでとうございますぅー!」
食堂では大勢の生徒達が四天王に声援を送っていた。直の快気祝いにとプレゼントを送りつける生徒も多数いて、はっきりいってウンザリすると同時に、直は来るんじゃなかったと後悔しながらも来る事のない人物に思いを馳せていた。
確実に避けられている。
昨日も、今日の朝も、そして今も、アイツに一度でも会えていないのが何よりの証明。
どうにかして会おうと思えば、待ち伏せなりなんなりすれば会う事は可能だが、会って面と向かって再び「嫌い」と言われてしまうような気がして、怖くて会えずにいる。
まさか、こんなにも自分が臆病な人間だったなんて思わなかった。
誰に嫌われようとも、どんなに憎まれようとも、将来トップに立つ以上それは宿命みたいなものだから別に構いやしないと思っていたのに、たった一人アイツに想われない事が苦しかった。どうしたらこのモヤモヤから解放されるんだろうか。
いつも不敵な顔ばかり見せて、常に余裕みたいな態度だったあいつに嫌いだって言った時、体育祭でキスを拒んだ時、本当に驚くほど悲しげな顔をしていたのは今でもはっきり覚えている。
あの時から俺の事を想っていたのか。
貶すような事を言いながらも俺の事を……っ。
「架谷君」
廊下のど真ん中で名前を呼ばれて振り返ると、草加菜月が立っていた。
「傷の方、大した事なさそうでよかったね」
「それでも数針縫ったけど」
「直に比べたら全然じゃない」
「まあそうだけど」
後ろめたさを感じてしまうのは、直に近づかないという約束を破ったからだろうか。それともこの人が直のセフレだからだろうか。あるいはどちらもか。
「ねえ、直はどうして君を助けたと思う?」
「え……」
先ほどの直からの告白が脳裏によみがえる。
「あんな必死な直……ぼく、初めて見た。あの冷酷で非情で、誰がどうなろうとも決して助けるどころか貶して見捨てるような直が、キミを助けた。今まで直が特定の誰かに興味を持つ事なんて親友や一部以外はいなかったし、ましてや身を挺して誰かを守ろうとする事自体が妹さん達を除いてありえない事」
「それは……」
「直はキミに気があるのかもね」
甲斐は何も答えられなかった。
「でも、ぼくも直の事が本気で好き。キミ以上に好き。だから渡したくないんだ」
「草加……」
「キミは直の事をどう思っているかは知らないけれど、もし本気じゃないのならすぐに諦めて。ううん、忘れてほしい」
菜月は強く要求するように言う。これはお互いのためだと付け加えて。
「直が本気になる前に、キミ自ら身を引いてくれるのなら、直だってそれほど傷つかないと思うし、一時の迷いだって気づいてくれると思うから。キミだって四天王と関わらない平穏な学園生活を送りたいでしょう?」
「……まあ、それは否定しないが……」
「直はね、将来を期待されている矢崎の跡取り。彼の将来は責任とプレッシャーが常に付いて回ってるの。一時の感情の迷いで、キミみたいな取るに足らない庶民を相手にしているヒマなんてないんだよ。これ以上、彼にいろんな寄り道をしてほしくないし、余計な事に気を取られてほしくもない。だから、もし直がキミに何かアクションを起こしてきたら、直をしっかりフッてほしい。そして、二度と直に近づかないでほしい」
「……っ」
「話はそれだけ。じゃあ」
堰を切ったように話していた菜月は、元来た廊下を引き返して行った。
甲斐はなんともいえない複雑な気持ちを抱いたのであった。
俺の気持ちはどうなんだろうか……。
矢崎に対してlikeかloveか……わからない。
例えば友人としてはどうかと問えばそれはNOだろう。
あいつを友人と思えるのは同じ土俵に立っている他の四天王とかそういう人でないと無理だ。
じゃあ、恋愛感情としてはどうだと問われたら、全くもって考えた事はない。
男同士だし、金持ちだし、少し前まで本当に大嫌いな奴だったし、そんな相手に恋愛としてどう思うかなんてまず考えない。俺自身が今までノーマルだと思っていたから、男相手に恋愛感情なんて持つはずがないのだ。
少し前の俺なら、簡単に矢崎を振って草加に勝手にしろと言っていただろう。あんな奴冗談じゃないって言って。
でも、今の俺は、俺の気持ちは……よくわからない。
矢崎の事が好きなのかどうかさえも。
だけど、仮に好きだとしたら俺に何ができるんだよ。
矢崎と俺がそういう関係になったとして仮定しよう。
始めの頃は順風満帆で幸せな毎日を過ごせていけるかもしれないが、ところがどっこい。将来を考えると、ずっとその関係が続くわけじゃあない事をいつかは思い知らされるわけだ。
だって男同士というハードルを乗り越えても、アイツは御曹司で俺は庶民という現実が待っている。身分違いも甚だしい。中世でいうなら王族と貧乏平民くらいの差があるだろうか。
そんな二人がいつまでも幸せに続いていけるはずなんてない。いつかは必ず別れが訪れてしまうのだ。
そう考えると、答えはおのずと出ていた。
*
告白して一週間後、直は二日前に退院したばかりであった。
それほど怪我の状態は悪くなかったのと、直の驚異的な回復力ですぐに退院できたのである。他四天王の言葉通り、矢崎直のタフさと体力は化け物並みだというのはあながち間違いではないらしい。
「きゃーー四天王達だわー!」
「いつ見ても素敵ーー!」
「直様、退院おめでとうございますぅー!」
食堂では大勢の生徒達が四天王に声援を送っていた。直の快気祝いにとプレゼントを送りつける生徒も多数いて、はっきりいってウンザリすると同時に、直は来るんじゃなかったと後悔しながらも来る事のない人物に思いを馳せていた。
確実に避けられている。
昨日も、今日の朝も、そして今も、アイツに一度でも会えていないのが何よりの証明。
どうにかして会おうと思えば、待ち伏せなりなんなりすれば会う事は可能だが、会って面と向かって再び「嫌い」と言われてしまうような気がして、怖くて会えずにいる。
まさか、こんなにも自分が臆病な人間だったなんて思わなかった。
誰に嫌われようとも、どんなに憎まれようとも、将来トップに立つ以上それは宿命みたいなものだから別に構いやしないと思っていたのに、たった一人アイツに想われない事が苦しかった。どうしたらこのモヤモヤから解放されるんだろうか。
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