【完】学園トップに反抗したら様子がおかしくなった(かねもち学園)

いとこんドリア

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十二章/修学旅行(後編)

99.三下男

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「っぐは」

 その瞬間、甲斐ではなく、篠崎が尻餅をついてすっ転んでいた。
 双子と周囲の取り巻き共は放心して呆気にとられている。甲斐が足払いを仕掛けたのだ。

「あれれ、どちたの~?ワイに都大会で優勝したレベルのボクシング見せてくれるんじゃなかったのかな~?」

 言いながら鼻をホジホジする甲斐。

「っ、て、てめえ!俺の必殺パンチをくらえや」

 篠崎の拳が甲斐の顔面を捉えようとする。
 え、なんだこのパンチ。

 甲斐は驚きと衝撃に固まった。あまりのパンチに呆気にとられすぎてその一撃を真正面から顔面に受けてしまった。

「どうだ俺の必殺パンチは!」
「やーん!篠崎君最高~っ」
「さすが都大会優勝だね~!」

 人間というのは驚きすぎると思考回路が追い付かなくなって、パソコンがフリーズしたみたいに固まるもんなんだなーとか、顔面に走った物体のようなものを受けてふと思う。

 あまりの弱すぎるキレのないパンチに拍子抜けしすぎて言葉が出なかったのだ。

 これはひどい。態度だけでかい奴の典型じゃないか。というか本当に都大会で優勝したのかよ。ドーピングとかでもしただろと疑問に思った。

「……で?」

 当然、甲斐の顔面はノーダメージだった。
 顔面で受けてもなんの痛みすら感じず、自分より年下のちびっこのパンチの方がよっぽど威力があるくらいだ。

「お、俺の渾身のパンチを止めただと!?」
「え、これ渾身なの?マジ!?超草生えるんですけど」

 篠崎は甲斐の衝撃とは逆の衝撃を受けている。周囲の双子や無才の取り巻き共も口をあんぐり開けている。

 それから畳み掛けるように甲斐に向けて突きやら蹴りやらを仕掛けてきた。ガムシャラに特攻してくる有様をみて、本当に態度だけは大きい小物俳優らしい。小物だからこそ、全部避けるまでもなく片手で受け止め続けた。

 かつて飛んでいる複数のハエを全て突きだけで倒す地味な修行があったが、あれを凌駕するほど地味に思えるこの攻撃の数々に飽きてくる。というかもういいですかと問いたい。

「ちょっとー!何もたもたしてんの!」
「そーだ!!はやくそんな奴ノシちゃってよ!」

 篠崎がなかなか甲斐を倒せない事にイラついたようで、背後から早くしろと声をあげている。あの双子共は偉そうに命令するだけで何様なんだ。でももう無駄な時間を過ごしたくないので一瞬で終わらせる。

「なあ、篠崎とやら。お前の俳優人生を終わらせて、これからお笑い芸人にさせてあげようと思うがよろしいかえ?」

 甲斐はにっこり微笑んだ。

「あ?てめえ何い……ひでふぅ!!」

 篠崎の頬を一回だけビンタした。そう一回だけだ。ばちんといい音がした。

 それだけで奴は歯が欠ける程に吹っ飛び、地面にもんどりうった。イケメン顔が一瞬でこぶとりじいさんのように頬が腫れあがり、前歯が数本取れた「逝け面」にしてさしあげた。

「今日から廃優業は廃業してお笑いに転職な」

 そんな篠崎は「は、はひ、ひい?」と、引きつったような驚いたような呻き声をあげていた。

 一体何が起こったかよくわかっていないようである。ほんの一瞬だったから、吹っ飛ばされた事もわかっていないようだ。
 そして呆気にとられている双子とその同胞達。我に返った奴らは驚きに発狂していた。

「何騒いでやがんだ」
「あ、やっと話終わったのか」

 甲斐と篠崎の対決が終わった頃、仕事の話が終わったのか直が久瀬と部下を引き連れて戻って来た。

「終わったのかじゃねえだろ。なんでこのクサレ雑魚双子共に絡まれてんだテメエ」
「だって向こうからケンカ吹っ掛けてきやがったからそれに乗ってあげたんだ。今後また邪魔されそうだから今日で全部プライドをへし折ってやろうかと」
「四天王の矢崎直様っ!?」
「きゃああ!うそ!本物!?」

 現れた矢崎財閥の次期トップに、誰もが悲鳴をあげたりして狼狽えた。
 いくら敵対する相手校とはいえ、それを抜いても絶世の美男子の上に金持ちの中でも頂点に立つような直に、無才のもやし共は一様に頬を染めてウットリ見惚れる。

 口々に「長身で手足長くて素敵」やら「生で見ると超格好いい」やら「抱かれたい」などの気色悪い声もあがった。すっかり目は究極にハートマークである。

「きゃあん。まさか四天王の中でも一番人気の直様がここにいらっしゃるなんてっ!ぼく、あえてうれしいですぅ!夢みたい~!」

 無才のもやし達は掌を返したように直に媚び始めた。

「僕もですぅ。直様をこんなに間近で見たの初めてで、僕たち無才ですけど開星の四天王にとても憧れてて、中でも王者のような直様が一番好きでェ、ああ、近くで見れば見るほど素敵。天草時雨様よりも何倍もお綺麗なお顔っ!」

 双子や篠崎の存在を忘れてすっかり直にうっとりしている面々。もはや立場を忘れて直の親衛隊のようになっている。その様子を甲斐は呆れて傍観していた。

「あのぉ、直様」

 双子達は遅れて直に近寄る。

「差し出がましいんですけどぉ、直様は本当にこの架谷甲斐と付き合っているのですか?」
「直様みたいな日本の頂点、いや世界に名を轟かせるようなお方がぁ、どうしてもこの平凡地味となんて合わないと思いますし釣り合わないと思いますぅ。だからぁ、どうか考え直してくださいよぉ。僕タン達のほうが直様を喜ばせてあげられるしィ……エッチだって上手いよぉ」

 懲りずに誘うような上目遣いをする双子。大抵の男はこれでノックアウトされる色気たっぷりな誘い文句である。
 それに対して直は柄にもなく茶目っ気たっぷりに笑顔を見せた。誰もが即落ちしそうな極上の王子様スマイルである。

 その表情から、ついにわかってくれたんだと双子は勝ち誇った笑みを一瞬だけ見せたが、

「ねぇあの時、オレ言わなかったかな。甲斐の何がわかるかって。何を知っているのかって。甲斐をまた侮辱したからにはそれ相応の覚悟はできているのかな」

 茶目っ気の中に黒い忿怒のオーラが漂っていて、瞬時にそれを感じ取る双子。直を纏う底冷えする空気のせいで、周りは恐ろしく冷え込んだ。

「な、直様……?」

 口は笑っているのに目は一切笑っておらず、気圧に緊張感が双子らに走る。

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