【完】学園トップに反抗したら様子がおかしくなった(かねもち学園)

いとこんドリア

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十三章/初デート

110.海

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 もはやキモオタ童貞と言われてもなんとも思わなくなってしまった。言われすぎててそれがどうしたと思わんばかりだ。慣れってこわいもんである。

「お、美少女ドエロ戦士キャロリンちゃんのタペストリーが飾られている」
「なんだそれ」
「俺がやってるエロゲの推しキャラだ。貧乳だが金髪美少女でツンデレ。エロシーンがエロすぎて抜ける俺の嫁その1」
「…………」
「そんなジト目で見んじゃねえ!」

 憐れむような、ドン引きしている直の視線に耐えかねて、甲斐は店内を進む。特大美少女タペストリーキャロリンちゃんが飾りとしてよく見える。近くの棚にはフィギュアコーナーが立ち並び、どれもが普通のフィギュアではなくて、18歳未満は購入できない肌色満載なもの。

 という事で、とっととお目当てのフィギュアを購入して早々に店を出た。

「お前はあの手の奴らのなんだな」
「同胞ではあるが、真の仲間扱いはよしてくれたまえ。俺の真の仲間はEクラスのキモオタ達だからな」
「ドスケベ具合にオレもお手上げだ。さすが童貞不潔のEクラス」
「フ、お誉めの言葉を頂戴しておこう。ドスケベ度(未経験)ではさすがのお前も俺には敵うまい」

 どうせ神(一生彼女いない暦年齢)になるつもりなので、一生二次元に生きるよ。

「そんでこれからどうするんだ?」
「んー……いつもならゲーセン行くか同人ショップのハシゴをして……ん」

 丁度通りかかった旅行代理店前には、海と祭りのポップアートが飾られている。その海辺の近くで花火も上がるらしく、それをじっと見ていたら直が口を開いた。

「海、行ってみたい。花火も……」
「え、海と花火って」
「だめ?」
「うーん」

 今から行くと確実に夜遅くになってしまう。ここから海のある駅までは二時間半以上はかかるのだ。

「お前と見てみたいから。海と花火」
「いやでも……」
「また仕事が忙しくなったら、当分の間行けなくなる。甲斐と二人きりにもなれなくなる。だから今しかない」
「直……」
「オレを連れてってくれよ、甲斐」
 
 直が切実に訴える。なかなか逢えなくなるなら今しかない。帰りが遅くなるのに尻込みするが、海と花火の誘惑には勝てなかった。

 流されるままに電車に乗った。海岸へ向かうために乗り換えを経て、ローカル線になると人はまばらになっていく。乗客はあまりいない。向かい合わせの座席はほとんど貸切状態で、つい警戒心を薄めて微睡む。

「眠くなっちまった」

 ウトウトしていた矢先、直は甲斐の膝を枕にして横になった。

「おい、お前……」
「あー楽だな。お前の膝枕。いい気分」
「俺の膝は女と違って固いだろ」
「固いが気分は幸福に近いよ」

 窓を少し開けると、隙間から涼しげな風が流れ込んでくる。直はすっかり安心したように眠っていて、その寝顔に目を奪われた。深海の瞳は隠れているが、サラサラの髪が揺れる度に香水とは別なシャンプーのいい匂いがした。

 なんだか信じられない姿だな……。
 あの四天王の矢崎直が自分の膝の上で穏やかに眠っているのが。可愛い寝顔晒しちまってさ、寝顔はまんまガキだ。

 可愛い奴……。

 時間が流れてしばらく、目的の海の駅に到着した。
 停留所に下りて辺りを見渡すと、すぐ駅を隔てた向こうには美しい絶景が広がっている。テンションが高くなって浜辺に向かって走る。
 甲斐は勢いよく靴を脱いで、足だけを海水につけた。

「うお~海だぜえええ!久しぶりだな~!」

 つい、子供のように無邪気にはしゃいでしまう。だって海だ。久しぶりなんだ。
 そんな直はゆっくり歩いてきて、甲斐を微笑ましく見ていた。これじゃあ自分の方がガキみたいだ。しかし、ガキならガキらしく騒がせてもらおうではないか。

「うりゃ」

 甲斐は隙ありとばかりに、直に海水を思いっきりかけてやった。

「つめてッ」
「ぎゃーははは!オメーの顔びしょぬれ~!ざまあ~!」

 俺はしてやったりな顔で笑う。

「テメエ……」

 直が一気に俺を睨みつつ、倍にしてやり返してきた。半ば本気で海水をかけてくる。

「ひえ!」

 冷たい。くそう。服が濡れちまった。

「さあ、覚悟してもらおうか。テメエは全身びしょ濡れ覚悟になってもらう」
「ふん、今更俺様モードで言っても怖くねーぞ。お前が全身ずぶ濡れになれや。くらえええ!うらあああ!」

 二人(本気で)海水を掛け合った。後半は海水の掛け合いというよりプロレスごっこみたいになってしまい、子供の喧嘩になってしまった。奇声やら笑い声やら怒声やらの声が辺りに響き渡り、ガキ以上にガキのように遊びまくった。

 案外楽しいもんだな。直もより自然体に笑えていて楽しそうだ。

 もっと見せてくれよ、お前の笑顔を……。

「ずっと……この時間が続けばいいのに。今が永遠に続けばいいのに」

 遊び疲れた二人は、びしょぬれのまま浜辺に寝転がっている。静かに打ち寄せる波の音を聞きながら。

「そしたらオレ、どんな辛い事があっても耐えられる。お前がそばにいて笑ってくれさえすればそれだけで満足なんだ。だけどそのうち自由がなくなるから」

 直は世を儚んだ顔で一言呟く。 

「オレは矢崎家のトップとして本格的に自由がなくなる。いつになるかはわからないけど、お前ともほとんど会えなくなるだろう」
「っ……」

 寂しい意味でぎゅっと胸が締め付けられた。

「だから、自由の利く学生のうちだけは幸せな思い出を刻んでおきたい。少しでも今しかできない経験をしてみたい」
「直……お前……」
「永遠に逢えなくなるわけじゃない。だけど、オレは寂しいのは嫌だから。一度逢ってしまえばそばにいたいと思う気持ちに歯止めがきかなくなるから。だから、学生が終わればもうお前には……」

 逢わない。そう言いたいのだろう。
 楽しかった先ほどの時間がしんみりとしたものに変わってしまっていた。

 直とはほとんど逢えなくなる……そっか。

「そのうち留学させられて、好きでもない女とも結婚させられる……」

 いずれ離れる事になるだろうとわかっていた。でも、改めて言葉に出されるとショックが大きかった。

「だから……オレにお前との思い出をたくさんほしい」

 さあっと哀切を帯びたような風がなびいた。
 心の中にある寂しいという気持ちが急激に大きくなっては止まらない。
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