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27.創造と破壊
「っ、お前が聖龍を名乗るほら吹きのヴァイス・アレクサンダーか。お前はあらゆる罪を犯した稀に見る大犯罪者。タイマーヤル公爵を毒で殺し、聖なる龍という怪しい宗教で人々を騙したという罪状があがっている!それに王は言っていた。聖龍というのは大昔の人間が作った御伽話。つまり偽史に過ぎないとな」
暗殺者の一人が鼻息荒く高らかに言う。他の者もウンウン頷く。
「公爵を毒殺?宗教?御伽話?……ククク。無理のある陰謀論だな。たしかに公爵は殺したが……とうとうあの王は歴史そのものを否定し始めたようだな」
聖なる龍がいたという事実をなかった事にしたい王の必死さが伝わる。神すら凌駕する王として覇権を握りたい欲望と願望が駄々漏れで、祖先が作り上げてきた神話の時代すらも否定するようだ。
仮に聖龍の存在を認めてしまえば、国の威光がガタ落ちする事を懸念しているのだろう。自分以上の存在を許さず、自分が世界最高でなくてはならない承認欲求が止まらないようだ。
それがこれから己を窮地に追い込んでいくとも知らずに。
「ふん、歴史というのは勝者が都合よく作り上げるもの。それが嘘であっても後の時代にそれを言い続ければそれが真実になるんだよ」
「つまりは身分が高い上流階級で生まれた者が人生勝ち組というわけ。歴史すら改竄できてしまえる」
「それで損をするのは薄汚い平民やオメガだけ。俺たちのために高い税金を払わせて、低賃金で働かせて、俺たちを養うために肥やしとして死んでいく。過労で死のうが高額な税金で破産しようが、そいつらが平民なんかに生まれたのが運の尽き。俺たち王侯貴族を養うために高い税金払ってくれてありがたいって感じだぜ」
「まあ、我々貴族は選ばれた人間だからな。底辺平民を雇ってやっているだけありがたいと思ってほしい」
貴族の兵達は歴史が捏造されようとも、しれっと自分達の利益の事しか考えていない本心を吐露する。下々の人間をただの駒としてしか思わず、自分達の懐や権力しか頭にないようだ。
典型的な成金貴族思考で、国の上層部の腐敗は相当だ。やはりまともな貴族はこの国にはもういない。
「つまり、都合の悪い事はなかった事にして、このオレを殺せばそれが真実になると、そう言いたいわけだな」
「そういうことだ」
「死ぬ前に聞けて良かったなほら吹き野郎」
未だにシロンをだだのほら吹きと侮る面々。
「あいわかった。もうよい」
愚かなシューセンド王侯貴族達。その昔、あれほど泣いて喚いて慈悲を訴えてきたにも関わらず、こうしてまた同じ過ちを繰り返している。過去の歴史は繰り返すものとはいうが、欲に走った人間とは本当に学習力がない生き物だ。
まだ子供とはいえ、神を愚弄した事を後悔するがいい――。
「ぐぎゃああ!」
「ひいいいい!」
「熱い熱いぃいい!」
目の前で精神攻撃の幻覚でも見ているのか、次々王家からの兵や同胞達が狂ったように自害をし始める。最終的にシロンがそいつら全員を熱くない謎めいた青い炎で燃やして灰燼に帰した。
やはり、聖なる龍という存在は本当らしい。
青い炎だなんて目の前の摩訶不思議な力を見てしまえば疑いようがない。
だが、それがどうした。
自分は史上最強の暗殺者アイゼン。
同胞が死んでもなんとも思わないし、赤い血がただ汚いとしか思えない。
なぜなら小さい頃からスラムで育ち、食うか食われるかの弱肉強食の世界で生き延びてきたので親しい友人や仲間なんてのもいない。
何をされても怒りも悲しみもわかないし、人を何千何万と殺してももはやなんとも思わない。
精神攻撃も通用しないし、どんなに痛めつけられても痛覚もない。人間としての視覚、味覚、触覚、嗅覚、全てが麻痺しているためだ。だから何ものにも縛られず、何ものにも狼狽えず、何者にも干渉されない。
無気力のようであって、無気力でもない。
だが、ただ一つだけ弱点があった。
耳だった。
暗殺業として聴覚はとても大事にしており、耳がなければ生きてはいけないとされているほど自慢の聴覚が売りだった。
それを誰かにしゃべったわけでもなく、当然のようにシロンに見抜かれており、その男にしか聞こえない音を流した。
「っ、ぎゃああああああああ!?」
アイゼンからすればあまりにひどい音にその場でのた打ち回る。
なんて恐ろしい音だ。おぞましい悪霊が奏でている地獄のような声が聞こえる。耳を塞いでも一向に小さくならない。
「異常な程耳がよすぎてそれが弱点とすら思わなかったようだな」
アイゼンは耳を塞ぎ、ゴロゴロ地面に転がりながらシロンを睨む。
「なぜわかったとでも言いたげな顔だな。そんなもの、とっくにご存じだ」
神はすべてを見ている。千里眼ですべてがお見通し。
「あの王の刺客に成り下がった時点で終わりだ」
その時点で敵であり、神として処罰する。
「あああああっ!やめろおおおお!!!ああああ!!鼓膜がぁあああ!」
もうやめてと言わんばかりに悲鳴をあげ続けるアイゼン。暗殺者としての恥も外聞もなく泣きわめく。
「自慢の耳もあまりのうるささには耐えきれないようだな。情けない。そんなにうるさいのが嫌ならば、今度は逆に無音の世界へご招待しよう」
シロンは指をぱちんと弾いた。
一瞬で場所が変わり、そこは空と大地と地平線がずっと続く何もない世界だった。
「な、なんだここは」
「うるさい世界が嫌というからお前にぴったりな世界に連れてきた」
「っ……なにも、何も聞こえないっ。静かすぎる」
「そう、ここは誰にも干渉できないオレが作った無の世界」
あまりに何もなさすぎて音も自然の気配すらも感じられない。
当然、耳が良すぎるアイゼンにとって、何も聞こえなさすぎるのもよくなかった。
逆に自分の存在がうるさく感じてしまい、神経が過敏になりすぎて次第に幻聴が聞こえるようになる。
「っ、あ……雑音が……己の雑音が……」
「心臓の鼓動や血流の音、関節が動く音さえも聞こえてくるだろう。なまじ耳がよすぎるせいで体の全ての音が煩わしく感じるんじゃないのか」
「ちが、う。俺が望んだのはこんな静かすぎる世界じゃ……っあ、ああ」
無音の世界が逆にアイゼンの精神を追い詰め、頭を抱えて苦しみだす。
「我儘な奴め。もういい。この世界は時間の概念がない。そしてお前の寿命の体内時計も限りなくゆっくりにしておいた。お前はこの先何千何万とこの場所で過ごしていく事になるだろう」
「なっ、なんだと」
「無の世界で永遠に近い時間を過ごしながら発狂して息絶えていくがいい」
シロンがもう一度指を打ち鳴らすと元の世界にもどってくる。奴一人を永劫あの場に残して。
途端、目の前が急激にぼやけて足元がふらつく。
神である創造と破壊の力を初めて使い、魔力を使いすぎてしまったようだ。まだ未完成な子供の姿のうちに神の力を使うと負担が半端ないようだ。
暗殺者の一人が鼻息荒く高らかに言う。他の者もウンウン頷く。
「公爵を毒殺?宗教?御伽話?……ククク。無理のある陰謀論だな。たしかに公爵は殺したが……とうとうあの王は歴史そのものを否定し始めたようだな」
聖なる龍がいたという事実をなかった事にしたい王の必死さが伝わる。神すら凌駕する王として覇権を握りたい欲望と願望が駄々漏れで、祖先が作り上げてきた神話の時代すらも否定するようだ。
仮に聖龍の存在を認めてしまえば、国の威光がガタ落ちする事を懸念しているのだろう。自分以上の存在を許さず、自分が世界最高でなくてはならない承認欲求が止まらないようだ。
それがこれから己を窮地に追い込んでいくとも知らずに。
「ふん、歴史というのは勝者が都合よく作り上げるもの。それが嘘であっても後の時代にそれを言い続ければそれが真実になるんだよ」
「つまりは身分が高い上流階級で生まれた者が人生勝ち組というわけ。歴史すら改竄できてしまえる」
「それで損をするのは薄汚い平民やオメガだけ。俺たちのために高い税金を払わせて、低賃金で働かせて、俺たちを養うために肥やしとして死んでいく。過労で死のうが高額な税金で破産しようが、そいつらが平民なんかに生まれたのが運の尽き。俺たち王侯貴族を養うために高い税金払ってくれてありがたいって感じだぜ」
「まあ、我々貴族は選ばれた人間だからな。底辺平民を雇ってやっているだけありがたいと思ってほしい」
貴族の兵達は歴史が捏造されようとも、しれっと自分達の利益の事しか考えていない本心を吐露する。下々の人間をただの駒としてしか思わず、自分達の懐や権力しか頭にないようだ。
典型的な成金貴族思考で、国の上層部の腐敗は相当だ。やはりまともな貴族はこの国にはもういない。
「つまり、都合の悪い事はなかった事にして、このオレを殺せばそれが真実になると、そう言いたいわけだな」
「そういうことだ」
「死ぬ前に聞けて良かったなほら吹き野郎」
未だにシロンをだだのほら吹きと侮る面々。
「あいわかった。もうよい」
愚かなシューセンド王侯貴族達。その昔、あれほど泣いて喚いて慈悲を訴えてきたにも関わらず、こうしてまた同じ過ちを繰り返している。過去の歴史は繰り返すものとはいうが、欲に走った人間とは本当に学習力がない生き物だ。
まだ子供とはいえ、神を愚弄した事を後悔するがいい――。
「ぐぎゃああ!」
「ひいいいい!」
「熱い熱いぃいい!」
目の前で精神攻撃の幻覚でも見ているのか、次々王家からの兵や同胞達が狂ったように自害をし始める。最終的にシロンがそいつら全員を熱くない謎めいた青い炎で燃やして灰燼に帰した。
やはり、聖なる龍という存在は本当らしい。
青い炎だなんて目の前の摩訶不思議な力を見てしまえば疑いようがない。
だが、それがどうした。
自分は史上最強の暗殺者アイゼン。
同胞が死んでもなんとも思わないし、赤い血がただ汚いとしか思えない。
なぜなら小さい頃からスラムで育ち、食うか食われるかの弱肉強食の世界で生き延びてきたので親しい友人や仲間なんてのもいない。
何をされても怒りも悲しみもわかないし、人を何千何万と殺してももはやなんとも思わない。
精神攻撃も通用しないし、どんなに痛めつけられても痛覚もない。人間としての視覚、味覚、触覚、嗅覚、全てが麻痺しているためだ。だから何ものにも縛られず、何ものにも狼狽えず、何者にも干渉されない。
無気力のようであって、無気力でもない。
だが、ただ一つだけ弱点があった。
耳だった。
暗殺業として聴覚はとても大事にしており、耳がなければ生きてはいけないとされているほど自慢の聴覚が売りだった。
それを誰かにしゃべったわけでもなく、当然のようにシロンに見抜かれており、その男にしか聞こえない音を流した。
「っ、ぎゃああああああああ!?」
アイゼンからすればあまりにひどい音にその場でのた打ち回る。
なんて恐ろしい音だ。おぞましい悪霊が奏でている地獄のような声が聞こえる。耳を塞いでも一向に小さくならない。
「異常な程耳がよすぎてそれが弱点とすら思わなかったようだな」
アイゼンは耳を塞ぎ、ゴロゴロ地面に転がりながらシロンを睨む。
「なぜわかったとでも言いたげな顔だな。そんなもの、とっくにご存じだ」
神はすべてを見ている。千里眼ですべてがお見通し。
「あの王の刺客に成り下がった時点で終わりだ」
その時点で敵であり、神として処罰する。
「あああああっ!やめろおおおお!!!ああああ!!鼓膜がぁあああ!」
もうやめてと言わんばかりに悲鳴をあげ続けるアイゼン。暗殺者としての恥も外聞もなく泣きわめく。
「自慢の耳もあまりのうるささには耐えきれないようだな。情けない。そんなにうるさいのが嫌ならば、今度は逆に無音の世界へご招待しよう」
シロンは指をぱちんと弾いた。
一瞬で場所が変わり、そこは空と大地と地平線がずっと続く何もない世界だった。
「な、なんだここは」
「うるさい世界が嫌というからお前にぴったりな世界に連れてきた」
「っ……なにも、何も聞こえないっ。静かすぎる」
「そう、ここは誰にも干渉できないオレが作った無の世界」
あまりに何もなさすぎて音も自然の気配すらも感じられない。
当然、耳が良すぎるアイゼンにとって、何も聞こえなさすぎるのもよくなかった。
逆に自分の存在がうるさく感じてしまい、神経が過敏になりすぎて次第に幻聴が聞こえるようになる。
「っ、あ……雑音が……己の雑音が……」
「心臓の鼓動や血流の音、関節が動く音さえも聞こえてくるだろう。なまじ耳がよすぎるせいで体の全ての音が煩わしく感じるんじゃないのか」
「ちが、う。俺が望んだのはこんな静かすぎる世界じゃ……っあ、ああ」
無音の世界が逆にアイゼンの精神を追い詰め、頭を抱えて苦しみだす。
「我儘な奴め。もういい。この世界は時間の概念がない。そしてお前の寿命の体内時計も限りなくゆっくりにしておいた。お前はこの先何千何万とこの場所で過ごしていく事になるだろう」
「なっ、なんだと」
「無の世界で永遠に近い時間を過ごしながら発狂して息絶えていくがいい」
シロンがもう一度指を打ち鳴らすと元の世界にもどってくる。奴一人を永劫あの場に残して。
途端、目の前が急激にぼやけて足元がふらつく。
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