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28.意識
「シロン!」
心配でやってきたエイベルがふらつく彼を急いで抱き止める。
「大丈夫なの!?」
「ああ……心配かけてすまない。神の力を使いすぎたようだ」
「神の力?」
「成人体にならないと扱えない創造と破壊の力だよ。お前がいてくれるとできると思ったんだ。言っただろう?動物というのは、誰かを想い、想われる事で力が増大するって」
「シロン……」
エイベルは嬉しくなってぎゅっとシロンを抱きしめる。
「オレにとってお前はかけがえのない奴だから……エイベル……」
恥ずかしいけど照れ臭い。こんな風に胸がドキドキしてしまうのはやっぱり……
「おーい!」
「シューセンドの連中は……」
ぺぺとルルがエイベルに介抱されているシロンを見て慌てている。
「オレは大丈夫。あっさり奴らを片付けた。しばらくはシューセンドの連中は来れないだろう」
その言葉通り、シューセンド王城内はかつてない程大騒ぎであった。
暗殺者アイゼンの伝書鳩での応答がなくなり、消息を経ってから翌日、王城近くでアイゼンの遺体が発見された。
検死した結果、どこも異常がないので明確な死因がわからず、ただ年老いた老人のような姿に変わり果てていた。まるでタイマーヤル公爵がなくなった時のような絶望しきった表情で。
「なんという事だ!あのアイゼンが亡くなるとはっ!」
「陛下、さすがにこれは聖なる龍の祟りではないでしょうか」
王や一同は衝撃を受けている。やはり祟りは本当なのだろうか。さすがにあのアイゼンすら死んだとなると森の祟りか罰当たりと思われても仕方がない。
だが、今更聖龍や森の祟りのせいにしてしまえば沽券に関わる。自分の采配のせいで兵を大量に死なせた無能だと思われてしまう。将来は神殺しを達成した賢王として讃えられる予定であるというのに。
「祟りかは知らんが……あいつらが行きたいというから仕方なく森に行かせてやったのだ。よって自己責任。五千以上の兵やアイゼンらを失ったのは痛いが、大半は死んでもいい平民ばかり。我々王侯貴族が生きていればなんとでもなるわ」
亡くなった奴らは平民だったと切り捨てる事にし、自身の保身を最優先する事にした。だって本当に平民の命など、我々特権階級の者からすれば死んでも痛くも痒くもないのだ。捨て駒が減ったのは残念だが、その捨て駒はいくらでもいる。
「しかし、陛下。祟りだったとして我々は今後どうなるのでしょう。神罰を受けないでしょうか」
「ふん、聖なる龍とてまだ子供だ。神罰できるほど大した力はもっておらん。あれは森の祟りであって聖なる龍とは無関係。神罰ではない」
確実ではないが、昔からの言い伝えではそう聞いている。たとえそれが神罰とて、成人していない聖龍などいつでも殺せる。
「まあ、とにかく……今は兵不足でしばらくは動けないが、聖なる龍とその加護持ちのレアオメガは必ず再び現れる。その時を狙う事としよう」
「二人は来るでしょうか」
「必ず来る。村には加護持ちのレアオメガが住んでいた家がまだあるからな」
シューセンドが兵不足で機能不全に陥っている頃、エイベルも自宅が必要だという事でルルとペペの小屋の近くに建てる事にした。森の動物達に再び手伝ってもらおうと思ったが、シロンがあっさりと魔法で作ってしまった。
最近はどんどん神とやらの力に目覚めてきているらしく、創造の力で数秒とかからずルルやペペと同じようなものを構築。家の中もベットや家具や日用品や食料まで全てそろっていて驚いた。
今日からこの家に二人で住む事になる。だからこそ、エイベルはどうも落ち着かなかった。
「ちょっと外に散歩してくるよ。ついでに周辺に生えてる薬草とかも摘んでこようかなって思って」
エイベルは久しぶりにゆっくり森の中を散策する事にした。しばらくは王城の者も来ないだろうという事で、張り詰めていた心を落ち着かせるためである。それに精霊の森なだけあって食べ物や木の実も豊富だ。散歩がてら採取しようと思っていた。
「じゃあオレも行く」
一緒に住む事になったシロンも行くと申し出た。
「だ、大丈夫だよ。森の中は精霊様がついてるから」
「それでもお前はドジだから何もない所で転びそうだしな」
「う……そんな事ないのに」
エイベルはシロンの顔をまともに見れないでいた。
二人きりでいるとどうも恥ずかしさが勝ってしまい、息苦しくて落ち着かない。別にシロンが嫌というわけではないのに、気恥ずかしくてドキドキして正常ではいられなくなる。
それにレアオメガなせいか体も最近熱っぽい。ヒートが近いのかもしれないからこそ、一緒にいておかしくなったらと思うと不安になってしまう。
「お前はこの森の奥とか知らないから案内したいし」
「森の奥?たしかに行った事ないや」
「奥の方に見せたいものがあるんだ」
エイベルが首を傾げると、シロンは含み笑いを浮かべる。
「ほら、行くぞ」
「あ、うん」
手を伸ばされて反射的に握り返す。
結局一緒に行く事になってしまい、エイベルのドキドキが鎮まる事はなかった。握られた手が火傷しそうなほど熱く感じてますますシロンを意識してしまった。
「わあ、たくさん畑があるけどこれらは誰が手入れしているの?」
しばらく歩いていると、見慣れない畑や作物が育っている木々などを見かける。どれも誰かが手入れをしているわけでもなく自然と生えてきている印象だった。
「誰も手入れはしていない。森の精霊が動物達のために勝手に作物を育てているんだ」
「ふぉ~すごいなあ。何も手入れや種を植えたりしてないのにいろんな作物が育つなんて、さすが精霊様の森って感じだよ。動物達が毎日大量に食べ物をくれるわけだね」
「自然に恵みをもたらし、作物の作り方を人間に何千年と伝承し続けてきたのは森の精霊だから」
「へえ~じゃあ聖龍であるシロンは何をするの?」
「オレは創造したり破壊したり、この世界の平和と秩序を保っていくのが仕事。この世界にはありとあらゆる精霊がいて、それぞれ役割がある。ただ、それを全て統括するのがオレの役目ってだけ」
「そうなんだ。あのペガサスやカブトムシくんやカラスくんもそんな感じなのかな」
「そうだな。彼らはオレが作った眷属だから」
「眷属……シロンの部下みたいなものなんだよね。あ、あそこにある畑はなんだろ」
握りあっている手を流れるように外して畑の方へ小走りする。汗ばんでいた手がやっとすっきりした所で、油断していたせいか枯葉で足を滑らせてしまう。
「うわ」
倒れそうになる瞬間、シロンがすぐに魔法で上体を起こしてくれた。
「ほら、やっぱり転びそうになってる」
「うう……言ってるそばからぼく……ドジだ。シロンがいないと怪我ばっかしちゃってたかも」
しょんぼりしているエイベルにシロンは楽しそうに微笑む。
「そうならないようにオレがいつもそばにいるんだろ」
「シロン……」
じっと見つめられる。気が付けば距離が近くなっていて、目と鼻の先はすぐそこだった。
目をそらしてはいけない気がして、シロンの金色の瞳を見つめ続ける。すると顔が使づいて来て――――
心配でやってきたエイベルがふらつく彼を急いで抱き止める。
「大丈夫なの!?」
「ああ……心配かけてすまない。神の力を使いすぎたようだ」
「神の力?」
「成人体にならないと扱えない創造と破壊の力だよ。お前がいてくれるとできると思ったんだ。言っただろう?動物というのは、誰かを想い、想われる事で力が増大するって」
「シロン……」
エイベルは嬉しくなってぎゅっとシロンを抱きしめる。
「オレにとってお前はかけがえのない奴だから……エイベル……」
恥ずかしいけど照れ臭い。こんな風に胸がドキドキしてしまうのはやっぱり……
「おーい!」
「シューセンドの連中は……」
ぺぺとルルがエイベルに介抱されているシロンを見て慌てている。
「オレは大丈夫。あっさり奴らを片付けた。しばらくはシューセンドの連中は来れないだろう」
その言葉通り、シューセンド王城内はかつてない程大騒ぎであった。
暗殺者アイゼンの伝書鳩での応答がなくなり、消息を経ってから翌日、王城近くでアイゼンの遺体が発見された。
検死した結果、どこも異常がないので明確な死因がわからず、ただ年老いた老人のような姿に変わり果てていた。まるでタイマーヤル公爵がなくなった時のような絶望しきった表情で。
「なんという事だ!あのアイゼンが亡くなるとはっ!」
「陛下、さすがにこれは聖なる龍の祟りではないでしょうか」
王や一同は衝撃を受けている。やはり祟りは本当なのだろうか。さすがにあのアイゼンすら死んだとなると森の祟りか罰当たりと思われても仕方がない。
だが、今更聖龍や森の祟りのせいにしてしまえば沽券に関わる。自分の采配のせいで兵を大量に死なせた無能だと思われてしまう。将来は神殺しを達成した賢王として讃えられる予定であるというのに。
「祟りかは知らんが……あいつらが行きたいというから仕方なく森に行かせてやったのだ。よって自己責任。五千以上の兵やアイゼンらを失ったのは痛いが、大半は死んでもいい平民ばかり。我々王侯貴族が生きていればなんとでもなるわ」
亡くなった奴らは平民だったと切り捨てる事にし、自身の保身を最優先する事にした。だって本当に平民の命など、我々特権階級の者からすれば死んでも痛くも痒くもないのだ。捨て駒が減ったのは残念だが、その捨て駒はいくらでもいる。
「しかし、陛下。祟りだったとして我々は今後どうなるのでしょう。神罰を受けないでしょうか」
「ふん、聖なる龍とてまだ子供だ。神罰できるほど大した力はもっておらん。あれは森の祟りであって聖なる龍とは無関係。神罰ではない」
確実ではないが、昔からの言い伝えではそう聞いている。たとえそれが神罰とて、成人していない聖龍などいつでも殺せる。
「まあ、とにかく……今は兵不足でしばらくは動けないが、聖なる龍とその加護持ちのレアオメガは必ず再び現れる。その時を狙う事としよう」
「二人は来るでしょうか」
「必ず来る。村には加護持ちのレアオメガが住んでいた家がまだあるからな」
シューセンドが兵不足で機能不全に陥っている頃、エイベルも自宅が必要だという事でルルとペペの小屋の近くに建てる事にした。森の動物達に再び手伝ってもらおうと思ったが、シロンがあっさりと魔法で作ってしまった。
最近はどんどん神とやらの力に目覚めてきているらしく、創造の力で数秒とかからずルルやペペと同じようなものを構築。家の中もベットや家具や日用品や食料まで全てそろっていて驚いた。
今日からこの家に二人で住む事になる。だからこそ、エイベルはどうも落ち着かなかった。
「ちょっと外に散歩してくるよ。ついでに周辺に生えてる薬草とかも摘んでこようかなって思って」
エイベルは久しぶりにゆっくり森の中を散策する事にした。しばらくは王城の者も来ないだろうという事で、張り詰めていた心を落ち着かせるためである。それに精霊の森なだけあって食べ物や木の実も豊富だ。散歩がてら採取しようと思っていた。
「じゃあオレも行く」
一緒に住む事になったシロンも行くと申し出た。
「だ、大丈夫だよ。森の中は精霊様がついてるから」
「それでもお前はドジだから何もない所で転びそうだしな」
「う……そんな事ないのに」
エイベルはシロンの顔をまともに見れないでいた。
二人きりでいるとどうも恥ずかしさが勝ってしまい、息苦しくて落ち着かない。別にシロンが嫌というわけではないのに、気恥ずかしくてドキドキして正常ではいられなくなる。
それにレアオメガなせいか体も最近熱っぽい。ヒートが近いのかもしれないからこそ、一緒にいておかしくなったらと思うと不安になってしまう。
「お前はこの森の奥とか知らないから案内したいし」
「森の奥?たしかに行った事ないや」
「奥の方に見せたいものがあるんだ」
エイベルが首を傾げると、シロンは含み笑いを浮かべる。
「ほら、行くぞ」
「あ、うん」
手を伸ばされて反射的に握り返す。
結局一緒に行く事になってしまい、エイベルのドキドキが鎮まる事はなかった。握られた手が火傷しそうなほど熱く感じてますますシロンを意識してしまった。
「わあ、たくさん畑があるけどこれらは誰が手入れしているの?」
しばらく歩いていると、見慣れない畑や作物が育っている木々などを見かける。どれも誰かが手入れをしているわけでもなく自然と生えてきている印象だった。
「誰も手入れはしていない。森の精霊が動物達のために勝手に作物を育てているんだ」
「ふぉ~すごいなあ。何も手入れや種を植えたりしてないのにいろんな作物が育つなんて、さすが精霊様の森って感じだよ。動物達が毎日大量に食べ物をくれるわけだね」
「自然に恵みをもたらし、作物の作り方を人間に何千年と伝承し続けてきたのは森の精霊だから」
「へえ~じゃあ聖龍であるシロンは何をするの?」
「オレは創造したり破壊したり、この世界の平和と秩序を保っていくのが仕事。この世界にはありとあらゆる精霊がいて、それぞれ役割がある。ただ、それを全て統括するのがオレの役目ってだけ」
「そうなんだ。あのペガサスやカブトムシくんやカラスくんもそんな感じなのかな」
「そうだな。彼らはオレが作った眷属だから」
「眷属……シロンの部下みたいなものなんだよね。あ、あそこにある畑はなんだろ」
握りあっている手を流れるように外して畑の方へ小走りする。汗ばんでいた手がやっとすっきりした所で、油断していたせいか枯葉で足を滑らせてしまう。
「うわ」
倒れそうになる瞬間、シロンがすぐに魔法で上体を起こしてくれた。
「ほら、やっぱり転びそうになってる」
「うう……言ってるそばからぼく……ドジだ。シロンがいないと怪我ばっかしちゃってたかも」
しょんぼりしているエイベルにシロンは楽しそうに微笑む。
「そうならないようにオレがいつもそばにいるんだろ」
「シロン……」
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