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五章仮面ユ・カイダー爆誕

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 残り2秒という所で、俺は勢いをつけて上空に思いっきり投げつけた。そのまま近くにいた健一と先生と男を物陰に身を伏せさせる。

 空中でタイマーが1、ゼロという数字が出た瞬間にカッと光が迸り、けたたましい爆発の轟音が轟いた。
 爆風があらゆる建物の窓ガラスを粉砕させ、木や車や看板などが吹き飛び、電柱や道路にヒビが走る。
 空中で爆破させたとはいえこの破壊力。この辺が密集地帯でなくてよかったもので、俺は三人が吹き飛ばされないよう身を伏せつつ押さえつけた。

「あー……死ぬかと思った……」

 爆発の影響がやっとおさまってゆっくり顔をあげる。周囲に気配が何もない事を確認して辺りを見渡すと、多少障害物などが吹き飛んだ形跡があるが最小の被害で済んだようだ。人々もほぼ全員無事のようでほっとする。死傷者が出なくてよかった。

 遠くから警察や消防などのサイレンの音が鳴り響き、ほっとしたと思ったらこれから事情聴取かと思うと憂鬱な気分だ。くそっ……せっかくバーガー食ってのんびりしていたのに白井の襲撃並みに疲れたよ。でもその前に、

「逃げんじゃねぇぞタコ。てめえには訊きたいことが山ほどある」

 タイマー男がコソコソとその場を逃げようとしたので、俺は首根っこを引っ付かんでいた。事の発端であるこの男にはたっぷり事情を訊かなければ。



「またお前か架谷甲斐!」

 警察のご到着かと思えば、パトカーから降りてきたのは刑事の下衆谷と助手の熊谷と他いろいろであった。お馴染みのやる気のない警察ドモのご登場である。
 俺の姿を見た瞬間まるで俺がやったかのような態度ってあんまりじゃね?俺、みんなを助けたんですけど。

「またとは失礼っすね。なんもしてないじゃないですか」
「日頃の行いが悪いとどうもお前を連想するんだ。スケベ事件を起こした後は今度は爆弾魔になったんじゃないかと一報を聞いてひやひやしていたんだ。紛らわしい真似するんじゃねえ」
「それは偏見ですよゲス谷さん。爆弾魔になるくらいならまだスケベのままのがマシです。それにスケベなのはその通りですから否定もしません。もー名前そのままにゲスなんですから」
「なんだと!相変わらず減らず口は達者なようだな。とりあえず事情聴取だ。パトカーに乗りやがれ」

 そう言いながら何を思ったのか、ゲス谷は俺の両手首に手錠をかけやがった。は?である。

「なんで俺に手錠をかけるんですか。まるで俺が犯人みたいじゃないですか」
「フッ…違うのか?まあ、お前が逃げるからだ」
「いつも職務から逃げているお宅には言われたくないんですけど」
「ふんっ、お前みたいな奴は犯人と勘違いしても仕方があるまい。スケベで連行されるような不純な奴だからな。日頃の行いが最悪だと間違えてこうなるわけよ、ぎゃーっはっはっは」
 
 こいつわざとだな。名前通りゲスである。
 腹が立ったので、ゲス谷のズボンのベルトを目にも止まらぬ早さで抜き取ってやった。修行のおかげで素早さはかなりアップしているようで、ついでにパンツの紐も緩くしておいた。当然ながら、ゲス谷のズボンどころかパンツは重力によって下がり、公衆の面前で大事な場所が晒されるのであった。

「うお!?」
「きゃーー!」
「いやーん!」

 婦警さんの恥ずかしがる悲鳴と万里ちゃん先生の真っ赤な顔がなんとも言えない心地よさだ。隣にいた助手の熊谷と健一は「短小だな」なんて冷静に呟いている。ま、たしかに短小だな。性格悪い刑事のくせして金玉は大したことがなかったようでお笑いである。

「て、てめえ!!何しやがる!!」

 顔を真っ赤にさせて羞恥心に憤慨するゲス谷。必死で金玉を隠そうとしている様子が滑稽でゲスの面目丸潰れだ。仕返しは必ずしないと気が済まないからな俺は。

「ゲス谷さんこそ公然わいせつ陳列罪で逮捕ですね」

 はい逮捕(^o^)と、婦警さんから貸してもらった手錠をゲス谷にもかけてやった。がちゃんと両腕にね。

「て、てめえ……よくも!!てめえこそ逮捕してくれるー!!」
「いやでーす!あっかんべー!はやくその短小隠してくださいよ。見苦しくてかないませーん」
「この野郎!!」


 バカ刑事とのアホなやり取りは置いておいて、仕方なく警察署で事情聴取をする事にした。もちろん爆弾を抱えていた男もマルタイとしてご同行。
 男は警察と聞いて取り乱していたが、何かを知ってそうだったのもあり、洗いざらい話せばお前を守ってやらなくもないと話すと大人しくなった。
 なんせこの頃騒がれている連続放火事件に関連がありそうだし、警察の威信もかかっているので逃すはずがないだろう。

「お、おれはただ……奴らに命を狙われているだけなんだ!」

 男は開口一番そう言った。名前は浅井というようだ。
 取調室のような部屋で俺達と男は缶詰にされていて、部屋中に埃とカビ臭さが充満していた。こんな部屋で取り調べとかやってらんねーわ。空気が淀んでいる。

「奴らって……誰だよ。あ、カツ丼超特大大盛り一丁よろしく」

 通りすがりの婦警さんに出前を頼んでおいた。支払いはゲス谷のツケでよろしくと言伝。
 刑事ドラマの取り調べで、犯人を説得するにはまずカツ丼と相場が決まっているだろう。犯人はいないけどな。

「てめえ、図々しい野郎だな!」と、怒り心頭のゲス谷さん。
「あんたに誤認逮捕されそうになったんでそれくらいしてもいいじゃないですかケチ」
「ズボンとパンツ下ろしたてめえに言われたくねーよ!おまけで短小だとか言われて屈辱を味わった!名誉毀損で訴えてやりたいくらいだ!」
「俺だってスケベ冤罪事件であんたら警察に何言っても信じてもらえなかった屈辱を忘れちゃいませんけどねーぬほほほ」
「ちっ……まだ覚えてやがったのか」
「忘れるとお思いで?俺、結構根にも持つんですよねー……あの時のお宅ら警察のぞんざいな取り調べ方、いつか返ってくるかもねーうひゃひゃひゃ」

 俺がゲス顔でゲス谷を威嚇するように微笑んだ。ちょっと殺気を出しているので、ゲス谷は俺の顔にちょっと青くなっている。

「架谷くん。ふざけて大人をからかうんじゃありませんよ」
「からかってるわけじゃねーさ。本当の事ですし、まーカツ丼出してくれるなら水に流さないでもないですよ」

 パイプ椅子に座りつつ机に足をどかりと乗せながら俺は鼻くそホジホジである。

「そここだわるんだな、カツ丼に」と、苦笑している健一。
「警察来るとカツ丼食べたくなるだろ。中二の時に逮捕された時もカツ丼食ったしな。あと番茶が飲みたい」
「おい、テメエは警察署を都合よく出てくるカツ丼屋と勘違いしてんじゃねーのか!?」
「飲食店とは思いませんが、カツ丼一つでゲス谷さんにされた今までの事を水に流してやろうと言う俺の寛大な心ですよ」
「よく言うぜ。二度も逮捕されるテメエが悪いんだろ。テメエの日頃が悪いから俺も勘違いするわけ。で、犯罪者みたいなオーラ放ってるお前が悪いわけ」
「一度目はともかく、二度目は不処分ですから。人の日頃の行いを決めつけないでくれます?あと犯罪者みたいなオーラとかその台詞そっくりお返ししますよゲスの下衆谷さん」
「あ、あのー……」

 と、置いてけぼりにされている浅井。あ、すっかり忘れてた。

「もう、架谷くんも刑事さんも!全然話が進まないじゃないですか!黙っていてください!」
「へいへい」
「う、すんません」

 先生がしびれを切らしてぶちギレたので、黙って耳をホジホジしながら男の話を傾聴することにした。
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