【スピンオフ】学園トップに反抗したら様子がおかしくなったいろいろ

いとこんドリア

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学園トップスピンオフ

ホモ疑惑

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※時期的に初デート前。直と久瀬の危ない描写あり



「久瀬、この書類の原本はどこにある?」
「本社の経理課にございます。取り寄せますか?」
「ああ、すぐに頼む。それからオレは疲れた。しばらく社のプライベートルームにこもるから、ベットの準備をしておいてくれ……っ」

 ふらりと倒れそうになる矢崎を優しく抱きとめる秘書の久瀬。

「おっと、本当に随分お疲れですね。やはり徹夜が応えましたか」
「ただの徹夜どころか四徹だからな……さすがに少しは寝ないとやばいってやっと気づいた」
「まったくですよ。いくらなんでも四徹なんて無茶です。それでは体調も崩してしまいます」
「それでも……早く仕事を終わらせたかったんだ……。休みを勝ち取るために……」
「まあ、お疲れさまでした。二日はお休みなので、ゆっくりなさってください。私もさすがに疲労が蓄積されているようで、今日はこのままおとなしく休ませていただきますね」

 久瀬は朦朧としてふらつく矢崎を支えつつ、執事が運転する車に乗せる。

「もう少しで、あなたの待ちに待ったデートの日がきますから。それまで……頑張ってください、直様」

 そうして車は発車していった。
 その仲睦まじそうな二人?の様子を通りすがりの誰かが見て発狂した翌日から、いろんなクラスの女子の間でおかしな噂が飛ぶようになった。

 四天王の矢崎直が秘書の久瀬宗次朗と付き合っているのではないかという噂が。


「だって~そう見えるんだもん。直様が疲れてる時、秘書の久瀬様がかいがいしく世話してたんだよ。超萌えるでしょ~!」
「萌える萌える~!お二人とも超がつく美形だから目の保養にもなるし、主従関係萌えって感じでいいよねー」
「じゃあどっちが受けでどっちが攻め?」
「そりゃあ受けは直様で攻めは久瀬様でしょ。普段はドSで命令する立場な直様は、夜になるとてんで逆で、久瀬様が下克上よろしく直様をドSな敬語言葉責めで襲っちゃうの!あなた様の命令は絶対ですが、夜だけはそうもいきません。夜だけは私が主導権を握らせて頂きます、とか言っちゃって!きゃー!」
「えーあたしは久瀬様が受けで直様が攻めかな~。トップの権力を行使して、久瀬様を束縛しちゃうの。肌身離さずそばにいてもらわないと仕事ができない直様に、久瀬様は逆らえないって感じで従順な下僕になっちゃうの。オレ様はお前がいないと何も身が入らないから、夜の世話もしてもらおうか!はい、我が君……って感じできゃー萌えーっ!」
「でも、あたし的にはリバありでもいいなあ。今日は直様が攻めで明日が久瀬様が攻めっていうその時の雰囲気で入れ変わる感じもいいと思う~」
「だよねー。二人が仲よさそうにしてればなんだっていいよねーうふふふ」
「第三勢力として、四天王の拓実様とかも三角関係に入れちゃったりとかもいーんじゃない?」
「あ、それいいかも!なんだかんだ直様と拓実様って仲悪いように見えて仲よさそうだものねー」
「「きゃーー!マジ尊い~っ!!」」

 親衛隊ですら「萌え」だとか「あの二人付き合っちゃえばいいのに」とさえ思うほど、二人の主従関係と疑惑を呼ぶ疑惑が憶測が呼んでいた。



「なんだあの女子達のひでー妄想話」

 俺と健一は呆れて見ていた。腐女子の妄想力のすごさに脱帽しながら。ま、授業中に関わらず、美少女騎士がゴブリンに輪姦される内容を妄想している俺も人の事言えないけどな。

「最近、矢崎直と秘書の久瀬宗次朗の仲の良さを見た腐女子達が勝手に妄想してんだよ。ただの妄想で留めておけばいいものを、どんどんそれがエスカレートして広がっちゃってさ、今じゃ嘘が本当になるって言葉のごとくその二人のホモ疑惑な噂が流れてんだ」
「えぇーそうなの?」

 俺は苦虫をかみつぶした顔になった。この時ばかりは直に対して最上級に同情したくなったよ。だって勝手にホモのネタにされて、あわよくば本当のおホモダチになっちゃえばいいのにって思われてんだろ?そりゃあ……ねぇ。
 有名なイケメンて、腐女子の妄想の道具オカズにされて大変だな……。それは男女逆にしても言える事だが、いやはやご愁傷様だ。

「それにしても、本人たちの知らないところで勝手に妄想のネタにされてさ、今にあの腐女子達……痛い目見そうだな」
「だろうな……。噂を知ったアイツがキレるのが目に浮かぶようだ」

 憐れみの目でその女子達を見据えつつ、俺と健一は興味ないとばかりに関わらないようにした。だってBLなんて俺興味ないし、俺は腐男子じゃないしな。興味あるのは二次元美少女のみ。今日も元気に美少女エロゲで抜きまくるぞー。



 翌日、さらに噂の事態は悪化したようで、ネットであの疑惑の二人の薄い本が流出されているという情報を健一がもってきた。そんなもん作られていたのかよ、うわー……ドン引きだ。
 直と久瀬さんの薄い本なんて興味ねえが「まあ見てみようぜ。日頃の四天王共への仕返しだと思ってさ」と促されて、気が進まないが健一のスマホを見た。
 画面上には、本人にかなりよく似た感じで描かれている二次元風の直と久瀬さんがいる。うまく描かれているなーと第一印象は感心した。
 

『久瀬、添い寝をしてくれないか?』

 ベットの上でなぜか上半身裸で寝ている直モドキと、仕事が終わって帰ろうとしている久瀬さんモドキが振り返っている1ページ目だった。

『なぜです?あなたには女性が選り取り見取りじゃないですか。あなた好みのデリヘルでも呼びましょうか』
『お前じゃないと嫌なんだ。それにオレは抱き枕がないと寝られない。女といるくらいならお前といる。お前のそばの方が落ち着くんだ』
『直様……。まあ、そこまで言われたら仕方ありませんね。どうなっても仕方ありませんよ』

 ため息がちな久瀬さんがスーツを脱ぎ、ネクタイやシャツを脱いでいく。で、あろうことかスラックスにパンツまで脱いで、直と同じように裸になって矢崎が寝ている隣で横になった。

 二人は裸で添い寝しあい、くっつきあい、やがては見つめあい、危ない雰囲気となって……

『お前、温かいな。もっとオレ様のそばに寄れ。これは命令だ』
『ふふ、わかりました。あなた様の命令は絶対ですからね』
『そう、命令だ。だから……今夜は、この夜は……お前と……』
『みなまで言わずともわかります。あなたのいろんな世話をするのが私の役目。もちろん体のお世話をするのも私の役目。気持ちよくさせてあげますよ……私の直様』

 そうして久瀬さんは直の上に覆いかぶさり、顔を近づけあって、あんなことやこんなことを……

『久瀬……お前だけだ。オレの事をわかってくれるのは』
『もちろんです、直様。あなたをお慕い申しております』

 最後、二人は幸せなキスをして終了したのでした。めでたしめでたし……じゃねえよ!!

「ヴぉえええ!!」

 俺はゲロを吐きそうになった。ゲイとかには偏見はないが、身近にいる知っている人物がその毛がないのにホモ設定にされて、イメージが崩れるというかなんというか、幻滅したような気分にさせられた。
 いくら綺麗な絵で描かれていても、あの二人のホモなんて俺には想像したくない。吐くわ。

「あ、コレ矢崎が攻めバージョンも掲載されているみたいだぞ」
「いや、俺はもうそんな気色悪いもんは見たくないし……」
「まあせっかくだしさ、ギャグとして見ようぜ」
「もはやギャグというか、目の毒だろ」

 精神的ダメージ付きのな。
 しかし、健一に半ば強引に促されて、今度は逆バージョンを見せられた。

『申し訳ございません、直様』
『久瀬、お前はどうやらオレ様の見込んだ秘書じゃなかったようだな』

 珍しく仕事の失敗をしてしまった秘書の久瀬さんが、社長椅子に偉そうに座っている直からお叱りを受けている。

『お前には失望した。別の奴の秘書見習いとしてイチからやり直せ』
『そ、そんな……私は、私はあなた様のおそばを離れたくありません。直様以外の者に仕えるだなんて……考えられない。考えたくもありません!今更そんな事……』
『そうは言ってもなァ……お前のような無能秘書を社長として野放しになんてできないんだよ。トップとして、秘書の責任はオレの責任でもある。無能を雇い続けるオレ様の身にもなれよ』
『どうかお願いします。これからはあなた様の期待に応えられるよう精進いたしますので……どうか、どうか私を……私を見捨てないでくださいっ』

 腕を組みつつクソ偉そうな直のすぐ下で、土下座して頭を下げ続ける久瀬さん。なんだこれ。

『だったら詫びという誠意を見せろよ。この先も無能ながらオレ様に尽くしたいんだろ?』
『……はい。あなた様のためならなんだってします。ですから、私は何をしたら……』
『そうだなあ。じゃあ、お前を抱かせてくれ』
『え……』
『だから、抱かせてくれよ。オレのためならなんだってできるその気概を見せてくれ。秘書ならセックスくらい朝飯前なんだろ?』
『な、直様……わかりました……それであなた様のご機嫌が直るのなら……』

 そして、めくるめくバラ色の世界へ~。

『ああ、直様……激しいです』
『激しくしないとお仕置にならないだろうが。無能なお前にはこうしてやらないとな』

 以後、あっはん、うっふん、やめてください~の描写が続いた。俺はさらに気分が悪くなり、

「やっぱヴぉえええええ!キモイ!もう見たくねえっ!無理!」

 俺は早々に限界が来て脱落した。こんなのをよく女子共は楽しんで見れるものだと感心するよ。二次元ならともかく、現実にいる人物をホモホモしい設定にするなんて俺には上級者向けすぎて受け付けない。ていうかBLが無理なんだろう。
 その後、先ほど見た二人のラブシーンの描写が妙に頭の残像となって残ってしまい、お目直しに美少女ハーレムのエロ漫画を見まくったのは言うまでもない。

「きゃ、ねえねえ直様と久瀬様が来たわよ!」
「きゃー!恋人同士にしか見えなーい!」

 また親衛隊含む女子達が騒ぎ始めている。さっきの思い出すからどうかやめてくれっつうの。

「あの二人本当に付き合ってたらいいのにー」
「そうしたら嫉妬とかしなくていいんだけどねー」
「直様がどこぞの馬とも知れない女と一緒にいると腹立つもんねー」

 やれやれ。そろそろこの事はあまり学校に来ていない直の耳にも入っている頃だろうな。



「なあ、久瀬。最近学校の奴らがオレとお前を見て騒いでいる気がするんだがなんでだ?」
「さあ……知らない方がいいと思いますが」

 オレが久しぶりに学校を訪れると、何やら女子共の視線がいつもより多い気がする。黄色い悲鳴はいつもの事だが、それも何だか違うような……

「きゃー直さまー!久瀬様とはいつ結婚なさるんですか?」

 は……?

「久瀬様とはどこまで進んだのですか~?」
「今日も一緒にご登校だなんてさすがラブラブな主従関係ですわ。見ているこちらとしては微笑ましいです!」

 何を言っている。

「私たち、直様が久瀬様とくっつかれるのを全裸待機しておりますから、存分にいちゃついてくださいねー」
「お二人が性別や立場を超えて結ばれるよう全力で応援いたしますから!」

 だから何を言っている。このメス豚共は。

「久瀬、こいつら宇宙語でも話しているのか」

 オレが唖然と固まりながら久瀬に話を振る。

「だから知らない方がいいと言っているでしょう。人のうわさも七十五日と言いますし……ほとぼりが冷めるまで私は黙秘を貫く所存でございまして「なんだこれ」

 地面に落ちている薄い冊子のようなものを拾った。さっきの騒いでいた一部の女共が落として行ったようだ。題名は……「リバーシブルはお好きですか」って変なタイトルだな。

「直様……そ、それは……」

 顔を引きつらせている久瀬。ていうかこの表紙の人物……久瀬に似てね?こいつのファンが描いたのか?随分とまあ女々しい感じに描かれているな。しかも裸でポーズまでとってるし。ウケる。
 悪趣味だなこれ描いたやつ……と、嘲笑いながらなんとなく適当なページを開くと、久瀬らしき人間のような物体が、オレらしき盛りまくったまがいモノに犯されているようなページが目に入った。

 なにこれ。ナニコレ。ナンダコレ。
 オレは目が点になり、徐々に理解する。

「なんじゃこりゃあ!!」

 オレは目が充血するほど顔が引きつり、猛烈に吐き気のようなものを催した。

「はあ……とうとう見ちゃったんですね」
「お前は知っていたのか!」
「直様には黙っていましたが、小耳に挟んだ程度には……。私も知りたくない事実でしたが、どうやらファンの子達が楽しんで我々をカップルのネタにしているようです。そしてそれがいつしか願望へと変わり、我々の仲を勘違いするようになってきているようなんです。はあ……なんたる侮辱、屈辱感。おえ……っ」

 いつも冷静沈着な久瀬でさえこの顔色の悪さだった。相当精神的にダメージを負ったようである。

「なあ、女共の脳内っていつもこんな事妄想してんのか……?」

 がくがく震えながらページの後半にいくと、今度はオレが女装みたいな格好でモブに襲われつつ、久瀬にホモ行為で慰められるというふざけた話まであった。

「おえぇーっ」

 こっちの方がオレの心情的にきつかったというか、マジで吐くかと思った。精神的大ダメージが計り知れなかった。

「女性の妄想はある意味男性より優れていますからね……。その末にこの同人誌まで作成されて出まわったんじゃないかと」
「コレ広めた奴マジ殺す。風評被害も甚だしい!」

 オレはまじでぶちぎれた。許すわけがなかろう。オレには心にと決めた相手がいるというのに、なぜ久瀬相手とおホモダチにならなきゃならんのだ。

「早急にこのバカな噂を広めた犯人を洗い出せ。あとこれから全校集会を執り行おうと思う」
「全校集会ですか」
「オレとお前のふざけた関係の潔白説明だ!!」


 *


「全校集会って何話すんだろ」
「直様から何か一言あるみたいだよ」
「もしかして直様と久瀬様が正式にお付き合いをしているっていう報告かな~」

 集まった講堂で女子達がそんな事をわくわくしながら会話をしている。
 間違いを犯さなければ99パーそんなわけねーと思いますけど……と、やはり直に同情の念を抱く。噂の詳細知ってブチギレたんだろうな。

『えー朝の早くからお呼び出ししてすみません。矢崎直様から在校生の皆様にお言葉を頂戴いたしt『貸せ!』

 直がバーコードヘッドの教頭が持っているマイクをぶん捕り、超不機嫌そうな顔でしゃべりだす。

『おい貴様ら!最近オレと久瀬が付き合っているとかふざけた妄想をしつつ、それをネタにして面白がってこんな本まで作ってるらしいじゃないか。一体誰の了承を得て作っていやがるんだ?ああん?このロクデナシオナニー野郎どもが!!』

 まるでやくざのような第一声に、全校生徒一同が呆気にとられる。

『まあいい。これの掲載元をすべてあぶりだして削除または作者を訴えるまで』

 直はその薄い本を見せつけつつ、それを勢いよく床に叩きつける。

『オレと久瀬を疑っているようだが、どこからどう見てそう勘違いしたのかは皆目見当がつかない。たしかに社長と秘書という立場上常にそばにいるわけだから誤解されても仕方はないだろう。しかしだ、こっちはいらん誤解までされて、大変不愉快でいい迷惑なんだ。久瀬とオレがいい感じだ?つきあうだ?恋人だ?秘書とホモになるとかありえねーんだよ!!冗談は貴様らのバカな頭だけにしてくれ。こっちは吐き気のようなものがして不愉快極まりない。脳内で妄想するのは勝手だが、事実無根となる噂を流し、こんな気色の悪い本まで作りやがってよ……貴様ら……わかってんのか?あ?』

 阿修羅のような直の表情に、全校生徒一同は寒気のようなものを感じて怯える。これは製作者や噂の発端の犯人に相当な制裁を加える気満々だ。

『後日、噂の発端となる犯人を洗い出し、個人的に制裁を下す。もちろんこの手の本の製作者全員もな!肖像権侵害および名誉棄損として民事裁判も辞さない。覚悟しておくことだ!』

 直の瞳が鋭く全校生徒を刺す。そうして全校集会……いや、矢崎直のブチギレモノ申す会が終了した。


 後日、犯人らしき連中があぶり出され、制裁が秘密裏に行われたとの事だが、その詳細を知りたがる者は誰もいなかった。言ったら矢崎直に抹殺されるかもしれないという恐怖がのしかかり、絶対に関わってはいけないという暗黙のルールとされた。

「あーひでー風評被害にあった」
「こちらも学校外で噂の誤解を解くの大変でしたよ」
「オレにはアイツしか考えられないというのに迷惑な噂を流すもんだぜ」
「甲斐さんの事ですか?」
「当然。はやくデートの日がこないかな」



 完
 

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