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女体化
浮気お家騒動6
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オレの憎しみはしばらく止まらなかった。
ババアを虫の息程度にして恐怖に失禁させるまでは何人たりとも邪魔されたくなかった。恐怖に絶望した所をハラワタを割いてくびり殺してやりたい。それともその醜い顔面を再起不能にまで変形させて硫酸でもかけてやろうか。ああ、どうしてくれようか。
オレの甲斐を階段から突き落として殺そうとしたんだから。しかもそのせいで子供が殺された。
甲斐の中で新しい命が宿っていた第二子を……オレと甲斐の可愛い我が子を……絶対に許すはずがないだろう。
殺す。絶対に許さん。
オレの拳はまた凶器に変わる。
「直様、もうやめてください!」
そして、たくさんのババアの側近共を見境なく半殺しにしていた。必死になった久瀬や部下らに数人がかりで取り押さえられてやっと止まるまで、オレは一心不乱だった。
荒い呼吸を吐きながら周りを見渡すと、ババアの側近やオレの部下ら含めて死屍累々の阿鼻叫喚状態で、拳を見ればいろんな奴らの血で汚れ、顔もスーツも返り血だらけ。屠殺場のようなカオスな状況だった。
オレは知らぬ間に大暴れしていたようだ。久瀬でさえ結構負傷しており、いかにオレが手がつけられない状態だったかを物語っていた。
幸い、一人も死人が出なかったのが不幸中の幸いだと駆けつけた誠一郎のジジイから聞かされる。あのババアはもちろん病院送りにされ、しぶとく生きてはいるが、顔面崩壊の半身不随で寝たきりになったと後から聞いた。
そのまま死ねばよかったのに。まあ、もう寝たきりな上に外歩けない顔にしてやったから、プライドだけはお高いババアなので生き恥晒す前に自殺するのも時間の問題か。それでもあまりスカッとしないのはオレの負の感情が相当有り余っていたせいだろう。甲斐を守れなかった自分自身の不甲斐なさや情けなさ、やるせ無さや怒りがまだ収まらない。
そんな感情が不安定なオレを見て、しばらく仕事を休むようジジイに促された。精神的休息が必要だと言われた。
「すまなかった……直。わしがもっと早くあの女をどうにかしておれば甲斐さんが傷つく事も、可愛い二人目のひ孫を失う事もなかったというのに。甲斐さんが未だに辛い立場にあったというのに、わしは自分の都合で問題を先送りにしてしまっていた。本当にすまんかった」
誠一郎のジジイが何度も何度もオレに頭を下げている。いい加減に見飽きるほどに謝罪を繰り返している。
あの矢崎家の大物がこうして何度も頭を下げているなんて世間が知れば驚きだろうな。一応、立場はジジイの方が断然上だから。
そんなオレはジジイに目もくれず、泣きはらして眠る直樹を抱き寄せながら、ただ茫然自失に扉を眺めている。甲斐が治療を受けている集中治療室を。
ジジイのせいじゃない。一番近くにいたオレがもっと早くに気づいていれば……
仕事なんて優先するべきじゃなかった……。
ジジイがあのババアと結婚したのは、矢崎家から不穏な因子を取り除くためだった事は知っている。矢崎家の中枢を知りすぎているから悪さをしないように見張るためだって。でも結局、それもオレにとっては意味がなさなかった。
甲斐は意識不明のまま手術中。
オレは自分を責めまくった。そうしなければいられないほど、落ち着いてはいられなかった。
「……甲斐……」
愛しい妻の名を呟くと、もぞもぞと腕の中の息子が動いて目を覚ます。
「……おとーしゃ?」
直樹が泣きはらした赤い目でオレの顔を眺めた。
「ないてりゅよ」
直樹に頭を撫でられて慰められるオレはなんて情けない。子供の前で情けない父親だよ、オレは。
甲斐がいないとほんとだめだ……。
何もできやしない。直樹を励ますことすらなにも……
「どうぞ、こちらへ」
治療を終えた医者と看護師に呼ばれた。
それにびくりとして顔をあげると、看護師がオレの顔色を見て逆に心配してきた。きっとひどくやつれた顔なんだろう。先ほどトイレに行った時に鏡を見たら、目にクマを張りつけた病人みたいな顔色に自分でも驚いたくらいだ。
「奥様はこちらです」
心臓が早鐘を打つ。絶え間ない恐怖と不安に泣きそうで、直樹と一緒に恐る恐る治療室に入る。
個室制のICUは広々としており、使われたばかりのいろんな計器が置かれてその向こうに大きなベッドが一台。その上に甲斐が静かに眠っていた。
「甲斐……甲斐……」
ゆっくり寝台に近づいて眠る甲斐の顔色を窺った。
病衣を纏い、巻かれた頭部の包帯が痛々しい。神々しい程に白いその顔色はもう天に召されてしまったようなそんな姿に映り、オレはぶるっと震えて硬直した。
「甲斐……甲斐……おきろよ……」
そっと声をかけると同時に生暖かいものが頬から伝う。どっと涙があふれてきているのに気づいても拭う余裕すらない。押し寄せる凄絶な恐怖が突き上げてどうにかなりそうだった。
「甲斐……目を覚ませ」
微動だにしない甲斐に恐怖はピークに達して背筋が凍りついていく。
「おかーしゃぁ……っ。おかあしゃぁっ」
直樹も冷たい甲斐の手を握ってぐずっている。直樹もオレと同じ気持ちだった。
「頼むから……目を……あけろよ。これからは……ちゃんと……そばにいるから……。下手な料理もちゃんと練習するし……トイレ掃除も嫌がらないから……」
絶え間なく零れる涙が甲斐の頬や髪を濡らしていく。
「……だからっ……甲斐……おきて、くれよ……」
オレは全く動かない甲斐を強く抱きしめた。
「か、い……かい……」
いやだ。いやだ。甲斐を連れて行かないでくれよっ。
オレの生きる希望を取り上げないでくれよ。
甲斐がいない世の中なんてなんの意味もなさないのに。甲斐がそばにいない事が辛いのに。
神様なんていない。
そう絶望が圧し掛かろうとする寸前、背中に微かな感触を感じた。
弱弱しく抱きしめられた気がしてゆっくり抱擁を解くと、甲斐が薄く目を開けて微笑んでいた。
「なに……ないてんだよ……。おれが……そう簡単にくたばるわけ……ないだろう。そんな泣き虫親子を……心配で……置いてなんていけない……」
「甲斐……っ」
「……赤ちゃん……死んじゃったのは……悲しい、けど……」
何もない腹部をさすりながら悲しげに微笑む甲斐。子供はもういないんだって現実を悟っている。
オレはたまらなくなってまた強く甲斐を抱きしめた。子供を死なせてしまった悲しさと甲斐がこうして生きていてくれた不幸中の幸い。どう言っていいかわからない。
「苦しいよ、直」
甲斐を絞殺しそうなくらい強く抱きしめていたようで悪いと謝る。
「甲斐……オレの甲斐。っ……よかった。愛してる」
そうして何度も顔中にキスの嵐を降らせてやる。
「んっ……よせ。直樹の前だから……」
「これくらいいいだろ」
「っ……もう」
青白かった肌が次第に赤みを増して照れていく甲斐が可愛らしい。オレの愛する可愛いくて愛おしい甲斐だ。
「おかーしゃ!おかーしゃあああっ!わああん!」
直樹も感極まって泣いて負けじと甲斐に抱きついた。まだ三歳なのに母親がいなくなるなんて悲劇にならなくて本当によかった。
「心配かけてごめん。直樹」
甲斐が母親らしく何度も直樹の頭を優しく撫でる。
「ほんと、親子揃って泣き虫だ……」
次第に甲斐も目尻に涙をためて嗚咽をこらえている。
「赤ちゃん……いなくなっちゃった……ショックだなあ……」
家族三人で抱き合い、いつまでも一緒に泣いた。
*
あれから六年後――……
直は矢崎財閥社長を電撃辞任した。
半ばムリを言って勘当させてもらったようなものだが、直にとってはやっと呪縛から解放された気分で清々しいものだと話していた。
直は矢崎家が大嫌いだったから、やっと自由になれた気分だとある意味お祝い気分で話している。
そんな今は、あれほど毎日忙しかった社長のお勤めがない分平和で、ゆっくり毎日が過ぎていく。俺の地元の田舎に家を建ててのんびり家族三人で暮らしていた。
「静かな場所でなんのシガラミもなく暮らせる事がこんなに楽だなんて知らなかった」
「直……」
昼寝をしている直樹を微笑ましく見守りながら話す直は、どこからどう見ても父親そのものな顔つきだ。この六年で父親の貫禄がさらについたように思う。
「社長のイスを降りると同時に矢崎家からも家出したからな。後進の育成や公の場に出る事以外は矢崎家と関わる事もなくなる。やっとオレは普通になれるんだなって肩の荷が下りた」
誠一郎さんとは矢崎家抜きで孫と祖父のようないい関係は続いている。もう矢崎の人間ではないからこそ、ある意味気兼ねなく話せるようになっていると直は話す。
「体……大丈夫か」
「え……」
「最近、食欲なさそうだろ」
直はあの流産事件が起こった後からやたら過保護になっていた。俺を心配するあまり、毎日何があったか逐一訊ねてくる程に俺をいつも労わってくる。
「それは……」
心当たりがあった。
吐き気のようなものが時々あって、月のものも最近きていない事。すなわち……
「さっきさ、買い物行った時に念のために妊娠検査薬買って使ってみたらクロでさ」
階段から落ちてひどい流産を経験し、もう妊娠しにくい体だと医者に言われていた。だから妊娠なんてもう望みが薄いと思っていた。だけど今……
「子供、できたかも」
「甲、斐……!」
嬉しそうに驚く直。
「たぶんできたと思う。ちゃんと生まれるか心配だけど……」
また流産するかもしれない恐怖がある。一度死にかけるほどの流産を経験しているから、妊娠しても流産しやすい体になっていると医者から言われている。
「明日、一緒に病院に行こう。なんであれどうであれ、おめでたい事だろ」
「うん……」
「甲斐」
「ん」
「お前を、守るから」
「直……」
その後、病院でやはり妊娠している事を確認した。
ちゃんと産まれるか不安でたまらない毎日だったけれど、無事何事もなく双子の男女の赤ちゃんを出産する事になるまでもうすこし……
完
今後、ユカイの世界線での伏線になる要素が少しあります。
ババアを虫の息程度にして恐怖に失禁させるまでは何人たりとも邪魔されたくなかった。恐怖に絶望した所をハラワタを割いてくびり殺してやりたい。それともその醜い顔面を再起不能にまで変形させて硫酸でもかけてやろうか。ああ、どうしてくれようか。
オレの甲斐を階段から突き落として殺そうとしたんだから。しかもそのせいで子供が殺された。
甲斐の中で新しい命が宿っていた第二子を……オレと甲斐の可愛い我が子を……絶対に許すはずがないだろう。
殺す。絶対に許さん。
オレの拳はまた凶器に変わる。
「直様、もうやめてください!」
そして、たくさんのババアの側近共を見境なく半殺しにしていた。必死になった久瀬や部下らに数人がかりで取り押さえられてやっと止まるまで、オレは一心不乱だった。
荒い呼吸を吐きながら周りを見渡すと、ババアの側近やオレの部下ら含めて死屍累々の阿鼻叫喚状態で、拳を見ればいろんな奴らの血で汚れ、顔もスーツも返り血だらけ。屠殺場のようなカオスな状況だった。
オレは知らぬ間に大暴れしていたようだ。久瀬でさえ結構負傷しており、いかにオレが手がつけられない状態だったかを物語っていた。
幸い、一人も死人が出なかったのが不幸中の幸いだと駆けつけた誠一郎のジジイから聞かされる。あのババアはもちろん病院送りにされ、しぶとく生きてはいるが、顔面崩壊の半身不随で寝たきりになったと後から聞いた。
そのまま死ねばよかったのに。まあ、もう寝たきりな上に外歩けない顔にしてやったから、プライドだけはお高いババアなので生き恥晒す前に自殺するのも時間の問題か。それでもあまりスカッとしないのはオレの負の感情が相当有り余っていたせいだろう。甲斐を守れなかった自分自身の不甲斐なさや情けなさ、やるせ無さや怒りがまだ収まらない。
そんな感情が不安定なオレを見て、しばらく仕事を休むようジジイに促された。精神的休息が必要だと言われた。
「すまなかった……直。わしがもっと早くあの女をどうにかしておれば甲斐さんが傷つく事も、可愛い二人目のひ孫を失う事もなかったというのに。甲斐さんが未だに辛い立場にあったというのに、わしは自分の都合で問題を先送りにしてしまっていた。本当にすまんかった」
誠一郎のジジイが何度も何度もオレに頭を下げている。いい加減に見飽きるほどに謝罪を繰り返している。
あの矢崎家の大物がこうして何度も頭を下げているなんて世間が知れば驚きだろうな。一応、立場はジジイの方が断然上だから。
そんなオレはジジイに目もくれず、泣きはらして眠る直樹を抱き寄せながら、ただ茫然自失に扉を眺めている。甲斐が治療を受けている集中治療室を。
ジジイのせいじゃない。一番近くにいたオレがもっと早くに気づいていれば……
仕事なんて優先するべきじゃなかった……。
ジジイがあのババアと結婚したのは、矢崎家から不穏な因子を取り除くためだった事は知っている。矢崎家の中枢を知りすぎているから悪さをしないように見張るためだって。でも結局、それもオレにとっては意味がなさなかった。
甲斐は意識不明のまま手術中。
オレは自分を責めまくった。そうしなければいられないほど、落ち着いてはいられなかった。
「……甲斐……」
愛しい妻の名を呟くと、もぞもぞと腕の中の息子が動いて目を覚ます。
「……おとーしゃ?」
直樹が泣きはらした赤い目でオレの顔を眺めた。
「ないてりゅよ」
直樹に頭を撫でられて慰められるオレはなんて情けない。子供の前で情けない父親だよ、オレは。
甲斐がいないとほんとだめだ……。
何もできやしない。直樹を励ますことすらなにも……
「どうぞ、こちらへ」
治療を終えた医者と看護師に呼ばれた。
それにびくりとして顔をあげると、看護師がオレの顔色を見て逆に心配してきた。きっとひどくやつれた顔なんだろう。先ほどトイレに行った時に鏡を見たら、目にクマを張りつけた病人みたいな顔色に自分でも驚いたくらいだ。
「奥様はこちらです」
心臓が早鐘を打つ。絶え間ない恐怖と不安に泣きそうで、直樹と一緒に恐る恐る治療室に入る。
個室制のICUは広々としており、使われたばかりのいろんな計器が置かれてその向こうに大きなベッドが一台。その上に甲斐が静かに眠っていた。
「甲斐……甲斐……」
ゆっくり寝台に近づいて眠る甲斐の顔色を窺った。
病衣を纏い、巻かれた頭部の包帯が痛々しい。神々しい程に白いその顔色はもう天に召されてしまったようなそんな姿に映り、オレはぶるっと震えて硬直した。
「甲斐……甲斐……おきろよ……」
そっと声をかけると同時に生暖かいものが頬から伝う。どっと涙があふれてきているのに気づいても拭う余裕すらない。押し寄せる凄絶な恐怖が突き上げてどうにかなりそうだった。
「甲斐……目を覚ませ」
微動だにしない甲斐に恐怖はピークに達して背筋が凍りついていく。
「おかーしゃぁ……っ。おかあしゃぁっ」
直樹も冷たい甲斐の手を握ってぐずっている。直樹もオレと同じ気持ちだった。
「頼むから……目を……あけろよ。これからは……ちゃんと……そばにいるから……。下手な料理もちゃんと練習するし……トイレ掃除も嫌がらないから……」
絶え間なく零れる涙が甲斐の頬や髪を濡らしていく。
「……だからっ……甲斐……おきて、くれよ……」
オレは全く動かない甲斐を強く抱きしめた。
「か、い……かい……」
いやだ。いやだ。甲斐を連れて行かないでくれよっ。
オレの生きる希望を取り上げないでくれよ。
甲斐がいない世の中なんてなんの意味もなさないのに。甲斐がそばにいない事が辛いのに。
神様なんていない。
そう絶望が圧し掛かろうとする寸前、背中に微かな感触を感じた。
弱弱しく抱きしめられた気がしてゆっくり抱擁を解くと、甲斐が薄く目を開けて微笑んでいた。
「なに……ないてんだよ……。おれが……そう簡単にくたばるわけ……ないだろう。そんな泣き虫親子を……心配で……置いてなんていけない……」
「甲斐……っ」
「……赤ちゃん……死んじゃったのは……悲しい、けど……」
何もない腹部をさすりながら悲しげに微笑む甲斐。子供はもういないんだって現実を悟っている。
オレはたまらなくなってまた強く甲斐を抱きしめた。子供を死なせてしまった悲しさと甲斐がこうして生きていてくれた不幸中の幸い。どう言っていいかわからない。
「苦しいよ、直」
甲斐を絞殺しそうなくらい強く抱きしめていたようで悪いと謝る。
「甲斐……オレの甲斐。っ……よかった。愛してる」
そうして何度も顔中にキスの嵐を降らせてやる。
「んっ……よせ。直樹の前だから……」
「これくらいいいだろ」
「っ……もう」
青白かった肌が次第に赤みを増して照れていく甲斐が可愛らしい。オレの愛する可愛いくて愛おしい甲斐だ。
「おかーしゃ!おかーしゃあああっ!わああん!」
直樹も感極まって泣いて負けじと甲斐に抱きついた。まだ三歳なのに母親がいなくなるなんて悲劇にならなくて本当によかった。
「心配かけてごめん。直樹」
甲斐が母親らしく何度も直樹の頭を優しく撫でる。
「ほんと、親子揃って泣き虫だ……」
次第に甲斐も目尻に涙をためて嗚咽をこらえている。
「赤ちゃん……いなくなっちゃった……ショックだなあ……」
家族三人で抱き合い、いつまでも一緒に泣いた。
*
あれから六年後――……
直は矢崎財閥社長を電撃辞任した。
半ばムリを言って勘当させてもらったようなものだが、直にとってはやっと呪縛から解放された気分で清々しいものだと話していた。
直は矢崎家が大嫌いだったから、やっと自由になれた気分だとある意味お祝い気分で話している。
そんな今は、あれほど毎日忙しかった社長のお勤めがない分平和で、ゆっくり毎日が過ぎていく。俺の地元の田舎に家を建ててのんびり家族三人で暮らしていた。
「静かな場所でなんのシガラミもなく暮らせる事がこんなに楽だなんて知らなかった」
「直……」
昼寝をしている直樹を微笑ましく見守りながら話す直は、どこからどう見ても父親そのものな顔つきだ。この六年で父親の貫禄がさらについたように思う。
「社長のイスを降りると同時に矢崎家からも家出したからな。後進の育成や公の場に出る事以外は矢崎家と関わる事もなくなる。やっとオレは普通になれるんだなって肩の荷が下りた」
誠一郎さんとは矢崎家抜きで孫と祖父のようないい関係は続いている。もう矢崎の人間ではないからこそ、ある意味気兼ねなく話せるようになっていると直は話す。
「体……大丈夫か」
「え……」
「最近、食欲なさそうだろ」
直はあの流産事件が起こった後からやたら過保護になっていた。俺を心配するあまり、毎日何があったか逐一訊ねてくる程に俺をいつも労わってくる。
「それは……」
心当たりがあった。
吐き気のようなものが時々あって、月のものも最近きていない事。すなわち……
「さっきさ、買い物行った時に念のために妊娠検査薬買って使ってみたらクロでさ」
階段から落ちてひどい流産を経験し、もう妊娠しにくい体だと医者に言われていた。だから妊娠なんてもう望みが薄いと思っていた。だけど今……
「子供、できたかも」
「甲、斐……!」
嬉しそうに驚く直。
「たぶんできたと思う。ちゃんと生まれるか心配だけど……」
また流産するかもしれない恐怖がある。一度死にかけるほどの流産を経験しているから、妊娠しても流産しやすい体になっていると医者から言われている。
「明日、一緒に病院に行こう。なんであれどうであれ、おめでたい事だろ」
「うん……」
「甲斐」
「ん」
「お前を、守るから」
「直……」
その後、病院でやはり妊娠している事を確認した。
ちゃんと産まれるか不安でたまらない毎日だったけれど、無事何事もなく双子の男女の赤ちゃんを出産する事になるまでもうすこし……
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