【スピンオフ】学園トップに反抗したら様子がおかしくなったいろいろ

いとこんドリア

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黒崎一家(子供四人付き)

黒崎一家のらぶらぶライフ3

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「はーい!ではこの問題わかる人ー!」
「「はぁーい!!」」

 男の担任の教師が黒板に書かれた問題を出している。割り算の問題だ。それに対して親が見ている前でいい所を見せたい子供達は一斉に手を上げている。

「割り算かぁ。俺さぁ、割り算が昔から苦手でさ、未だに桁が多い割り算って苦手なんだよな~。それに小数点とかついてたり、分数の計算になると難易度が上がるだろ。昔から算数は0点を量産していたよ」
「ぷ、お前は昔から0点を量産しまくってたのか。実に甲斐らしくてウケる」
「笑うなよ。人間だれしも得意不得意があるからな。アンタだって家事下手糞だろ」
「それは否定しない」

 甲斐の算数は直が教師役として授業をするようになって飛躍的に上昇したと思っていたが、そうでもなかったようだ。この様子では次のテストの結果は目に見えるようである。直は呆れながらも、甲斐が留年しないように面倒を見てやるかと思うのだった。

「はいでは、黒崎真白ちゃん。黒板に出て来て解いてみてください」
「はい」

 真白が緊張気味に黒板の前に出て行こうとすると、一番前に座っていた子が急に足を突き出してきた。真白はすぐに反応できずにつまずき、

「ぎゃうっ」

 顔面から勢いよく転げた。

 盛大に転んだせいで、スカートの中の水玉パンツが大勢の前で丸見えになってしまっていた。

「ま、真白っ!パンツ!パンツ丸見えになってるよ!」
「え、パンツ?ひゃあっ!!」

 甲夜に突っ込まれて気づいた真白はすぐにスカートごとお尻を押さえる。それでも遅かった。

 クラスメートの男子達は美少女のパンツ姿に顔を赤くしており、担任の教師は「大丈夫ですかぁ?」と言いながらも顔がにやけていた。ロリコン気味な男性保護者達は、美少女のパンツキタコレと興奮が止まらない様子。真白は羞恥心に真っ赤になった。

「あははは!真白ちゃんてば何転んでんの~?だっさー!パパやママが見ている前で恥ずかしー。クラスの男子達もいるのにね~!」

 一番前に座っていた瑠衣子が真白を指さして笑っている。その親も釣られて笑うと、さすがの真白は半泣きになって顔を上げる事が出来ない。それに対してさらに笑い続ける意地川親子に、周りのクラスメートやまともな保護者達はさすがにドン引きしていた。

「ねえ、キミ瑠衣子ちゃんっていうんだっけ。真白に足ひっかけたでしょ?」

 授業中とはいえ、まわりは誰も注意せず、担任でさえ半笑いだ。さすがに見ていられなかった甲斐は足を引っかけた瑠衣子に声を掛けた。

「はぁ~?なんですかぁ。あたしそんな事してないし~。あたしいい子だもん。ねえママ?」
「そうよ!あたしの瑠衣子ちゃんがそんな事するわけないじゃない。言いがかりはよしてほしいわね~貧乏人が」
「じゃあ、動画を撮ってる方に証拠を提供してもらいましょうか。きっとその子が足を出している瞬間が見れると思いますので」
「は!?何勝手な真似すんの。あたしの娘はしてないって言ってるじゃない!あんまり余計な事すると、あなたの子供が学校通えなくなるわよ」
「……通えなくなるってそれってどういう事ですか」

 甲斐の目が冷たく表情を無くしていく。

「その言葉通りよ!あたしの旦那は矢崎財閥の本社で働くエリート幹部。あんた達なんて私達の権力でどうにでもなるんだから。この町にいられなくする事だってね!ねえ?あなた」

 母親の瑠衣奈が隣にいる旦那に視線を合わせる。

「ああ。貧乏人風情が私達に楯突くと悲惨な目に遭うぞ。矢崎財閥エリート幹部の権力は伊達じゃないからな」

 旦那の瑠衣男は得意げに口の端を持ちあげている。

「ほぉ……お前は矢崎財閥の幹部なのか」

 そんな時、一際威圧感を放っている直が腕を組みながら瑠衣男に近づいた。直の身長がこの場で一番高いので自然と皆が視線を見上げてしまう。

「な、なんだお前はっ!この私に対して無礼なっ!私は矢崎財閥本社勤務だぞ!それを知っての事か」
「知らん。だけど今詳細を知った。読み上げてやるよ。ええと、意地川瑠衣男、52歳。身長170センチに体重85キロ。矢崎財閥本社の営業課課長。妻と娘と三人暮らし。年収は約2000万。家は世田谷のタワマン住まい。休日はゴルフとキャバクラ巡りで、妻以外の何人もの愛人を囲い込み、特殊SMプレイ好きという性癖持ち。最近頭が薄くなってきた事を嘆き、自前のカツラを使用中……」

 ずらずらとこの男の素性から始まり、恥ずかしい性癖まで言い放ってしまう直は、その手にはスマホからのメールを読み上げただけのようだ。

 そんな瑠衣男はその素性と性癖をばらされて顔を赤くさせたり、青くさせたり忙しい。隣にいる妻の瑠衣奈はそれ以上に顔を赤くさせて怒りに震えている。

 この様子では本当の事なのだろう。まわりの保護者達はドン引きし、娘の瑠衣子は父に失望したような顔を浮かべていた。

「あんたっ!!また愛人を囲い込んでいたのねっ!!しかも特殊SMプレイってなによ!!」
「い、いや、違うんだこれは誤解だっ!この男がデタラメを言っているだけでっ」
「デタラメだと思うならそう思っていればいい。でもお前の情報はこちらに筒抜けだから言い逃れはできなくなるだろう。秘書の久瀬からお前のデータをメールで送ってもらったからな。それこそ公にできないものもある」
「ひ、秘書の久瀬様とは……ま……まさか……あなた様はっ!」

 直の顔をじっくり見たうえでやっと目の前にいる者が誰かを思い知る。青い顔をさらに青くしてガタガタ震え出した。

「名前は出すなよ。一応今はお忍びなんだ。もし出したら……わかってんだろうな?」

 瑠衣男は直の鋭い視線にすくみ上がる。子供が見たら泣くような殺気にあてられて何も言えないようだ。

「ハイ、それくらいにしとけよ。それ以上殺気だしたら周りの子供が泣いちゃうから」

 甲斐が妻のような言葉で旦那を窘める。もう半泣きな子がいるが、これ以上被害を子供に拡大させるべきではない。

「オレの可愛い真白を転ばせて親子共々悪びれもなく笑ってやがるんだ。これくらい当然だろ。それにクラスメートのガキ共も、このバカ親子に逆らえないからって事なかれ主義に徹していたみたいだからな。誰も助けないで見て見ぬふり。最低だな。だから徹底的に泣かして反省させないとだめだ」
「気持ちはわかるけど……真白、大丈夫か?」
「うん……ママ。真白、大恥かいちゃった」
「大恥じゃないよ。みんなわかってるから」
「っ……ママぁ」

 半泣きな真白をぎゅっと抱きしめてやると、見ていた甲夜も席を立ってやってきたので頭を撫でてやる。授業が中断しているけど、こうなった直は誰にも止められないので行く末を見守るしかないだろう。

「ていうかこの父親って何者なのよ!たしかにイイ男であたしが大ファンの矢崎直様そっくりだけど、いくらなんでも目つき悪すぎだわっ!その視線もカッコイイけどっ!」

 瑠衣奈が発狂する横で、瑠衣男は青い顔をしながらハラハラしている。

「ばか!この御方はだな……私以上の格上なんだ!つまり私ごときが話せるようなお人ではないというか……」
「格上~?イケメンだけどこんな性格悪そうな男が!?」
「性格悪いのはテメエだろうがババア」

 少しだけ目つきをさらに鋭くすると、瑠衣奈は顔を引き攣らせる。

「ひっ……ちょ、ちょっとそんな風に睨まないでよっ!ただの子供の悪戯でしょ!?子供の問題なんだからあたしは関係ないし。大人が子供の問題に首突っ込むなとか言うじゃない」
「そ、そうだよ!あたし子供だから別にいいでしょ?真白ちゃんにしたのはちょっとした冗談なんだからさっ!反省してるしぃ」

 形だけ反省しているふりをして冗談で済ませる瑠衣子と、自己保身に走る瑠衣奈に直は海よりも深いため息を吐く。ロクな親子ではないなと呆れ果てた。

「ガキだからすぐに誠心誠意謝るなら許してやってもいいと思ったが、謝らないどころかこうじゃな。どういう躾をしたら人を陥れて笑えるガキが育つのか知りたいものだよ。ロクなガキを量産しないなオマエ」
「な、なによっ!人の家庭の問題なんだからほっといてよっ。こうなったのも瑠衣子のせいなんだからっ」
「えっ、なんで。ひどいママっ。あたし悪くないモン!ママがそうしていいって言うからそうしてただけなのに!」
「あらあたしのせいだって言うの?あたしはただ旦那が貧乏人を下にみとけばいいって言って」
「私のせいだとでも言うのか!元はと言えばお前が学校で好き勝手するから「うるっせぇんだよ貴様ら」

 しまいには親子三人でケンカをする始末で、直は一喝する。さらに底冷えする視線で三人を睨みつけた。

「ケンカなら他所でやれ……授業中だろうが。授業終わったら覚悟しとけよ」
「「「はひいっ」」」

 その後、いろいろあって中断していた授業が再開された。先ほどの事があってからクラスメート達も保護者達も緊張した様に誰も口を開かなくなった。騒がしかった子供の声が何一つなくなり、授業が静かすぎて逆に不気味な授業参観が呆気なく終わったのであった。


「真白ちゃんと甲夜ちゃんのパパとママ綺麗でカッコイイね!頼りになるしうらやましー」

 授業参観が終わった後、一斉にクラスメート達に取り囲まれた。話題はもちろん先ほどの事や真白と甲夜のご両親の事だった。子供達はもちろんの事、保護者方もあの美人奥さんと旦那様の詳細キボンヌと鼻息荒く盛り上がっていたのだとか。

「お母さんの方は優しそうで美人だし、お父さんの方は怖そうだけど超イケメンで矢崎直に似てるね」
「私のママが矢崎直の超ファンでさー。あまりに似てるからすっごい興奮してたよ」
「うん……パパ、矢崎直に似てる、ね」
「かっこよくてハンサムで頼りになる自慢のお父さんですっ」

 似てるどころか本人ですなんて口が裂けても言えない。でも、こうして秘密にしておくのが家族だけの特権みたいな感じで、少しだけ優越感に浸る真白と甲夜。

「ねえ、真白ちゃんや甲夜ちゃんのパパって何者なの?あの親子を黙らせるなんてすごいよ」
「パパ、数学教師、だよ。時々英語、教えたりしてる」
「うん、頭がすっごくいいんだ。アメリカのすごい大学を主席で卒業したんだよ」
「「へえーすごーい!カッコいい!!」」

 間違ってはいない。アメリカの大学を飛び級で首席で卒業し、本当に開星でEクラスに数学を教えているのだから。
 
「そういえば瑠衣子ちゃんってどうしたの?あれから戻って来てないけど」
「さあ。パパの知り合い、親子共々連れて行っちゃった」
  
 きっとオトシマエをつけさせたんだろう。頼りになるパパに任せておけば、あの親子はもう二度と調子には乗らないはずだと思う真白。

「あの、真白ちゃん、甲夜ちゃん。今まで助けてあげられなくてごめんね。瑠衣子ちゃんやそのお母さんには逆らうなって親に言われてて、怖くて何も言えなかったの」
「逆らうと学校通えなくするとか脅されてて……」
「別にいい。あの親子、居なくなって平和になった。これで学校楽しめる。ね、甲夜」
「そうだね、真白」


 その翌日、あの親子は急に引っ越しが決まったと担任から説明があった。あまりに急で驚いたが、その理由はなんとなく昨日の授業参観でみんなが察していた。

 今までの悪さが上の耳に入り左遷されたとか、矢崎財閥の上級幹部をブチギレさせたとか、愛人騒ぎにより離婚騒動になったとか、噂と憶測が尾鰭をついて、最終的に矢崎財閥をクビになって離婚になったんだろうと誰かが言っていた。定かではないが。

 何はともあれ、性悪ボスママ親子がいなくなってクラスやこの町に平和が訪れたのであった。

 完

 次回は親子合宿編
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