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平和な世界線in女体化
女になっちまいました7
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あんな形で終わるなんて思わなかった。もっとしっかり考えて、アイツに返事を伝えるべきだったと思う。でも、もう終わってから何を考えようとも過ぎてしまった事。これでアイツとの接点は間もなくなくなる。
学校では主人と従者という関係ではあるが、それもそろそろ解任されるはず。矢崎は仕事の繁忙期でなかなか学校にこれなくなるようだし、俺もバイトや勉強で忙しい。関わる事なんてなくなる。いや、むしろなんで関わっていたんだろう。元々、お互いは畑違いの立場だったのに。不思議な縁だったな。
あんな別れ方をしてどんな顔で会えばいいかわからない。アイツも嫌だろうし、俺も気まずい。しばらくは少し寂しさを感じるだろうが、そのうち慣れるはずだ。あいつと関わらなかった日々に。少し前の自分に。
俺はずっと矢崎の事を思い出にしていくのだろう。将来は高校時代の淡い恋のメモリアルとして、Eクラスの仲間と酒でも飲んで笑いながら話すネタの一つになってくれたらいい。そう思っていた。
「甲斐、さっきからぼーっとしてるけど大丈夫か?」
本木くんがいきなり顔面に現れた。
「へ?」
「ハンバーグが焦げてるぞ」
「うげっ!」
大好きな調理実習中にぼけーっとしてしまった事を嘆きたい。くそっ、料理だけは好きな俺が迂闊だった。おかげで上手く焼けていたハンバーグがおはぎみたいに真っ黒になってしまった。食えるかなこれ。
「甲斐君が料理で失敗なんて珍しいね。なんかあった?」
宮本君が野菜を切っている。
「今晩のメシの事を考えてたんだ」
「それは嘘だな」
チビの山本がしゃしゃり出てきた。
「どうせてめえの事だ!イカガワシイ動画の事を考えていたんだろ!今晩何で抜くかなってな!このスケベ野郎め!」
「俺は今女なんでそんなエロ動画見ても抜く事もできねーよアホチビ。これやるからすっこんでろ」
チビに開星四大美女のほかほかのキワドイ生写真を差し出すと、犬のように強奪して去って行った。どっちがスケベ野郎なんだか。しかし、気を抜く暇もなく今度はドM会長がやってきた。おいお前無才だろうが。
「ご主人様、女になってさぞや不便だろう。ささ、不便だからこそ俺のケツ穴にディルドをば」
「帰れ。そして土に還れ。粗チン野郎が」
「ああ、その辛辣な言葉たまりまんとひひ。さあ、何度でもいっておくんなまし」
「……はあ」
とりあえずドM会長をロープで亀甲縛りしてその辺に宙づり放置しておく。チビといい、ドM会長といい、いつも通りなのはこちらとしても助かるのだが、未だに矢崎の事を引きずる俺は未練がましいな。
「なーにこのおはぎ。こんなおはぎ初めてみたんだけどォ」
いきなり真横から現れて俺のハンバーグをガン見してくるこの男は、最近よくEクラスに顔を見せるようになった。
「相田、また来たのか。本当に神出鬼没な野郎だな」
いつの間にか俺の真横にいて、気配も立てずにいるものだから時々ビビるものだ。弱体化前の俺だったら廊下の外からでもいるのは気配でわかっていただろうが、今はこの通り全くわからない。
「だって甲斐ちゃんの驚く顔を見るのが毎日の楽しみだもん」
「やめろや。お前がいつ現れるかわからないせいでうかうか便所でウンコもできやしねーじゃねぇか」
「へえ、そこまでオイラの事気にしてくれてるのって悪くないなぁ。でもさすがに女子便所で人が大便してる所なんて覗く趣味はないよ。甲斐ちゃんならちょっと気になるけど」
「気になるな悪趣味」
相田とこういうやりとりをするのは恒例になってきた。俺が矢崎をフッてからほぼ毎日こんなだからな。
「甲斐ってほんと四天王キラーだよな」と、健一。
「あの性格が悪魔と噂されている相田拓実とフツーにタメ口で、しかもあんな突っ込みできるの甲斐くらいだよ。フツーならビビって話しかけるなんてとても無理な相手なのに」
クラスメートのみんなは相田やら四天王にビビっているが、俺としては別に何も怖気づく事はないのでなんだか変な感じだ。そんな怖い奴でもないのに。まあ時々サイコパスっぽいけど。
「ねえ、そのおはぎオイラ食べていい?甲斐ちゃんが作ったやつ」
相田が俺の失敗ハンバーグを指さして目をキラキラさせている。
「おはぎじゃねーっつうの。食べてもいいけどお前の口にあうかわからんぞ?焦げてるし」
「いーのいーの。甲斐ちゃんが作ったって事に意味があるんだから。オイラ、甲斐ちゃんの事もっと知りたい」
「俺に関しての事なんぞたかが知れてるだろ。いたって平凡地味なヲタクだっつうの」
「わかってないなあ。そういう些細な事に魅力を感じる事だってあるでしょ。ねえ、あーんして食べさして?」
「面倒くせーな。自分で食え」
「いーじゃんいーじゃん。甲斐ちゃんからあーんして食べさせてもらうと美味しさ倍増しそうだし。はい、フォーク」
フォークを差し出して俺が「はい、あーん」を待っているコイツ。
「倍増するかは知らんが仕方ねえ。はい、あーん」
一切れのハンバーグを差し出すと、口を開けてぱくりと相田は頬張る。顔はニッコニコである。
「もぐもぐ。焦げ焦げだけどこの焦げた感じがいい具合に美味しい~」
にっこり笑顔で言うものだから本当にそう思ってくれたんだろう。気をよくした俺は「全部食っていいぞ」と言うと、相田は「え?いいの?わーい」なんて子供みたいにはしゃいでいる。
たかが焦げたハンバーグ一つ位で大げさな奴。腹黒くて愉快犯なくせしてこんな風に純粋に喜べる所もあるんだな。そういうの見ると、腹黒いこいつでも悪くないものだ。こちらも純粋に嬉しくなるってものである。俺は思わず顔を綻ばせた。
「きゃーー!見て見てー!」
家庭科室の外から黄色さを含む声援がきこえてきた。騒がしいなとなんとなく自分達も教室の外を覗くと、
「あれってたしか網走梨華じゃない?」
「嘘!本物!?」
「直様と腕組んで歩いてるっ」
「うう、悔しいけど美男美女お似合いよねー。あの女相手ならあたしらでも勝てないわ」
一同の視線の先には丁度廊下でその二人が並んで歩いている。二人が並べば絵に描いたような美男美女カップルに見え、ミーハー女子達の甲高い悲鳴は鳴りやまない。
心底うざそうに迷惑そうにしている矢崎をなんのその。網走は彼に擦り寄ってみんなに見せつけている。その網走の視線が丁度目と鼻の先にいた俺とあうと、網走は勝ち誇った顔をこちらに向けた。まるで矢崎は自分のものだと目線で訴えかけるようにして薄く微笑んでいた。
無性にムカつき、見るんじゃなかったと猛烈に後悔した。羨望と嫉妬を孕んだ声は二人が向こうへ通り過ぎるまで続いた。
「あの二人……付き合ってるのかな」
ぼそりと宮本君が呟く。俺は下を向いて黙った。
「ご、ごめん。矢崎君と仲のいい甲斐君には気分悪い話だったよね」
「いや別にいいよ。矢崎と俺はそこまで仲がいい関係じゃないし、別に付き合ってもないから」
「甲斐君……」
「甲斐……」
宮本君と本木君は何かを言いたそうだった。
「ささ、気を取り直してハンバーグを作ろうぜ」
そう強がっても心には嘘はつけない。最高に気分が悪い場面だ。
そもそも二人してなんで廊下を歩いてんだよ。なんであの性悪女があの場にいるわけ?俺に見せしめか?皆に付き合ってますアピールか?どんだけ自慢したいんだよ。
あー嫌だ嫌だ。塩でも巻いておかなくちゃな全く。
「万里ちゃん先生、相沢先生、ちょっと気分悪いから保健室に行ってくる」
五限目が始まる前、丁度歩いていた担任の万里ちゃん先生と相沢先生を捕まえた。午後は二人の授業だったはず。先ほどのあの性悪女の視線で気分が悪くなったので休むことにしたのだ。
とにかく今は一人になりたい。それだけだ。きっと寝てりゃあすぐ元通りなはず。時間が解決してくれるはずだ。
「架谷くん、どこか具合が悪いのですか?」
「ちょっと休んだらすぐよくなるような頭痛と胸やけ的なやつ」
「なら、オイラが連れて行ってあげるー」
相田がいきなり笑顔でその場に現れて近寄ってきた。
「なんでお前がいるんだよ。つかお前まで付いてこられたらお前の親衛隊に目をつけられるというかだな」
「大丈夫。おいらね、そこんとこはアイツと違って抜かりはないから」
「は?」
アイツって他の四天王の事か。
「とにかく、そーゆー事は気にしないで大丈夫だから、甲斐ちゃんは安心してオイラに体を預けておくように」
相田は軽々と俺を持ち上げた。お姫様抱っこという横抱きで。
「ひ、ちょっと!てめえおろせ!みんな見てるだろーがアホ!!」
暴れて足をばたつかせる今の俺なんて大したことがないだろう。相田は愉しげである。
「あははは。甲斐ちゃん軽い軽い~~!まるで女の子みたーい!」
「女なわけないだろうがドアホ!!」
「相田君。架谷君が嫌がっていますのでそこまでにしてあげてください」
俺が暴れていると、急に俺と相田の間に済ました顔で相沢先生が入ってきた。
「なにアイザワ先生。このオイラに命令すんの?」
口元は笑っているのに目が笑っていない相田が薄気味悪く微笑む。それは相沢先生も同じで、同じような顔をしている。
「甲斐君が嫌がっているので見かねたのですよ」
「嫌がってるってそれ先生の感想でしょ」
「あなたの目は節穴のようですね。そういう強引な所はやめた方がいいのでは」
この二人、そんな仲悪かったっけ。
「ご忠告どうも。これがオイラのやり方なんで。それと先生ってばさりげなく苗字から名前で呼んじゃって。相沢先生ってわかりやすいね。先生という立場を忘れない方がいいよ」
「こちらこそご忠告ありがとうございます。では、教師として私が架谷君を保健室へ連れて行きます」
「権力行使で優位に立とうと必死だね。痛々しいよ」
「痛々しいのはそちらも同じでは。相田君」
ブリザードが吹き荒れそうな空気と視線のぶつかり合いに俺は呆れ、万里ちゃん先生はアワアワしている。なんなんだこいつら。
「先生、甲斐ちゃんを落としたら先生の正体ばらしますからね。くれぐれも丁重に扱ってくださいよ」
「当たり前なことを心配してくれて感謝いたします。架谷君の事はどうぞお任せください。次期総統サマ」
相田は俺を相沢先生に預け、腑に落ちないような態度で手を振って去って行った。
なんだったんだアイツ。いや、そもそもだ。
「先生までなんでこんな抱き方なんだよ」
「そうした方が持ちやすいですし、今のあなたは軽いですから」
「知ってるんだな。女になった事」
「そりゃあ、いつもあなたを見ていますから」
「え……」
監視されてんのか俺。
「なんて。さあ、行きましょうか」
「いや、その前におろしてくれ。普通に歩けるから」
「ダメです。あなたは大事な生徒ですから」
「せめてこの抱き方だけはやめてくれってば、真生さん」
「残念。そのお願いだけは聞けませんよ、甲斐君」
*
…………。
その光景を見て体がわなわな震えた。先ほどなんとなく架谷の視線があったからつい振り返ってみたけれど、あっちはあっちで傷心している自分の事などおかまいなしに楽しそうで虫唾が走った。
拓実と相沢。あの二人と架谷はあんなに仲がよかったのだろうか。
二人の一方的な気持ちを架谷に向けているだけかと思ったが、架谷もまんざらでもなさそうで腹が立つ。
オレを振って二週間しか経ってないくせに……もう他所の男共に愛想を振りまきやがって。
無意識で握っていた拳から血が出そうなくらい嫉妬が止まらない。それと同時に胸も痛いくらい切なくもなって、いろんな意味で泣きそうになった。
なんで拓実とあんなに楽しそうなんだよ。なんで相沢にも簡単にいい寄られてんだよ。オレの方がお前を好きなのに。オレの方がお前をこんなにも想っているのに。
オレじゃだめなのかよ。オレじゃお前を幸せにできない?
「クソッ……!!」
がしゃんと盛大に割れるガラスの破片達。近くを通りかかった教師や生徒達がビビりながら通り過ぎていく。隣にいる梨華はいつもの事だと別にビビっていない様子だ。
窓ガラスだけならともかく、このままじゃあ人間相手でさえも八つ当たりしてしまいそうだ。窓ガラスを次々破壊して発散しても、このムカムカは収まりそうもないのだから。
あんなのを見せつけられてしまえば、嫉妬でおかしくなってすべて自分のものにしたくなる。無理やりでもあいつを、架谷をオレだけのモノにしたくなる――ッ。
「ねぇ、直~あたし開星って初めて来たんだけど悪くない学校ね。あたしもこの学校に通えばよかったぁ」
「いい加減に引っ付いてくんじゃねえ!」
梨華の手を乱暴に振り払う。そして梨華より先にずんずん前を行く。それにめげる事なく梨華は小走りですり寄ってくる。いつも乱暴だからこれくらいじゃ引き下がらない。
「直~!歩くの早いし待ってぇ」
「うるせぇ。着いてきたらその顔面をセルフ整形してやる。オレの昼寝の邪魔をするな。殺すぞ」
一瞬だけマジで殺しそうな瞳を見せつけ、梨華を置き去りにした。
*
「本当に一人で大丈夫ですか?添い寝しましょうか?」
「なんでそこで添い寝なんだよ。一人で大丈夫だから。あんたは先生としてお勤め頑張ってくれよ」
相沢先生によって保健室に連れて来られた俺は、消毒臭い部屋のベットにやっとおろされた。
世話を焼いてくる先生を変に思いながらも、一人になりたいからと言って遠慮した。真生さんにしろ相田にしろ、最近の俺の周りは意外に世話焼きが多い気がする。男のモテ期ってやつだろうか。野郎にモテても嬉しくない。
はあ……俺、性格悪くなってんな。
あの性悪女にいらついても仕方がないってのに、自分が女になってから性格まで女々しさに拍車をかけたように思う。身も心も性格悪い女に成り下がってしまったのか。女って男関係で揉めると性格が歪むとよく聞くが、まさしく今の自分もそうなるなんて思わなかったよ。
早く忘れたい。この醜い感情も、矢崎を好きだって気持ちも。
「拓実や相沢とはもうヤッタわけ?架谷クン」
ぞくりとした。
一瞬、幽霊かと思ったほど、気配を立てずに背後にいた男に戦慄しそうになった。振り返ると、狂気を宿したような目の男が、腕を組んで壁に寄りかかりながら立っていた。
「……や、ざき」
本当に相田といい、この矢崎といい、神出鬼没もいい所だ。気配探知が出来ない俺を脅かそうとする所がひどいものである。
「なんだよ……何、言ってんだよお前……」
「答えろ」
目で威圧するように訊ねてくる矢崎。
ヤッタってあのヤッタって事か?なんちゅー事訊いてくんだコイツ。
「意味がわからない」
とりあえずそう返すと、矢崎はオブラートに包まずに「セックス」と一言つぶやいた。
「はあ?アホか!そんな事するかっ!相田や先生とはそんなんじゃねえっつうの!何勝手に斜め上の誤解してんだよっ!」
「……誤解?あんな風に拓実や相沢と楽しくしてやがったくせしてよく言う」
矢崎の声はいつも以上に重低音で怒りを孕んでいる。
「そんでもってお姫様抱っこなんてしてもらってよ、てっきりもうよろしくしてやってんのかと思った。拓実の奴は手が早いからなぁ。あの教師も紳士ズラして実に手が早い。どうせこの後、どちらかとそろってホテルに直行すんだろ。んで、バカみたいにイチャコライチャコラして、愛を囁きまくるんだろ。さぞやお楽しみなこったな。あー気持ちが悪くて反吐が出る」
矢崎は俺を軽蔑の眼差しで見る。
心外だと言いたいのに、あの入学当初の鋭い視線に怯みそうになった。
なんなんだこいつは。そりゃたしかにこの男を振った。
まわりくどく本人にも言わないで、あの網走経由となってしまったから、ちゃんと考えて誠実に対応するべきだったと反省はしている。だから怒る理由は多々あるだろう。
でも、なんで相田や先生と仲良くしている事をとやかく言われなくてはならないのだろう。人の勝手だというのに。別に付き合ってもいないというのに。
相田と先生とはそんないかがわしい関係であるはずがないというのに。もしかして嫉妬しているのか。
「馬鹿にするなよ。そんな誰構わず股開くような真似するかッ。お前ら遊び人と一緒にすんじゃねぇ!」
言いがかりみたいだから一喝した。が、逆ににじり寄られて、なんとなく近寄って来られる事に恐怖を感じて、後ずされば壁に勢いよくどんと押された。背中を強く打ちつけて痛みに顔を歪める。
「痛っ!てめえ、何すんだよ!」
睨んで見上げると、それ以上に強く睨み返された。目の圧に言葉が出なかった。
「誰のせいでここまで悩んでると思ってんだよ。誰のせいでここまでキレてると思ってんだよ。オレはこんなにもお前を想って苦しんでいるのに……テメエは公衆の面前で無自覚に拓実と相沢とイチャイチャしやがってよ、マジムカツクわ」
怒っているのに泣いて見えてしまうのは目の錯覚だろうか。俺は茫然として矢崎を見ている。
「優しくなんてしてやらねぇわ。お前がいないオレに意味なんてないんだから」
素早く手首を掴まれて、力任せにすぐ近くにあるベットに押し倒された。悲しみと濁ったような瞳の矢崎に声が出ず、そのまま覆いかぶされた。
「なにを……」
何も答えず、俺の制服の白いシャツをボタンごと引きちぎった。床にボタンが飛び散って転がる。
「や……ッ!やめろってば!」
俺は今まで感じたことのない恐怖を感じた。足をばたつかせて逃れようともがくが、矢崎は問答無用で男の力で押さえつけてきた。非力で弱体化した女の俺ではとてもいなせるはずがない。
あの体育倉庫でのやりとりがフラッシュバックする。いや、あの時以上に怖い。
恐くて、体が動かない。
これが矢崎なのか。本気でキレているっていうのか。見たことがない矢崎の一面に俺は震える。
「ッいやだ!」
首筋や胸元に生暖かい感触がする。舌が這いずりまわる感触に背筋の震えが止まらない。
「今のお前は所詮は非力な女。男の力には敵わない」
その言葉通りだった。男の時だったなら振り払えたが、女の自分では力の差は歴然。俺がもがけばもがくほど矢崎の凶暴性が増したように唸り、さらに力でねじ伏せられて圧倒された。
「いや、だっ」
毎日巻いているさらしをするりと取っ払われ、乱暴に胸を揉みしだかれる。
快楽とは程遠い。痛みが伴う愛撫は恐怖にしか感じない。
「ふふ……いいな。恐怖に打ち震えるその顔……たまらない。ずっと見たかった。屈服させたかったんだお前を」
「やざき……やめろって……」
ショーツに手を入れられると、頬から生理的に涙がこぼれ落ちてきた。
学校では主人と従者という関係ではあるが、それもそろそろ解任されるはず。矢崎は仕事の繁忙期でなかなか学校にこれなくなるようだし、俺もバイトや勉強で忙しい。関わる事なんてなくなる。いや、むしろなんで関わっていたんだろう。元々、お互いは畑違いの立場だったのに。不思議な縁だったな。
あんな別れ方をしてどんな顔で会えばいいかわからない。アイツも嫌だろうし、俺も気まずい。しばらくは少し寂しさを感じるだろうが、そのうち慣れるはずだ。あいつと関わらなかった日々に。少し前の自分に。
俺はずっと矢崎の事を思い出にしていくのだろう。将来は高校時代の淡い恋のメモリアルとして、Eクラスの仲間と酒でも飲んで笑いながら話すネタの一つになってくれたらいい。そう思っていた。
「甲斐、さっきからぼーっとしてるけど大丈夫か?」
本木くんがいきなり顔面に現れた。
「へ?」
「ハンバーグが焦げてるぞ」
「うげっ!」
大好きな調理実習中にぼけーっとしてしまった事を嘆きたい。くそっ、料理だけは好きな俺が迂闊だった。おかげで上手く焼けていたハンバーグがおはぎみたいに真っ黒になってしまった。食えるかなこれ。
「甲斐君が料理で失敗なんて珍しいね。なんかあった?」
宮本君が野菜を切っている。
「今晩のメシの事を考えてたんだ」
「それは嘘だな」
チビの山本がしゃしゃり出てきた。
「どうせてめえの事だ!イカガワシイ動画の事を考えていたんだろ!今晩何で抜くかなってな!このスケベ野郎め!」
「俺は今女なんでそんなエロ動画見ても抜く事もできねーよアホチビ。これやるからすっこんでろ」
チビに開星四大美女のほかほかのキワドイ生写真を差し出すと、犬のように強奪して去って行った。どっちがスケベ野郎なんだか。しかし、気を抜く暇もなく今度はドM会長がやってきた。おいお前無才だろうが。
「ご主人様、女になってさぞや不便だろう。ささ、不便だからこそ俺のケツ穴にディルドをば」
「帰れ。そして土に還れ。粗チン野郎が」
「ああ、その辛辣な言葉たまりまんとひひ。さあ、何度でもいっておくんなまし」
「……はあ」
とりあえずドM会長をロープで亀甲縛りしてその辺に宙づり放置しておく。チビといい、ドM会長といい、いつも通りなのはこちらとしても助かるのだが、未だに矢崎の事を引きずる俺は未練がましいな。
「なーにこのおはぎ。こんなおはぎ初めてみたんだけどォ」
いきなり真横から現れて俺のハンバーグをガン見してくるこの男は、最近よくEクラスに顔を見せるようになった。
「相田、また来たのか。本当に神出鬼没な野郎だな」
いつの間にか俺の真横にいて、気配も立てずにいるものだから時々ビビるものだ。弱体化前の俺だったら廊下の外からでもいるのは気配でわかっていただろうが、今はこの通り全くわからない。
「だって甲斐ちゃんの驚く顔を見るのが毎日の楽しみだもん」
「やめろや。お前がいつ現れるかわからないせいでうかうか便所でウンコもできやしねーじゃねぇか」
「へえ、そこまでオイラの事気にしてくれてるのって悪くないなぁ。でもさすがに女子便所で人が大便してる所なんて覗く趣味はないよ。甲斐ちゃんならちょっと気になるけど」
「気になるな悪趣味」
相田とこういうやりとりをするのは恒例になってきた。俺が矢崎をフッてからほぼ毎日こんなだからな。
「甲斐ってほんと四天王キラーだよな」と、健一。
「あの性格が悪魔と噂されている相田拓実とフツーにタメ口で、しかもあんな突っ込みできるの甲斐くらいだよ。フツーならビビって話しかけるなんてとても無理な相手なのに」
クラスメートのみんなは相田やら四天王にビビっているが、俺としては別に何も怖気づく事はないのでなんだか変な感じだ。そんな怖い奴でもないのに。まあ時々サイコパスっぽいけど。
「ねえ、そのおはぎオイラ食べていい?甲斐ちゃんが作ったやつ」
相田が俺の失敗ハンバーグを指さして目をキラキラさせている。
「おはぎじゃねーっつうの。食べてもいいけどお前の口にあうかわからんぞ?焦げてるし」
「いーのいーの。甲斐ちゃんが作ったって事に意味があるんだから。オイラ、甲斐ちゃんの事もっと知りたい」
「俺に関しての事なんぞたかが知れてるだろ。いたって平凡地味なヲタクだっつうの」
「わかってないなあ。そういう些細な事に魅力を感じる事だってあるでしょ。ねえ、あーんして食べさして?」
「面倒くせーな。自分で食え」
「いーじゃんいーじゃん。甲斐ちゃんからあーんして食べさせてもらうと美味しさ倍増しそうだし。はい、フォーク」
フォークを差し出して俺が「はい、あーん」を待っているコイツ。
「倍増するかは知らんが仕方ねえ。はい、あーん」
一切れのハンバーグを差し出すと、口を開けてぱくりと相田は頬張る。顔はニッコニコである。
「もぐもぐ。焦げ焦げだけどこの焦げた感じがいい具合に美味しい~」
にっこり笑顔で言うものだから本当にそう思ってくれたんだろう。気をよくした俺は「全部食っていいぞ」と言うと、相田は「え?いいの?わーい」なんて子供みたいにはしゃいでいる。
たかが焦げたハンバーグ一つ位で大げさな奴。腹黒くて愉快犯なくせしてこんな風に純粋に喜べる所もあるんだな。そういうの見ると、腹黒いこいつでも悪くないものだ。こちらも純粋に嬉しくなるってものである。俺は思わず顔を綻ばせた。
「きゃーー!見て見てー!」
家庭科室の外から黄色さを含む声援がきこえてきた。騒がしいなとなんとなく自分達も教室の外を覗くと、
「あれってたしか網走梨華じゃない?」
「嘘!本物!?」
「直様と腕組んで歩いてるっ」
「うう、悔しいけど美男美女お似合いよねー。あの女相手ならあたしらでも勝てないわ」
一同の視線の先には丁度廊下でその二人が並んで歩いている。二人が並べば絵に描いたような美男美女カップルに見え、ミーハー女子達の甲高い悲鳴は鳴りやまない。
心底うざそうに迷惑そうにしている矢崎をなんのその。網走は彼に擦り寄ってみんなに見せつけている。その網走の視線が丁度目と鼻の先にいた俺とあうと、網走は勝ち誇った顔をこちらに向けた。まるで矢崎は自分のものだと目線で訴えかけるようにして薄く微笑んでいた。
無性にムカつき、見るんじゃなかったと猛烈に後悔した。羨望と嫉妬を孕んだ声は二人が向こうへ通り過ぎるまで続いた。
「あの二人……付き合ってるのかな」
ぼそりと宮本君が呟く。俺は下を向いて黙った。
「ご、ごめん。矢崎君と仲のいい甲斐君には気分悪い話だったよね」
「いや別にいいよ。矢崎と俺はそこまで仲がいい関係じゃないし、別に付き合ってもないから」
「甲斐君……」
「甲斐……」
宮本君と本木君は何かを言いたそうだった。
「ささ、気を取り直してハンバーグを作ろうぜ」
そう強がっても心には嘘はつけない。最高に気分が悪い場面だ。
そもそも二人してなんで廊下を歩いてんだよ。なんであの性悪女があの場にいるわけ?俺に見せしめか?皆に付き合ってますアピールか?どんだけ自慢したいんだよ。
あー嫌だ嫌だ。塩でも巻いておかなくちゃな全く。
「万里ちゃん先生、相沢先生、ちょっと気分悪いから保健室に行ってくる」
五限目が始まる前、丁度歩いていた担任の万里ちゃん先生と相沢先生を捕まえた。午後は二人の授業だったはず。先ほどのあの性悪女の視線で気分が悪くなったので休むことにしたのだ。
とにかく今は一人になりたい。それだけだ。きっと寝てりゃあすぐ元通りなはず。時間が解決してくれるはずだ。
「架谷くん、どこか具合が悪いのですか?」
「ちょっと休んだらすぐよくなるような頭痛と胸やけ的なやつ」
「なら、オイラが連れて行ってあげるー」
相田がいきなり笑顔でその場に現れて近寄ってきた。
「なんでお前がいるんだよ。つかお前まで付いてこられたらお前の親衛隊に目をつけられるというかだな」
「大丈夫。おいらね、そこんとこはアイツと違って抜かりはないから」
「は?」
アイツって他の四天王の事か。
「とにかく、そーゆー事は気にしないで大丈夫だから、甲斐ちゃんは安心してオイラに体を預けておくように」
相田は軽々と俺を持ち上げた。お姫様抱っこという横抱きで。
「ひ、ちょっと!てめえおろせ!みんな見てるだろーがアホ!!」
暴れて足をばたつかせる今の俺なんて大したことがないだろう。相田は愉しげである。
「あははは。甲斐ちゃん軽い軽い~~!まるで女の子みたーい!」
「女なわけないだろうがドアホ!!」
「相田君。架谷君が嫌がっていますのでそこまでにしてあげてください」
俺が暴れていると、急に俺と相田の間に済ました顔で相沢先生が入ってきた。
「なにアイザワ先生。このオイラに命令すんの?」
口元は笑っているのに目が笑っていない相田が薄気味悪く微笑む。それは相沢先生も同じで、同じような顔をしている。
「甲斐君が嫌がっているので見かねたのですよ」
「嫌がってるってそれ先生の感想でしょ」
「あなたの目は節穴のようですね。そういう強引な所はやめた方がいいのでは」
この二人、そんな仲悪かったっけ。
「ご忠告どうも。これがオイラのやり方なんで。それと先生ってばさりげなく苗字から名前で呼んじゃって。相沢先生ってわかりやすいね。先生という立場を忘れない方がいいよ」
「こちらこそご忠告ありがとうございます。では、教師として私が架谷君を保健室へ連れて行きます」
「権力行使で優位に立とうと必死だね。痛々しいよ」
「痛々しいのはそちらも同じでは。相田君」
ブリザードが吹き荒れそうな空気と視線のぶつかり合いに俺は呆れ、万里ちゃん先生はアワアワしている。なんなんだこいつら。
「先生、甲斐ちゃんを落としたら先生の正体ばらしますからね。くれぐれも丁重に扱ってくださいよ」
「当たり前なことを心配してくれて感謝いたします。架谷君の事はどうぞお任せください。次期総統サマ」
相田は俺を相沢先生に預け、腑に落ちないような態度で手を振って去って行った。
なんだったんだアイツ。いや、そもそもだ。
「先生までなんでこんな抱き方なんだよ」
「そうした方が持ちやすいですし、今のあなたは軽いですから」
「知ってるんだな。女になった事」
「そりゃあ、いつもあなたを見ていますから」
「え……」
監視されてんのか俺。
「なんて。さあ、行きましょうか」
「いや、その前におろしてくれ。普通に歩けるから」
「ダメです。あなたは大事な生徒ですから」
「せめてこの抱き方だけはやめてくれってば、真生さん」
「残念。そのお願いだけは聞けませんよ、甲斐君」
*
…………。
その光景を見て体がわなわな震えた。先ほどなんとなく架谷の視線があったからつい振り返ってみたけれど、あっちはあっちで傷心している自分の事などおかまいなしに楽しそうで虫唾が走った。
拓実と相沢。あの二人と架谷はあんなに仲がよかったのだろうか。
二人の一方的な気持ちを架谷に向けているだけかと思ったが、架谷もまんざらでもなさそうで腹が立つ。
オレを振って二週間しか経ってないくせに……もう他所の男共に愛想を振りまきやがって。
無意識で握っていた拳から血が出そうなくらい嫉妬が止まらない。それと同時に胸も痛いくらい切なくもなって、いろんな意味で泣きそうになった。
なんで拓実とあんなに楽しそうなんだよ。なんで相沢にも簡単にいい寄られてんだよ。オレの方がお前を好きなのに。オレの方がお前をこんなにも想っているのに。
オレじゃだめなのかよ。オレじゃお前を幸せにできない?
「クソッ……!!」
がしゃんと盛大に割れるガラスの破片達。近くを通りかかった教師や生徒達がビビりながら通り過ぎていく。隣にいる梨華はいつもの事だと別にビビっていない様子だ。
窓ガラスだけならともかく、このままじゃあ人間相手でさえも八つ当たりしてしまいそうだ。窓ガラスを次々破壊して発散しても、このムカムカは収まりそうもないのだから。
あんなのを見せつけられてしまえば、嫉妬でおかしくなってすべて自分のものにしたくなる。無理やりでもあいつを、架谷をオレだけのモノにしたくなる――ッ。
「ねぇ、直~あたし開星って初めて来たんだけど悪くない学校ね。あたしもこの学校に通えばよかったぁ」
「いい加減に引っ付いてくんじゃねえ!」
梨華の手を乱暴に振り払う。そして梨華より先にずんずん前を行く。それにめげる事なく梨華は小走りですり寄ってくる。いつも乱暴だからこれくらいじゃ引き下がらない。
「直~!歩くの早いし待ってぇ」
「うるせぇ。着いてきたらその顔面をセルフ整形してやる。オレの昼寝の邪魔をするな。殺すぞ」
一瞬だけマジで殺しそうな瞳を見せつけ、梨華を置き去りにした。
*
「本当に一人で大丈夫ですか?添い寝しましょうか?」
「なんでそこで添い寝なんだよ。一人で大丈夫だから。あんたは先生としてお勤め頑張ってくれよ」
相沢先生によって保健室に連れて来られた俺は、消毒臭い部屋のベットにやっとおろされた。
世話を焼いてくる先生を変に思いながらも、一人になりたいからと言って遠慮した。真生さんにしろ相田にしろ、最近の俺の周りは意外に世話焼きが多い気がする。男のモテ期ってやつだろうか。野郎にモテても嬉しくない。
はあ……俺、性格悪くなってんな。
あの性悪女にいらついても仕方がないってのに、自分が女になってから性格まで女々しさに拍車をかけたように思う。身も心も性格悪い女に成り下がってしまったのか。女って男関係で揉めると性格が歪むとよく聞くが、まさしく今の自分もそうなるなんて思わなかったよ。
早く忘れたい。この醜い感情も、矢崎を好きだって気持ちも。
「拓実や相沢とはもうヤッタわけ?架谷クン」
ぞくりとした。
一瞬、幽霊かと思ったほど、気配を立てずに背後にいた男に戦慄しそうになった。振り返ると、狂気を宿したような目の男が、腕を組んで壁に寄りかかりながら立っていた。
「……や、ざき」
本当に相田といい、この矢崎といい、神出鬼没もいい所だ。気配探知が出来ない俺を脅かそうとする所がひどいものである。
「なんだよ……何、言ってんだよお前……」
「答えろ」
目で威圧するように訊ねてくる矢崎。
ヤッタってあのヤッタって事か?なんちゅー事訊いてくんだコイツ。
「意味がわからない」
とりあえずそう返すと、矢崎はオブラートに包まずに「セックス」と一言つぶやいた。
「はあ?アホか!そんな事するかっ!相田や先生とはそんなんじゃねえっつうの!何勝手に斜め上の誤解してんだよっ!」
「……誤解?あんな風に拓実や相沢と楽しくしてやがったくせしてよく言う」
矢崎の声はいつも以上に重低音で怒りを孕んでいる。
「そんでもってお姫様抱っこなんてしてもらってよ、てっきりもうよろしくしてやってんのかと思った。拓実の奴は手が早いからなぁ。あの教師も紳士ズラして実に手が早い。どうせこの後、どちらかとそろってホテルに直行すんだろ。んで、バカみたいにイチャコライチャコラして、愛を囁きまくるんだろ。さぞやお楽しみなこったな。あー気持ちが悪くて反吐が出る」
矢崎は俺を軽蔑の眼差しで見る。
心外だと言いたいのに、あの入学当初の鋭い視線に怯みそうになった。
なんなんだこいつは。そりゃたしかにこの男を振った。
まわりくどく本人にも言わないで、あの網走経由となってしまったから、ちゃんと考えて誠実に対応するべきだったと反省はしている。だから怒る理由は多々あるだろう。
でも、なんで相田や先生と仲良くしている事をとやかく言われなくてはならないのだろう。人の勝手だというのに。別に付き合ってもいないというのに。
相田と先生とはそんないかがわしい関係であるはずがないというのに。もしかして嫉妬しているのか。
「馬鹿にするなよ。そんな誰構わず股開くような真似するかッ。お前ら遊び人と一緒にすんじゃねぇ!」
言いがかりみたいだから一喝した。が、逆ににじり寄られて、なんとなく近寄って来られる事に恐怖を感じて、後ずされば壁に勢いよくどんと押された。背中を強く打ちつけて痛みに顔を歪める。
「痛っ!てめえ、何すんだよ!」
睨んで見上げると、それ以上に強く睨み返された。目の圧に言葉が出なかった。
「誰のせいでここまで悩んでると思ってんだよ。誰のせいでここまでキレてると思ってんだよ。オレはこんなにもお前を想って苦しんでいるのに……テメエは公衆の面前で無自覚に拓実と相沢とイチャイチャしやがってよ、マジムカツクわ」
怒っているのに泣いて見えてしまうのは目の錯覚だろうか。俺は茫然として矢崎を見ている。
「優しくなんてしてやらねぇわ。お前がいないオレに意味なんてないんだから」
素早く手首を掴まれて、力任せにすぐ近くにあるベットに押し倒された。悲しみと濁ったような瞳の矢崎に声が出ず、そのまま覆いかぶされた。
「なにを……」
何も答えず、俺の制服の白いシャツをボタンごと引きちぎった。床にボタンが飛び散って転がる。
「や……ッ!やめろってば!」
俺は今まで感じたことのない恐怖を感じた。足をばたつかせて逃れようともがくが、矢崎は問答無用で男の力で押さえつけてきた。非力で弱体化した女の俺ではとてもいなせるはずがない。
あの体育倉庫でのやりとりがフラッシュバックする。いや、あの時以上に怖い。
恐くて、体が動かない。
これが矢崎なのか。本気でキレているっていうのか。見たことがない矢崎の一面に俺は震える。
「ッいやだ!」
首筋や胸元に生暖かい感触がする。舌が這いずりまわる感触に背筋の震えが止まらない。
「今のお前は所詮は非力な女。男の力には敵わない」
その言葉通りだった。男の時だったなら振り払えたが、女の自分では力の差は歴然。俺がもがけばもがくほど矢崎の凶暴性が増したように唸り、さらに力でねじ伏せられて圧倒された。
「いや、だっ」
毎日巻いているさらしをするりと取っ払われ、乱暴に胸を揉みしだかれる。
快楽とは程遠い。痛みが伴う愛撫は恐怖にしか感じない。
「ふふ……いいな。恐怖に打ち震えるその顔……たまらない。ずっと見たかった。屈服させたかったんだお前を」
「やざき……やめろって……」
ショーツに手を入れられると、頬から生理的に涙がこぼれ落ちてきた。
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