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IF/オメガバース※支部版のみエロシーン追筆あり
大嫌いな奴が運命の番だった!9
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*
悠里からの連絡で、架谷がレアオメガの療養所に連れていかれたと聞いて落ち着いていられなかった。
今すぐ帰国をしたくなったが、久瀬に抑えられて冷静さを取り戻し、とりあえずは残りの仕事を速攻で終わらせてからにする。
当然ながら架谷の事が心配で仕事どころじゃなかったが、逆にそれが己に火をつけたのか思った以上のスピードで片付ける事が出来、帰国の途に就くことができた。
すぐに悠里やEクラス達に詳しい話を訊くと、架谷が痛みで倒れた後に国の政府官僚達がやってきたらしい。
連中はレアオメガを研究する機関で、国の研究サンプルとして無理やり架谷を連れて行くと説明。
理由は架谷がレアオメガだと発覚した事、レアオメガの強すぎるヒートで秩序を乱しかねない事、レアオメガはアルファの子を確実に孕む生殖器を持っている事で少子化問題に役立つと言っていた。
つまりはアルファを孕ます道具だ。と嘲笑しながら説明された時は、全員がハラワタが煮えくり返る思いだったと話す。
Eクラス達はあまりに横暴だと止めようとしたが、国の決まりを理由に反抗すると公務執行妨害で逮捕すると言われた。
丁度運悪くその時間帯は拓実や穂高やハルが学校にいなかったため、誰もそれを止める事が出来なかったらしい。
少子化問題に利用?道具?ふざけるな。
あいつをなんだと思っていやがる。レアオメガだからとアイツを見下しやがって。冗談だとしてもそんな事を笑いながら口にした時点で殺してやりたい。つか絶対殺す。政府官僚共の名前は全員調べ上げて後悔させてやる。
「必ず助け出す」
オレはスマホを手に持った。あいつをそんなクソみたいな研究機関で利用なんぞさせるか。
「でも、どこの施設にいるかわからないんでしょう?住所も不特定だって話だよ。全国に何か所もあるって」
「それでも探す。絶対見つける」
スマホであらゆる場所へ連絡して架谷捜索の協力を要請する。裏社会だろうがなんだろうがすべての伝手を使う。それでいくら使っても構わん。
「国家権力だろうがなんだろうが探し出す。次期財閥社長としての全権力を使ってでもな」
*
ここに連れてこられて一か月、毎日がなんとなく過ぎていく。
こんな狭い部屋に缶詰状態だからする事もないし、気が滅入ってくる。二日に一度は掃除のために部屋の外に出られるが、それもたったの二時間だけ。
食事は一応バランスの取れた病院食のようなものが運ばれてくる。あまり美味しくはない。料理好きな自分で作った方がマシなレベル。
風呂は部屋に備え付けのシャワー室のみ。浴槽なんてものはない。一週間に一度だけ大浴場が解放されるのみ。
娯楽は一応テレビはあるが動画が見れたりするわけでもなく地上波のみ。
性欲の発散やヒート時は職員からその手のDVDや雑誌を借りて発散しろと言われた。どれも大昔のロマンポルノとかピンクテープ的なものばかりだった。
キモオタをなめてんのか。こんな古臭いプレイ映像で抜けるわけないだろうがとブチギレたら最新のものを貸してくれた。最初からそれ出してろよ勿体ぶりやがってあほかクソ職員。
最初の一、二日はここから出ようと試みたりもした。
扉を蹴破ろうとしたし、窓から逃げようともした。
でも、全然びくともしなかったし、窓から逃げようにもまず体力が続かなかった。
他にもいろいろと脱走を試みたが深刻な体力と力不足で力尽き、部屋に連れ戻されるのが日課となった。
そのうち何をしてもダメだと諦めるようになり、今は少し無気力になりつつある。よくないなこんな脱力した気持ち。
ベータの自分だったならこんな扉蹴破れたし、脱走もあっさりできた。うろついているクマや狼だってヒグマ踵落としで蹴散らせたのに。ちくしょう。
今の自分は本当に貧弱で弱い。一般人より体力がないと思う。
「矢崎……」
床にポタポタと雫が落ちる。自然と泣いていたようだ。
自分はこんなにも泣き虫だったか。こんなにも寂しがりやだったか。
レアオメガになったせいか涙腺もメンタルもとても弱くなっている気がする。
「っ、う……」
逢いたい。触れたい。抱きしめてキスしてほしい。
たった一か月ちょっとだとしても、運命の番だからこそ寂しさはより大きい。
とりあえず涙を腕で拭いてゆっくり立ち上がる。
こんな狭い部屋にいては気分も落ち込んでいくばかり。
そろそろ外出許可の時間なので病衣の上にカーディガンを羽織る。
「けほけほ」
数日前から咳がよく出るようになっていた。虚弱なレアオメガになったせいでどうやら風邪をひいてしまったようだ。
はあ、小学校からほとんど風邪をひかなかったのにその記録が破られたのが悲しいものだ。
部屋の外に出ると咳は治まるが、閉じ込められているストレスもあるのかもしれない。
「家に帰りたい」
「なんでこんな場所に」
「パパ、ママ……うええええん」
「だれかおうちに帰してよお」
レアオメガの少年少女達が待合室ですすり泣いている。どの子もホームシックにかかっており、見ていてとても可哀想だ。あんな小さい子まで親元を離されている。
たぶん、謎野の好みだからという理由で無理やり連れて来られた子達だろう。ヒートが危険だとか家族から見捨てられたとか、中にはそういう人もいるだろうがほとんどは嘘だろうな。
表向きはレアオメガが危険だからと言い包められて、俺と同じように連れてこられたに違いない。
「大丈夫。助けはくるよ」
俺は泣いている小さなレアオメガ達に声を掛けた。
信じてる。自分の力ではもはや逃げ出せないけど、あいつが必ず助けに来てくれるって。
「でも……こんな山奥の場所なんてとても見つけてくれないよ」
「国の人が決めたんでしょ?どうにもならないよ」
「それでもきっと見つけてくれるって信じてる。そこで諦めたら余計に落ち込んじゃうよ」
脳裏にあいつの姿が浮かぶ。
大丈夫。まだ大丈夫だ。自分の心はまだ絶望していない。
「キミ、横になってるけど具合悪いの?」
中庭を散歩していると、一人の少年がベンチで横になりながらお腹を撫でている。
「赤ちゃん、いるの」
「……え」
少年は顔色悪そうだが笑っている。
「謎野先生とぼくの赤ちゃん。ぼくが可愛いからって毎日いっぱいエッチして可愛がってくれたの。そしたら昨日赤ちゃんできてるって報告してくれたんだよ。三か月目だって」
言葉を失う。篠宮の噂は本当どころかそれ以上だった。しかもこんな中学生くらいの男子まであの野郎……っ。
「無理やり……されたの……?」
険しい顔で訊ねると、少年は頷きながらも取り乱さない。
「最初は嫌だったけど、先生のおちんちんでぼくの下のオクチいっぱいずぼずぼしていっぱい子種だしてくれたの。それがたまらないくらい気持ちよかったの。エッチの最後に先生がいつも愛してるっていっぱい言ってくれて、そのうち先生を好きになっちゃって……赤ちゃんまで出来ちゃったんだ。えへへへ。幸せだなーって思ってたの」
「キミはそれでいいの……?最初は無理やりだったんでしょ……?」
「……いいよ。だって今は先生が大好きだから。気持ちいい事いっぱいしてくれるし、赤ちゃんだってできたから。ぼく、レアオメガだけど満たされてる」
「…………」
本人が幸せならいいという突っ込みなどとてもできない。だって奴の本性を知っているからこそ、あんな奴に幻想を抱いてほしくないからだ。
この子だけじゃない。きっと何人もの被害者がいるだろう。
表情は幸せそうに見えるのに儚い。どこか病んでいるように思えた。
性的な愛情で芽生えるストックホルム症候群てやつか……。
「あいつはキミ以外にも何人もの子を食い物にしてると思うよ。それでもあのドクターが好き?」
「嘘だよ。先生は僕だけって言ってたもん。なんでそんな事言うの。お兄ちゃんはぼくの幸せに嫉妬してるんでしょ。だからそんな事言えるんだね」
「いや、違「うるさい」
「それ以上先生の事悪く言わないでよ意地悪。もうあっち行って。話しかけてこないで」
そうして手で払われた。少年はまたお腹を撫でてうっとり夢見心地になっている。
あの変態クソドクターの性的洗脳は深刻だ。
快楽と本能に流されたレアオメガの行きつく先はこのような状態なのだろうか。
見ていて胸糞悪いものだ。
「お兄ちゃん大丈夫?」
近くにいた女の子が俺を見上げている。
「え、なにが」
「鼻から血が出てるよ」
いつの間にか鼻から出血していた。気が付かなかった。
急いでティッシュで鼻を拭いたりするが、なかなか血が止まらない。
「お兄ちゃん……病気?」
「風邪ひいているんだよ」
「それ、風邪じゃないと思う」
女の子は冷静に言った。
「私のお姉ちゃん死んじゃったんだけど、死ぬ前によく鼻血だしたり血を吐いたりしてたんだ。最後は全身の皮膚から血が溢れ出て来て止まらなくなって出血多量だって。風邪だと思ったらオメガ肺炎だったの」
俺はその女の子の言葉に詰まった。頭が真っ白になった。
「そ、そうなんだ……」
自然と声が震えた。
「お兄ちゃんも気を付けてね。私のお姉ちゃんみたいに死んじゃうから」
そう言いながらも女の子は薄気味悪く笑っている。
身内が亡くなり、こんな場所にいる自分に笑いながらも絶望しているのかもしれない。
「気を付けるよ。ありがとう」
俺ってもしかして死ぬ?
オメガ肺炎に発症してる?
手ががくがく震えて、女の子に愛想笑いを浮かべるのが精一杯だった。
俺は知らぬ間に相当なストレスを溜めこんでいたらしい。
近づいていた死亡フラグに茫然として部屋に戻ってくると、中学生に手を出す悪趣味野郎の謎野がいた。
「何か用かよクソ変態ヤロー」
こんな奴の顔を今は見たくなかった。
「単刀直入に言うよ。キミはオメガ肺炎に発症している。それもとても進行が速い」
改めてはっきり言われるとショックは大きい。
「オメガやレアオメガがストレスを溜めすぎるとなる病気なのは知っているだろう。風邪の症状から始まり、あらゆる全身の器官を不全にしていく恐ろしい病気だ。最後には全身にたまった血を吐きながら亡くなっていく。だが、番を見つければその病気は治る。私とすぐに番になれば君は生き永らえるんだよ」
「言ったはずだ。お前と番になるくらいならクマに食われて死んだ方がましだと」
そう言いながらも、心は穏やかではない。
死ぬ事が恐いと体が訴えている。さっきから震えが止まらず、心臓も嫌な風にばくばくしている。
「後悔するよ。本当に死んじゃうよ。数週間も経たないうちにキミは死ぬ。それくらい進行スピードは速いんだ」
「たとえそれで生き永らえる事ができても、お前とそういう行為をしたショックでどっちにしろ長生きはできないだろう。潔く綺麗なまま死ぬか、お前なんかとシて傷ついて一時的な長生きを選ぶかの違いだろ。どっちを選んでも死が確定なら、前者を選ぶね」
「強情だね。楽な方を選べばいいのに。ぼくはキミをこんなに想っているのに」
その求愛も胡散臭い笑いも信用ならない。
「気持ち悪い事をほざくな」
「キミが前から好みだった事は言っただろう。前は他に好みな子はいたし、中学生くらいの最近孕ませた可愛い男の子もいたけど、やっぱりキミが今一番のお気に入りだ。勇ましい中にある庇護欲をそそられるその弱さがたまらない。強さを全て取っ払って弱いだけのキミにしたかった」
謎野は口の端を最大に吊り上げる。邪悪に微笑む顔がゾンビ映画に出てくる最凶ホラーゾンビよりも恐ろしく見えた。
「他の子はただのたくさんいる性奴隷の中の一人に過ぎない。孕ませた子もそれなりにいたけど、キミは違う。今も昔もキミが最良で一番になった。私の正妻にしたい」
「……正妻とか、二次元みたいな事言ってんじゃねえよハーレム教祖気取りが。マジキモイんだよ」
「他の子に嫉妬しているんだね。だけど安心して。これからはキミ一筋だ。キミを愛している」
不気味に笑いながら俺に求愛するこの超級の変態ハーレム教祖。
一気にアルファの匂いが濃くなって、フェロモンを漂わせた。
とてもひどい匂いだ。一方的に欲望をぶつけようとするアルファの匂い。魚の腐った悪臭だ。
「俺はお前が大ッ嫌いだわ。自分の気持ちを紳士面して強引に押し付けようとするところがな。あとそれ以上近づくな。アルファ臭いんだよ」
「キミを愛しているんだ、甲斐。逃げないでおくれ」と、不気味に近づいてくる。
「っ、来るなって言ってんだろ。しかも気安く名前で呼ぶな!」
これが好きな相手に付きまとう勘違い男という奴なんだろう。モテない自分に求愛してくる奴なんていないと思っていたが、実際されるとキモいし恐怖だしで冷静さを失いそうだ。
悠里からの連絡で、架谷がレアオメガの療養所に連れていかれたと聞いて落ち着いていられなかった。
今すぐ帰国をしたくなったが、久瀬に抑えられて冷静さを取り戻し、とりあえずは残りの仕事を速攻で終わらせてからにする。
当然ながら架谷の事が心配で仕事どころじゃなかったが、逆にそれが己に火をつけたのか思った以上のスピードで片付ける事が出来、帰国の途に就くことができた。
すぐに悠里やEクラス達に詳しい話を訊くと、架谷が痛みで倒れた後に国の政府官僚達がやってきたらしい。
連中はレアオメガを研究する機関で、国の研究サンプルとして無理やり架谷を連れて行くと説明。
理由は架谷がレアオメガだと発覚した事、レアオメガの強すぎるヒートで秩序を乱しかねない事、レアオメガはアルファの子を確実に孕む生殖器を持っている事で少子化問題に役立つと言っていた。
つまりはアルファを孕ます道具だ。と嘲笑しながら説明された時は、全員がハラワタが煮えくり返る思いだったと話す。
Eクラス達はあまりに横暴だと止めようとしたが、国の決まりを理由に反抗すると公務執行妨害で逮捕すると言われた。
丁度運悪くその時間帯は拓実や穂高やハルが学校にいなかったため、誰もそれを止める事が出来なかったらしい。
少子化問題に利用?道具?ふざけるな。
あいつをなんだと思っていやがる。レアオメガだからとアイツを見下しやがって。冗談だとしてもそんな事を笑いながら口にした時点で殺してやりたい。つか絶対殺す。政府官僚共の名前は全員調べ上げて後悔させてやる。
「必ず助け出す」
オレはスマホを手に持った。あいつをそんなクソみたいな研究機関で利用なんぞさせるか。
「でも、どこの施設にいるかわからないんでしょう?住所も不特定だって話だよ。全国に何か所もあるって」
「それでも探す。絶対見つける」
スマホであらゆる場所へ連絡して架谷捜索の協力を要請する。裏社会だろうがなんだろうがすべての伝手を使う。それでいくら使っても構わん。
「国家権力だろうがなんだろうが探し出す。次期財閥社長としての全権力を使ってでもな」
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ここに連れてこられて一か月、毎日がなんとなく過ぎていく。
こんな狭い部屋に缶詰状態だからする事もないし、気が滅入ってくる。二日に一度は掃除のために部屋の外に出られるが、それもたったの二時間だけ。
食事は一応バランスの取れた病院食のようなものが運ばれてくる。あまり美味しくはない。料理好きな自分で作った方がマシなレベル。
風呂は部屋に備え付けのシャワー室のみ。浴槽なんてものはない。一週間に一度だけ大浴場が解放されるのみ。
娯楽は一応テレビはあるが動画が見れたりするわけでもなく地上波のみ。
性欲の発散やヒート時は職員からその手のDVDや雑誌を借りて発散しろと言われた。どれも大昔のロマンポルノとかピンクテープ的なものばかりだった。
キモオタをなめてんのか。こんな古臭いプレイ映像で抜けるわけないだろうがとブチギレたら最新のものを貸してくれた。最初からそれ出してろよ勿体ぶりやがってあほかクソ職員。
最初の一、二日はここから出ようと試みたりもした。
扉を蹴破ろうとしたし、窓から逃げようともした。
でも、全然びくともしなかったし、窓から逃げようにもまず体力が続かなかった。
他にもいろいろと脱走を試みたが深刻な体力と力不足で力尽き、部屋に連れ戻されるのが日課となった。
そのうち何をしてもダメだと諦めるようになり、今は少し無気力になりつつある。よくないなこんな脱力した気持ち。
ベータの自分だったならこんな扉蹴破れたし、脱走もあっさりできた。うろついているクマや狼だってヒグマ踵落としで蹴散らせたのに。ちくしょう。
今の自分は本当に貧弱で弱い。一般人より体力がないと思う。
「矢崎……」
床にポタポタと雫が落ちる。自然と泣いていたようだ。
自分はこんなにも泣き虫だったか。こんなにも寂しがりやだったか。
レアオメガになったせいか涙腺もメンタルもとても弱くなっている気がする。
「っ、う……」
逢いたい。触れたい。抱きしめてキスしてほしい。
たった一か月ちょっとだとしても、運命の番だからこそ寂しさはより大きい。
とりあえず涙を腕で拭いてゆっくり立ち上がる。
こんな狭い部屋にいては気分も落ち込んでいくばかり。
そろそろ外出許可の時間なので病衣の上にカーディガンを羽織る。
「けほけほ」
数日前から咳がよく出るようになっていた。虚弱なレアオメガになったせいでどうやら風邪をひいてしまったようだ。
はあ、小学校からほとんど風邪をひかなかったのにその記録が破られたのが悲しいものだ。
部屋の外に出ると咳は治まるが、閉じ込められているストレスもあるのかもしれない。
「家に帰りたい」
「なんでこんな場所に」
「パパ、ママ……うええええん」
「だれかおうちに帰してよお」
レアオメガの少年少女達が待合室ですすり泣いている。どの子もホームシックにかかっており、見ていてとても可哀想だ。あんな小さい子まで親元を離されている。
たぶん、謎野の好みだからという理由で無理やり連れて来られた子達だろう。ヒートが危険だとか家族から見捨てられたとか、中にはそういう人もいるだろうがほとんどは嘘だろうな。
表向きはレアオメガが危険だからと言い包められて、俺と同じように連れてこられたに違いない。
「大丈夫。助けはくるよ」
俺は泣いている小さなレアオメガ達に声を掛けた。
信じてる。自分の力ではもはや逃げ出せないけど、あいつが必ず助けに来てくれるって。
「でも……こんな山奥の場所なんてとても見つけてくれないよ」
「国の人が決めたんでしょ?どうにもならないよ」
「それでもきっと見つけてくれるって信じてる。そこで諦めたら余計に落ち込んじゃうよ」
脳裏にあいつの姿が浮かぶ。
大丈夫。まだ大丈夫だ。自分の心はまだ絶望していない。
「キミ、横になってるけど具合悪いの?」
中庭を散歩していると、一人の少年がベンチで横になりながらお腹を撫でている。
「赤ちゃん、いるの」
「……え」
少年は顔色悪そうだが笑っている。
「謎野先生とぼくの赤ちゃん。ぼくが可愛いからって毎日いっぱいエッチして可愛がってくれたの。そしたら昨日赤ちゃんできてるって報告してくれたんだよ。三か月目だって」
言葉を失う。篠宮の噂は本当どころかそれ以上だった。しかもこんな中学生くらいの男子まであの野郎……っ。
「無理やり……されたの……?」
険しい顔で訊ねると、少年は頷きながらも取り乱さない。
「最初は嫌だったけど、先生のおちんちんでぼくの下のオクチいっぱいずぼずぼしていっぱい子種だしてくれたの。それがたまらないくらい気持ちよかったの。エッチの最後に先生がいつも愛してるっていっぱい言ってくれて、そのうち先生を好きになっちゃって……赤ちゃんまで出来ちゃったんだ。えへへへ。幸せだなーって思ってたの」
「キミはそれでいいの……?最初は無理やりだったんでしょ……?」
「……いいよ。だって今は先生が大好きだから。気持ちいい事いっぱいしてくれるし、赤ちゃんだってできたから。ぼく、レアオメガだけど満たされてる」
「…………」
本人が幸せならいいという突っ込みなどとてもできない。だって奴の本性を知っているからこそ、あんな奴に幻想を抱いてほしくないからだ。
この子だけじゃない。きっと何人もの被害者がいるだろう。
表情は幸せそうに見えるのに儚い。どこか病んでいるように思えた。
性的な愛情で芽生えるストックホルム症候群てやつか……。
「あいつはキミ以外にも何人もの子を食い物にしてると思うよ。それでもあのドクターが好き?」
「嘘だよ。先生は僕だけって言ってたもん。なんでそんな事言うの。お兄ちゃんはぼくの幸せに嫉妬してるんでしょ。だからそんな事言えるんだね」
「いや、違「うるさい」
「それ以上先生の事悪く言わないでよ意地悪。もうあっち行って。話しかけてこないで」
そうして手で払われた。少年はまたお腹を撫でてうっとり夢見心地になっている。
あの変態クソドクターの性的洗脳は深刻だ。
快楽と本能に流されたレアオメガの行きつく先はこのような状態なのだろうか。
見ていて胸糞悪いものだ。
「お兄ちゃん大丈夫?」
近くにいた女の子が俺を見上げている。
「え、なにが」
「鼻から血が出てるよ」
いつの間にか鼻から出血していた。気が付かなかった。
急いでティッシュで鼻を拭いたりするが、なかなか血が止まらない。
「お兄ちゃん……病気?」
「風邪ひいているんだよ」
「それ、風邪じゃないと思う」
女の子は冷静に言った。
「私のお姉ちゃん死んじゃったんだけど、死ぬ前によく鼻血だしたり血を吐いたりしてたんだ。最後は全身の皮膚から血が溢れ出て来て止まらなくなって出血多量だって。風邪だと思ったらオメガ肺炎だったの」
俺はその女の子の言葉に詰まった。頭が真っ白になった。
「そ、そうなんだ……」
自然と声が震えた。
「お兄ちゃんも気を付けてね。私のお姉ちゃんみたいに死んじゃうから」
そう言いながらも女の子は薄気味悪く笑っている。
身内が亡くなり、こんな場所にいる自分に笑いながらも絶望しているのかもしれない。
「気を付けるよ。ありがとう」
俺ってもしかして死ぬ?
オメガ肺炎に発症してる?
手ががくがく震えて、女の子に愛想笑いを浮かべるのが精一杯だった。
俺は知らぬ間に相当なストレスを溜めこんでいたらしい。
近づいていた死亡フラグに茫然として部屋に戻ってくると、中学生に手を出す悪趣味野郎の謎野がいた。
「何か用かよクソ変態ヤロー」
こんな奴の顔を今は見たくなかった。
「単刀直入に言うよ。キミはオメガ肺炎に発症している。それもとても進行が速い」
改めてはっきり言われるとショックは大きい。
「オメガやレアオメガがストレスを溜めすぎるとなる病気なのは知っているだろう。風邪の症状から始まり、あらゆる全身の器官を不全にしていく恐ろしい病気だ。最後には全身にたまった血を吐きながら亡くなっていく。だが、番を見つければその病気は治る。私とすぐに番になれば君は生き永らえるんだよ」
「言ったはずだ。お前と番になるくらいならクマに食われて死んだ方がましだと」
そう言いながらも、心は穏やかではない。
死ぬ事が恐いと体が訴えている。さっきから震えが止まらず、心臓も嫌な風にばくばくしている。
「後悔するよ。本当に死んじゃうよ。数週間も経たないうちにキミは死ぬ。それくらい進行スピードは速いんだ」
「たとえそれで生き永らえる事ができても、お前とそういう行為をしたショックでどっちにしろ長生きはできないだろう。潔く綺麗なまま死ぬか、お前なんかとシて傷ついて一時的な長生きを選ぶかの違いだろ。どっちを選んでも死が確定なら、前者を選ぶね」
「強情だね。楽な方を選べばいいのに。ぼくはキミをこんなに想っているのに」
その求愛も胡散臭い笑いも信用ならない。
「気持ち悪い事をほざくな」
「キミが前から好みだった事は言っただろう。前は他に好みな子はいたし、中学生くらいの最近孕ませた可愛い男の子もいたけど、やっぱりキミが今一番のお気に入りだ。勇ましい中にある庇護欲をそそられるその弱さがたまらない。強さを全て取っ払って弱いだけのキミにしたかった」
謎野は口の端を最大に吊り上げる。邪悪に微笑む顔がゾンビ映画に出てくる最凶ホラーゾンビよりも恐ろしく見えた。
「他の子はただのたくさんいる性奴隷の中の一人に過ぎない。孕ませた子もそれなりにいたけど、キミは違う。今も昔もキミが最良で一番になった。私の正妻にしたい」
「……正妻とか、二次元みたいな事言ってんじゃねえよハーレム教祖気取りが。マジキモイんだよ」
「他の子に嫉妬しているんだね。だけど安心して。これからはキミ一筋だ。キミを愛している」
不気味に笑いながら俺に求愛するこの超級の変態ハーレム教祖。
一気にアルファの匂いが濃くなって、フェロモンを漂わせた。
とてもひどい匂いだ。一方的に欲望をぶつけようとするアルファの匂い。魚の腐った悪臭だ。
「俺はお前が大ッ嫌いだわ。自分の気持ちを紳士面して強引に押し付けようとするところがな。あとそれ以上近づくな。アルファ臭いんだよ」
「キミを愛しているんだ、甲斐。逃げないでおくれ」と、不気味に近づいてくる。
「っ、来るなって言ってんだろ。しかも気安く名前で呼ぶな!」
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