上手なクマの育て方

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 BLUE BOOKSがある東口商店街とは、駅を挟んで反対側の西口商店街を進んで、とある店の前に立つ。
 看板には「刺身 割烹居酒屋 魚一」と、筆書きの文字で書いてある。
 まだ開店していない店の、引き戸をガラガラと開けると、柊一は勝手に中へ入っていった。

「こんちわ~」

 柊一が声を掛けると、調理場へ通じる暖簾が動き、巨大な青年が顔を覗かせた。

「あ、純チャン、おひさだね~」

 青年はこの店の息子で、現在は板前修業で店を手伝いつつ、調理師学校に通っている19歳である。
 彼は学生時代にバスケをやっていたとかで、とにかく猛烈に背がデカく、顔もデカく、しかもゴツイ。
 最初は見ただけでビビっていた柊一だった。
 が、見かけに反して気の優しい彼の正体を知ってからは、気安く「純チャン」呼ばわりしているのだ。
 巨大な好青年・純チャンは、柊一を見て軽く会釈をすると、言った。

「新田さん、まだ来てませんよ?」
「あっそー。でもニコちゃんいなくてもイイよ。オヤジさんにさぁ、俺のことまた使ってくれるように、頼んでくンないかなぁ?」
「……ダメだと思いますけど…」
「えー、なんで? 人手余ってんの?」
「そんなことはないですけど、柊一さん、遅刻魔だから…」

 前科者の島帰りを見る純チャンの目は、なかなかに厳しかった。

「ダイジョーブだって! 俺さ、扶養家族出来ちゃったんだよー。だから今度はもう、絶対寝坊なんかしないって誓うぜ!」
「扶養家族?」
「うん。ペット飼っちゃってさー。食わせなきゃなんねーの。だからサ、頼むよこのとーり!」
「柊一さんが、ペットを?」

 純チャンは、かなり意外そうな顔をしたが、拝みポーズになっている柊一の切実さを理解してくれたらしく、頷いて奥へ引っ込んで行った。
 入れ替わりに出てきた店主であるオヤジさんは、純チャンのように巨大な人物ではなかった。
 白い板前の割烹着と、ポマードでセットしてある頭のねじりはちまきがイナセに決まっていて、シワの多い顔までが渋い、中肉中背の中年オヤジである。

「おい柊一、犬飼ったんだってなあ! どんな犬だ? 犬は雑種に限るぞ、血統書付きなんてのはバカに決まってるからな!」

 いきなり激しい偏見に満ちた意見を述べながら、暖簾をくぐって来た。
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