ソナチネ

透子

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第一章

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私、三上若葉は、夫と娘の三人暮らしだ。夫の真一は銀行員。娘のさくらは小学一年生。どこにでもあるごく普通のありふれた家族だ。

私は週三回近くのスーパーでパートをしている。娘のさくらが幼稚園に入ってから始めて、今年で三年目になる。仕事は大変だが、地域の人達との触れ合いが楽しく、日々やりがいを感じながら働いている。

いつものようにレジを打っていると、隣人の九条さんが私のレジに並んでいた。九条さんの前の人の精算が終わり、「どうも」と、いつもの柔和な笑顔で挨拶しながら九条さんが私の前に立った。「こんにちは」と、私も挨拶をする。

九条さんは地域の人達からの信頼が厚い真面目で優しい町内会長さんだ。私も九条さんを信頼する一人だ。私達家族がこの町に引っ越してきて五年経つから、九条さんとの付き合いも五年になる。九条さんのご家族は奥様と息子さんが一人。奥様とも何回かお会いしたことがある。綺麗な人で、今でも仕事をバリバリにこなしていると九条さんから聞いた。息子さんの方はたまにすれ違う程度でまだちゃんと会話を交わしたことはない。

「妻は仕事が忙しいから、家事はほとんど僕がやっているんだよ」と九条さんはよく言っている。しかし、そう言う顔はいつも幸せそうで、奥様のことを心から大切に思っていることがよく伝わってきた。

他愛もない話をしながら精算を終え、九条さんの背中を見送る。その後、何人かの精算をした後、定時になり退勤した。

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