ソナチネ

第一章

3

義理の母が用意していたのは夫の分だけだったので、私は自分で適当に夕食を作って食べることにした。これも毎回のことだ。

さくらと義理の母が遊んでいるのを見ながら夕食を食べていると、夫が帰って来た。私は夕食を食べるのを中断し、夫を出迎えようと立ち上がった時、私よりも先に義理の母が夫を出迎えた。

「あら、お帰りなさい、真一。」

「ああ、母さん。来てたのか。」

親子二人の空間に私は入ることが出来ず、ボーッと立っているとさくらが私のエプロンの裾を引っ張った。ハッとして、さくらを見る。

「ママ、大丈夫？」

何も言っていないのに、時々さくらはこんな風に私の心の中を読み取ったかのような言動を取ることがある。小学一年生の子供とは思えない程、勘が鋭い。

「あ、うん、全然大丈夫！」

心配させないように明るくさくらに言うと、さくらは安心したように笑って夫の元へと駆け寄って行った。

「さくら～会いたかったぞ～。」

夫は駆け寄ったさくらを抱き上げて頬擦りをする。夫はさくらを誰よりも溺愛している。それは私の目から見ても、義理の母から見ても、きっとそうだろう。

「お帰りなさい。」

床に置かれた夫の鞄を拾い上げながら、夫に向かって言う。

「ああ。」

私に視線を向けることもなく、夫はそれだけ返す。義理の母の嫌味と同じで、これも毎回のことだから、もう慣れてしまった。

夫の鞄をいつもの場所にしまい、冷蔵庫から義理の母が用意した夫の分の夕食を電子レンジに入れる。リビングからは夫とさくらと義理の母の楽しそうな声が聞こえる。電子レンジの中でぐるぐると回る夫の夕食を見て、私がここにいる意味はあるのだろうか、と、ふと考えてしまう。