ソナチネ

透子

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最終章

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床に倒れ込んだ九条を見下ろし立ち尽くしていると、テーブルの上に置いてあるスマホが震えた。

画面には《三上さん》の文字があった。

その文字を見た瞬間、俺は崩れ落ちた。

震えるスマホを手に取り、通話ボタンを押す。

電話の向こうから聞こえる優しい声を遮り、俺はひたすら彼女に謝った。

俺の異変を感じたのか、彼女が部屋へ息を切らしてやって来た。

彼女の姿を見て、涙が溢れた。

今すぐにでも彼女を抱き締めたかったけれど、もうそれは一生叶うことはない。

「ごめんなさい…。」

彼女に聞こえるかどうか分からないぐらいの声で、最後にもう一度謝った。

そして、俺は自分の手に握っていた九条の血で染まった包丁を高く上げた。

それからのことはハッキリと覚えていないけれど、朦朧とする意識の中で三上さんの声を聞いたような気がした。

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