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はじめての作曲依頼

英雄の終わり5.5

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 同時刻。
 マシューは丘の上から森を眺めていた。

「マシュー様。もう少しお下がりください。矢が届いたらどうするのですか」

 管理者が穏便に引き下がるようにたしなめる。

「いいや、下がらんよ。エルフ君の合図を見逃すわけにはいかない。彼は私よりもはるかに危険な目にあっているのだ、これくらいしなければ示しが付かない」

 マシューは兵士全員に作戦を伝えた。
 エルフが協力者となり、敵地へと向かったことを。
 適地を見つけたら光の合図を放たれることを。
 なおスパイだったことは伏せた。作戦を確実にするためだ。

「その……エルフですが……本当に信用してよろしいのでしょうか……見た目と年齢が一致しないような者を、作戦の要に任命するなど」
「今、それを気にするのか?」
「前々から腑に落ちない点があったではありませんか」
「これより彼の疑いは私への疑い。作戦に異議があるのならそう申せ。それともこの私よりも素晴らしい案があるのか? であるならご教授願いたい」
「……いいえ、仰せのままに」
「……すまないな、私のワガママに付き合わせてしまって。全てが終わったらブキカを案内しよう。良い店を知っている。無論私のおごりだ」
「はは……そりゃ楽しみですな……」
「妻には内緒だぞ」
「どうでしょう。私の口は固いですが大砲大王がブキカに訪れたら、一晩のうちに首都中に噂は駆け巡るでしょう」
「うむ……そうか……ならば堂々と行かんとな」

 ブキカに行く時は、もう一人連れていくと心に決めていた。

(創作活動のためにも女遊びの一つは教えてやらんとな)

 森に閉じ込められていた彼に、いろんな世界を見せてやりたい。
 同胞として、友として。
 その時だった。
 森に異変が訪れた。
 巨大な異変に丘にいた全員が天を見上げた。

「な、なんだ、これは……!?」

 マシューは初めて見る現象だった。

「あ、あれは、まさか……!」

 管理者は目を丸くする。

「本当にあのエルフ、やったのか……!」

 
 目を焼くような、肌を焦がすような熱線はない。
 慈しみを込めて静かに光を降り注いでいる。
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