53 / 99
竜之助の身の上話 十六
しおりを挟む
「姫様! どうして、どうして私なんかを庇われたのですか!」
「強く揺すらないで……毒が回るわ……」
竜之助と同じ毒を受けたが刺し傷の箇所の違いで山吹は言葉を発せた。
「はっ、私としたことが……!」
「朽葉。解毒薬の隠し場所、覚えてるわよね?」
「お任せください! ただちに持ってきて治療いたします!」
朽葉は洞窟の奥へと走る。
「……竜之助様。先程は助けていただきありがとうございました。このご恩は必ずお返しします」
身体をよじらせながら壁に背中を預けて、やっとの思いで上半身を起こす。身体の下には血だまりができていた。
それでも命の恩人への礼は欠かせない。何かも今更遅い、矜持を見せる。
「ふ、ふーっ……うっ……ふっ……」
竜之助は呼吸が難しくなっていた。首まで毒が回ってきた。じわりじわりと感覚が失い、呼吸するための筋肉がしびれ始めた。
傷口から毒を抜こうとするが上手く行かない。想像以上に毒の足が早い。
「ふ……哀れな男だな……どうあがこうと地獄行きは免れないというのに」
薬を持ってきた朽葉は、振りほどいても振りほどいても手を伸ばしてきた男の必死さを嘲って笑う。
「薬はある。しかし一人分しか残っていない。姫様が命からがら残してくださった貴重な薬だ。当然姫様に使う」
朽葉の言葉を無視して竜之助は生存に繋がる細い糸をたぐる。蜘蛛の糸よりも脆くとも。
「せいぜい苦しみもがけ。姫様に手を出した報いだ……お前が来なければ、こんなことにはならなかった……自業自得だ……」
山吹の前にしゃがみ、治療を始めようとすると、主は首を横に振る。
「違うわ、朽葉。治療する相手を間違えてる」
「……え?」
「早く解毒してあげて、竜之助様を」
「な、なにを仰ってるんですか、姫様!」
「毒を消したところで……この傷じゃあ、どうにもならないでしょう」
「そう、ですが、そうじゃありません! あいつは先程まであなたを慰み者にしてたのですよ!」
「それはこっちからお願いしたことだったし。それに案外悪くなかったわよ?」
「……っ!? いいえ、姫様! こればかりはあなた様の命令でも聞けません! 傷は後でどうにかします! だからまずは解毒を──」
治療を始めようとする救いの手を、山吹は押しのけた。
冷たく力のこもっていない手。薄弱としているがそれでも主の固い意思であった。
「……どうして、姫様は、そういうことをなさるのですか……!」
蜘蛛よりも脆い糸をたぐるのは朽葉も同じ。主の命が助かる見込みがないのはわかっていた。それでも知らぬふりをして、到底起きぬであろう奇跡に賭けたかった。
「ふふ、ごめんなさい……」
「……ん、ッフー!」
目から零れ落ちる液体を首を振って切り、朽葉は解毒薬を持って竜之助の元へ。
「……姫様の恩情に感謝しろ。助けるからには生きろ。お前の命はお前だけの物じゃないと思え」
そして存外手際良く、治療を施したのだった。
「強く揺すらないで……毒が回るわ……」
竜之助と同じ毒を受けたが刺し傷の箇所の違いで山吹は言葉を発せた。
「はっ、私としたことが……!」
「朽葉。解毒薬の隠し場所、覚えてるわよね?」
「お任せください! ただちに持ってきて治療いたします!」
朽葉は洞窟の奥へと走る。
「……竜之助様。先程は助けていただきありがとうございました。このご恩は必ずお返しします」
身体をよじらせながら壁に背中を預けて、やっとの思いで上半身を起こす。身体の下には血だまりができていた。
それでも命の恩人への礼は欠かせない。何かも今更遅い、矜持を見せる。
「ふ、ふーっ……うっ……ふっ……」
竜之助は呼吸が難しくなっていた。首まで毒が回ってきた。じわりじわりと感覚が失い、呼吸するための筋肉がしびれ始めた。
傷口から毒を抜こうとするが上手く行かない。想像以上に毒の足が早い。
「ふ……哀れな男だな……どうあがこうと地獄行きは免れないというのに」
薬を持ってきた朽葉は、振りほどいても振りほどいても手を伸ばしてきた男の必死さを嘲って笑う。
「薬はある。しかし一人分しか残っていない。姫様が命からがら残してくださった貴重な薬だ。当然姫様に使う」
朽葉の言葉を無視して竜之助は生存に繋がる細い糸をたぐる。蜘蛛の糸よりも脆くとも。
「せいぜい苦しみもがけ。姫様に手を出した報いだ……お前が来なければ、こんなことにはならなかった……自業自得だ……」
山吹の前にしゃがみ、治療を始めようとすると、主は首を横に振る。
「違うわ、朽葉。治療する相手を間違えてる」
「……え?」
「早く解毒してあげて、竜之助様を」
「な、なにを仰ってるんですか、姫様!」
「毒を消したところで……この傷じゃあ、どうにもならないでしょう」
「そう、ですが、そうじゃありません! あいつは先程まであなたを慰み者にしてたのですよ!」
「それはこっちからお願いしたことだったし。それに案外悪くなかったわよ?」
「……っ!? いいえ、姫様! こればかりはあなた様の命令でも聞けません! 傷は後でどうにかします! だからまずは解毒を──」
治療を始めようとする救いの手を、山吹は押しのけた。
冷たく力のこもっていない手。薄弱としているがそれでも主の固い意思であった。
「……どうして、姫様は、そういうことをなさるのですか……!」
蜘蛛よりも脆い糸をたぐるのは朽葉も同じ。主の命が助かる見込みがないのはわかっていた。それでも知らぬふりをして、到底起きぬであろう奇跡に賭けたかった。
「ふふ、ごめんなさい……」
「……ん、ッフー!」
目から零れ落ちる液体を首を振って切り、朽葉は解毒薬を持って竜之助の元へ。
「……姫様の恩情に感謝しろ。助けるからには生きろ。お前の命はお前だけの物じゃないと思え」
そして存外手際良く、治療を施したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!
カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地!
恋に仕事に事件に忙しい!
カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m
→📚️賛否分かれる面白いショートストーリー(1分以内で読了限定)
ノアキ光
大衆娯楽
(▶アプリ無しでも読めます。 目次の下から読めます)
見ていただきありがとうございます。
1分前後で読めるショートストーリーを投稿しています。
不思議なことに賛否分かれる作品で、意外なオチのラストです。
ジャンルはほとんど現代で、ほのぼの、感動、恋愛、日常、サスペンス、意外なオチ、皮肉、オカルト、ヒネリのある展開などです。
日ごとに違うジャンルを書いていきますので、そのときごとに、何が出るか楽しみにしていただければ嬉しいです。
(作品のもくじの並びは、上から順番に下っています。最新話は下になります。読んだところでしおりを挟めば、一番下までスクロールする手間が省けます)
また、好みのジャンルだけ読みたい方は、各タイトル横にジャンル名を入れますので、参考にしていただければ、と思います。
短いながら、よくできた作品のみ投稿していきますので、よろしくお願いします。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
勇者パーティクビになったら美人カウンセラーと探偵業始めることになってしまった
角砂糖
ファンタジー
あらすじ
異世界に召喚された少年・高原倫太郎は、勇者パーティに入ったものの「役立たず」と嘲られ、無情にも追放されてしまう。
居場所を失い彷徨う彼の前に現れたのは、銀髪の美貌を持つ年上の女性――真導渚。
人の“心の糸”を見抜く力を持つ彼女は、倫太郎に寄り添い、新たな道を示す。
二人が始めたのは、冒険でも戦いでもなく――探偵業。
最初の依頼は、半年前に王城で起きた「金貨横領事件」。
誰もが真実にたどり着けなかった難事件に挑むうち、倫太郎は高校生らしい発想で推理を積み重ね、渚は心と体を調律する力で支えていく。
やがて浮かび上がるのは、信じがたい真相と、醜く絡み合った心の闇。
二人の推理と行動は、やがて王国全体を揺るがす決断へとつながっていく――。
剣や魔法では救えないものを、推理と心で解きほぐす。
少年と美貌のカウンセラーが挑む、新感覚のファンタジー探偵譚、ここに開幕!
※他サイトでもアップ中です。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
竜剣《タルカ》
チゲン
ファンタジー
短剣を自在に操る竜剣(タルカ)術……その使い手ミランは、かつての師のもとを訪ねた。だが師は酒に溺れ、一人娘のセカイも別人のように明るさを失っていた。さらに突如現れた魔女に師は殺され、彼が所持していた伝説の赤の竜剣を奪い取られてしまう。
師の仇を討ち、奪われた赤の竜剣を取り戻すため、ミランとセカイは魔女を追う旅に出る。
2007年執筆。2018年改稿。
小説投稿サイト『ミッドナイトノベルズ』にて同時掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる