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【第3章】盗賊退治も淑女の仕事ですわ! ちょっと寄り道ソボク村

アナベルと家族とアレクシス嬢

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 二人は盗賊たちを荷車から下し、商人に馬と共に返却した後に村長の家へと向かった。

「ふう、死ぬかと思ったわい」

 村長は袖で額の汗をぬぐう。

「誰のせいですの、誰の!」

 アレクシスはハンカチで顔を拭く。

「悪かったよ。お詫びに、さっきのお返しとやらは任せてくれ。村長権限ですぐに集めてやる」
「頼みましたわよ、この国の命運がかかってますのよ」
「これまた国の命運とは大きく出たな。お前さん、一体何者なんだ? 只者じゃないことはわかるが」
「名を名乗るほどの者じゃありませんわ。ただの通りすがりのですわ」
「ふん、元気を取り戻したところで生意気には変わりないな。淑女とか気品ぶってるが、村を助けた見返りにイケメンが見たいとか頭どうかしてるのか」
「まあ、頭どうかしてるかなんてひどいですわ。至って普通のことではありませんか? いついかなる時も美しい物を見ていたい触れていたい感じていたいと思うものでしょう?」
「やはり貴族様だな。頭まで肥えてやがる。俺たちゃ平民は常に食い扶持が稼げるか不安でいっぱいなんだよ。つくづくいいご身分だぜ」
「んまー! 村長様ってば! ちょっと良い人かと見直しましたのに、つくづく嫌味な人ですわ!」

 仲良く口喧嘩を繰り広げていると村長の家の屋根が見えてきた。

「あーあ、ついに帰ってきちまった。格好つけて出てきた手前、帰りづらいな」
「村長様。盗賊についてですが」

 アレクシスは村長の憎しみを知っている。家族の仇で殺意を持つことも仕方ないと理解している。

「わかってるよ、嬢ちゃん。命の恩人であるお前さんがわざわざ殺さずに捕まえた盗賊共を殺すような真似はしねえさ」

 気を失っている今なら命を奪うことは容易い。ナイフで一突きで済む。
 しかし村長はアレクシスの意思を尊重した。

「すみません、私にも譲れないことがあるんですの。もしも村長が気を失っている盗賊の命を奪うようなら私はあなたを止めなくてはなりません」
「そんな追い詰めた顔するな、若いの。シワができるぞ」

 村長は彼女の肩に手を置く。

「これで……これでいいんだ。そんなことをしたら妻は許してくれない。何よりアナベルに顔向けできなくなる」
「ご理解いただけて何よりですわ」
「だがあいつらが家族に手を出すような不埒な真似をしたらその時は……」
「ええ、その時は……私に止める権利はありませんわ」

 家の前では村長の妻とアナベルが待っていた。

「あああよがっだあああがえってきちゃあああ」

 意外なことにアナベルは半べそをかいていた。鼻水を垂らしながら駆け寄ってくる。

「あーあー、あんな鼻水たらしちまって。嬢ちゃん、避けてやるなよ? それとドレスを汚しちまっても弁償は──」

 意外や意外。
 アナベルが真っ先に抱きついたのは、

「おぢじゃああああん!! どっかいっちゃやああああ!!」

 義父である村長のほうだった。

「あ、アナベル……?」
「しぬのやああやあああ!! さびしいいいのやああああ!!! ばかあああ」

 アナベルが華奢な腕で体中を叩く。叩かれたところはずきずきと芯まで痛む。
 痛みは子供の頃の古傷を起こし、親の使命を思い出させる。

「……ああ、馬鹿だったよ、俺ぁ大馬鹿だ……忘れてたよ……家族がいなくなるのって寂しいんだよな……」

 涙と鼻水は村長にも移った。
 父と娘は顔がぐちゃぐちゃになるまで泣き続けた。
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