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憎しみの果てで悪魔は微笑む 4
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爆発と同時にノワールを拘束していた水の塊がはじけ飛ぶ。嗚咽と呼吸を同時に行いながら悪態をつく。
「馬鹿な女が! 経験値のへそくりを俺がしてないとでも思ったか! ぼおおえええ」
そして口の中から白い物体を吐き出す。それはゲロのような液体ではなく個体。それも数秒前まで生きていた魔物だった。その正体はウオノエ。魚の口の中に住む寄生虫だった。ノワールは狡猾にも体外だけでなく体内にも使役した魔物を飼っていたのだった。主な役割は本人が言った通り、経験値のへそくりだった。いざという時のために自分に入る経験値を分けて貯めていたのだ。
「そしてええ! 爆発をもろに受けた、ゴミイ! 今のお前からなら経験値を吸い取れる! 吸い取れなきゃあ困ああある!」
半身が黒焦げのブランの唇を無理やり奪う。
「っううう! きたきたきたきた!!!!」
手応えを感じると一度唇から離れる。深呼吸をしてから唇を蚊の口のように尖らせて舌を啜る。
ぶちゅう、ちゅちゅっちゅ、ぶちゅうちゅうう。
吸えば吸うほど、傷ついた身体が蘇るどころか、より力が増していく。
「ひゃひゃひゃっひゃ!! こんな美味い食事は初めてだ!! 山頂から下界を見下ろしながら焼きたてのステーキを食べてるような気分だ!! これ以上、痛快な食事はあるかい!? そうは思わんかね、リチャードくうん!!!」
リチャードはこの時思い知る。悪逆に底はなく、憎悪に上限はない。
「ノワアアアアアアアアアル!!!! ぶっ殺す!!!!!!!!!!!!!!!」
「言葉に気を付けろよ!!!! 地獄でな!!!!!!!!!!!!!!」
ノワールはブランと同様にリチャードにも爆発魔法の種を送り込む。
リチャードはノワールに対して絶対に覆りようのない殺意を抱えていた。しかしそれに身体が応えてくれなかった。シロの延命の代償はあまりに大きかった。
(ここまでか……!? 魔境エキドナを何周も踏破し、ダンジョンの主となったこの吾輩が、何一つ守れずに全てが害悪でしかない男に負けるのか……!?)
どうしようにも為す術がなかったが諦めなかった。必死で怨敵を睨みつけていた。すると怨敵の後ろに影。
「どりゃあああああ!」
テオだった。隙だらけの背後から切りかかろうとしていた。
「貴様生きていたのか!?」
ノワールは攻撃を止め、回避に専念。横に大きく跳躍し不意打ちを免れる。
「しかし死期が少しずれただけ! 今すぐあの長耳女の元へ送ってやる!」
テオの武器は剣のみ。安全な間合いを取れば勝ったも同然。
「さあ死ね! っていない!?」
振り返るとテオの姿はない。そして倒れていたブランの姿もない。
そう、そもそも彼の目的、優先事項が違ったのだ。
「ほぼ裸の姉ちゃん確保!」
瀕死のブランを背負って逃げ出していた。そして次の彼の行先は、
「リチャード! 助けに来たぞ!」
「テオ君……! 生きていたのか! しかしどうやって!」
「話は後だぞ! 早く脱出するぞ!」
テオはリチャードの腕を首に巻いて走り出す。
「おっと、ゴミがいい感じにまとまってるではないか。こういうのを何といったか? 一石三鳥だったかな?」
ノワールは爆発魔法の種を飛ばす。
「テオ君、だめだ……このままでは全員がやられてしまう……」
テオは大人二人を運ぶこと自体は不可能ではない。しかしそもそもスピードが足りない。
「大丈夫だぞ! 俺には心強い相棒がいるぞ!」
「ふははは! どこにそんな都合のいい仲間がいるのだ! ここには朕とお前らしかいないぞ!」
「ぢうぢう!」
返事はここにいるぞと言わんばかりに自信たっぷりの鳴き声だった。
「な、なんだ、この不愉快な鳴き声は!」
それはラタトスクだった。小さな心強い相棒がノワールの耳元で発していたのだ。
「貴様はさっきのリスの仲間か!? よりにもよって朕の肩に乗るだと!? ええい、握りつぶしてやる!!」
「ぢーう!」
ラタトスクは鋭利な前歯で首元に噛みつく。
「ぎゃああああああ!!」
激痛に絶叫するノワールから飛び降りるとテオとは逆方向にじぐざぐに走る。
「貴様あ! 止まれ! 今すぐ! 八つ裂きにしてやる!」
ノワールは血眼になってラタトスクを追う。小さい獲物に対して必要以上の魔力を使って爆発魔法を起こす。目的に一直線だったテオと違い、慢心した彼は優先順位を見誤ってしまう。
「ぢうぢう!」
ラタトスクはどこ見てるんだと嘲笑いながら翻弄し釘付けにする。
「リチャード! トニョはどこにいるんだ!?」
テオは首をぐるぐる回してトニョを探す。
リチャードはちらりと動かなくなったトパーズドラゴンを見る。
「……彼は先に脱出した。時空魔法でね」
咄嗟に噓をついた。トニョの行為は許せない。しかしテオはトニョを慕っていた。きっと真実を話せばショックを受けるだろう。あるいはすぐにトパーズドラゴンの元へ走り、下敷きになっているトニョを助けに行くかもしれない。
(しかし今さら助けに行ったところで助からないのだ……結果的により深く傷つくだけだ……)
保身に走ったことに偽りはないが決して助かりたくて嘘をついたわけではない。
「そうか! 無事ならいいんだ!」
テオはリチャードの言うことを信じ、走り続ける。向かうは65層。
ラタトスクは上手く時間を稼いでいる。
現状は作戦通り。
しかし忘れてはいけない。
ここは魔境エキドナ。
弱者に甘くはない。
「嘘だろ……」
快速飛ばしていたテオの足が止まる。
65層へ続く道は塞がっていたからだ。
ぷるんぷるんと揺れる巨大なゼリー状の魔物、ビッグウォータースライムが現れた。これはかつてノワールが使役した個体とはまた別の個体。新たに自然発生した魔物だ。よりにもよって考える限りテオとの相性が一番悪い相手だ。
「……これが魔境エキドナか」
リチャードは歯ぎしりをする。本調子であれば氷魔法で一発だ。今はこちらが一発を受ければ命が散る。
「テオ君。慌てるな、正確に核を突けば剣でも倒せない相手ではない」
「リチャード……いきなりそんなこと俺に言われてもできないぞ」
「しかしテオ君。君しか頼れないんだ。君にしかシロ君を守れないんだ」
「……俺には、できることしかできない」
テオはゆっくりと背負っていた二人を下ろす。
「一か八か……やるしかないぞ……」
そう言って剣を握り、力を溜める。
一層から見守ってきたリチャードにはわかる。これから推しが何をしようとしているか手に取るようにわかる。
「いかん、テオ君! その技を、テオクラッシャーを使ってはいけない!」
「でも! これを使わないと誰も守れないぞ!」
テオの覚悟は本物だった。
魔境エキドナは一人の少年を本物の勇者に育て上げた。
しかし本物の勇者という役目は一人の少年にはあまりに荷が重すぎる。
「俺は勇者だ! 戦わないと誰も、俺を認めてくれない!」
そして穏やかに過ごすはずだった人生を大きく狂わせた。
(いかん、テオ君はビクトリアちゃんの死を引きずり自暴自棄のままだ! それは仕方ない! 仕方ないのだが!)
リチャードは死に急ぐ推しに呼びかける。
「だめだ、テオ君! ここエキドナでは逃げは許されても諦めだけは絶対にしてはいけない!」
事態はより最悪だった。
想像よりもビッグウォータースライムの動きが早い。
テオを敵と認識し、ゼリー状の触手を伸ばして攻撃をしかけようとしていた。
このままではテオクラッシャーを放つ前にやられ、全滅してしまう。
ビッグウォータースライムの水面に波紋が広がる。これが攻撃の直前の特徴。経験を積めば回避が容易いが、動きを止めたテオはいい的でしかない。
波紋の中心から触手が生えたかと思うと高速で伸び、テオに襲い掛かる。
もうだめかと思った瞬間、
「させるかよ!」
何者かが現れて触手の根元を叩き切った。
テオの額に届きかけた触手はただの水となり、はじけ飛ぶ。
「ひゃあ……危ないところだったな、テオ……」
その男は親しげに馴れ馴れしくテオの頭を撫でる。
テオはされるがままだった。半ば放心していた。
「なんで……どうしてここに……」
「約束しただろう。俺はお前が守ってやるって」
その男は間違いなく間一髪命を救った救世主だった。テオだけでなく、リチャード、そしてシロを。
だけどリチャードは喜ばなかった。むしろ侮蔑の眼差しを向ける。
「いまさら……いまさら何をしに来た、ロビン」
それはかつてパーティから追放されたロビンに違いはなかった。
「馬鹿な女が! 経験値のへそくりを俺がしてないとでも思ったか! ぼおおえええ」
そして口の中から白い物体を吐き出す。それはゲロのような液体ではなく個体。それも数秒前まで生きていた魔物だった。その正体はウオノエ。魚の口の中に住む寄生虫だった。ノワールは狡猾にも体外だけでなく体内にも使役した魔物を飼っていたのだった。主な役割は本人が言った通り、経験値のへそくりだった。いざという時のために自分に入る経験値を分けて貯めていたのだ。
「そしてええ! 爆発をもろに受けた、ゴミイ! 今のお前からなら経験値を吸い取れる! 吸い取れなきゃあ困ああある!」
半身が黒焦げのブランの唇を無理やり奪う。
「っううう! きたきたきたきた!!!!」
手応えを感じると一度唇から離れる。深呼吸をしてから唇を蚊の口のように尖らせて舌を啜る。
ぶちゅう、ちゅちゅっちゅ、ぶちゅうちゅうう。
吸えば吸うほど、傷ついた身体が蘇るどころか、より力が増していく。
「ひゃひゃひゃっひゃ!! こんな美味い食事は初めてだ!! 山頂から下界を見下ろしながら焼きたてのステーキを食べてるような気分だ!! これ以上、痛快な食事はあるかい!? そうは思わんかね、リチャードくうん!!!」
リチャードはこの時思い知る。悪逆に底はなく、憎悪に上限はない。
「ノワアアアアアアアアアル!!!! ぶっ殺す!!!!!!!!!!!!!!!」
「言葉に気を付けろよ!!!! 地獄でな!!!!!!!!!!!!!!」
ノワールはブランと同様にリチャードにも爆発魔法の種を送り込む。
リチャードはノワールに対して絶対に覆りようのない殺意を抱えていた。しかしそれに身体が応えてくれなかった。シロの延命の代償はあまりに大きかった。
(ここまでか……!? 魔境エキドナを何周も踏破し、ダンジョンの主となったこの吾輩が、何一つ守れずに全てが害悪でしかない男に負けるのか……!?)
どうしようにも為す術がなかったが諦めなかった。必死で怨敵を睨みつけていた。すると怨敵の後ろに影。
「どりゃあああああ!」
テオだった。隙だらけの背後から切りかかろうとしていた。
「貴様生きていたのか!?」
ノワールは攻撃を止め、回避に専念。横に大きく跳躍し不意打ちを免れる。
「しかし死期が少しずれただけ! 今すぐあの長耳女の元へ送ってやる!」
テオの武器は剣のみ。安全な間合いを取れば勝ったも同然。
「さあ死ね! っていない!?」
振り返るとテオの姿はない。そして倒れていたブランの姿もない。
そう、そもそも彼の目的、優先事項が違ったのだ。
「ほぼ裸の姉ちゃん確保!」
瀕死のブランを背負って逃げ出していた。そして次の彼の行先は、
「リチャード! 助けに来たぞ!」
「テオ君……! 生きていたのか! しかしどうやって!」
「話は後だぞ! 早く脱出するぞ!」
テオはリチャードの腕を首に巻いて走り出す。
「おっと、ゴミがいい感じにまとまってるではないか。こういうのを何といったか? 一石三鳥だったかな?」
ノワールは爆発魔法の種を飛ばす。
「テオ君、だめだ……このままでは全員がやられてしまう……」
テオは大人二人を運ぶこと自体は不可能ではない。しかしそもそもスピードが足りない。
「大丈夫だぞ! 俺には心強い相棒がいるぞ!」
「ふははは! どこにそんな都合のいい仲間がいるのだ! ここには朕とお前らしかいないぞ!」
「ぢうぢう!」
返事はここにいるぞと言わんばかりに自信たっぷりの鳴き声だった。
「な、なんだ、この不愉快な鳴き声は!」
それはラタトスクだった。小さな心強い相棒がノワールの耳元で発していたのだ。
「貴様はさっきのリスの仲間か!? よりにもよって朕の肩に乗るだと!? ええい、握りつぶしてやる!!」
「ぢーう!」
ラタトスクは鋭利な前歯で首元に噛みつく。
「ぎゃああああああ!!」
激痛に絶叫するノワールから飛び降りるとテオとは逆方向にじぐざぐに走る。
「貴様あ! 止まれ! 今すぐ! 八つ裂きにしてやる!」
ノワールは血眼になってラタトスクを追う。小さい獲物に対して必要以上の魔力を使って爆発魔法を起こす。目的に一直線だったテオと違い、慢心した彼は優先順位を見誤ってしまう。
「ぢうぢう!」
ラタトスクはどこ見てるんだと嘲笑いながら翻弄し釘付けにする。
「リチャード! トニョはどこにいるんだ!?」
テオは首をぐるぐる回してトニョを探す。
リチャードはちらりと動かなくなったトパーズドラゴンを見る。
「……彼は先に脱出した。時空魔法でね」
咄嗟に噓をついた。トニョの行為は許せない。しかしテオはトニョを慕っていた。きっと真実を話せばショックを受けるだろう。あるいはすぐにトパーズドラゴンの元へ走り、下敷きになっているトニョを助けに行くかもしれない。
(しかし今さら助けに行ったところで助からないのだ……結果的により深く傷つくだけだ……)
保身に走ったことに偽りはないが決して助かりたくて嘘をついたわけではない。
「そうか! 無事ならいいんだ!」
テオはリチャードの言うことを信じ、走り続ける。向かうは65層。
ラタトスクは上手く時間を稼いでいる。
現状は作戦通り。
しかし忘れてはいけない。
ここは魔境エキドナ。
弱者に甘くはない。
「嘘だろ……」
快速飛ばしていたテオの足が止まる。
65層へ続く道は塞がっていたからだ。
ぷるんぷるんと揺れる巨大なゼリー状の魔物、ビッグウォータースライムが現れた。これはかつてノワールが使役した個体とはまた別の個体。新たに自然発生した魔物だ。よりにもよって考える限りテオとの相性が一番悪い相手だ。
「……これが魔境エキドナか」
リチャードは歯ぎしりをする。本調子であれば氷魔法で一発だ。今はこちらが一発を受ければ命が散る。
「テオ君。慌てるな、正確に核を突けば剣でも倒せない相手ではない」
「リチャード……いきなりそんなこと俺に言われてもできないぞ」
「しかしテオ君。君しか頼れないんだ。君にしかシロ君を守れないんだ」
「……俺には、できることしかできない」
テオはゆっくりと背負っていた二人を下ろす。
「一か八か……やるしかないぞ……」
そう言って剣を握り、力を溜める。
一層から見守ってきたリチャードにはわかる。これから推しが何をしようとしているか手に取るようにわかる。
「いかん、テオ君! その技を、テオクラッシャーを使ってはいけない!」
「でも! これを使わないと誰も守れないぞ!」
テオの覚悟は本物だった。
魔境エキドナは一人の少年を本物の勇者に育て上げた。
しかし本物の勇者という役目は一人の少年にはあまりに荷が重すぎる。
「俺は勇者だ! 戦わないと誰も、俺を認めてくれない!」
そして穏やかに過ごすはずだった人生を大きく狂わせた。
(いかん、テオ君はビクトリアちゃんの死を引きずり自暴自棄のままだ! それは仕方ない! 仕方ないのだが!)
リチャードは死に急ぐ推しに呼びかける。
「だめだ、テオ君! ここエキドナでは逃げは許されても諦めだけは絶対にしてはいけない!」
事態はより最悪だった。
想像よりもビッグウォータースライムの動きが早い。
テオを敵と認識し、ゼリー状の触手を伸ばして攻撃をしかけようとしていた。
このままではテオクラッシャーを放つ前にやられ、全滅してしまう。
ビッグウォータースライムの水面に波紋が広がる。これが攻撃の直前の特徴。経験を積めば回避が容易いが、動きを止めたテオはいい的でしかない。
波紋の中心から触手が生えたかと思うと高速で伸び、テオに襲い掛かる。
もうだめかと思った瞬間、
「させるかよ!」
何者かが現れて触手の根元を叩き切った。
テオの額に届きかけた触手はただの水となり、はじけ飛ぶ。
「ひゃあ……危ないところだったな、テオ……」
その男は親しげに馴れ馴れしくテオの頭を撫でる。
テオはされるがままだった。半ば放心していた。
「なんで……どうしてここに……」
「約束しただろう。俺はお前が守ってやるって」
その男は間違いなく間一髪命を救った救世主だった。テオだけでなく、リチャード、そしてシロを。
だけどリチャードは喜ばなかった。むしろ侮蔑の眼差しを向ける。
「いまさら……いまさら何をしに来た、ロビン」
それはかつてパーティから追放されたロビンに違いはなかった。
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