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46層 呪いと先遣隊の生き残り
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テオたちと別れた魔王はダンジョンを歩きながら考える。
(はあ、夢のような時間だった……)
推しと時間を共有し夢心地、浮足立ちながらも異変の起点と疑わしき66層へと向かっていると、
「キシャアー!」
植物の根が人の形に似た魔物ハングマンドラゴラとエンカウントする。魔物にしては小柄であり魔王の脛よりも低い。ただし見た目や植物だからとて油断してはならない。ネズミ顔負けの俊敏さで動き回り、蔓を伸ばし首を絞めにかかかる。
「はあ、もっと余韻に浸っていたかったのだがな……」
彼の実力であればハングマンドラゴラの追尾も振り切ることができる。しかしこうして真面目に戦わなくてはいけない訳がある。
「キシャーシャー!」
五本の蔓を伸ばして襲い掛かってくる。まずは足を絡めとり、次に腕、最後には首を絞めにかかろうとするが、
「ファイア」
「キシャー!?」
炎の魔法を一発浴びせて焼却する。
相手が悪かっただけに瞬殺されたもののハングマンドラゴラは立派な脅威。特に魔法使いだ。今のように即座に首を絞めにかかるので詠唱を封じられてしまう。これで何人もの魔法使いが本領発揮する前に亡き者になっている。
「さてと急がなくては」
先へ進もうとするが身体が引っ張られる。
よく見ると焼き切ったはずの蔓が防具の隙間から侵入し首に幾重にも巻き付いている。
「キシャシャシャ」
「キシャシャシャ」
「キシャシャシャ」
蔓は四方八方から伸びていた。蔓の先から複数のハングマンドラゴラの笑いにも似た鳴き声が聞こえる。
(……ふむ、マンドラゴラまでもが大量発生しているのか……)
首を絞められて言葉が発せないが彼には些細な問題。
「……っ!」
何本もの蔓を両手で掴み、胸の前で前後に回転させて手繰り寄せる。
「キー!?」「シゃー!?」「シャー!」
株連蔓引。ダンジョンの主を襲ってタダで済むはずがない。
「ファイア」
簡単な魔法の詠唱の後に耳障りな断末魔が響き渡る。
「……ふむ。不幸中の幸いか、良い経験値稼ぎになったな」
急いでいる彼がこうして足を止めてまで雑魚を相手する理由、それは経験値稼ぎを稼ぐためだ。
彼の現在のレベルは98……ではない。
「まだ60か。ずいぶんと下げられたものだ」
自身を鑑定し改めて確認する。ガクンとレベルが下がっていた。
レベルが下がることはさほど不思議ではない。長期間第一線を退いたり鍛錬を怠ればレベルは徐々に下がっていく。
異常なのはその速度と原因である。
「やはり気持ちよくないな……この呪いは」
このダンジョンには呪いが存在する。時空魔法などで瞬間移動をするとまるで罰のようにレベルが下がってしまうのだ。レベルが下がれば当然能力値も下がる。上げるにはもう一度敵を倒して回るしか方法はない。
下がり幅は移動距離に比例する。下層から上層、上層から下層でも、到着した瞬間に呪いは発動する。それはどんな高レベルのダンジョンの覇者であろうとも平等に。
「解呪方法があればダンジョン内の移動が楽になるんだけどな~」
呪い、そう呼んでいるのは便宜上。不可解なことにステータス上には呪いのバッドステータスやデバフとして認識されていない。解呪方法がダンジョン内に隠されているのではないかと考え、十年以上かけてくまなく探したこともあったが手がかりになりえる情報は見つからなかった。それゆえに回復魔法は一切通用せず、便利な時空魔法の後には地道な作業が待っている。
「一か八かで……ふん!」
何もない場所で手を掻きまわすが何も起きない。
「……ダメか」
レベルが下がっても何もすべてが消え去るわけではない。一度覚えたスキルや魔法は忘れはしない。
「時空魔法は80までのお預けか」
忘れはしないが、ただし使えなくなってしまう。一定のレベル、能力値まで上げないと再び発動できない。
「シロくん、怒ってるだろうなー……テオくんたちを救うために強引に時空魔法を使ったんだから」
魔王リチャードはレベルの低下を承知で、腹心の制止を振り払い、将来敵となる勇者テオ一行を助けに馳せ参じたのだ。家臣が快く思うはずがない。
「あとで砂糖たっぷりのお菓子を作らないとだね」
急ぎながらも丁寧に。そう心がけて進んでいると、
「あぁ、なんてことでしょう! この闇深きエキドナで幸運と出会えるとは!」
一人の女性が現れる。杖を携えていることから魔法使いだ。
「助けてください、黒騎士様! いかなるお礼もします! だから私を地上まで送り届けていただきませんか!?」
「そうか、それは大変だったな。頑張ってくれ」
「ちょちょちょー!?」
リチャードは完全に無視したが女はしがみつく。
「どけ。吾輩は急いでいるのだ」
「そう仰らず! 悪い話ではありません! せめて話だけでも!」
「うむ? お前どこかで見覚えがあるな……そうだ、先遣隊の一人か」
眷属のジリスから監視していた記憶が残っていた。先遣隊は何十人もいたが彼女については訳あって印象が残っていた。
「もしやどこかでお会いしてました!? それもまた縁! どうかご慈悲を」
「ご慈悲? 馬鹿を言うな。貴様のような外道に手を貸す道理はない」
その女は魔法使いであり魔女でもあった。男をたぶらかしては時に操り人形にし、時に盾にし、時に争い合わせていた。彼女のその場の気まぐれのせいで精鋭を揃えていた先遣隊は崩壊した。
正体を見破られた女は早々に正体を現す。
「もう遅いわ! 魅了!」
魅了。主に異性を魅了し、自分の意のままに操る魔法。
「ホホホ! これでもうこんな僻地とはおさらばだ! しかし久々のおもちゃを手に入れたことだし、ちょっと遊ぼうかしら~!? 泥だらけになった靴をきれいに舐めとってもらおうかしら、ホホホホ!」
調子に乗って高笑いする魔女は完全に油断していた。後ろから迫る蔓にまるで気が付かなかった。
「んが、こ、れ、は……!?」
魔法詠唱や指示を出す前に首が締まってしまう。
「キシャシャシャ……」
ハングマンドラゴラがまた一匹現れた。
(こんなところで死ぬなんて……)
魔女は強く死を意識するが、
「キシャー!?」
ハングマンドラゴラは真っ二つに切断される。
リチャードが大剣を振るったからだ。
「んぐ、げほっ、げほっ! がはっ!」
気道が正常に戻った魔女は酷くせき込む。
「はぁっ! た、たすかった! でもたしかにツキが回ってきている! そ、それに命令を言う前にこの人形は助けてくれた! これってつまり、成長してるってことでは!?」
「おい、女」
「こるあ! 人形! 勝手に喋ってんじゃない!」
リチャードは魔女の頭を鷲掴みにする。その力に女への遠慮はない。髪は皴になるし、頭が割れるような力だ。
「いたいたいたいたい!? うっそ、魅了効いてない!!!!!!????」
「まるでマンドラゴラを抜いた直後のような声だな……吾輩はどちらかというと物静かな女性が好みなんだがな。お前はその正反対だ」
より力がこもる。マンドラゴラが蔓で首を絞める力よりも強い。
「きゃああああ!? なんでなんで!? さっきは助けてくれたんじゃなかったの!!?」
「助けた? 馬鹿を言うな。自分のために経験値を稼いだに過ぎない」
「やめて! 不意打ちは謝るから! なんでもするから、命だけは!!」
「お前に決定権はない。お前を生かしてやっているのは実験するためだ」
そして魔王は覚えたての魔法を試す。
「魅了」
「そ、れ、私の──!?」
魔女は黙り込む。虚ろな目をリチャードに向ける。意識があるようでない状態に。
「うむ、ちと強くやりすぎたかな。初めての魔法は加減がわからぬな。テイムとどう違うのか確かめたかったのだがこれでは確認しようがない。失敗したな。脳に負荷がかかって廃人になってないといいのだが」
別に彼女の身を案じているわけではない。あくまで実験の支障がないかを気にしている。
「女。黙って地上まで行け」
「……」
女は返事も頷きもせずに虚ろな目のままおぼつかない足取りで地上へと向かう。
「喜べ、地上に戻してやる。ただし生きて帰れるかはお前の運次第だがな」
攻撃されても見過ごしてやったのは魅了の持続期間を確かめたくなったからだ。互いに運が良ければ眷属のジリスで生存が確認できる。
「……しかし50層近くまで今のような雑魚が到達できるようになるとは……地上にボスの名前や特徴だけでなく、攻略方法まで知れ渡っていると考えるべきか。我先と突撃するばかりではなく地上に情報に持ち帰っているとなれば人間もそこまで愚かではないようだな」
トニョという名の男の顔が浮かぶ。彼はボスのリポップ時間まで調査し、目的が達成すればそれ以上の深追いをせずに引き返すことができる慎重派だ。防衛する側にとっては最も厄介で警戒すべき駒だ。
「食えない男だ。叶うなら、ああいう賢者と心置きなく全力も出して戦ってみたいものだな」
リチャードLv61。現在地46層。目的地まではまだ遠い。
(はあ、夢のような時間だった……)
推しと時間を共有し夢心地、浮足立ちながらも異変の起点と疑わしき66層へと向かっていると、
「キシャアー!」
植物の根が人の形に似た魔物ハングマンドラゴラとエンカウントする。魔物にしては小柄であり魔王の脛よりも低い。ただし見た目や植物だからとて油断してはならない。ネズミ顔負けの俊敏さで動き回り、蔓を伸ばし首を絞めにかかかる。
「はあ、もっと余韻に浸っていたかったのだがな……」
彼の実力であればハングマンドラゴラの追尾も振り切ることができる。しかしこうして真面目に戦わなくてはいけない訳がある。
「キシャーシャー!」
五本の蔓を伸ばして襲い掛かってくる。まずは足を絡めとり、次に腕、最後には首を絞めにかかろうとするが、
「ファイア」
「キシャー!?」
炎の魔法を一発浴びせて焼却する。
相手が悪かっただけに瞬殺されたもののハングマンドラゴラは立派な脅威。特に魔法使いだ。今のように即座に首を絞めにかかるので詠唱を封じられてしまう。これで何人もの魔法使いが本領発揮する前に亡き者になっている。
「さてと急がなくては」
先へ進もうとするが身体が引っ張られる。
よく見ると焼き切ったはずの蔓が防具の隙間から侵入し首に幾重にも巻き付いている。
「キシャシャシャ」
「キシャシャシャ」
「キシャシャシャ」
蔓は四方八方から伸びていた。蔓の先から複数のハングマンドラゴラの笑いにも似た鳴き声が聞こえる。
(……ふむ、マンドラゴラまでもが大量発生しているのか……)
首を絞められて言葉が発せないが彼には些細な問題。
「……っ!」
何本もの蔓を両手で掴み、胸の前で前後に回転させて手繰り寄せる。
「キー!?」「シゃー!?」「シャー!」
株連蔓引。ダンジョンの主を襲ってタダで済むはずがない。
「ファイア」
簡単な魔法の詠唱の後に耳障りな断末魔が響き渡る。
「……ふむ。不幸中の幸いか、良い経験値稼ぎになったな」
急いでいる彼がこうして足を止めてまで雑魚を相手する理由、それは経験値稼ぎを稼ぐためだ。
彼の現在のレベルは98……ではない。
「まだ60か。ずいぶんと下げられたものだ」
自身を鑑定し改めて確認する。ガクンとレベルが下がっていた。
レベルが下がることはさほど不思議ではない。長期間第一線を退いたり鍛錬を怠ればレベルは徐々に下がっていく。
異常なのはその速度と原因である。
「やはり気持ちよくないな……この呪いは」
このダンジョンには呪いが存在する。時空魔法などで瞬間移動をするとまるで罰のようにレベルが下がってしまうのだ。レベルが下がれば当然能力値も下がる。上げるにはもう一度敵を倒して回るしか方法はない。
下がり幅は移動距離に比例する。下層から上層、上層から下層でも、到着した瞬間に呪いは発動する。それはどんな高レベルのダンジョンの覇者であろうとも平等に。
「解呪方法があればダンジョン内の移動が楽になるんだけどな~」
呪い、そう呼んでいるのは便宜上。不可解なことにステータス上には呪いのバッドステータスやデバフとして認識されていない。解呪方法がダンジョン内に隠されているのではないかと考え、十年以上かけてくまなく探したこともあったが手がかりになりえる情報は見つからなかった。それゆえに回復魔法は一切通用せず、便利な時空魔法の後には地道な作業が待っている。
「一か八かで……ふん!」
何もない場所で手を掻きまわすが何も起きない。
「……ダメか」
レベルが下がっても何もすべてが消え去るわけではない。一度覚えたスキルや魔法は忘れはしない。
「時空魔法は80までのお預けか」
忘れはしないが、ただし使えなくなってしまう。一定のレベル、能力値まで上げないと再び発動できない。
「シロくん、怒ってるだろうなー……テオくんたちを救うために強引に時空魔法を使ったんだから」
魔王リチャードはレベルの低下を承知で、腹心の制止を振り払い、将来敵となる勇者テオ一行を助けに馳せ参じたのだ。家臣が快く思うはずがない。
「あとで砂糖たっぷりのお菓子を作らないとだね」
急ぎながらも丁寧に。そう心がけて進んでいると、
「あぁ、なんてことでしょう! この闇深きエキドナで幸運と出会えるとは!」
一人の女性が現れる。杖を携えていることから魔法使いだ。
「助けてください、黒騎士様! いかなるお礼もします! だから私を地上まで送り届けていただきませんか!?」
「そうか、それは大変だったな。頑張ってくれ」
「ちょちょちょー!?」
リチャードは完全に無視したが女はしがみつく。
「どけ。吾輩は急いでいるのだ」
「そう仰らず! 悪い話ではありません! せめて話だけでも!」
「うむ? お前どこかで見覚えがあるな……そうだ、先遣隊の一人か」
眷属のジリスから監視していた記憶が残っていた。先遣隊は何十人もいたが彼女については訳あって印象が残っていた。
「もしやどこかでお会いしてました!? それもまた縁! どうかご慈悲を」
「ご慈悲? 馬鹿を言うな。貴様のような外道に手を貸す道理はない」
その女は魔法使いであり魔女でもあった。男をたぶらかしては時に操り人形にし、時に盾にし、時に争い合わせていた。彼女のその場の気まぐれのせいで精鋭を揃えていた先遣隊は崩壊した。
正体を見破られた女は早々に正体を現す。
「もう遅いわ! 魅了!」
魅了。主に異性を魅了し、自分の意のままに操る魔法。
「ホホホ! これでもうこんな僻地とはおさらばだ! しかし久々のおもちゃを手に入れたことだし、ちょっと遊ぼうかしら~!? 泥だらけになった靴をきれいに舐めとってもらおうかしら、ホホホホ!」
調子に乗って高笑いする魔女は完全に油断していた。後ろから迫る蔓にまるで気が付かなかった。
「んが、こ、れ、は……!?」
魔法詠唱や指示を出す前に首が締まってしまう。
「キシャシャシャ……」
ハングマンドラゴラがまた一匹現れた。
(こんなところで死ぬなんて……)
魔女は強く死を意識するが、
「キシャー!?」
ハングマンドラゴラは真っ二つに切断される。
リチャードが大剣を振るったからだ。
「んぐ、げほっ、げほっ! がはっ!」
気道が正常に戻った魔女は酷くせき込む。
「はぁっ! た、たすかった! でもたしかにツキが回ってきている! そ、それに命令を言う前にこの人形は助けてくれた! これってつまり、成長してるってことでは!?」
「おい、女」
「こるあ! 人形! 勝手に喋ってんじゃない!」
リチャードは魔女の頭を鷲掴みにする。その力に女への遠慮はない。髪は皴になるし、頭が割れるような力だ。
「いたいたいたいたい!? うっそ、魅了効いてない!!!!!!????」
「まるでマンドラゴラを抜いた直後のような声だな……吾輩はどちらかというと物静かな女性が好みなんだがな。お前はその正反対だ」
より力がこもる。マンドラゴラが蔓で首を絞める力よりも強い。
「きゃああああ!? なんでなんで!? さっきは助けてくれたんじゃなかったの!!?」
「助けた? 馬鹿を言うな。自分のために経験値を稼いだに過ぎない」
「やめて! 不意打ちは謝るから! なんでもするから、命だけは!!」
「お前に決定権はない。お前を生かしてやっているのは実験するためだ」
そして魔王は覚えたての魔法を試す。
「魅了」
「そ、れ、私の──!?」
魔女は黙り込む。虚ろな目をリチャードに向ける。意識があるようでない状態に。
「うむ、ちと強くやりすぎたかな。初めての魔法は加減がわからぬな。テイムとどう違うのか確かめたかったのだがこれでは確認しようがない。失敗したな。脳に負荷がかかって廃人になってないといいのだが」
別に彼女の身を案じているわけではない。あくまで実験の支障がないかを気にしている。
「女。黙って地上まで行け」
「……」
女は返事も頷きもせずに虚ろな目のままおぼつかない足取りで地上へと向かう。
「喜べ、地上に戻してやる。ただし生きて帰れるかはお前の運次第だがな」
攻撃されても見過ごしてやったのは魅了の持続期間を確かめたくなったからだ。互いに運が良ければ眷属のジリスで生存が確認できる。
「……しかし50層近くまで今のような雑魚が到達できるようになるとは……地上にボスの名前や特徴だけでなく、攻略方法まで知れ渡っていると考えるべきか。我先と突撃するばかりではなく地上に情報に持ち帰っているとなれば人間もそこまで愚かではないようだな」
トニョという名の男の顔が浮かぶ。彼はボスのリポップ時間まで調査し、目的が達成すればそれ以上の深追いをせずに引き返すことができる慎重派だ。防衛する側にとっては最も厄介で警戒すべき駒だ。
「食えない男だ。叶うなら、ああいう賢者と心置きなく全力も出して戦ってみたいものだな」
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