ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

文字の大きさ
34 / 107

46層 呪いと先遣隊の生き残り

しおりを挟む
 テオたちと別れた魔王はダンジョンを歩きながら考える。

(はあ、夢のような時間だった……)

 推しと時間を共有し夢心地、浮足立ちながらも異変の起点と疑わしき66層へと向かっていると、

「キシャアー!」

 植物の根が人の形に似た魔物ハングマンドラゴラとエンカウントする。魔物にしては小柄であり魔王の脛よりも低い。ただし見た目や植物だからとて油断してはならない。ネズミ顔負けの俊敏さで動き回り、蔓を伸ばし首を絞めにかかかる。

「はあ、もっと余韻に浸っていたかったのだがな……」

 彼の実力であればハングマンドラゴラの追尾も振り切ることができる。しかしこうして真面目に戦わなくてはいけない訳がある。

「キシャーシャー!」

 五本の蔓を伸ばして襲い掛かってくる。まずは足を絡めとり、次に腕、最後には首を絞めにかかろうとするが、

「ファイア」
「キシャー!?」

 炎の魔法を一発浴びせて焼却する。
 相手が悪かっただけに瞬殺されたもののハングマンドラゴラは立派な脅威。特に魔法使いだ。今のように即座に首を絞めにかかるので詠唱を封じられてしまう。これで何人もの魔法使いが本領発揮する前に亡き者になっている。

「さてと急がなくては」

 先へ進もうとするが身体が引っ張られる。
 よく見ると焼き切ったはずの蔓が防具の隙間から侵入し首に幾重にも巻き付いている。

「キシャシャシャ」
「キシャシャシャ」
「キシャシャシャ」

 蔓は四方八方から伸びていた。蔓の先から複数のハングマンドラゴラの笑いにも似た鳴き声が聞こえる。

(……ふむ、マンドラゴラまでもが大量発生しているのか……)

 首を絞められて言葉が発せないが彼には些細な問題。

「……っ!」

 何本もの蔓を両手で掴み、胸の前で前後に回転させて手繰り寄せる。

「キー!?」「シゃー!?」「シャー!」

 株連蔓引。ダンジョンの主を襲ってタダで済むはずがない。

「ファイア」

 簡単な魔法の詠唱の後に耳障りな断末魔が響き渡る。

「……ふむ。不幸中の幸いか、良い経験値稼ぎになったな」

 急いでいる彼がこうして足を止めてまで雑魚を相手する理由、それは経験値稼ぎを稼ぐためだ。
 彼の現在のレベルは98……ではない。

「まだ60か。ずいぶんと下げられたものだ」

 自身を鑑定し改めて確認する。ガクンとレベルが下がっていた。
 レベルが下がることはさほど不思議ではない。長期間第一線を退いたり鍛錬を怠ればレベルは徐々に下がっていく。
 異常なのはその速度と原因である。

「やはり気持ちよくないな……この呪いは」

 このダンジョンには呪いが存在する。時空魔法などで瞬間移動ズルをするとまるでペナルティのようにレベルが下がってしまうのだ。レベルが下がれば当然能力値も下がる。上げるにはもう一度敵を倒して回るしか方法はない。
 下がり幅は移動距離に比例する。下層から上層、上層から下層でも、到着した瞬間に呪いは発動する。それはどんな高レベルのダンジョンの覇者であろうとも平等に。

「解呪方法があればダンジョン内の移動が楽になるんだけどな~」

 呪い、そう呼んでいるのは便宜上。不可解なことにステータス上には呪いのバッドステータスやデバフとして認識されていない。解呪方法がダンジョン内に隠されているのではないかと考え、十年以上かけてくまなく探したこともあったが手がかりになりえる情報は見つからなかった。それゆえに回復魔法は一切通用せず、便利な時空魔法の後には地道な作業が待っている。

「一か八かで……ふん!」

 何もない場所で手を掻きまわすが何も起きない。

「……ダメか」

 レベルが下がっても何もすべてが消え去るわけではない。一度覚えたスキルや魔法は忘れはしない。

「時空魔法は80までのお預けか」

 忘れはしないが、ただし使えなくなってしまう。一定のレベル、能力値まで上げないと再び発動できない。

「シロくん、怒ってるだろうなー……テオくんたちを救うために強引に時空魔法を使ったんだから」

 魔王リチャードはレベルの低下を承知で、腹心の制止を振り払い、将来敵となる勇者テオ一行を助けに馳せ参じたのだ。家臣が快く思うはずがない。

「あとで砂糖たっぷりのお菓子を作らないとだね」

 急ぎながらも丁寧に。そう心がけて進んでいると、

「あぁ、なんてことでしょう! この闇深きエキドナで幸運と出会えるとは!」

 一人の女性が現れる。杖を携えていることから魔法使いだ。

「助けてください、黒騎士様! いかなるお礼もします! だから私を地上まで送り届けていただきませんか!?」
「そうか、それは大変だったな。頑張ってくれ」
「ちょちょちょー!?」

 リチャードは完全に無視したが女はしがみつく。

「どけ。吾輩は急いでいるのだ」
「そう仰らず! 悪い話ではありません! せめて話だけでも!」
「うむ? お前どこかで見覚えがあるな……そうだ、先遣隊の一人か」

 眷属のジリスから監視していた記憶が残っていた。先遣隊は何十人もいたが彼女については訳あって印象が残っていた。

「もしやどこかでお会いしてました!? それもまた縁! どうかご慈悲を」
「ご慈悲? 馬鹿を言うな。貴様のような外道に手を貸す道理はない」

 その女は魔法使いであり魔女でもあった。男をたぶらかしては時に操り人形にし、時に盾にし、時に争い合わせていた。彼女のその場の気まぐれのせいで精鋭を揃えていた先遣隊は崩壊した。
 正体を見破られた女は早々に正体を現す。

「もう遅いわ! 魅了チャーム!」

 魅了チャーム。主に異性を魅了し、自分の意のままに操る魔法。

「ホホホ! これでもうこんな僻地とはおさらばだ! しかし久々のおもちゃを手に入れたことだし、ちょっと遊ぼうかしら~!? 泥だらけになった靴をきれいに舐めとってもらおうかしら、ホホホホ!」

 調子に乗って高笑いする魔女は完全に油断していた。後ろから迫る蔓にまるで気が付かなかった。

「んが、こ、れ、は……!?」

 魔法詠唱や指示を出す前に首が締まってしまう。

「キシャシャシャ……」

 ハングマンドラゴラがまた一匹現れた。

(こんなところで死ぬなんて……)

 魔女は強く死を意識するが、

「キシャー!?」

 ハングマンドラゴラは真っ二つに切断される。
 リチャードが大剣を振るったからだ。

「んぐ、げほっ、げほっ! がはっ!」

 気道が正常に戻った魔女は酷くせき込む。

「はぁっ! た、たすかった! でもたしかにツキが回ってきている! そ、それに命令を言う前にこの人形は助けてくれた! これってつまり、成長してるってことでは!?」
「おい、女」
「こるあ! 人形! 勝手に喋ってんじゃない!」

 リチャードは魔女の頭を鷲掴みにする。その力に女への遠慮はない。髪は皴になるし、頭が割れるような力だ。

「いたいたいたいたい!? うっそ、魅了効いてない!!!!!!????」
「まるでマンドラゴラを抜いた直後のような声だな……吾輩はどちらかというと物静かな女性が好みなんだがな。お前はその正反対だ」

 より力がこもる。マンドラゴラが蔓で首を絞める力よりも強い。

「きゃああああ!? なんでなんで!? さっきは助けてくれたんじゃなかったの!!?」
「助けた? 馬鹿を言うな。自分のために経験値を稼いだに過ぎない」
「やめて! 不意打ちは謝るから! なんでもするから、命だけは!!」
「お前に決定権はない。お前を生かしてやっているのは実験するためだ」

 そして魔王は覚えたての魔法を試す。

魅了チャーム
「そ、れ、私の──!?」

 魔女は黙り込む。虚ろな目をリチャードに向ける。意識があるようでない状態に。

「うむ、ちと強くやりすぎたかな。初めての魔法は加減がわからぬな。テイムとどう違うのか確かめたかったのだがこれでは確認しようがない。失敗したな。脳に負荷がかかって廃人になってないといいのだが」

 別に彼女の身を案じているわけではない。あくまで実験の支障がないかを気にしている。

「女。黙って地上まで行け」
「……」

 女は返事も頷きもせずに虚ろな目のままおぼつかない足取りで地上へと向かう。

「喜べ、地上に戻してやる。ただし生きて帰れるかはお前の運次第だがな」

 攻撃されても見過ごしてやったのは魅了の持続期間を確かめたくなったからだ。互いに運が良ければ眷属のジリスで生存が確認できる。

「……しかし50層近くまで今のような雑魚が到達できるようになるとは……地上にボスの名前や特徴だけでなく、攻略方法まで知れ渡っていると考えるべきか。我先と突撃するばかりではなく地上に情報に持ち帰っているとなれば人間もそこまで愚かではないようだな」

 トニョという名の男の顔が浮かぶ。彼はボスのリポップ時間まで調査し、目的が達成すればそれ以上の深追いをせずに引き返すことができる慎重派だ。防衛する側にとっては最も厄介で警戒すべき駒だ。

「食えない男だ。叶うなら、ああいう賢者と心置きなく全力も出して戦ってみたいものだな」

 リチャードLv61。現在地46層。目的地まではまだ遠い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...