ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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62層 ヘルハウンド戦

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 一行が62層に入った途端、敵の数が倍増する。敵は魔物の黒い犬ヘルハウンドの群れ。ただの黒い犬と油断してはいけない。れっきとした脅威となる魔物だ。

「くっ、あまりに数が多い……!」

 トニョの自動殲滅は頭上に光の球を四つ浮かせ、それぞれ火、風、水、氷の魔法を放つ。群れを近づけないようにフル稼働している。敵を発見次第自動で遠距離から攻撃する鉄壁の防御であるが一つ穴が存在する。

「また! 中に一匹入り込みました!」

 球と敵の間に味方がいると攻撃を放たない安全装置が組み込まれている。おまけに一番近い敵を追い続けるために、一度懐に潜り込まれてしまうとただの浮かぶ球になってしまう。一応はトニョの意思で発射もできるが、照準の勝手が違うためにこれもまた誤射を誘発しかねない。

「たかがいぬっころ一匹問題ねえ!」

 ロビンは盾ごと犬に体当たりし、そのまま力と体重で地面にねじ伏せる。

「バババウバウワウワウ!!!」
「そんなに起きてたいか!? それならお好きにどうぞ!」

 ロビンはあえて拘束を解き、ヘルハウンドを自由にする。

「バアアアアウ!!!」

 口がワニのように大きく開く。喉の奥まで見通せるほどに。
 そのままロビンを一飲みするかと思われたが、

「師匠は美味しくないぞ!」

 テオの一撃が一瞬にして屠る。

「さすがテオくん。頼もしい限りですね」
「えへへ、師匠のおかげだぞ」

 ヘルハウンドほどの魔物であれば知恵が備わる。最も群れの脅威となる存在はトニョと勘付き、真っ先に狙うはずであるがそうしない理由がある。

「師匠の挑発スキルのおかげでだいぶ戦いやすいんだ。ヘルハウンドはすばっしこくて動きが読みづらいけど師匠が引き寄せてくれるから攻撃が当てやすいぞ」
「どうだい、トニョさんよぉ。俺のことさんざんコケにしてくれたけど、そんな俺に助けてもらっている気分は」
「うわあ、師匠がすっげえ悪い顔をしている」

 ロビンはここぞとばかりに意地悪をするが、

「気分は悪くありませんよ。大いに助かります」

 トニョはあっけなく功績を認め素直に礼を言う。

「お、おう、わかればいいんだよ、わかれば。なんだよ、意外と素直なんだな。かわいいとこもあるじゃねえか」
「贅沢を言えば今すぐヘルハウンドの群れに単身で突っ込んで引き付けてもらえば大いに助かるのですが」
「それって俺ごと魔法を吹き飛ばすってことだよな!? やっぱかわいくねえな、お前!」
「かわいくなくて結構。それと僕のほうが年上ですからね」
「今それ全然関係ないよな!?」
「それと婚約者もいます」
「もっと関係ねえ! 関係ねえけど悔しいな、ちくしょうが!」

 なんだか男として負けた気がするロビンは泣き叫ぶ。

「ちょっとロビン! 立ち話してる暇なんてあるの!?」
「いい身分ね、こっちは働きづめだってのに」

 魔法を放ち続けるマチルドとビクトリアがクレームを入れる。

「なんで俺ばっかり責められるんですかねえ!?」

 魔法使い組は苛立ちを見せていた。
 魔法をいくら放ってもヘルハウンドの数が減らないからだ。魔力の動きから幻の類ではないとわかる。
 おまけに挟み撃ちとなり、逃げ場もない。このまま戦い続き魔力が尽きたことを考えれば焦らずにはいられなかった。
 ヘルハウンドの出現は特に前方、トニョ側が多く、自動殲滅魔法の処理が追い付かないほどに湧いてくる。

「ヘルハウンドは本来ある程度戦い、勝てないと分かれば逃げ出す習性のはずなんですが……! どうして今日は逃げ出さない……!」

 皆の焦りは、子供のテオにも伝わっていた。

「俺が一掃できれば……」

 無数のヘルハウンドの群れ。自分の力であれば突破できると考えずにはいられない。代償は高くつくがそれでも仲間の命を守れるなら……。

「テオ!!」

 そんな彼の肩をロビンは握りしめる。

「余計な気を起こすなよ! あの技は二度と一生使うな!」
「で、でも、師匠……」
「これしきの危機、俺が突破してやらあ!」

 ロビンは盾を構える。

「ビクトリア! 俺にありったけの防御バフをかけてくれ!」
「はあ? いきなり何言ってるの?」
「マチルド! 後方が薄くなったら前方のトニョの手助けしてくれ」
「あ、あんた、まさか」
「テオは後衛二人の援護だ。俺の代わりにしっかり守ってやってくれよ」
「師匠……?」
「最後にトニョ! お望みならよ、やってやろうじゃねえか!」
「……正気ですか? 本気で単身で群れに突っ込むつもりですか?」
「挑発しながら群れの中を突っ切るだけだ! 群れを抜ければあいつらは俺を追いかけてくる! つまり魔法使い組に背を見せて隙だらけになるってわけだ!」

 仲間の承諾を得ずにロビンは突っ走る。

「あの馬鹿! まだバフもかけてないのに!」

 ビクトリアは急いでロビンにバフをかける。

「うおおおおおおかかってこいやああああ」

 盾を構えながら群れの中を突っ込む。ヘルハウンドたちは口を裂いて飲み込もうとするが盾で体当たりしてはじき返す。

「バアアアウウウ!!」

 しかしヘルハウンドの一匹がロビンの足に噛みつく。

「いっっっ!!!!????」

 途端ロビンの足は一気に鈍くなる。
 隙と見たヘルハウンドは一斉に襲い掛かる。

「ちょ、タンマタンマ!?」

 襲い掛かったヘルハウンドだったが空中で火、風、水、氷の魔法に同時に襲われてマナとなって霧散する。

「キャウン!?」

 ロビンの足を噛んでいたヘルハウンドも巨人に踏まれたかのように潰れる。

「この魔法、もしや」
「礼はいりません! それよりもやると決めたからには走り切りなさい!」

 トニョの援護だった。
 器用に魔法を操って敵を排除し、ロビンの前方に道を作る。

「やるじゃねえか! トニョさんよ!」

 僅かにできた道をかき分けてロビンは快走。群れを抜け出すことに成功する。

「よっしゃ、このまま逃げ切ってしまえば殲滅が……あれ」

 さらに足を速く動かそうとするが叶わない。噛まれた足から林檎を握りつぶしたかのように血が噴き出す。

「こ、れは、やっば」

 無理に動かそうとして地面に倒れ込んでしまう。

「く、自動殲滅魔法をフルバーストするか!? でもそれだと巻き込まれてしまう……! 上手くコントロールして、上手くコントロールできるか!?」

 トニョの中に迷いが生まれる。
 そんな彼の背中を年長者を押す。

「いいじゃない、フルバースト。やっちゃいなさいよ」
「レディ! あなたって人は!?」
「いいから。こっちはもう準備が終わってるのよ」
「……そういうことですか。それでは遠慮なく」

 トニョは自動殲滅魔法のコントロールを自分に戻し、ありったけの魔力を込める。

「多重属性魔法……フル、バースト!」

 手加減なしの魔法はヘルハウンドの群れを殲滅し、そしてロビンをも葬り去ろうとする。

「うおおおお!!? せめて水攻撃はやめろよなあああ!!?」

 ロビンは咄嗟に盾を構えるが広範囲攻撃にはあまりにも心もとない。

「大丈夫よ、私がいるんだから」

 ロビンの前に現れるより大きな盾。

「マジックミラー! 打ち漏らした敵を薙ぎ払いなさい!」

 双方向からの高火力の魔法に挟まれたヘルハウンドの群れはたちまち消滅した。

「クイック! さあ、逃げるわよ!」

 全員が同じ方向に走り出す。

「やあ、我らがビクトリアさん。また命を救われたぜ。ほんでついでお願いがあるんだけど俺の足を治癒してもらえないですかね」
「ごめん、あとで」
「スルーですか!? ひどくないですか!?」

 ビクトリアは血を垂らすロビンをスルーする。

「師匠は俺がおんぶするな。たぶん回復は落ち着いたらしてもらえると思うぞ」
「くう、動けなくなったところを子供に運んでもらうとはな……かっこわるいぜ」
「んなことねえよ、師匠はすっげーかっこよかったぞ!」
「……へへ、そうかよ。お前に褒めてくれるなら俺はそれで……いたいたいたい! テオ! 怪我した足、めっちゃ地面に引きずってる!」
「でもこの持ち方が一番持ちやすいし、師匠なら痛いの我慢できるよな!?」
「最近思うんだが、テオが一番俺の扱いがひどくねえか!!!???」

 こうしてロビンはかっこいいところもかっこわるいところも見せながら危機を脱した。
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