一日青春

りと

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君に!

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今年は参加できるだろうか。
病院のベットに横たわり、窓の外に視線を向けながら思う。
一年に一度の文化祭が迫ってきていると。
私は思い病気にかかって今ったが故に今まで文化祭に参加したことがない。
毎年のように担当の先生に頼んではみるものの、
「今年は我慢しようか、来年はきっといけるから」
と言われるだけで行けた試しがない…
ただ今年は高校三年生。今年を逃したらもう文化祭なんてものは二度と来ない。
たった一度でいいから文化祭に行ってみたい。
それに私がどうしても行きたい理由がもう一つある。その理由というのが…

「あけみ、来たよ!入ってもいいか?」
「うん!どうぞ~」
静かに扉を開けこちらに歩み寄ってくる男の子。はるとだ。
中学の頃クラスメイトからの寄せ書きを届けに来てくれたことをきっかけに仲良くなり、もう恋人になってから三年が過ぎようとしていた。
私が殆ど病院から出ることができないため、デートなんて片手で数えられるほどしか行ったことがないし、彼に何もしてあげることもできない。
にもかかわらず彼はずっとそばにいてくれるし、いろんなことをしてくれる。
そんな優しい彼と一度でいいから漫画のように文化祭を2人で楽しみたかった。

しかし文化祭は目前、私の容体もあまりいいものとは言えなかった。
このままでは今年も諦めることになってしまう。
彼は無理しなくていいと言ってくれているけど…
そんなのは嫌だ。
だが、簡単にどうこうできるような事ではないのは私が一番よく分かっていた。
「今日はもう帰るね。あけみも体調には気をつけるんだよ、一緒に文化祭まわりたいからさ、無理しないでね」
「うん、絶対一緒に行くから」
いつの間にか外が薄暗くなっていた。彼といるといつも時間があっという間に過ぎていく。
立ち上がった彼に返事をすると彼は満足そうに頷き、静かに病室を後にした。

彼と一緒に文化祭に行きたい。その思いはどんどん膨れ上がっていく。
一緒に行くためにはまず私が体調管理をしっかりしないと、
そうして私は担当の先生に渡された体調記録の紙を取り出した。

その次の日の朝、文化祭の日に外に出ることはできないと言われた…

夜の風はとても涼しかった。
病院の屋上は基本立ち入り禁止なのだが、そんなことどうでもよかった。
彼と文化祭に行くことができない。
溢れ始めてしまったら、もう止められなかった。
膝から崩れ落ち嗚咽をこぼす。
去年までならまだあきらめがついたのに、来年があるって思えたから
でも今年は違う。
青春最後になるかもしれない。文化祭、恋人との理想の一時。
あきらめなんかつくわけないじゃないか。
でも、私がどれだけ嘆いたところで、医師の下した判断変えることはできない。

空を見上げる

私の心は曇っているなんてものじゃないのに。
どうしてこんな時だけそれは雲1つないきれいな星空なんだろうか。
無駄だとわかっているのにすがってしまうじゃないか。
どうかお願いだから。
たった1回、たったこの1回だけ…
願いを聞き届けてくれないか星空よ!


文化祭当日。

俺は1人体育館の舞台に立っていた。
パフォーマンス上に参加したのだ。
彼女に聞いて欲しい歌があったから。
これはないとわかっていても、観客の中から彼女を探してしまう。
もしかしたら来てくれるかもしれない。
そんな淡い期待をしてしまう。
だが、もう開始の時間になってしまった。
曲が流れだす。
そのリズムに合わせて俺は歌い出そうとした、その瞬間。


…走る。

ただ走る。

息が切れるのも構わず。

この後の自分がどうなるかなんてどうでもいい。
彼の所へ行きたかった。
体育館の扉を勢い良く開ける。
真っ先に目に入ったの舞台に立つ。彼の姿。
彼は目を開いて驚いたが、次第に笑顔に変わっていく。
舞台から飛び降りよろけながらも、私のもとへ駆け寄ってきて。


「待ってた……!」

私を強く抱きしめた。

一日青春いちにちせんしゅう



微かな願いでも願ってみるものだな。
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