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 わたくしの目はいささか印象が強すぎるらしく、普通にしていると冷たくにらみつけていると思われてしまうらしい。
 以前、真顔がいけないのかなと微笑む練習をしてみたら、「どうしたんだいシャンナ、威嚇したいのかい……?」と両親に心配されてしまった。そんなにひどい目つきをしているのかしら。鏡で見る分には普通に見えるのに。

 初めて会ったときのレオナールも、わたくしの顔を見るなり「なんだその目は、ふゆかいだ!」と言い放ち、まもなく侯爵家から瓶底眼鏡が贈られてきた。なおレオナールから貰った贈り物は、後にも先にもそれだけである。

 実用性はあったので昨日まで愛用していたが、既に殉職済みだ。早めに次の眼鏡を買わないといけないかもしれない。

「……でもわたくし、あなたが侯爵夫人になることも、けして不可能ではないと思っていますけど」

 努めて穏やかに、本心を口にする。

 王国ではまだまだ、貴族は貴族とつがうもの、という意識が根強い。
 とは言え、名ばかり貴族が家の存続のために平民を迎えることだってあるし、家格が釣り合わない時に適当な所に養子入りして体裁を整えるようなことだってある。

「嘘よ! そんな顔してないじゃない!!」
「顔はその……すみません、どうしようもない気もします」
「なんですって? あたしより自分の方がずっと美人って言いたいのね!?」
「ええ……?」
「そうじゃなきゃあんな嫌みな眼鏡なんかしないし、あたしにライバル宣言されてこれみよがしに顔をさらしたりもしないでしょ!! 自分が綺麗だからって、何もかも思い通りになると思っているんだわ! ビッチ! 売女! バーカ!!」

 おう……もう言葉が出てこない……。
 何を言っても怒らせてしまうけど、逆になんて言えばこの人は満足してくれるのだろうか。途方に暮れる。

 それにしても、そろそろ騒ぎすぎて怒られそうな気がする。ここは図書館なのだ。司書係に追い出されるのは当然として、連帯責任で出禁を申し渡されたりすると困る。

 そう思って耳を澄ませれば、案の定誰かが階段を上がってくる足音が聞こえるではないか。

「ミーニャ=ベルメール。図書室での騒音は迷惑になります。話が長くなるようなら、場所を移しま、しょ――」

 わたくしは追い出される前にせめて自分で出て行こうと立ち上がったが、言葉の途中でピシッと体が石のように固まった。

「何よ何よ、逃げるつもりね! この負け犬――」

 なおもわたくしにくってかかろうとしていたミーニャが、釣られるようにわたくしが凝視する先を振り返り、ヒュッと息を呑む。

「やあ、シャンナ。気持ちのいい朝だね」

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