僕と自分と俺の日々

いしきづ川

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秋の柿祭り

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 秋、筒井和也は家族で自宅から山を何個も越えた場所にある。農協の柿祭りに来ていた。お祭りのある集荷場はもう秋の紅葉につつまれて、来場客で賑わっていた。

 このかき祭りに毎年来るようになってから、和也は柿を食べられるようになったので、それからこの祭りに来るのを毎年楽しみにしていた。それくらいにここで出会う柿や、それに携わる生産者の人たちがなんとなく好きだった。

彼が妻にその話をするといつも呆れられていた。

「面倒な人に好かれたものね。」

祭りが行われている敷地には、地元の青年団が主催する柿を使った食べ物や、大鍋で作る豚汁があり、別の一角にはお好み焼きとたこやきの屋台があった。
また別の場所にはキッチンカーのエリアがあり、他府県からよそで流行りのメニューを看板に多くのキッチンカーが来ており、昼時ともあってどのキッチンカーも屋台もそれなりに行列を作っていた。

そして一番行列を作っているのが
柿の詰め放題エリア。
各農家からここ農協の集荷場に集められて、一次選別から外れたが、自宅でなら十分に食べられる柿が用意されており、蓋が閉めれる分だけ段ボール箱に詰めて持って帰って良いというイベント。
一箱二千円ではあるが、柿好きからすれば、超お得なイベントだった。

和也は『普通に買ったら一箱五、六千円だよな。』と思っていた。

和也はここの詰め放題で詰めた柿を持って帰って、近所へ配るのが楽しみにの1つだった。

そもそも何故、和也が柿好きになったかというと、近所の人に数年前にこの祭りを教えてもらい、この柿の詰め放題をしたことがきっかけだった。
最初は詰め放題と言っても、どれも同じ柿に見えていたが、選別の仕方を教えてもらおうと会場スタッフの一人に声をかけたのが始まりだった。その人は丁寧に選別方法を教えてくれた。

「私が選ぶと柿の単価が上がっちゃうからなぁ。ここだけの特別ですよ😁最初に柿のお尻見て下さい。膨らんでたら、ヘタをみる。そして…」

後で知ることになるのだが、選別方法を教えてくれた人は、実はおいしい柿の選別できる有名な人だったらしく、市場では有名な柿農家の一人だった。

その見分け方を和也は今年も実践していた。
手袋をした手で柿を掴んで確認しては、自分の段ボールにいれる。ちがうものは籠(かご)に戻す。

「あっ、これはちがう。これはいけるか」
などと独り言をいいながら選別を繰り返していたら、隣から初老の男性が和也に声をかけてきた。

「今年の柿は豊作ですか?」

「えっ!あっ、あっ、ですかねぇ~。夏が暑かったですから」
和也は『いや、わかんないよそんなこと』と思いながら話を合わせた。

「そうですかぁ。」

そういって初老の男性は和也の近くで柿の選別をして段ボールにいれ始めたが、どれがいいのかわからない感じで段ボール柿を詰めていたので、和也もせっかく声をかけてくれたので、自分が見立てた柿を何個か男性に渡してあげることにした。

質問にどう返して良いか戸惑っている和也の姿に気がつき、和也の妻が笑いを噛み締めながら小声で話しかけてきた。

「そんなに真剣に選別してるからスタッフの人と間違われるのよ。」
「ビックリしたよ。豊作かどうかなんてわかるわけないって。スタッフの人が詰め放題の柿を選別して段ボール箱にいれないでしょ。」
「着てる服も柿みたいないろしてるからじゃない。」
「そんなことあるか?」
「さっきも別の人があなたの選別してる姿をじっとみてたわよ。」
「やめてくれ恥ずかしい。」
「でも、僕の選んだ柿はたぶん美味しいよ。だから少し分けてあげたよ。」
「もう、業者ね。」


和也は妻と話ながら、半時間程で段ボール箱一杯に柿を詰めることができた。
その段ボール箱を受け付けにもっていくと、箱が閉まらないということで、蓋が閉まるまで選んだ柿が間引かれることになった。

「やっぱり多すぎたかぁ~。頑張りすぎたな。 笑」

籠に戻された柿たちは、妻いわくさっき和也の選別をみていた人が一通りその人の段ボールに入れていたそうだ。

和也たちは柿の詰め放題を終えると、柿の天ぷらと大鍋の豚汁を食べる事にした。

今回ははじめてたべたが、柿の天ぷらがミスマッチのようで抜群においしかった。

「来年も柿の天ぷらたべたいね。」
「ほんとだねぇ。」

妻はそういうと柿色に似た赤のパーカーを着ている和也のお腹をポンポンと叩いた。

「また、来年もみんなで来ないとな。」
「仕入れに?」
妻は少し笑いながら返してきた。

和也やは柿入ったの段ボールの重みを両手で感じなが、車の置いてある駐車場へ歩るきはじめた。
落ち葉が和也の持つ段ボール箱に何枚か落ちてきた。
「間引かれたとはいえ、箱ちょっと重いなぁ。」
「持とうか?」
妻は和也に聞いたが

「いや。大丈夫。重いけど。」
    
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