梅雨崎歌仙

えーく

文字の大きさ
上 下
1 / 3

青の花

しおりを挟む
雨    雨    雨。
ザーーっと音をたてて、雨が降る。街路樹に咲く紫陽花が、輝いている。

「きれい………」

思わず声が出た。私は昔から植物が好きだった。とくに紫陽花は、その中でも特別だった。
なぜなら、自然の中に青色があるのが珍しかったから。
私は雨が好き。だって、紫陽花が、最高に輝く日だから。
ああ……お腹すいた。私は、いつまで歩けばいいんだろう……

「いつまで……」



ここは教会。親を亡くした子供たちが、来るところ。この教会には約500人の子供がいた。
私もその中の1人だった。
私はつい先日、両親を事故で亡くした。
私が学校から帰ると、いつも家にいるはずの母と、ちょうど仕事が休みだった父が、いなかった。

「出かけたのかな?」

でも、いくら待っても帰ってこない。

「心配だな……」

私はついに電話をかけた。

「もしもし……お母さん?」

でも……電話に出たのは……


゛警察だった゛


その時、事故のことを知らされた。
そして私は、この教会に連れてこられた。でも教会は、私が思っていたより、ずっと素敵な所だった。
学校がある。遊び場がある。部屋がある。服がある。食べ物がある。
そして何より、大きな図書館がある。私は昔から、本が大好きだった。それも、一日中読んでいられるほど。
でも、そのせいで、友達がいなかった。
だがある日。

「何してるの?」

びっくりした。突然声をかけられた。

「本読んでるの?」

「う……うん」

「面白い?」

「うん」

「名前。なんて言うの?」

名前……。私の名前……。

「…………。こ……な……古花菜子(こはなさいこ)……。」

「菜子ちゃんかーー。いいね!」
 
「あなたは?」

「あたし?……ない……ないの」

たしかにその子の胸元には、429と書かれたバッチがついていた。
この教会では名前がない子は数字のバッチがつけられていた。
429ってことは……ここの教会のほとんどの子が、名前がないらしい。
私は急に申し訳なくなって、

「ごめん……」

と謝った。

「いいよ~そんな謝んなくて~。でも……名前は欲しいな……」

名前っか……。429だから……。

「しずく……なんてどうかな……。」

「しずく?」

「うん。429で、しずく。どうかな?」

気に入ってくれるかな?

「う……うんうんうん!いいね!気に入った!じゃー今日から、私はしずくね!」
 
「うん」

それから私達は、たくさんお喋りをしたり、遊んだりした。
でも……
ある日、この教会に恨みを持った子が、


゛教会に火をつけた゛


私はしずくと、必死に逃げた。一緒に……

「しずく!大丈夫?」

私が後ろを振り向くと……

「し……ずく?」

外に出たところで私は、しずくが居ないことに気づいた。

「……。また1人だ。」

雨が降ってきた。傘もなく私は道を進む。
紫陽花の花を見ながら……。


しおりを挟む

処理中です...