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13 約束なので
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その後は何事もなく、業務終了となる。夜勤組との引継ぎになるのだが。
「へぇ、朝そのチョーカーじゃなかったよなぁ? αの独占欲かぁ、お熱いねぇ~!」
東からチョーカーが変わっていることを目ざとく見つけられて、ニヤニヤ顔でからかってきた。だから、Ωのチョーカーは敏感な話題だってぇの!
「ふんっ!」
「イテぇ!?」
俺は怒りに任せて東に強めのケリを腰に入れてやった。
「普段から鍛えてあるαだろう、このくらいなんともないよな? 俺みたいなひ弱なΩのケリなんて、子どものお遊びだもんな? あぁ!?」
「すまんかった、やめて、そこマジで痛いから、ごめんなさい!」
「調子に乗るからだ」
マジギレした俺に本気で謝る東に、下川が呆れている。
そんなこんながありつつも、田中と共に署に戻って業務を終えれば、寮に帰ってシャワーで汗を流す。
……シャワーを浴びて身体を隅々まで丹念に洗いながら、「俺は一体なにをしているんだろう」って自分でも思ったぞ? けど、やっぱり臭いと思われたくないだろう? とくにアラサーに突入すると、体臭が気になるんだよ。
微かに石鹸の香りをさせた俺が外に出ると、空はだいぶ暮れてきている。俺は約束通りに裕也くんの店がある飲み屋街まで向かうために、バスに乗った。
目的のバス停で降りると、まだ本格的に暗くなってはいないものの、既にあちらこちらの店に吸い寄せられていく客の姿がちらほらと見える。俺が勤務する交番はこの飲み屋街を抱えている区域だから、昼間よりも夜の方に人員を手厚く配置されるんだ。
さて、うっかり東たちの見回りにかち合わないうちに、さっさと裕也くんの店に入ってしまおう。
そう思って路地を進む足を速めたんだけれど。
「……!」
耳障りな声が聞こえた気がして、俺は立ち止まった。
この辺りは喧嘩なんて日常茶飯事なため、通行人は「我関せず」という顔で通り過ぎていく。けれど俺はさすがに、これを通過するわけにはいかないな。
こんな早くからはしゃいでいるやんちゃなヤツは誰だ? 俺が声の方に近付いていくと、店の裏口が連なる細い路地から声がしていた。
あれは……裕也くんの店の斜め前のガールズバーの娘だな。俺も見回りの際に顔を見れば挨拶を交わす程度には知った顔だ。その彼女が見慣れない男たちに絡まれていて、あまりよくない雰囲気だ。
「おい、早くしないと遅刻じゃないか?」
俺は敢えてなんでもない口調で、その娘だけに向かって声をかけた。実際、そろそろ店を開ける頃だろう。
「あ、えいちゃん!」
その娘が私服の俺に気付いて、ぱあっと表情を明るくする。あれはやっぱり、迷惑なことをされていたんだろう。
「あんだぁ? てめぇ」
絡んでいた男たちの意識が俺に逸れた時、その娘が目の前の男の脛を蹴り上げた。
「いってぇ!?」
そいつが悲鳴を上げてよろけた隙に、彼女がさっとこちらへ駆けてくる。
「えいちゃん、助かったぁ~!」
ちょっと涙目で俺に縋りつく彼女を、俺は背後に隠す。
「誰?」
「知らないって、なんか急に腕引っ張られたら変な事ばっか言って、わけわかんない!」
俺の問いかけに、彼女がそう言ってふくれっ面をする。まあ、そういうこともこの街じゃあ日常茶飯事か。
「そっか、危ないからもう行きな」
「ん!」
俺が背中を押せば、彼女は一目散に逃げていった。
「なんだぁ、ヒーロー気取りかよ」
「一緒に逃げなくていぃのかぁ?」
「女の前でカッコつけやがってんの!」
一人残った俺に、そいつらが陰険そうな顔でこちらに来る。さて、どうしてやろうかな? さすがにこちらから喧嘩腰になるのはマズい、いくらプライベートだとはいえ処罰ものだ。
そう俺が思案していると。
「オイ待て、そいつΩじゃね?」
「そうだ、チョーカーしてら」
俺の首元に気付いたヤツらは、途端に気持ち悪いニヤニヤ顔になる。
「クスリも買えねぇし、イライラしてたんだよ」
「アンタが遊んでくれるんだぁ?」
なるほど、コイツらは麻薬密売人の客か。
「へぇ、朝そのチョーカーじゃなかったよなぁ? αの独占欲かぁ、お熱いねぇ~!」
東からチョーカーが変わっていることを目ざとく見つけられて、ニヤニヤ顔でからかってきた。だから、Ωのチョーカーは敏感な話題だってぇの!
「ふんっ!」
「イテぇ!?」
俺は怒りに任せて東に強めのケリを腰に入れてやった。
「普段から鍛えてあるαだろう、このくらいなんともないよな? 俺みたいなひ弱なΩのケリなんて、子どものお遊びだもんな? あぁ!?」
「すまんかった、やめて、そこマジで痛いから、ごめんなさい!」
「調子に乗るからだ」
マジギレした俺に本気で謝る東に、下川が呆れている。
そんなこんながありつつも、田中と共に署に戻って業務を終えれば、寮に帰ってシャワーで汗を流す。
……シャワーを浴びて身体を隅々まで丹念に洗いながら、「俺は一体なにをしているんだろう」って自分でも思ったぞ? けど、やっぱり臭いと思われたくないだろう? とくにアラサーに突入すると、体臭が気になるんだよ。
微かに石鹸の香りをさせた俺が外に出ると、空はだいぶ暮れてきている。俺は約束通りに裕也くんの店がある飲み屋街まで向かうために、バスに乗った。
目的のバス停で降りると、まだ本格的に暗くなってはいないものの、既にあちらこちらの店に吸い寄せられていく客の姿がちらほらと見える。俺が勤務する交番はこの飲み屋街を抱えている区域だから、昼間よりも夜の方に人員を手厚く配置されるんだ。
さて、うっかり東たちの見回りにかち合わないうちに、さっさと裕也くんの店に入ってしまおう。
そう思って路地を進む足を速めたんだけれど。
「……!」
耳障りな声が聞こえた気がして、俺は立ち止まった。
この辺りは喧嘩なんて日常茶飯事なため、通行人は「我関せず」という顔で通り過ぎていく。けれど俺はさすがに、これを通過するわけにはいかないな。
こんな早くからはしゃいでいるやんちゃなヤツは誰だ? 俺が声の方に近付いていくと、店の裏口が連なる細い路地から声がしていた。
あれは……裕也くんの店の斜め前のガールズバーの娘だな。俺も見回りの際に顔を見れば挨拶を交わす程度には知った顔だ。その彼女が見慣れない男たちに絡まれていて、あまりよくない雰囲気だ。
「おい、早くしないと遅刻じゃないか?」
俺は敢えてなんでもない口調で、その娘だけに向かって声をかけた。実際、そろそろ店を開ける頃だろう。
「あ、えいちゃん!」
その娘が私服の俺に気付いて、ぱあっと表情を明るくする。あれはやっぱり、迷惑なことをされていたんだろう。
「あんだぁ? てめぇ」
絡んでいた男たちの意識が俺に逸れた時、その娘が目の前の男の脛を蹴り上げた。
「いってぇ!?」
そいつが悲鳴を上げてよろけた隙に、彼女がさっとこちらへ駆けてくる。
「えいちゃん、助かったぁ~!」
ちょっと涙目で俺に縋りつく彼女を、俺は背後に隠す。
「誰?」
「知らないって、なんか急に腕引っ張られたら変な事ばっか言って、わけわかんない!」
俺の問いかけに、彼女がそう言ってふくれっ面をする。まあ、そういうこともこの街じゃあ日常茶飯事か。
「そっか、危ないからもう行きな」
「ん!」
俺が背中を押せば、彼女は一目散に逃げていった。
「なんだぁ、ヒーロー気取りかよ」
「一緒に逃げなくていぃのかぁ?」
「女の前でカッコつけやがってんの!」
一人残った俺に、そいつらが陰険そうな顔でこちらに来る。さて、どうしてやろうかな? さすがにこちらから喧嘩腰になるのはマズい、いくらプライベートだとはいえ処罰ものだ。
そう俺が思案していると。
「オイ待て、そいつΩじゃね?」
「そうだ、チョーカーしてら」
俺の首元に気付いたヤツらは、途端に気持ち悪いニヤニヤ顔になる。
「クスリも買えねぇし、イライラしてたんだよ」
「アンタが遊んでくれるんだぁ?」
なるほど、コイツらは麻薬密売人の客か。
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