僕のΩは案外可愛い?

らんね

文字の大きさ
92 / 133
二章 前島稔はαである

92 今更なんだと言われても side 香坂

「怜と彼氏クンさぁ、ヒート明けなのに変みたいじゃん? なんだよ、ケンカしたのか?」

そして景さんはズバリと今の俺と前島の間にある大問題に切り込む。まあな、俺らに微妙な空気が漂っているから、周りも気を使って微妙になっているのは察していた。

「ケンカじゃねぇし、ただ……」
「ただ、なによ?」

言いかけて止めた俺を、景さんがグイグイと顔を寄せて促してくる。近い、近すぎるから離れろって!

「ほら、そんな迫らなくても香坂は答えてくれるって」

高瀬さんが景さんを引きはがしてくれたけれど、本当の意味で俺を助けてくれるわけではなかった。これはどうにも答えなくてはいけない流れだ。マジでか、もう言うしかないってか?

「いや、その、なんつーか」

俺はどんな態度をすればいいか困るけれど、今の泥沼から抜け出すために誰かに聞いてほしかったようにも思う。だから、勇気を出して口を開く。

「俺がアイツの顔を見れねぇってだけだし……恥ずくて」

けど言いながら堪えきれず、俺は顔を抱えるようにして両腕で隠す。ヤベェ、耳まで熱いんだが。

「なにそれ? 人前でベロチューやっちゃう仲なのに?」

景さんが不思議そうに聞いてくるけど、そういう時とは違うこの恥ずかしさなのを、どう説明すればいいのかわからない。
 前島はあの酒に酔って記憶が飛んだ時、ラット状態になった。これまで前島は俺のヒート中にも一度もラットになったことがなくて、あんなとぼけたヤツなのに理性の塊だったんだ。その前島が初めて見せた、本気のαの顔なわけで。
 俺はふとした拍子に前島のあの、フェロモン全開で覆いかぶさって来る時の顔が脳裏をよぎってしまって。そんな時にどんな顔をして前島の前に立てばいいのかわからなくて、結果顔を逸らすんだ。前島に対してこんなに恥ずかしくなるのは、これまでの付き合いで初めてだ。
 ……なんて、こんなこっ恥ずかしいことを言えるかよ!? 我ながらわけわかんねぇし、どうにかしようと思うけれど、どうにもできなくて困っているんだよ!

「香坂、お前って可愛いヤツだなぁ」

すると俺が頭を抱えているのを見ていた高瀬さんが、そう言ってクスクスと笑った。

「……可愛いとかやめてくださいよ」

俺をそんな風に言うのは前島しかいないし、他人から言われると微妙な気分だ。

「そうなのよえいちゃん。怜はキレてケンカしている時はユウさん味があるけどさ、彼氏クンの話をする時は可愛いの。こういうのをギャップ萌えって言うんだよね、わかるぅ~♪」

景さんが楽しそうに話ながら高瀬さんに絡むが、くっそ、この人じゃなかったら殴って黙らせているのに。だがココでの俺は最弱な立場なわけで、ひたすら耐えて沈黙しているしかない。なんだこの地獄の空間は? もう帰りたいんだが?

「ってか、えいちゃんは香坂の言っていることがわかるの?」

けど俺が帰ろうとする前に、景さんが話を戻した。この気持ちの正体を知りたくはあるので、俺も隠していた顔を出して高瀬さんの反応を待つ。

「ああ、わかるよ。香坂が前島に惚れたってことじゃないかな」
「惚れ……!?」

その高瀬さんの答えを聞いた俺は一瞬頭の中が真っ白になってから、だんだんと胸の奥からブワッと色々な感情が湧いてきた。

「いやあの、俺らはもうその、恋人っすけど?」

恋人とは惚れるとかなんだとか、通り過ぎているものなんじゃねぇのか? いや、なら俺が前島との出会いで惚れた瞬間はどこだって聞かれると、答えに困るか。
 そんなあからさまにパニクる俺を見て、高瀬さんが微笑ましそうにするのがまた居たたまれない。

「恋人になったら、もう同じ相手に惚れたらいけないってことはないさ。惚れ直すとも言うだろう?」
「ってか怜さぁ、セックスまでしているのに初心すぎん? その反応」

本気で不思議そうにする景さんに、俺はなんと説明すればいいのか困る。

「慣れねぇんだよ、マジで」
「えぇ? けど恋愛の初期だろ、そういうのって」
「そうだけどさ、俺らはちょっと……出会った初っ端が変だし」

景さんは俺と前島が高校の同級生ということしか知らないから、俺らが普通に恋愛の手順を踏んでいると思っているみたいで、どこまでも話がすれ違う。けれど、黙って景さんとのやり取りを聞いていた高瀬さんのが、どこかピンときた顔になった。

「香坂たちの出会いはひょっとして、フェロモンに引っ張られた方が先か?」

さすが高瀬さんは「運命」レベルの相性持ちなだけあって、俺らの事情を察したみたいだ。「運命」ってヤツは、αとΩの出会いの過程をまるごとすっ飛ばさせるもんな。

「俺らのは出会いじゃなくて、ほぼ事故だな。お互いに」

コレを身内以外にバラすのも、なかなか恥ずかしい事情だ。なにせ、俺が妙な意地を張っていたっていうだけの話だし。
感想 2

あなたにおすすめの小説

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

オメガだと隠して地味なベータとして生きてきた俺が、なぜか学園最強で傲慢な次期公爵様と『運命の番』になって、強制的にペアを組まされる羽目に

水凪しおん
BL
この世界では、性は三つに分かたれる。支配者たるアルファ、それに庇護されるオメガ、そして大多数を占めるベータ。 誇り高き魔法使いユキは、オメガという性を隠し、ベータとして魔法学園の門をくぐった。誰にも見下されず、己の力だけで認められるために。 しかし彼の平穏は、一人の男との最悪の出会いによって打ち砕かれる。 学園の頂点に君臨する、傲慢不遜なアルファ――カイ・フォン・エーレンベルク。 反発しあう二人が模擬戦で激突したその瞬間、伝説の証『運命の印』が彼らの首筋に発現する。 それは、決して抗うことのできない魂の繋がり、『運命の番』の証だった。 「お前は俺の所有物だ」 傲慢に告げるカイと、それに激しく反発するユキ。 強制的にペアを組まされた学園対抗トーナメント『双星杯』を舞台に、二人の歯車は軋みを上げながらも回り出す。 孤独を隠す最強のアルファと、運命に抗う気高きオメガ。 これは、反発しあう二つの魂がやがて唯一無二のパートナーとなり、世界の理をも変える絆を結ぶまでの、愛と戦いの物語。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。