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二章 前島稔はαである
92 今更なんだと言われても side 香坂
「怜と彼氏クンさぁ、ヒート明けなのに変みたいじゃん? なんだよ、ケンカしたのか?」
そして景さんはズバリと今の俺と前島の間にある大問題に切り込む。まあな、俺らに微妙な空気が漂っているから、周りも気を使って微妙になっているのは察していた。
「ケンカじゃねぇし、ただ……」
「ただ、なによ?」
言いかけて止めた俺を、景さんがグイグイと顔を寄せて促してくる。近い、近すぎるから離れろって!
「ほら、そんな迫らなくても香坂は答えてくれるって」
高瀬さんが景さんを引きはがしてくれたけれど、本当の意味で俺を助けてくれるわけではなかった。これはどうにも答えなくてはいけない流れだ。マジでか、もう言うしかないってか?
「いや、その、なんつーか」
俺はどんな態度をすればいいか困るけれど、今の泥沼から抜け出すために誰かに聞いてほしかったようにも思う。だから、勇気を出して口を開く。
「俺がアイツの顔を見れねぇってだけだし……恥ずくて」
けど言いながら堪えきれず、俺は顔を抱えるようにして両腕で隠す。ヤベェ、耳まで熱いんだが。
「なにそれ? 人前でベロチューやっちゃう仲なのに?」
景さんが不思議そうに聞いてくるけど、そういう時とは違うこの恥ずかしさなのを、どう説明すればいいのかわからない。
前島はあの酒に酔って記憶が飛んだ時、ラット状態になった。これまで前島は俺のヒート中にも一度もラットになったことがなくて、あんなとぼけたヤツなのに理性の塊だったんだ。その前島が初めて見せた、本気のαの顔なわけで。
俺はふとした拍子に前島のあの、フェロモン全開で覆いかぶさって来る時の顔が脳裏をよぎってしまって。そんな時にどんな顔をして前島の前に立てばいいのかわからなくて、結果顔を逸らすんだ。前島に対してこんなに恥ずかしくなるのは、これまでの付き合いで初めてだ。
……なんて、こんなこっ恥ずかしいことを言えるかよ!? 我ながらわけわかんねぇし、どうにかしようと思うけれど、どうにもできなくて困っているんだよ!
「香坂、お前って可愛いヤツだなぁ」
すると俺が頭を抱えているのを見ていた高瀬さんが、そう言ってクスクスと笑った。
「……可愛いとかやめてくださいよ」
俺をそんな風に言うのは前島しかいないし、他人から言われると微妙な気分だ。
「そうなのよえいちゃん。怜はキレてケンカしている時はユウさん味があるけどさ、彼氏クンの話をする時は可愛いの。こういうのをギャップ萌えって言うんだよね、わかるぅ~♪」
景さんが楽しそうに話ながら高瀬さんに絡むが、くっそ、この人じゃなかったら殴って黙らせているのに。だがココでの俺は最弱な立場なわけで、ひたすら耐えて沈黙しているしかない。なんだこの地獄の空間は? もう帰りたいんだが?
「ってか、えいちゃんは香坂の言っていることがわかるの?」
けど俺が帰ろうとする前に、景さんが話を戻した。この気持ちの正体を知りたくはあるので、俺も隠していた顔を出して高瀬さんの反応を待つ。
「ああ、わかるよ。香坂が前島に惚れたってことじゃないかな」
「惚れ……!?」
その高瀬さんの答えを聞いた俺は一瞬頭の中が真っ白になってから、だんだんと胸の奥からブワッと色々な感情が湧いてきた。
「いやあの、俺らはもうその、恋人っすけど?」
恋人とは惚れるとかなんだとか、通り過ぎているものなんじゃねぇのか? いや、なら俺が前島との出会いで惚れた瞬間はどこだって聞かれると、答えに困るか。
そんなあからさまにパニクる俺を見て、高瀬さんが微笑ましそうにするのがまた居たたまれない。
「恋人になったら、もう同じ相手に惚れたらいけないってことはないさ。惚れ直すとも言うだろう?」
「ってか怜さぁ、セックスまでしているのに初心すぎん? その反応」
本気で不思議そうにする景さんに、俺はなんと説明すればいいのか困る。
「慣れねぇんだよ、マジで」
「えぇ? けど恋愛の初期だろ、そういうのって」
「そうだけどさ、俺らはちょっと……出会った初っ端が変だし」
景さんは俺と前島が高校の同級生ということしか知らないから、俺らが普通に恋愛の手順を踏んでいると思っているみたいで、どこまでも話がすれ違う。けれど、黙って景さんとのやり取りを聞いていた高瀬さんのが、どこかピンときた顔になった。
「香坂たちの出会いはひょっとして、フェロモンに引っ張られた方が先か?」
さすが高瀬さんは「運命」レベルの相性持ちなだけあって、俺らの事情を察したみたいだ。「運命」ってヤツは、αとΩの出会いの過程をまるごとすっ飛ばさせるもんな。
「俺らのは出会いじゃなくて、ほぼ事故だな。お互いに」
コレを身内以外にバラすのも、なかなか恥ずかしい事情だ。なにせ、俺が妙な意地を張っていたっていうだけの話だし。
そして景さんはズバリと今の俺と前島の間にある大問題に切り込む。まあな、俺らに微妙な空気が漂っているから、周りも気を使って微妙になっているのは察していた。
「ケンカじゃねぇし、ただ……」
「ただ、なによ?」
言いかけて止めた俺を、景さんがグイグイと顔を寄せて促してくる。近い、近すぎるから離れろって!
「ほら、そんな迫らなくても香坂は答えてくれるって」
高瀬さんが景さんを引きはがしてくれたけれど、本当の意味で俺を助けてくれるわけではなかった。これはどうにも答えなくてはいけない流れだ。マジでか、もう言うしかないってか?
「いや、その、なんつーか」
俺はどんな態度をすればいいか困るけれど、今の泥沼から抜け出すために誰かに聞いてほしかったようにも思う。だから、勇気を出して口を開く。
「俺がアイツの顔を見れねぇってだけだし……恥ずくて」
けど言いながら堪えきれず、俺は顔を抱えるようにして両腕で隠す。ヤベェ、耳まで熱いんだが。
「なにそれ? 人前でベロチューやっちゃう仲なのに?」
景さんが不思議そうに聞いてくるけど、そういう時とは違うこの恥ずかしさなのを、どう説明すればいいのかわからない。
前島はあの酒に酔って記憶が飛んだ時、ラット状態になった。これまで前島は俺のヒート中にも一度もラットになったことがなくて、あんなとぼけたヤツなのに理性の塊だったんだ。その前島が初めて見せた、本気のαの顔なわけで。
俺はふとした拍子に前島のあの、フェロモン全開で覆いかぶさって来る時の顔が脳裏をよぎってしまって。そんな時にどんな顔をして前島の前に立てばいいのかわからなくて、結果顔を逸らすんだ。前島に対してこんなに恥ずかしくなるのは、これまでの付き合いで初めてだ。
……なんて、こんなこっ恥ずかしいことを言えるかよ!? 我ながらわけわかんねぇし、どうにかしようと思うけれど、どうにもできなくて困っているんだよ!
「香坂、お前って可愛いヤツだなぁ」
すると俺が頭を抱えているのを見ていた高瀬さんが、そう言ってクスクスと笑った。
「……可愛いとかやめてくださいよ」
俺をそんな風に言うのは前島しかいないし、他人から言われると微妙な気分だ。
「そうなのよえいちゃん。怜はキレてケンカしている時はユウさん味があるけどさ、彼氏クンの話をする時は可愛いの。こういうのをギャップ萌えって言うんだよね、わかるぅ~♪」
景さんが楽しそうに話ながら高瀬さんに絡むが、くっそ、この人じゃなかったら殴って黙らせているのに。だがココでの俺は最弱な立場なわけで、ひたすら耐えて沈黙しているしかない。なんだこの地獄の空間は? もう帰りたいんだが?
「ってか、えいちゃんは香坂の言っていることがわかるの?」
けど俺が帰ろうとする前に、景さんが話を戻した。この気持ちの正体を知りたくはあるので、俺も隠していた顔を出して高瀬さんの反応を待つ。
「ああ、わかるよ。香坂が前島に惚れたってことじゃないかな」
「惚れ……!?」
その高瀬さんの答えを聞いた俺は一瞬頭の中が真っ白になってから、だんだんと胸の奥からブワッと色々な感情が湧いてきた。
「いやあの、俺らはもうその、恋人っすけど?」
恋人とは惚れるとかなんだとか、通り過ぎているものなんじゃねぇのか? いや、なら俺が前島との出会いで惚れた瞬間はどこだって聞かれると、答えに困るか。
そんなあからさまにパニクる俺を見て、高瀬さんが微笑ましそうにするのがまた居たたまれない。
「恋人になったら、もう同じ相手に惚れたらいけないってことはないさ。惚れ直すとも言うだろう?」
「ってか怜さぁ、セックスまでしているのに初心すぎん? その反応」
本気で不思議そうにする景さんに、俺はなんと説明すればいいのか困る。
「慣れねぇんだよ、マジで」
「えぇ? けど恋愛の初期だろ、そういうのって」
「そうだけどさ、俺らはちょっと……出会った初っ端が変だし」
景さんは俺と前島が高校の同級生ということしか知らないから、俺らが普通に恋愛の手順を踏んでいると思っているみたいで、どこまでも話がすれ違う。けれど、黙って景さんとのやり取りを聞いていた高瀬さんのが、どこかピンときた顔になった。
「香坂たちの出会いはひょっとして、フェロモンに引っ張られた方が先か?」
さすが高瀬さんは「運命」レベルの相性持ちなだけあって、俺らの事情を察したみたいだ。「運命」ってヤツは、αとΩの出会いの過程をまるごとすっ飛ばさせるもんな。
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