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一章 再会
54 入院生活
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香坂は病院に運び込まれた翌日から三日間、寝たきり生活となった。
っていうのも、違法薬で無理に起こされたヒートが治まらなくて、フェロモン値が高止まり状態なんだって。違法薬はΩをセックス漬けにするためのもので、ヒートのピーク時間を長くしてヤリ殺すような手段に使われる、依存性はないけれど質の悪いものだった。家族として病院からこの説明を受けた従兄さんが、顔を真っ青にしていた。救いは、この薬に依存性は確認されていないことだけれど、それがむしろ被害者に薬を使われたことを発見しにくくしている、厄介な点でもあるんだって。薬が使われてすぐに病院にかかれた香坂は幸運だったって、警察からも言われたよ。
あとこの寒い時期に素っ裸でいたせいで軽い肺炎になっていて、そっちもそこそこおおごとだった。目が覚めたばかりの時は香坂も興奮していたから、自分が具合が悪いのに気づかなかったんだろう。
そんなわけで、香坂はヒートの抑制剤を点滴投与されて、半分寝ているみたいな状態で過ごした。その間は肺炎の感染対策で、面会も窓越しに顔を見るくらいしかできない。僕は眠たそうな香坂に窓越しに手を振ってラインで会話をするのがせいぜいだったけれど、叔父さんが主治医として毎日来て、不安そうな香坂の話し相手をしてくれた。
でも僕は香坂と触れあいながら話せないし、家に帰れば香坂がいない部屋が広く感じる。棚にある香坂が上司さんの作業をチラ見してこまめに書き溜めたらしいレシピノートが視界に入ると、もう本当に寂しくなってしまう。ああ、退院までが遠いなぁ。
そんな感じで僕は多少メソメソして三日を過ごしたんだけれど、香坂がやっとフェロモン値が普段程度まで落ち着いて、肺炎も治って、面会解禁になったのが今日なわけ。病室も要観察用から一般の部屋に移されたけれど、個室なのは城崎さんの会社の配慮か。
それでも香坂はひとまず一週間、年末前のギリギリまで入院することになった。違法薬に依存性の確認はされていないとはいえ、念のために観察する必要があるみたい。そして挿入が指を突っ込まれただけで済んだけれど、それが乱暴だったみたいで中の粘膜が傷ついていて、治るまでセックスは禁止である。
なにはともあれ、僕は久しぶりに窓越しではない距離の香坂と会えて、ちゃんと起きて話ができることにひと安心だ。三日絶食状態だった香坂はゲッソリしていて、ちょっと筋肉が落ちていたけどね。
「痩せちゃったのな」
「だな、それに寝ているのも飽きた」
病院着越しに腕をフニフニと掴む僕に、香坂がそんな愚痴を言ってくる。本日点滴が外れて飲食とベッドからの移動が許可されたことだし、早速病院内コンビニまでコーヒーを買いに行きたいというのに付き合う。
「あ~、久々の味があるモンはうめぇな」
無事にコーヒーを買って二人でコンビニ内にある喫茶スペースに並んで座ると、香坂がしみじみと言う。
「入院食って美味しい?」
「今食ったらなんでもうめぇって」
香坂とそういうなんでもない話ができるのも、ガラス越しの面会の後にはすごくうれしい。
それから僕が買ったポテチをたまに香坂の口に放り込んでやりながら病室に戻ると、ウチの母さんと戸山が何故か揃って待っていた。
「怜く~ん!」
母さんはもうボロボロ泣いていて、香坂に突進してきた。
「なんてこと、こんなにやつれて!」
「あの、どうも……」
母さんが抱き着いて大泣きするのに、香坂はすごく困ったように立ち尽くしている。顔を合わせたのはまだ数回程度のはずなのに、すごい親密にグイグイ来るよね、ウチの母さん。
っていうのも、違法薬で無理に起こされたヒートが治まらなくて、フェロモン値が高止まり状態なんだって。違法薬はΩをセックス漬けにするためのもので、ヒートのピーク時間を長くしてヤリ殺すような手段に使われる、依存性はないけれど質の悪いものだった。家族として病院からこの説明を受けた従兄さんが、顔を真っ青にしていた。救いは、この薬に依存性は確認されていないことだけれど、それがむしろ被害者に薬を使われたことを発見しにくくしている、厄介な点でもあるんだって。薬が使われてすぐに病院にかかれた香坂は幸運だったって、警察からも言われたよ。
あとこの寒い時期に素っ裸でいたせいで軽い肺炎になっていて、そっちもそこそこおおごとだった。目が覚めたばかりの時は香坂も興奮していたから、自分が具合が悪いのに気づかなかったんだろう。
そんなわけで、香坂はヒートの抑制剤を点滴投与されて、半分寝ているみたいな状態で過ごした。その間は肺炎の感染対策で、面会も窓越しに顔を見るくらいしかできない。僕は眠たそうな香坂に窓越しに手を振ってラインで会話をするのがせいぜいだったけれど、叔父さんが主治医として毎日来て、不安そうな香坂の話し相手をしてくれた。
でも僕は香坂と触れあいながら話せないし、家に帰れば香坂がいない部屋が広く感じる。棚にある香坂が上司さんの作業をチラ見してこまめに書き溜めたらしいレシピノートが視界に入ると、もう本当に寂しくなってしまう。ああ、退院までが遠いなぁ。
そんな感じで僕は多少メソメソして三日を過ごしたんだけれど、香坂がやっとフェロモン値が普段程度まで落ち着いて、肺炎も治って、面会解禁になったのが今日なわけ。病室も要観察用から一般の部屋に移されたけれど、個室なのは城崎さんの会社の配慮か。
それでも香坂はひとまず一週間、年末前のギリギリまで入院することになった。違法薬に依存性の確認はされていないとはいえ、念のために観察する必要があるみたい。そして挿入が指を突っ込まれただけで済んだけれど、それが乱暴だったみたいで中の粘膜が傷ついていて、治るまでセックスは禁止である。
なにはともあれ、僕は久しぶりに窓越しではない距離の香坂と会えて、ちゃんと起きて話ができることにひと安心だ。三日絶食状態だった香坂はゲッソリしていて、ちょっと筋肉が落ちていたけどね。
「痩せちゃったのな」
「だな、それに寝ているのも飽きた」
病院着越しに腕をフニフニと掴む僕に、香坂がそんな愚痴を言ってくる。本日点滴が外れて飲食とベッドからの移動が許可されたことだし、早速病院内コンビニまでコーヒーを買いに行きたいというのに付き合う。
「あ~、久々の味があるモンはうめぇな」
無事にコーヒーを買って二人でコンビニ内にある喫茶スペースに並んで座ると、香坂がしみじみと言う。
「入院食って美味しい?」
「今食ったらなんでもうめぇって」
香坂とそういうなんでもない話ができるのも、ガラス越しの面会の後にはすごくうれしい。
それから僕が買ったポテチをたまに香坂の口に放り込んでやりながら病室に戻ると、ウチの母さんと戸山が何故か揃って待っていた。
「怜く~ん!」
母さんはもうボロボロ泣いていて、香坂に突進してきた。
「なんてこと、こんなにやつれて!」
「あの、どうも……」
母さんが抱き着いて大泣きするのに、香坂はすごく困ったように立ち尽くしている。顔を合わせたのはまだ数回程度のはずなのに、すごい親密にグイグイ来るよね、ウチの母さん。
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