グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第1章 【獣の爪痕】

第1章5 【6年前】

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ヴェルド「全っ然見つからなえな」

 ディランの書斎であの少女の情報を探し始めてから1時間が経つ。

ヴェルド「なあ、本当にこの中にあの子の情報が載ってるのか?」

 ヴェルドが少し苛立った口調でそう言った。

ディラン「……分からん。でも、載っていると思うから探してるんだ」

 ディランがため息をつきながら言う。

ヴェルド「分からんって......。おい、ヴァル。手が止まってるぞ」

 ヴェルドが八つ当たりのような感じで言う。

 ヴァルは何を考えているのか。

 私はその事が気になってヴァルの方を見ていた。そしてーー

「ねえ、ヴァル。さっきから何を考えてるの?」

 これ以上はみんなの手が余計に止まりそうだと思ったので、私が代表して思ったままの疑問を口にしてみた。

ヴァル「ん?あ、えーとだな......」

 ヴァルは話すべきか悩んでいる様子だ。

「ずっとそんな顔されてたら気になって仕方ないから何か思ってることがあるなら話してよ」

 私も少し、ヴェルド程態度には表さないが、尖った口調で言う。

ヴァル「そうか、1人で悩んでても仕方ねえよな」

 そう言うとヴァルは顔を上げて私達の方を見る。

ヴァル「突拍子もない話をするんだが、多分俺、1度あの瘴気団を見たことがあるんだ」

「?」

 突然ヴァルが言い出したことに私は疑問符を浮かべる。

 それは、ヴェルドとディランも同じようで一様に口を開けポカンとしている。

ヴェルド「いきなり何言い出すんだ?」
「ねえ、それって、絵とかで見たということ?」

 私とヴェルドで、同時にヴァルに問いかける。

ヴァル「いや、違う。多分俺が見たのは6年くらい前だ」

「6年!?」

 思わず大きな声を上げてしまった。

ヴェルド「何で6年前にそんなものを見た覚えがあるんだよ。丸い瘴気団は今回のが初めて発見されたもんだろ?」

「そうだよヴァル。6年前にそんなものがあるわけないじゃん」

ディラン「申し訳ないがヴァル君、私も君が6年前に見たという話は信じられないな」

 それまで黙って聞いていたディランさえもヴァルの言葉が信じられないらしい。

ヴァル「いや、でも6年前に見ていたのは確かなんだ」

 ヴァルは顎に手を当てながら言う。

ディラン「仮に君が見たものが例の丸い瘴気団だったとして、なんで騒ぎにならなかったんた?」

 それもそうだ。瘴気団の性質を考えれば6年前でも十分騒ぎになる。それなのに何故?

 私は答えを求めてヴァルを見る。

ヴァル「ーーそう言えば俺が昔、龍に育てられたのは、セリカにはまだ言ってなかったよな?」

 しばらく考えていたヴァルが突然私の方を向いて言う。

「? どういうこと?龍に育てられたって?」

ヴァル「いや、まあいつかは話そうと思ってたことだからこの際言うか」

 ヴァルは腕組みしたまま語りだした。

ヴァル「俺、元々は捨て子っていうか、なんというかそれに近いもんでな、記憶にある中じゃ父親と母親の名前も顔も無い」

「ヴァルが......捨て子?」

 私はその言葉の重みが分からず、ただ、そう呟くだけだった。

ヴァル「それでな、物心着いた時には龍に育てられたんだ。その龍の名前は『ゼグラニル』っていうんだ。俺の名前はそこから取ったものだ」

「そんなことが......」

 私は悲惨に満ちた声で言った。隣のヴェルドは興味無さそうな顔をしている。

『セリカにはまだ言ってなかったな』

 ヴァルがさっき言った言葉が私の頭の中を駆け巡った。

  ーーということは、ヴェルドやフウロは知っているということなのか。多分、そういう事なのだろうと考えた。

ヴェルド「ヴァル、それだと6年前に見たっていう瘴気団について何が言いたいのか分からねぇ」

 ヴェルドがヴァルの方を見て言った。

ヴァル「あぁ、そうだったな。それで、6年前、俺が12歳位のときだ。山といってもほとんどが森の場所で薪を集めてたんだ。その時に見た覚えがあるんだ」

 ヴァルはそう言い終わると再び顎に手を当てて考え事をし出した。

ヴェルド「それで、大体の話は分かったんだが、それはどこでの話だ?」

ヴァル「分からない」

ヴェルド「分からないってお前なぁーー」

ヴァル「ただ、その時、もう1人俺と一緒に見ていた子が居たはずなんだ」

 ヴァルがヴェルドの言葉に被せるように言った。

ヴェルド「もう1人?ゼグラニルじゃなくてか?」

ヴァル「あぁ、そう言えばこの話は誰にも話したことが無かったな」

ヴェルド「どういうことだ?」

ヴァル「いや、1ヶ月、俺がゼグラニルの他にもう1人、女の子と過ごしていた時期があるって話だよ」

ヴェルド「何じゃそら、聞いたことねえぞ」

ヴァル「だから言ったことねえって言ってんだろ」

ヴェルド「ふーん、それで、その女の子は誰なんだ」

 ヴェルドが興味津々といった感じでだずねる。

 なんだかんだで普通の男の子だ。

 そんなことを思っていた。

ヴァル「分からない」

ヴェルド「は?」

 ヴェルドが疑問を露わにしていた。それは、口には出していないが私も同じであった。

ヴェルド「分からないってお前どういうことだ?」

ヴァル「名前は愚か、顔も思い出せないんだ」

ヴェルド「なんか納得できねえけどまあいいか。それでお前は珍しく頭を悩ませていたんだな」

ヴァル「そんなところだ。その子のことが思い出せればなにか掴めるかもしれないと思ったんだけどな。すまん」

 ヴァルが頭を下げる。

「いいよ。別に今思い出せなくたって他にも情報は沢山あるんだしさ」

 そう言いながら、特に意味もなくディランの方でも見てみた。

ディラン「............」

 そこではディランが机に突っ伏したまま寝ていた。

 えぇ......。

 その瞬間、セリカはもう作業をやめようと思った。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴェルド「まさか、あのオッサンがヴァルの話を聞きながら寝るとは思いもしなかったなぁ。そんなに暇だったのか......」

 ヴェルドが私の隣を歩きながら呆れた口調で言う。

 ーー結局、あの後眠ってしまったディランをそのままにするのもなんだかアレだったのでソファの上に横にして今日の作業は終わりということになった。

 そして、夕食の準備も出来ているであろうということで私達は食堂に向かうことにした。

 それにしても凄い爆睡していたなぁ。ソファの上に動かしても全然起きなかったし......。

「まあ、ディランさんも疲れているんだよ、きっと。そんなことよりもヴァルが龍に育てられたって聞いてビックリしたよ。ヴェルドは知っていたんだよね?」

ヴェルド「あぁ、俺に限らず、ギルドの連中は皆知っている」

「へぇ、そうなんだ。ただヴァルが6年前に見たっていう丸い瘴気団は今回のと関係あるのかな?」

ヴェルド「なあ、ヴァル、その辺はどう思ってるんだ?」

 ヴェルドが振り返りながら言う。

ヴァル「............」

 ヴァルはヴェルドのといに返事もせず、ずっと上の空だ。

 無視ですか......

《ガン!》

 ーーと、特に前方に注意を払わず歩いていたら、廊下の角を曲がったあたりで何かにぶつかった。

「痛てて......」

フウロ「だ、大丈夫か!?……セリカ」

「ふ、フウロ!?」

 そこにはフウロが同じように頭を抑えていた。

フウロ「すまない、前方に注意していなかった」

「い、いえ、こちらこそすみません」

 フウロの方を向いて謝る。すると、フウロの後ろ側に何やら狼狽えている少女の姿が映り込んできた。

 あそこにいるのは......

「あ、あの大丈夫ですか?治癒魔法でもかけた方がいいですか?」

 少女がこちらに寄りながら言う。

「いや、大丈夫。心配かけてごめんね」

「そ、そうですか?」

 少女はまだ気にしているようだったが、私とフウロが立ち上がると安心したようにほっと胸をなでおろした。

「あ、あのフウロ、その子って確か……」

フウロ「あぁ、お前達に紹介しようと思って上がってきたんだが......」

 フウロはそう言うと一泊間を開けてーー

フウロ「彼女の名前はエフィ・ベルディア。目的は違うが、私たちと同じように調査をしに森の中に入ったそうだ」

 と、少女の紹介をするのであった。

「そうだったんですか......」

 私がそう言うと少女改めエフィは私達の前に来てーー

エフィ「あの、私、エフィと言います。皆さんと一緒に明日調査に出るのでよろしくお願いします」

 と自己紹介と共にお行儀よくお辞儀をするのであった。

ヴェルド「おいおい、フウロ。こんな小さな子を連れて行って俺達が守りきれるとは限らねえぞ」

 ヴェルドが非難の声を上げる。

フウロ「大丈夫だヴェルド。この子はそんなに無理して守らなくてもいい。本人がそれを承知で来ているからな」

ヴェルド「はぁ?守らなくていいってーー」

フウロ「それに、この子は治癒魔法と錬金術が使える。いざという時には頼りになるかもしれんぞ」

 フウロがヴェルドの言葉に被せるようにして言った。

エフィ「いざとなったら私が回復してあげますから」

 それまで黙って見ていたエフィが安心させるように言った。

ヴェルド「ああもう好きにしろ!俺は飯を食って寝る」

 ヴェルドがぶっきらぼうに言った。

 これまでセリカ達がやり取りしていた間もヴァルはずっと考え事をしていた。

 そして、一行は食堂へと向かうのであった。
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