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第1章 【獣の爪痕】
第1章7 【魔の森】
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ーーエフィが消えた。
それだけじゃない、フウロも消え、ヴァルとヴェルドは森に捜索に出ている。
私は森の中を必死に走っていた。
「あの、セリカ様。少し休まれた方がいいのでは?」
後に付いてきている騎士の一人が言った。
確かに昨日の戦いで体に不調が起きている。でもーー
「こんな所で休んでる暇はない!早くエフィ達を探し出さないと......!」
「それは分かっています。ですが、私目から見ても明らかに不調を感じます」
「だからどうしろって言うの?」
焦りからかついつい強い口調になってしまう。
「場所さえ分かれば私共がそこまで運ぶことができます」
もう1人の騎士が言った。
「場所と言っても......」
私は走るのをやめ、ヴァル達あるいはエフィとフウロが居そうな場所を考える。
「先日行かれた森の奥地に彼等は居るのでは?」
「ーーそうか、そこ以外居そうにないよね」
私は森の奥の方を見る。鬱蒼とした木々が立ち並び、奥の方までは見渡せない。だけど、昨日から感じる異質なマナが空を漂っている。
「それでは、そこに参りましょう......と言いたいところですが」
騎士の一人が歯切れ悪く言う。
「魔獣......?」
間違いなく、さっき見ていたはずのところに魔獣が居た。それだけではない、四方八方を囲まれている。
これじゃあ昨日と同じ……
昨日、みんなで協力したからこそ切り抜けられたこの状況。しかし、今はたったの3人しかいない。あまりの状況の厳しさに、思わず悲観的になる。
「どうします?セリカ様。引き返すか、それとも強行突破するか......」
騎士の一人が尋ねてくる。
「ーーここで引き返す余裕は無い、強行突破しましょう」
「かしこまりました。では、いくぞ、セラ」
騎士の一人が目を細め、前方を鋭く見る。
「了解、ジン」
もう1人の騎士ーーセラと呼ばれた方ーーが同じように目を細め全貌を鋭く見る。唯一違う点としてはセリカの後ろに回ったことくらいだ。
何をするつもり?
私が疑問符を頭に浮かべた瞬間、私の体が宙に浮いた。
「え?」
セラ「一気に突破します。しっかりと捕まっててください!」
セラが私の体を軽々と担いでいた。
「「 すぅーソニックブーム! 」」
2人の騎士がそう詠唱すると森の奥地目がけて走り出した。
「ちょ、何これ!?」
担がれていた私は目を見開き、叫ぶように疑問を口にした。
目に映る景色がどんどん変わっていくーー
もしかしなくともこれ、高速で動いてる?
「このまま奥地にまで直行します。しっかりと捕まっていてください」
セラがそう言い、更にスピードを上げていった。
もうこのままなるようになるしかない。というか、別に速さに驚いただけであって、魔獣の群れを切り抜けられるんだから何も困ったことは無い。
このまま、森の奥までーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おりゃ!」
ヴェルド「くたばれ!」
エフィが消えたという報告を受けてから1時間程度。
森の中は昨日と比べものにならないほど魔獣で溢れ返っており、瘴気団までの道を塞がれていた。
「昨日と同じだな」
ヴェルド「あぁ、倒しても倒しても湧いてきやがる」
「どうすればいいんだ......」
オマケに、倒したそばから蒸発し、新しいのがまた現れるという謎の現象は健在。これでは無駄に体力を消費するばかりだ。
どうにかして脱出の糸口を探りたいが、森の奥を目指す以上、楽な方法はねぇな……。
「どんなにやっても俺達が最終的にやられるだけ、なら強行突破でさらに奥に行くぞ!」
ヴェルド「それしかねえよな......ただ、強行突破しようにも数が多すぎる」
「なぁ、ヴェルド」
頭の回転が悪い俺だが、今この瞬間、良い案を思いついた。
ヴェルド「なんだ?」
「こいつら、氷漬けに出来ねぇか?」
ヴェルド「やろうと思えばできるが......」
「なら、今すぐ氷漬けにしてくれ!」
ヴェルド「なんでだって聞きてえところだが、悩んでる時間が持ったいねえ、アイスグラウンド!」
ヴェルドが詠唱すると、魔獣の体を足元から凍らせていった。思惑通りにちゃんと動いてくれたな。
「よし、これで突破するぞ!」
ヴェルド「は?正気か?まだ奥にはいっぱい魔獣がいるんだぞ!」
「分かってる。でもさっき氷漬けにしたおかげで、後ろからは攻めてこれねぇ!」
ヴェルド「なるほど、そういう事か」
「分かったなら早く行くぞ。後方からの援護を頼む」
ヴェルド「了解!」
ーーそれから、俺達は魔獣が現れる度に氷漬け、からの爆炎で吹き飛ばしを繰り返しながら森の奥へと進んでいった。
本当にこの森に居るって確証もないのになんで俺達はこうも森の中で戦ってるんだ?
ふと、そんな疑問が俺の脳裏を駆け巡る。
「なぁ、ヴェルド」
ヴェルド「なんだ?ヴァル」
「なんで、俺達、こうやって森の中で命懸けで戦ってるんだろうな?」
ヴェルド「そりゃエフィを助けるためだろ」
ヴェルドが呆れた口調で言ってくる。
「そうだけどさ、森の中に居るなんて確証はあったっけ?」
ヴェルド「そう言えば......」
「俺達は、今朝ディランにエフィが消えたと言われてここまで来たわけだ。でも森の中にいるかもしれないと言ったのは......」
ヴェルド「確か、そのままディランだったよな......」
「昨日、裏で人が操ってるかもしれないって話をお前がしてただろ?」
ヴェルド「お前にしては珍しく覚えてるが、まさか、ディランが関わってるとでも言うのか?」
疑いの目をしているが、その心は自らの言葉にも疑いを持っている。かく言う俺も、ディランが怪しいということに関して疑いを持っている。
「あくまで、可能性の話だ」
ヴェルド「しかし、ここまで来て撤退なんて出来ねえだろ」
「あぁ、もうちょっと奥まで行って発見できなかったら、一旦撤退しよう」
ヴェルド「そうだな......」
そのままヴェルドが再び走り出そうとした。その瞬間、俺はある匂いを感じ取ったーー
「待て、ヴェルド。匂いがする……」
ヴェルド「魔獣か?」
「ーーいや、エフィだ」
獣臭が混ざってはいるが、これは一昨日嗅いだエフィの匂いそのものだ。彼女は普段から森に入り浸っているんだろう、この森特有の緑の匂いと人間の匂いが入り交じったものがエフィの匂いだ。
ヴェルド「なんだって!?」
「急いでいくぞ!」
ヴェルド「おう!」
俺とヴェルドは森の奥に向かって駆け出した。襲いかかってくる魔獣を、俺達の連携でなぎ倒し、そして、開けた場所に着いた。
「おい、エフィ!しっかりしろ!」
そこではエフィが倒れていた。顔が真っ青になっている。
「俺が背負って帰る。だからヴェルドは......」
ヴェルド「分かってる。魔獣の足止めは任せろ」
ヴェルドは俺の言葉を継ぎ、冷気を拳にまとわりつかせた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セラ「セリカ様、これは一体......」
森の奥地に辿り着くと魔獣達が氷漬けにされていた。
「多分、ヴェルドのだと思う」
多分というより絶対だと思うけどね。流石にこんな場所にヴェルド以外の氷魔法を使う人は現れないでしょ。
ジン「そうだとするとお二人方は更に奥地へと参ったという訳ですか......」
「もっと奥......」
2人が向かった先を追おうと目線を上げた瞬間、私は、氷漬けにされた魔獣近くに転がっている人の姿を見つけた。
ーーフウロだ。
「フウロ!大丈夫!?」
私はフウロの体を必死に揺する。
ジン「ちょっと失礼」
ジンがフウロの首筋に人差し指を当てる。
ジン「呼吸はあるようですし生きてはいます。ただ、衰弱しているため、急いで治療にあたる必要がございます」
「じゃあ、早く屋敷に運ばないと......」
ジン「そうですね。しかし、帰り道あの魔獣達が襲ってくるとなると......」
その先は言わなくてもわかる。
負傷人を抱えた上で戦いながら切り抜けるのは非常に困難だ。しかし、このままここで待機するという訳にもいかない。
「どうすれば......」
「おーいセリカー!」
と、都合よく後ろの方で聞き慣れた声が私の名前を呼んできた。
「ヴァル!」
ヴァルがヴェルドと共にやって来た。背中にはエフィを背負っている。
「エフィを助けられたのね」
ヴァル「あぁ、大分衰弱してるが......」
ヴェルド「とにかく、早く屋敷に運ばねえとな」
セラ「お言葉ですが、あの群れを再び、しかも、負傷人を抱えた上で突破するのは難しいと思います」
セラがフウロを抱え、そう言った。
ヴェルド「そんなもん、氷漬けにしてしまえばどうとでもなる」
ヴェルドがそう言うと、ジンが辺りを見渡した。
ジン「ーー分かりました。それでは私共は援護を致しますのでよろしくお願いします」
ヴェルド「任せろってんだ」
ヴェルドが先頭を行くような形で走り出す。それに私達も着いていく。
ーー誘拐じゃないとディランは言ったけど、フウロもエフィも1人でこんな森の中に行くとは考えられない。やはり、誰かが裏で糸を引いているのだろうか?
私は疑問を感じつつも魔獣の群れを突破して行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ、はぁ、はぁ......」
魔獣の群れから必死になって逃げていた一行は気づけばディランの屋敷の前まで来ていた。
セラ「救護室に運びます。すみませんが手伝っていただけないでしょうか?」
セラがフウロを改めて背中に乗せようとしながら言う。
ヴァル「2人は大丈夫なのか?」
ヴァルがセラを手伝いながら言った。
セラ「分かりません。大分衰弱はしていますが、まだ息はしていますのでお二人の気力次第といったところでしょうか」
ジン「皆さんは先にディラン様のところに行ってください」
ジンがエフィを抱え言った。
ヴェルド「なんでだ?」
ヴェルドが問いかける。
ジン「皆さんが感じているように今回の事件は誰かが裏で糸を引いていると思われます。そして、私共はあまり疑いたくは無いのですが、念の為ということでディラン様に確認して頂きたいのですが......」
ヴァル「なるほどな、分かった。エフィとフウロは任せたぞ」
ヴァルはそう言うと屋敷の中に入っていった。
ジン「フウロ様とエフィ様は必ず私共が守ります」
ジンが答えたのを見てヴェルドも屋敷の中に入っていった。
「私も、行ってきます」
セラ「セリカ様」
セリカも後に付いていこうとした手前、セラが呼び止めた。
セラ「ディラン様は私共でも何をしておられるのかがあまり分からない方です。くれぐれも気をつけてください」
「分かった」
そう返事をして、私も屋敷の中に入っていった。
それだけじゃない、フウロも消え、ヴァルとヴェルドは森に捜索に出ている。
私は森の中を必死に走っていた。
「あの、セリカ様。少し休まれた方がいいのでは?」
後に付いてきている騎士の一人が言った。
確かに昨日の戦いで体に不調が起きている。でもーー
「こんな所で休んでる暇はない!早くエフィ達を探し出さないと......!」
「それは分かっています。ですが、私目から見ても明らかに不調を感じます」
「だからどうしろって言うの?」
焦りからかついつい強い口調になってしまう。
「場所さえ分かれば私共がそこまで運ぶことができます」
もう1人の騎士が言った。
「場所と言っても......」
私は走るのをやめ、ヴァル達あるいはエフィとフウロが居そうな場所を考える。
「先日行かれた森の奥地に彼等は居るのでは?」
「ーーそうか、そこ以外居そうにないよね」
私は森の奥の方を見る。鬱蒼とした木々が立ち並び、奥の方までは見渡せない。だけど、昨日から感じる異質なマナが空を漂っている。
「それでは、そこに参りましょう......と言いたいところですが」
騎士の一人が歯切れ悪く言う。
「魔獣......?」
間違いなく、さっき見ていたはずのところに魔獣が居た。それだけではない、四方八方を囲まれている。
これじゃあ昨日と同じ……
昨日、みんなで協力したからこそ切り抜けられたこの状況。しかし、今はたったの3人しかいない。あまりの状況の厳しさに、思わず悲観的になる。
「どうします?セリカ様。引き返すか、それとも強行突破するか......」
騎士の一人が尋ねてくる。
「ーーここで引き返す余裕は無い、強行突破しましょう」
「かしこまりました。では、いくぞ、セラ」
騎士の一人が目を細め、前方を鋭く見る。
「了解、ジン」
もう1人の騎士ーーセラと呼ばれた方ーーが同じように目を細め全貌を鋭く見る。唯一違う点としてはセリカの後ろに回ったことくらいだ。
何をするつもり?
私が疑問符を頭に浮かべた瞬間、私の体が宙に浮いた。
「え?」
セラ「一気に突破します。しっかりと捕まっててください!」
セラが私の体を軽々と担いでいた。
「「 すぅーソニックブーム! 」」
2人の騎士がそう詠唱すると森の奥地目がけて走り出した。
「ちょ、何これ!?」
担がれていた私は目を見開き、叫ぶように疑問を口にした。
目に映る景色がどんどん変わっていくーー
もしかしなくともこれ、高速で動いてる?
「このまま奥地にまで直行します。しっかりと捕まっていてください」
セラがそう言い、更にスピードを上げていった。
もうこのままなるようになるしかない。というか、別に速さに驚いただけであって、魔獣の群れを切り抜けられるんだから何も困ったことは無い。
このまま、森の奥までーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おりゃ!」
ヴェルド「くたばれ!」
エフィが消えたという報告を受けてから1時間程度。
森の中は昨日と比べものにならないほど魔獣で溢れ返っており、瘴気団までの道を塞がれていた。
「昨日と同じだな」
ヴェルド「あぁ、倒しても倒しても湧いてきやがる」
「どうすればいいんだ......」
オマケに、倒したそばから蒸発し、新しいのがまた現れるという謎の現象は健在。これでは無駄に体力を消費するばかりだ。
どうにかして脱出の糸口を探りたいが、森の奥を目指す以上、楽な方法はねぇな……。
「どんなにやっても俺達が最終的にやられるだけ、なら強行突破でさらに奥に行くぞ!」
ヴェルド「それしかねえよな......ただ、強行突破しようにも数が多すぎる」
「なぁ、ヴェルド」
頭の回転が悪い俺だが、今この瞬間、良い案を思いついた。
ヴェルド「なんだ?」
「こいつら、氷漬けに出来ねぇか?」
ヴェルド「やろうと思えばできるが......」
「なら、今すぐ氷漬けにしてくれ!」
ヴェルド「なんでだって聞きてえところだが、悩んでる時間が持ったいねえ、アイスグラウンド!」
ヴェルドが詠唱すると、魔獣の体を足元から凍らせていった。思惑通りにちゃんと動いてくれたな。
「よし、これで突破するぞ!」
ヴェルド「は?正気か?まだ奥にはいっぱい魔獣がいるんだぞ!」
「分かってる。でもさっき氷漬けにしたおかげで、後ろからは攻めてこれねぇ!」
ヴェルド「なるほど、そういう事か」
「分かったなら早く行くぞ。後方からの援護を頼む」
ヴェルド「了解!」
ーーそれから、俺達は魔獣が現れる度に氷漬け、からの爆炎で吹き飛ばしを繰り返しながら森の奥へと進んでいった。
本当にこの森に居るって確証もないのになんで俺達はこうも森の中で戦ってるんだ?
ふと、そんな疑問が俺の脳裏を駆け巡る。
「なぁ、ヴェルド」
ヴェルド「なんだ?ヴァル」
「なんで、俺達、こうやって森の中で命懸けで戦ってるんだろうな?」
ヴェルド「そりゃエフィを助けるためだろ」
ヴェルドが呆れた口調で言ってくる。
「そうだけどさ、森の中に居るなんて確証はあったっけ?」
ヴェルド「そう言えば......」
「俺達は、今朝ディランにエフィが消えたと言われてここまで来たわけだ。でも森の中にいるかもしれないと言ったのは......」
ヴェルド「確か、そのままディランだったよな......」
「昨日、裏で人が操ってるかもしれないって話をお前がしてただろ?」
ヴェルド「お前にしては珍しく覚えてるが、まさか、ディランが関わってるとでも言うのか?」
疑いの目をしているが、その心は自らの言葉にも疑いを持っている。かく言う俺も、ディランが怪しいということに関して疑いを持っている。
「あくまで、可能性の話だ」
ヴェルド「しかし、ここまで来て撤退なんて出来ねえだろ」
「あぁ、もうちょっと奥まで行って発見できなかったら、一旦撤退しよう」
ヴェルド「そうだな......」
そのままヴェルドが再び走り出そうとした。その瞬間、俺はある匂いを感じ取ったーー
「待て、ヴェルド。匂いがする……」
ヴェルド「魔獣か?」
「ーーいや、エフィだ」
獣臭が混ざってはいるが、これは一昨日嗅いだエフィの匂いそのものだ。彼女は普段から森に入り浸っているんだろう、この森特有の緑の匂いと人間の匂いが入り交じったものがエフィの匂いだ。
ヴェルド「なんだって!?」
「急いでいくぞ!」
ヴェルド「おう!」
俺とヴェルドは森の奥に向かって駆け出した。襲いかかってくる魔獣を、俺達の連携でなぎ倒し、そして、開けた場所に着いた。
「おい、エフィ!しっかりしろ!」
そこではエフィが倒れていた。顔が真っ青になっている。
「俺が背負って帰る。だからヴェルドは......」
ヴェルド「分かってる。魔獣の足止めは任せろ」
ヴェルドは俺の言葉を継ぎ、冷気を拳にまとわりつかせた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セラ「セリカ様、これは一体......」
森の奥地に辿り着くと魔獣達が氷漬けにされていた。
「多分、ヴェルドのだと思う」
多分というより絶対だと思うけどね。流石にこんな場所にヴェルド以外の氷魔法を使う人は現れないでしょ。
ジン「そうだとするとお二人方は更に奥地へと参ったという訳ですか......」
「もっと奥......」
2人が向かった先を追おうと目線を上げた瞬間、私は、氷漬けにされた魔獣近くに転がっている人の姿を見つけた。
ーーフウロだ。
「フウロ!大丈夫!?」
私はフウロの体を必死に揺する。
ジン「ちょっと失礼」
ジンがフウロの首筋に人差し指を当てる。
ジン「呼吸はあるようですし生きてはいます。ただ、衰弱しているため、急いで治療にあたる必要がございます」
「じゃあ、早く屋敷に運ばないと......」
ジン「そうですね。しかし、帰り道あの魔獣達が襲ってくるとなると......」
その先は言わなくてもわかる。
負傷人を抱えた上で戦いながら切り抜けるのは非常に困難だ。しかし、このままここで待機するという訳にもいかない。
「どうすれば......」
「おーいセリカー!」
と、都合よく後ろの方で聞き慣れた声が私の名前を呼んできた。
「ヴァル!」
ヴァルがヴェルドと共にやって来た。背中にはエフィを背負っている。
「エフィを助けられたのね」
ヴァル「あぁ、大分衰弱してるが......」
ヴェルド「とにかく、早く屋敷に運ばねえとな」
セラ「お言葉ですが、あの群れを再び、しかも、負傷人を抱えた上で突破するのは難しいと思います」
セラがフウロを抱え、そう言った。
ヴェルド「そんなもん、氷漬けにしてしまえばどうとでもなる」
ヴェルドがそう言うと、ジンが辺りを見渡した。
ジン「ーー分かりました。それでは私共は援護を致しますのでよろしくお願いします」
ヴェルド「任せろってんだ」
ヴェルドが先頭を行くような形で走り出す。それに私達も着いていく。
ーー誘拐じゃないとディランは言ったけど、フウロもエフィも1人でこんな森の中に行くとは考えられない。やはり、誰かが裏で糸を引いているのだろうか?
私は疑問を感じつつも魔獣の群れを突破して行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ、はぁ、はぁ......」
魔獣の群れから必死になって逃げていた一行は気づけばディランの屋敷の前まで来ていた。
セラ「救護室に運びます。すみませんが手伝っていただけないでしょうか?」
セラがフウロを改めて背中に乗せようとしながら言う。
ヴァル「2人は大丈夫なのか?」
ヴァルがセラを手伝いながら言った。
セラ「分かりません。大分衰弱はしていますが、まだ息はしていますのでお二人の気力次第といったところでしょうか」
ジン「皆さんは先にディラン様のところに行ってください」
ジンがエフィを抱え言った。
ヴェルド「なんでだ?」
ヴェルドが問いかける。
ジン「皆さんが感じているように今回の事件は誰かが裏で糸を引いていると思われます。そして、私共はあまり疑いたくは無いのですが、念の為ということでディラン様に確認して頂きたいのですが......」
ヴァル「なるほどな、分かった。エフィとフウロは任せたぞ」
ヴァルはそう言うと屋敷の中に入っていった。
ジン「フウロ様とエフィ様は必ず私共が守ります」
ジンが答えたのを見てヴェルドも屋敷の中に入っていった。
「私も、行ってきます」
セラ「セリカ様」
セリカも後に付いていこうとした手前、セラが呼び止めた。
セラ「ディラン様は私共でも何をしておられるのかがあまり分からない方です。くれぐれも気をつけてください」
「分かった」
そう返事をして、私も屋敷の中に入っていった。
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