グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第1章 【獣の爪痕】

第1章10 【獣の物語】

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エフィ「魔獣さえ居なければ良いんですよね?」

 ディランの圧倒的な軍勢の前に絶望しかけた俺達だったが、それを助けに来たのはエフィだった。

ヴェルド「エフィ、お前なんで......」

 ヴェルドが困惑した様子で言う。

エフィ「この子がここまで導いてくれたんです」

 そう言うと、エフィは傍らにいた魔獣の頭を撫でた。

ディラン「フンっ小娘が。生きておったか」

 ディランがエフィを睨みつけ言った。それに対応するように、周りにいる作られし獣達が一斉にエフィの方を睨みつける。

エフィ「あなたは、私が倒します。それが、私に出来ることだから」

 エフィの方もディランを睨みつけ言う。

 2人の視線がぶつかり、火花を散らしているような様子が想像できた。

ディラン「倒す?笑わせるな。お前ごときが私を倒せるはずがない」

エフィ「いいえ、出来ます」

ディラン「何を根拠にそう言う?」

エフィ「あなたは分かっているはずです。この作りだした魔獣は本物をコピーしたもの。その元が無くなれば消えてしまうものだと」

 エフィが言った言葉に俺は衝撃を受けた。

 倒しても倒してもすぐ新しいのが来るとは思っていたが、まさかというか、やっぱり本体を倒さなきゃならねぇやつだったとは……盲点ではないが、思いつかなかったぜ。

ディラン「チッ」

 ディランが忌々しそうに舌打ちをする。

エフィ「あなたが私を森に放置して衰弱死させようとしたのは……、私が邪魔だったからですよね?」

 エフィが口元を微かに震わせながら言った。

ディラン「ーーあぁ、そうだよ嬢ちゃん。君は私の計画には邪魔な存在だった。だから森の中に置いて衰弱死させようとした」

 ディランが開き直った様子で言う。

「じゃあ、なんで直接殺さなかったんだよ!」

 俺は不謹慎であると思いつつも言った。

エフィ「それは、直接殺すことが出来なかったからです」

 俺の疑問に答えたのは、ディランではなくエフィだった。

「どういうことだ?」

エフィ「ディランさんが持っている力は大きすぎる余り制御することが難しいんです」

「それが直接殺せないとどう繋がるんだよ」

エフィ「制御できないということは人1人殺すのに大きな騒ぎを起こしてしまうんです。実際、村の方からでもこの森での騒ぎは十分に見ることが出来ました」

「そうなのか......」

エフィ「はい。ディランさん、もう逃げられませんよ」

 エフィは再びディランの方を睨みつけて言った。

ディラン「クックック......正解だよ。しかしね、今この状況じゃどれだけ暴れてももう大丈夫だろ?遅すぎたんだよ、君達は」

 そう言ったあと、ディランは大きく高笑いをした。

エフィ「遅くなんかありません。あなたの力は私が無力化できることを忘れたんですか?」

ディラン「そうだったね。なら、まず手始めに君から殺そう」

 そう言うとディランは鋭くなった爪をエフィに向けて振り落として来た。

「「 させるかよ! 」」

 その攻撃を、俺とヴェルドの2人で防ぐ。

ディラン「邪魔だ、虫けら共」

「お前の好きになんかさせるか!連獄!」
ヴェルド「アイスクリエイト!氷柱ばり!」

 俺とヴェルドはディランに向けて攻撃を再開する。エフィが来た今、もう怖いもの無しだ。

エフィ「ジンさん。しばらくの間ヴァルさん達の援護を頼めますか?」

『任せろ。行くぞ者共よ』

 エフィが傍にいた獣にそう言うと、獣は俺達にも分かる言葉でそう返事を返し、エフィの後ろにいた魔獣達が一斉にディラン目掛けて攻撃をし始める。

エフィ「ヴァルさん!ヴェルドさん!あの魔獣は私がどうにかします。だからその間に」

「こいつをぶっ飛ばせば良いんだろ?」

 俺はエフィの言葉を繋ぎ、ディランの顔面に向けて高く飛んだ。

「炎龍の鉄砕!」
ヴェルド「アイスクリエイト!アイスニードル!」

 俺とヴェルドとで息を合わせ、ディランに休む間もなく攻撃をし続ける。

 俺は魔法の威力を1段階上げ、ヴェルドは氷の生成量を増やす。ついさっきまでのが俺達の本気だと思うな!

ディラン「クソ、生意気な奴らだ」

「輝水剣!」

 よろめくディランの背後からフウロが攻撃する。

「私のことを忘れてもらっちゃ困るな、ディラン」

 俺達が中心となって攻撃をし、ディランが隙を見せた瞬間にフウロの強力な一撃を叩き込む。周りの魔獣はエフィの力により抑えられている。

ディラン「クソがァ!」

 ディランは横一文字に攻撃をする。

「当たるかよ!」

 俺達はディランの攻撃を簡単に避け、更なる一撃を叩き込む。右に左に、あるいは上から下からと、相手には1秒たりとも休ませない。

エフィ「ヴァルさん!魔獣さん達はみんな救出出来ました!」

 エフィが周りにいた魔獣達を完全に飼い慣らした。本体だけじゃない、ディランが作ったものも含めて全部だ。

「そうか、ありがとな」

「私も援護に回ります。錬成」

 エフィが地面に小さな円を描き、地面に手を触れるとディランの足元から岩が突き出した。

ヴェルド「なんだ?地属性の魔法か?」

エフィ「いえ、錬金術です」

フウロ「そう言えば錬金術も使えると言っていたな」

エフィ「あまり、大きなダメージは与えられませんが邪魔をすることは出来ると思います」

フウロ「ありがとう、エフィ」

 そう言うとフウロはディランに向けて剣を振る。

「これで終わりだ!炎龍の咆哮!」
フウロ「火、水、木、風!トワイライトソード!」

 俺が吐き出す龍の炎と、フウロの4色に輝く剣がディランの頭部を直撃する。

ヴェルド「デザートもどうぞだ!ブリザードスピア!」

 ヴェルドの氷の槍が、物凄い勢いと物量を誇ってディランに更なる追い討ちを噛ました。

「クソがァァァァァァァ!!!」

 ディランの断末魔が夜の山に響き渡り、木霊を返してきた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

フウロ「大丈夫か?セリカ」

 フウロがセリカを優しく抱え脈と息を確かめる。

ディラン「大丈夫だ。ただ眠らせてあるだけだ」

 獣の姿から人の姿へと戻り、すっかり憔悴しきったディランが言う。当てにはならんが、多分嘘はついてない。

「見たところ外傷もなさそうだな」

 見たところ、セリカの体には目立った傷というものはない。あんな拐い方をされたから不安で仕方なかったが、無事で何よりだ。

フウロ「さて、何から聞こうか?」

 フウロが俺にセリカの体を預け、ディランと対面するように切り株に座る。

フウロ「ーーそうだな......まずは、なんでこんなことをしようとしたのかについて聞こうか」

 フウロの義父が相手だから、こういうのは出来ないんじゃないかと勝手に思ってたが、フウロはフウロだな。誰が相手でも、やるべき事がしっかりしてやがる。

ヴェルド「なんでこんなことしてんだ?」

 ヴェルドが改めてディランに聞く。

ディラン「ーーきっかけは、6年ほど前の話だ」

 ディランがゆっくりと語りだした。

ディラン「あれからもう6年が経つ。この村で村長をやっていた私の元にとある1人の男がやってきた。そしてそいつは私にこう言ったんだ。『あなたに力を授けましょう。何者にも負けない、最高の力を』と」

ヴェルド「そんなのにお前は乗ったのか?」

 ヴェルドが呆れた口調で言う。

ディラン「いや、最初は断ったさ。でもな、その直後、魔獣が人里を襲って困っていたんだ。そこで、私は彼に力をくれるよう頼んだ」

「それであのメモリを貰ったのか」

 俺は壊れたグランメモリの破片を拾いながら言う。妙な物体だ。ガラス?みたいな破片なんだが、所々に変な紐が付いている。機械なんだろうな。

ディラン「ーーいや、貰ったのはごく最近のことだ。6年前の魔獣騒ぎ……。今にして思えば、あの男が仕掛けたものだったのかもな」

フウロ「そんな嘘が通ると思っているのか?ディラン」

 フウロが睨みながら言う。

ディラン「嘘かどうかなんぞ好きに受け取れ」

「「「 …… 」」」

 正直、どう返せばいいのかが分からない。フウロも、相手が義父であるということを頭から外しているんだろうが、多分無意識に情を感じているな。普段のフウロなら、こんな時に黙ることはない。

ディラン「あの時から私はバカだったよ。ハハハ、今もバカであることに変わりはないがね。村の人達が魔獣達に襲われるのを見て、私は嘆き悲しんだ。それが、奴らに仕組まれていた可能性であることを疑いもせず、私は力を欲した。そして、去年の暮れの頃にアレを貰った」

「なるほどな」

ディラン「ーーそうだ。もう1つ付け加えるとすれば、その時は奴の他に女の子もいたな。緑がかった青色の髪をした。あのメモリは彼女から貰ったんだ」

「それで、お前は試しに使ってみたのか?」

ディラン「もちろんだ。その時に得た力に私は感動したよ......なんせ、村1つ滅ぼす程に魔獣を操り作ることが出来るのだからな......」

 そう言うと、ディランは顔を落とした。

ディラン「ーーもう、終わりだ。早く私を騎士団にでも連れて行け」

 ディランはもう話が終わりという感じに言った。

 フウロは腰にぶら下げている鞭を取り出し、ディランの腕を背中に回して縛り付ける。

ディラン「ーーただ、ちょっとだけ感謝していることがある」

 ディランがフウロに腕を縄で縛られている中、俺達の方に顔を上げた。

ディラン「君達が暴走していた私を止めてくれた。ありがとう」

「こっちとしては最初からこんな事するなって話だけどな」

ヴェルド「それな」

ディラン「ハハ......」

 そのディランの顔は何故か苦しみから解放された顔だった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ありがとうございます。ジンさん」

 私はジンの頭を撫でながら言った。

『私から頼んだことだ。むしろ私が例をするべきだ』

「でも、あの時ジンさんが私を迎えにきたから私は強くなれたんですよ」

 今は、なぜか私の心がとても晴れ晴れとしていて、なんだかとっても清々しい気持ちだ。

『そうか......』

 ジンがどことなく疲れたような態度を取ると、体が急に光出した。

『どうやら、ここまでのようだ』

「どういうこと?」

『お別れという事だ』

「そんな......」

 ーーお別れなんて嫌だ。

「どこかに行っちゃうの?」

 私の目に涙が自然と溜まる。

 折角一緒にここまで来たのに、こんな少ない時間でお別れだなんて、絶対に嫌だーー

『私は、もう死んでいる存在だ。君の母親か誰かは知らんが、夢界むかいから送り出してくれた希望だ』

「死んでるって......」

『別れは私も嫌だ。でも、これが運命なのだ』

「そんな、嫌だよ!」

 私はそう叫ぶとジンの体にしがみついて泣き始めた。こうして肌で触れ合えるのに、なんでお別れしなくちゃならないの……。

『君に一つだけ言っておきたいことがある。』

「何?」

 鼻水を啜りながら言う。

『私はな、実は人間だったんだ』

「え?でも……」

 この姿はどう見ても獣だ。人間の面影などどこにもない。

『どう見ても人間ではないが、私はこの村で騎士をやっていた。ディランの家に務めていたんだよ。来た時は人間の姿だったんだが、君に気づいてもらえた瞬間に獣の姿になってしまった』

 気づいた?そう言えばあの時、部屋の外を歩く音はどう考えても人間の足音だったきがする。

『まあ、私が獣か人間かなんてどうでもいい。君を守ることが出来たんだから』

「本当にお別れなの?」

 私は答えを知っていながらも聞いた。その答えが変わってくれないかと期待を込めて。でも、現実はそんな楽観的じゃない。

『残念ながら本当にお別れだ。ただ、君は1人じゃない。事実あそこに素晴らしい仲間がいるではないか』

 そう言いながらジンはヴァル達の方を見る。

 そこでは、ヴァル達がディランに尋問している様子が伺えた。

『では、言いたいことも言えたし、サラバとするか』

 そう言うとジンの体が光の粒を放ち、消え去った。

「ーーさようなら……。ジンさん」

 私は必死に笑顔を作りながら空に向けて言う。

『あぁ、さらばだ』

 ジンの声がどこからか響いてくる。空でもなければ、地上でもない。私の脳内に、直接語りかけてくるように……

「お母さん。私、やっと見つけられたよ。大切なものを......」

 私は涙声になりそうになるのをを必死に堪え、言った。

ヴァル「おーい!エフィ行くぞ!」

 遠くでヴァルさんの呼ぶ声が聞こえる。

「はーい!今行きまーす!」

 ーー決めた。私、このギルドに入ろう!

 私はこの先の未来を考え、少しだけ笑った。
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