グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第8章√VS 【闇の魂】

第8章33 【英雄龍】

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 かつて、古の時代、龍王と呼ばれる者が世界のありとあらゆる物を支配する時代があった。

 全ての生き物を殺し、龍だけの世界を作ろうとする者。

 あるいは、全ての生き物と共存し、世界をより良くしていこうとする者。

 はたまた、全てを破壊し、生物のいない世界を作ろうとする者。

 その他にも、様々な思惑を秘めた龍達が、長い戦争を続けていた。

 戦争は、星に壊滅的なダメージを与え、生物のいない世界を目指す者達にとって都合のいい状態へと近づいていた。

 そんな中、ある2匹の龍が産まれた。場所は、現在で言う白陽と黒月の境界。創真王国のあたりだ。

 2匹の龍。彼らは、ゼロニレア、ルギリアテンと名付けられた。

 2匹の龍が現れてから、戦争は全生物共存派が有利になった。2匹の龍は、それぞれ死と生を司る龍であった。まあ、生の方は傷ついた味方を際限なく回復していくから良いとして、死の龍、ゼロニレアは、ただひたすらに邪魔な龍を殺し尽くした。物理的な死を与えるのではない。ゼロニレアが通った後には、血の一滴も残さないほど、無惨な状態の龍達が倒れているのだと言う。その龍達が、体に蓄えていたマナを放出し、世界は徐々に元あるべき形へと戻っていった。

 それでも戦争は続き、最終的にはアポカリプスという名の、最凶の龍が現れ、全ての龍が死んで終わりを迎えた。そして、何千年も経った頃、地上に知能を持つ人型の生物が現れ、そこから始まるのが人類史だ。

 世界で最初に知能を持った人間の正体は不明だが、その者は天命の泉で産まれたという説が有力になっている。なぜかと言われれば、多分生命の源だとされてる泉だから、だろうな。お前らも行ったことがあるから分かるだろうが、あの場所には全ての傷を癒し、再生する力を持った摩訶不思議な水がある。あれが、この世界を支える、人間で言うところの血液なんじゃないかと思われている。ってヒカリそんなに睨むなって、科学的な立証はされてないから。ただのおとぎ話だって言っただろ?

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

クロム「というのが、最近アポカリプスについて調べ上げ、辿り着いた先のおとぎ話だ」

ヴァル「十分すぎるくらい有益な情報を持ってるじゃねぇか」

 そう言うと、ヴァルは1人勝手に外に出ようとした。

フウロ「待て、どこに行くつもりだ」

ヴァル「今の話聞いてなかったのかよ。天命の泉だよ」

ヴェルド「なんでそこに行こうと思ってんだよ。今の話では、その場所は人類史に関係があるってだけの話だったろ」

ヴァル「でも、あそこは龍人にしか効力のない泉だったはずだろ?」

 あれ?そうだったっけ?

 天命の泉がすごい力を持ってるっていうのは過去に見たから分かるけど、そんな話をされてたっけ?もしされてたとしたら、ヴァルのくせにすごい記憶力だと思う。いっつも大事な事は頭から抜けてるからね。

ヴァル「確証があるわけじゃねぇけど、多分シロップがルギリアテンなんだろ?で、生を司るって事は、生命力の溢れるあの場所に行っててもおかしくないってわけだ」

セリカ「うーん、そうなのかな?」

ヒカリ「確証はない。でも、何も得られないと思って蹲ってるよりも、ヴァルみたいに勘でいいから動いた方がいいと思うわよ。ほら、いつぞやの時みたいに誰かさんが死んじゃうかもしれないからさ」

ヴェルド「それ、お前のことだろ」

ヒカリ「さあね」

 確かに、ヒカリんの言うように、ヴァルの行動力は見習った方がいいと思う。何か危険があるとか、他に方法があるとかなら話は別だけど、今回のパターンはそのどちらにも当てはまらない。という事で、天命の泉に行ってみるしかないのか。でも、今からだと何日かかるだろう?外は酷い雨だし、多分今日は馬車が出てないと思う。

クロム「俺の力を使っても、連れて行けるのは1人までだ。アランに使いを回してるし、あんまり長時間かかるようなことはしたくないんだ」

「「「 ...... 」」」

 危険があるのかどうかが分からない。あの黒い小龍がゼロニレアで、シロップがルギリアテンだから、多分ネイりんの体に危険は及んでいないんだろうけど、それでも一刻も早く助けに行かなきゃならない。

 あれこれ悩んでも、現状転移術くらいしか当てがないと思う。

ヒカリ「仕方ないわね。試作品だけど使ってみる?」

 そう言って、ヒカリんが何やら怪しい1cmくらいの四角いチップを机の上に撒き散らした。

ヴァル「なんだこりゃ?」

ヒカリ「私達解放軍が、どうやってこっちの世界にあんな大所帯で来てたと思う?答えは簡単、私の転移術を科学として利用したのよ。で、これはこっちの世界で作ってみたオブセイスゲート。こんなに小さな物って思われるかもしれないけど、1枚で片道10km分の移動ができる。何枚も使えば、行きたい場所まで自由に行くことが出来るわ」

ヴァル「何言ってんのか分かんねぇけど、すげぇアイテムだな。でも、なんで試作品なんだ?もう完成してるって言ってもいいだろ」

ヒカリ「言ったでしょ。10kmまでしか移動できないって。それに、片道1回の使用で壊れちゃう。最終的にはどんな場所、どんな世界にも行けれて、なおかつ何回でも使えるものを目指してるの」

ヴァル「はぇー......」

ヒカリ「全っ然理解してないわね。まあいいわ。今あるのは全部で21枚。クロムさん、こっからそこまでどれくらい?」

クロム「イーリアス領だから......大体40kmくらいはあるな。直線距離にすれば30くらいだ」

ヒカリ「なるほどねぇ。多少足りなくても、走れば問題ないし、1人6枚か......」

 21枚......6で割ったら3人分。もうちょっと多い方がいい気がする。

ヒカリ「なら、私の力でも1人くらいは抱えて行けるし、私含めて5人ね」

ヴェルド「少ねぇな」

ヒカリ「仕方ないわよ。転移術がそんな簡単に出来ると思わないで。とりあえず、ヴァル、私、フウロが確定として、後は......」

 チラッと私の方を見てきた。

ヒカリ「あとはセリカとヴェルドでいいか」

ヴェルド「は?なんで俺なんだよ!」

ヒカリ「適当。嫌なら今月の給料減らすよ?」

ヴェルド「お前に決定権ねぇだろ!」

ヒカリ「残念だけど、このギルドの財務官は私だからね。ネイに言われてほいほいと適当な返事をしちゃったけど、そこまで苦労する話じゃなかったから今でもやってるのよね~1ヶ月しか経ってないけど」

 ここに来て衝撃の事実が発覚......通りでうちにしてはトントン拍子でギルドの建て直しが決まったわけだ。いやぁ、こんなにお金の動きが早くなるなんて不思議だと思ってたのよねぇ。

ヒカリ「で、行かないなら今月のヴェルドのボーナス一式をライオスかグリードあたりに回して、彼らを連れて行くけど」

ヴェルド「ちっ、分かったよ!」

 世の中金で動く。つくづくそれを体感した瞬間だった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「グァァァァ!!!」

 悲痛な叫び声が聞こえる。

 人の声じゃない。龍の叫び声だ。

 酷く悲しく、何かを訴えかけるように大きな叫び声をあげている。

「静まれ。ゼロニレア。ここは、お前が活躍していた龍王史の時代ではない」

「うるせぇぇぇぇぇ!」

(お嬢、聞こえるか?)

 どうしたの、ジーク......

(悪いことは言わねぇ。今すぐここから離れろ。お嬢の為だ)

 なぜ?どうして?そもそもここはどこなの?

(天命の泉。かつて、ルギリアテンとゼロニレアっていうやべぇドラゴンが産まれ、世界を再構築させるために利用していた場所だ。で、今お嬢の目の前で戦ってるのがその2匹だ)

 薄らと目を開けて見るが、戦ってるのはシロップとあの小さな小龍。

(あれは本気の姿じゃねぇ。俺達同様、もう龍としての姿は持ってねぇんだ。だが、それでも地上を生きようと執念を抱いた結果、俺様のように魂だけになったり、あいつらみたいに産まれたてホヤホヤの小龍になってたりするんだ)

 てことは、シロップも龍王だったって事?

(ああそうだ。俺とかアマツでさえ恐れる相手だぜ)

 ジークとアマツが恐れる相手......確かに、体に似合わぬ魔力を感じるが、それでも小さな小龍であることに変わりはない。

 ......じゃあ、今までのシロップは何だったの?

(さあな。記憶でも失ってたか、それとも演技をしてたか。俺達にはよく分からねぇが、ただ1つ言えることは、あの2体が戦ってる空間にいない方がいいってことだけだ)

 だから逃げろと......

 でも、あんな悲しそうな声を上げる小龍を置いて逃げるなんてことは出来ない。それに、シロップをここに残したまま去ってしまう事もだ。

(間違っても、あの2体の間に割り込むなよ?お嬢が受け継いだラナは、龍王としてはまだまだ未熟者だからな)

 分かってる。ジーク達ほど優れた力を持ってるわけじゃないってことくらい......でも、それでもあの2体を戦わせ続けたくない......!

(仕方ありません。私がお嬢様のために力をお貸ししましょう)

 ラヴェリア?

(元々、彼らを立派な龍王に育て上げたのは私です。私なら、彼らの弱点全てを知っています。龍人の体というのが唯一の不安要素ですが、相手も小龍の姿なので問題はないでしょうか)

 ......任せたよ。ラヴェリア。

(はい。では......)

「そこの小龍達、一旦喧嘩をおやめになりなさい」

「......!なんで、フェノンの中にラヴェリアが......」

「ラヴェリア、君の言うことを聞くのが僕だが、それでも奴だけはこの場で始末しておかねばならないのだよ」

 やっぱり、今までのシロップじゃない......私が知ってるのは愛らしいマスコット的存在のシロップだけだ......でも、今のシロップは......

「ルギリアテン、あなたの大事な娘さんたっての希望です。いや、こう呼んだ方がよろしいでしょうか?ギリテア」

 ......!お父さん......?

「......なぜ、君が僕の人間である時の名を知っている?君は、アポカリプスが世界を破壊するより前に死んだはずだ。それも、まだまだ下等生物だったはずの人間にね」

「ええ。ですが、その後も私の魂はある一点に留まり続けております。外を出歩けなくとも、世界の情報は自然と私の元に集まってくるのですよ」

「なるほど」

 ラヴェリア、ギリテアって......

「あなた様のご質問には、最後に話しましょう」

 ......。

「次にゼロニレア。あなたもルギリアテンと同じでしょうが、なぜ今になって現世に現れたのですか?」

「......っ、知るかよ、そんなもん。俺は、ただそいつをぶった斬るだけだ!」

「落ち着きなさい。あなたには、他に目的があるはずです。ゆっくり思い出してください」

「そんなもん知らねぇよ!俺は、ただ、そこにいる俺をぶっ殺した天命の龍王を殺すだけだ......だから、邪魔すんじゃねぇ。邪魔しなけりゃ、命までは取らねぇよ......」

「......」

「どけよ......俺は、そいつを殺すんだ......その為だけに、もう1回現世に蘇ったんだ。そうに決まってる......」

 小さな体なのに、物凄く大きな殺意を抱いている。

 シロップと黒い小龍の間に私が立ったと言うのに、あの小龍はその奥に居続けるシロップの姿を見据えている。

 昔、まだツクヨミでいた頃に読んだ書物に、こんな話ががあった。

 黒い龍と、白い龍が活躍していた時代。龍が地上を支配していた時代に現れた英雄龍。黒き龍は敵対する龍全てを殺し、白き龍は傷ついた仲間の龍を癒すことに全力を尽くしていた。

 そして、黒い龍は長引く戦争の中で暴走を始め、対となる白き龍に殺された。

 確か、こんなおとぎ話だったはず。6兆年分の記憶を遡れば、もっと確かになる情報が得られるはずだ。後で調べておこう。

「ラヴェリア、そしてネイ。そこを退いてくれないか?僕は、彼と同じように、奴を殺さなければならない。僕達は、どちらかが完全に死ぬまで争わなければならない。君を巻き込みたくはなかったが、こうなってしまっては仕方ないんだ」

 ......ラヴェリア、戻って。

「分かりました」

「お願いだ。どうか、僕と彼、どちらかが死ぬまでを見守っててくれ」

「待って、お父さん」

「......」

「ギリテア。6兆年前の、私のお父さんの名前......ただの偶然じゃない。我が娘とか言ってたし......どういう事なんですか?」

「......」

「話してやれよ、ルギリアテン。よく言ってたじゃねぇか、僕には前世の記憶があるって。世界に取り残された娘がいるって......1分だけ邪魔してやらねぇから、話してやれよ。俺に殺される前にさ」

「......ネイ。いや、フェノン」

「......」

「僕は、君をただ1人残して天に旅立った事が唯一の心残りだった。1,000年に1度の天才だとか、国家の英雄だとかはやし立てられ、ありとあらゆる魔法の基礎を築いた。そんなのだから、いつか、神の怒りを買うようなことがあるんじゃないかと思ってた。何があったのかは分からない。だが、僕は龍として、何億も前の、龍が蔓延るこの世界に産まれた。君がこの世界に残した欠片を拾い集め、僕は最高の治癒術を完成させた。君と、お母さんと、もう一度、この世界で生きる権利を得るために」

「欠片......?」

「君達は、グランメモリと呼ぶらしい物だ。なぜかこの世界に忽然と落ちている世界の記憶。ただ、そんなものを集めたところで、戦争で有利になっても君達を取り戻すことは出来なかった」

 当たり前だ。人体錬成なんて、絶対に理論を構築できないようにこの世界の生物の頭脳にプログラムしておいたのだから。

 私と同じような人を作らないために......

「そうして、僕はあの時、王都に現れたアポカリプスに殺され、2度目の人生を終えた。終えたはずだったが、なぜか最近になってこの小さな体で君の隣にいた」

「最近......?」

「ああ。君がシロップと呼んでいたこの小龍は、ちゃんとシロップという意思で存在している。今の私は、一時的に現れた前世の人格だと思っている」

「......多重人格」

「多分、それに近いものだ。それで、これで僕の話は終わりだ」

「......お父さん......小さくなっても、お父さんはお父さんなんだよね?」

「ああ。君と再会することだけを願い、今この瞬間に降り立ったのが僕だ」

 普段の愛らしいシロップとは違う。後ろに、ほんのりとお父さんの姿が見えるくらい、シロップが放っているオーラが違った。

「ゼロニレア、決着をつけよう。と言っても、流石に僕の体を殺すのはやめてくれ。これは、シロップという小龍の姿を借りたものだ。君ならば、魂だけを傷つけることが可能だろう」

「殺される気満々か」

「この体は、君と違って僕のものではない。いつかは死ななければならない。君と僕が死ぬか、僕だけが死ぬか。それだけの話だ」

「絶対にダメ。2人とも、死なせなんかしない!折角、この世界に蘇ったのなら、死ぬ必要なんてないじゃない!」

「だが、奴を残したままでは......」

「死ぬとか殺すとかそんな話しないでよ!お願いだから、私の前で誰も死なないで......守れた立場である、私の責任みたいになっちゃうから......」

 悲しいわけじゃない。だけど、涙が溢れて止まらない。

 ヴァルに言われた口調だって守れないでいる。私、悪い子だ......

「仲良くしようよ......過去のことを忘れろなんて言わないからさ、今を生きてるなら、今を生きようよ......」

「......」

「......優しいな、君は。そんなことをして、何になるかも分からないというのに」

 家族を失うのは、もう嫌だ......

「っ......それでも、俺はこいつを殺さなきゃならねぇんだ。それが、俺が生きるただ1つ理由なんだ......だから、邪魔すんな、フェノン」

 どうして、私の言葉がこの黒い小龍に届かないのか。

 相手は人間ではない。でも、人間と同じように知能を持った生き物。それに、感情も持ち合わせている。

 ミイの時と同じだ。この子も、何か辛いことがあって、簡単に他人を信用できないんだ。だから、目に映る嫌なもの全てを破壊しようとする。

 そうやって、自分を守らなきゃならないから......

「あなたも、シロップも、みんな私が守るから......だから、もう誰かを恨むのはやめようよ......」

「......なんで、よく知りもしねぇ俺のために涙を流すんだよ。おかしいだろ?お前は、その親父の人格を持った小龍と仲良くしてればいいじゃねぇか。なんで、俺のために涙を流すんだ......分からねぇ。分からねぇよ......」

 私にだって分からない。でも、ヴァルが教えてくれたんだ。

「見ず知らずの人を助けられるようになってからが、立派なギルドの一員だって。私には力がある。だから、この力を誰かのために使う。あなたが何者なのかは知らない。あなたに肩入れする要素も何もない。でも、あなたが苦しんでることだけは分かる。だから、私はあなたに手を差し伸べたい。それじゃ......、ダメですか?」

「......っ。これだから人間は嫌いなんだ。俺の本気を知りもしないで、ただ『可哀想』だからって理由で近づいてくる。ほっといてくれよ。俺は、そいつを殺せたら十分なんだよ......」

「恨みを抱き続けてても、良いことなんて何もない。相手を殺したって、何も得られない。シロップは殺させない。でも、あなたを死なせることもしない。だから、私のところにおいで......私があなたを......」

 「守ってあげる」。そう言いかけた時、何かが私の胸を貫く音がした。

 気の所為なんかじゃない。銃で撃たれたような傷が左胸の方に出来ている。

 初めは小さな傷口だったけど、数秒としないうちに血管が破裂していき、流血する量が増えていく。

「だ......れ......」

「あらあら、右の方を狙ったつもりだったんだけど、左の方にぶち当たっちゃったかぁ。まあいいわ。どうせ、あんたは殺すつもりだったし」

 崩れ落ちる私の頭を踏みつけたのは、前にミイを殺し、過去の時間でお母さんを殺して、私に殺されたはずの女だった。

「この間は名乗る余裕もなかったからね。私の名前はイオラ。光楼宗の一員よ。覚えておきなさい。まあ、その出血量じゃ直ぐに死んじゃうかもだけど」

 ......なんで彼女が生きている?

 黒月の山岳地帯で、確かにこの手で殺したはず。それも、ユミと私が合わさった全力の状態で......

 生き残れる要素なんてどこにもなかった。それこそ、あれが影武者とかそういうオチだったとかじゃない限り......

「とは言っても、念には念を入れた方がいいかしら?」

 踏みつけられた後頭部に向かって、ひんやりとした金属の感触が伝わってくる。

 心臓だけならまだ大丈夫。でも、流石に脳天をぶち抜かれたら生きてられない......

「ギュァァァァァァ!」

「な、なんだい!?この小さいハエは!」

 ゼロニレアが女の腕に噛み付いていた。

 突然のことに、女は私の頭から足を退けてしまう。その僅かな隙を逃さず、転がるようにして逃げる。

「邪魔なんだよ!死んでしまいな!」

 腕から振り落とされ、硬い岩の壁に投げつけられたゼロニレアは、女の勢いそのままに胸の辺りを撃ち抜かれた。

「......!ゼロニレア!」

「ふんっ!たかがハエ1匹があたしの綺麗な腕に噛みつきやがって。まあいいわ。これで、邪魔する奴は......おっと、今度は白いハエも邪魔するかい。殺されたくなけりゃ、大人しくそこから離れな」

 お父さんの魂が入ったシロップも、私を守るように両腕を広げて立っている。

「逃げて......シロップ......」

「ダメだ。僕は、君が幸せに生きてくれればそれでいいんだ。ここで死なせない」

 ......ダメだよ。お願いだから、私の目の前で死なないでよ......私を庇わないでよ......

「死んでしまいな!」

 高鳴る銃声。鮮血を吹き出す白き小龍。

「今度こそ、邪魔はいなくなったね。じゃあ、次はあんただ。邪龍」

「......」

 シロップ......お父さん......

 ......

 ......

 ......
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