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第9章 【深海の龍王】
第9章10 【海の心音】
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ヴァル「うぉぉぉぉぉって火が出ねぇ!」
ネイ「アホなんですか。水の中だから火のマナなんてどこにもないでしょう。大人しく氷でも出しといてください」
ヴァル「あいよ」
氷か......つっても、炎の方が使い勝手がいいからって全然氷魔法を鍛えなかったからな。
まだ出発したばかりだが、目の前にはうようよとした鞭......?みたいなものが見える。鞭というより触手って言った方がいいか?
ネイ「ヴァル、突っ切りますから、横から手を出してくる奴らがいたら打ち返してください。でないと、もれなく死にます。または死にます」
ヴァル「Dead or Dieな大冒険かよ......まあ、任せとけ。なんとかする」
ネイ「頼みますよ」
ヴァル「うわっ......」
いきなり加速して、本当に触手だらけの空間を突っ切っていく。横から来たらうんたらかんたら言ってたけど、こんな速さなら誰も手出し出来ねぇだろ。
セリカがいる光の核まであともう少し......このままの勢いなら......
ネイ「ヴァル、投げますから、急いでセリカさんを取り上げてこっちにまで戻ってきてください」
ヴァル「は?なんでーー」
ネイ「えい!」
ヴァル「ぎやぁ!」
投げる力強っ!めっちゃ水流が俺の顔を横切っていくんだけど......でも、セリカがいるところに手が届く距離にまで来た。なんで投げ飛ばしたんだろうなって思ったら、いつの間にかあの触手群がネイがいる周りを囲っていた。
ネイ「ヴァルー、こっちは気にしなくて大丈夫ですー」
ヴァル「お......た」
あれ?なんか声が出ねぇ......水の中だからか。知らんけど。
まあいいや。ネイが食い止めてるうちに、さっさとセリカを引っ張り上げちまおう。
ヴァル「......っ!......っっ!」
セリカの肉体と、この光の核がかなり強い力で繋がってるせいで、引っ張り上げることは愚か、1ミリとしてセリカの肉体から離れてくれない。心臓部分とは言ってたが、マジで大事な部分だけはどんなになっても守ろうとするんだな。
だが、こっちにだって譲れねぇもんがあるんだ。どんなにセリカを離さまいとしようが、俺の馬鹿力で引っ張り上げてやるぜ。
ヴァル「っ、っ......うぉゴボゴボゴボゴボ」
水ん中で思いっきり口開けるとかアホかよ俺。
ヴァル「ゴボゴボゴボゴボ」
もう、多少見栄えがダサくてもいいや。やっとの思いでセリカの腕だけを引っ張り上げられたし、このままの勢いで全身を......っ!オラァっ!
セリカ「ヴァ......ル......」
引っ張り上げると同時にセリカが目を覚ました。
ヴァル「コボ!ゴボッゴボゴボゴボゴボゴボ!」
セリカを抱えてネイの方へと向かう。セリカの意識はまだ曖昧な状態だが、しばらくすればすぐに戻るだろう。
ヴァル「ゴボゴボゴボゴボ!?」
ネイ「すみません。ちょっと助けてくれませんか?」
あいつ、何やってんだ......?
セリカから目を離し、ネイの方を見ると、あいつはなぜか追い払っていたはずの触手に絡まれ、身動きが取れないでいた。
お前、まさか急にMに目覚めたんじゃねぇだろうな?最近そういう素振りを見せなかったからって、思い出したかのようにその設定を引っ張り上げてこなくていいんだぞ?
ネイ「あの......別に、Mに目覚めたとかそういうわけじゃなくて、ただ単に水中だと思ったように動けなかっただけであって......その......」
言い訳は聞かねぇよ。いいからさっさとその触手から解放されろ!お前、このまま行ったらエロ同人みたいな流れにするだろ。絶対そうだろ。んじゃ、俺が止めねえといけねぇじゃんかよォォォォォ!
なんでこんな面倒な手間を作らねぇといけねぇんだよ!お前、最強系ヒロインなんだから、変なところで変なことを起こすな!
ヴァル「ゴボゴボゴボゴボ!」
こんな男の触手と言えど、刃物で切れば簡単に千切れ落ちる。変な展開だったが、これでネイも救出成功だ。
ヴァル「よし、ネイ、上まで飛んでくれ」
ネイ「分かりました」
セリカ「待って!」
......セリカ?
セリカ「あの子、助けを求めてるの」
ヴァル「あの子って誰だ?」
まさかとは思うが、あの男だと言うんじゃねぇだろうな?
セリカ「お願い。私、あの子を助けなきゃならないの」
ネイ「ダメです。こんなところで時間を割いたら、最悪の場合地上に出られなくなります」
セリカ「でも......」
俺としても、あんな奴を助けるより先に、俺達だけで脱出を図ったほうがいいと思う。
セリカ「みんながダメって言うなら、私だけでもあの子を助けに行く。止められても、私、言うこと聞かないから!」
ヴァル「......クソっ、分かったよ。俺も付き合ってやる」
ネイ「ヴァル......」
ヴァル「さっさと終わらせればいいだけの話だろ」
ネイ「......分かりました。1分だけ協力してあげますよ」
1分か......まあ、俺もネイも早く終わらせたいし、タイムリミットとしてはそれくらいが妥当だな。
ヴァル「セリカ、何をすればいいのか、俺達には分からない。だから、ここから先はお前の指示に従う。1分だけな」
セリカ「うん。1分で助け出してみせるから!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
......
......
......
「誰か......誰か......1人に......しないで......」
深海の中、真っ暗な暗闇の中で、1人の男の子が涙を流している。でも、その涙は海の中に溶け込み、少年の泣き声諸共全てをかき消してしまう。
「何も見えない......何も聞こえない......誰か......!」
どこに手を伸ばしても、手が掠めるのは冷たい水だけ。
「誰か......いないのか......」
伸ばした手も、助けを求めた声も、孤独に震える涙でさえ、誰の元へも届かない。
そんな、孤独に震える少年のために......いや、『王子』のために、誰が手を差し伸べられるのか。
私しかいない。一時と言えど、彼と同期し、彼の記憶を覗くことが出来た私にしか、彼に手を差し伸べることは出来ない。
待ってて。私が、あなたを助けてみせるからっ!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカ「っ......!ん゛っんんんっ......!」
ヴァル「まだかっ......セリカ!」
セリカ「あと......もう゛っちょっ......ど!」
ヴァル「早くしてくれ!腕がもげる!」
分かってるんだけど、全然手が届かない......!あまり近づきすぎると、私を核の外から引っ張ってくれているネイりんまでもが吸引力に耐えられなくなるからとかで、これ以上は縄を伸ばすことはできないらしい。
そして、足りない長さをヴァルが補ってくれてるんだけど、本当に千切れそうな具合で筋肉がめっちゃ伸びてる。
セリカ「っ......届けぇぇぇぇぇぇ!」
指先が僅かに彼の髪の毛を掠めた。あともうちょっとの距離なんだ。まだ可能性はある。
ヴァル「うぉぉぉぉぉ!早くゥゥゥゥゥ!」
ネイ「縄が切れます!無理なら諦めてください!」
やっと届きそうだったのに、自分の命を守るためには諦めなきゃならない。......そんなの嫌だ。まだ縄とヴァルの腕が繋がっているのなら、まだ行ける。
それに、こんなところで諦めちゃ、私の寝覚めが悪くなる。あともう一歩で助けられた人を、自分達の命可愛さに見捨ててしまう。そんなの嫌だ。嫌なんだ。
セリカ「......捕まって!」
「......っ」
ずっと蹲っていたライトが、私の今の呼び掛けに応じ、右手を小さく差し出してくる。
セリカ「捕まえた!」
ネイ「引っ張り上げます!」
セリカ「うわぁぁぁぁぁ!」
ヴァル「うぉぉぉぉぉ!?」
凄い水圧......でも、これを耐え切れば......
......ブチッ!
......
......
......聞き間違いじゃければ、今物凄い嫌な音がしたんだけど、気のせいかな?気のせいであってほしいんだけど......
セリカ「......」
ネイりんが引っ張り上げていたであろう縄は、もうどこかへと消え去っており、私達の体は、一切抵抗することが叶わずに光の核へと吸い込まれていく。
「王子!プリンセス!」
セリカ「レイア......?」
ずっと姿を見かけなかったレイアが、今更になって私達の元へと飛び込んできた。何をしていたのかは気になるところだけど、タイミング的にはナイスタイミング。
レイア「プリンセス。王子のこと、感謝致します!このまま核から離れます故、しっかりとお捕まり下さい!そこの赤髪の少年も共に!」
何か、とても焦っているように見える。レイアの引っ張り上げる力は凄まじく、光の核からグングンと距離を空けていく。
だけど、あの光の核が大きくなっているのか、徐々にこちらに近づいてきて、鼓膜を打ち破るほどの大きな爆発音とともに、私達を巻き込んで、それは爆発した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
何もかもが嫌だった。
あの人の家にいることが。
あの人と暮らすことが。
普通の人みたいな暮らしができないことが。
......友達がいないことが。
でも、そんな私にでも、初めての友達ができた。
まだお母さんが生きていた頃、私は別荘のある南の孤島に行ったことがあった。1回だけ。その年以降、お母さんの体調が悪くなって遊びに行く余裕なんてなかった。だから、これが最初で最後の家族での思い出。
確か、私は海で遊んでいて、渦潮だったかに巻き込まれて、どこか、気づいたら辺鄙な島に来ていた。
そこに、小さな、私と同じくらいの背丈の男女が2人いた。名前は聞かなかった気がする。だって、覚えてないし、それらしい欠片の記憶すらないんだもん。
とにかく、男女が2人いて、漂流したであろう私を、まるで友達かのように扱ってくれていた。薄らとそんな記憶が残ってる。
多分、あの時の2人は、今ここで出会ったライトとレイア。私の、初めての"友達"。
あの時は、結局血眼になったお父さんが探し出して、気づいた時には2人はどこかへと消えていて、私はこの事を思い出すこともなく、お母さんが死んで、お父さんと喧嘩別れをして、ギルドを転々として、グランメモリーズに辿り着いた。
思い出そうともしなかった記憶。だけど、とても大切な記憶。今こうして、あの時の2人と巡り会えたことは、"奇跡"なんだよね?
海はとても深くて、広くて、そして冷たい。でも、そんな海にだって、探せばいくらでも暖かい場所は見つかる。人間の心と同じように、全部が全部、同じ場所ってわけじゃないんだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「起きなさい。あんた達、早く起きなさいよ!全く、見てやってるこっちの身にもなってよ」
声......?それも、最近はやけによく聞くようになった、毒舌混じりのツンデレ声。
「あんた、起きてるでしょ。寝てるフリしてるなら撃つわよ」
セリカ「......っ、ここは?」
酒場みたいなカウンターに、テーブルと椅子が所狭しと置いてある。まるで、私達のギルド、グランメモリーズみたいな内装の場所......
ヒカリ「あんただけか。起きたのは」
セリカ「ヒカリん......?」
ヒカリ「安心しなさい。みんな無事だから。あんたが助けようとした、この事件の張本人さん達もね」
周りをよく見ると、私達はいつも座ってる場所で、座ったままの姿勢で寝ていたようだ。唯一ネイりんだけが椅子を3個並べて寝てたけど。でも、ヴァル、ヴェルド、シアラ、グリード、エフィ。そして、ライトとレイア。みんなここにいる。
セリカ「ここって、なんなの?」
ヒカリ「イメージの世界。あんたは城に囚われていたお姫様だからよく分からないでしょうけど、この世界、いや、私達が訪れたこのトーキョーは、ある特別な技術によって再現された街だったのよ。で、その技術を応用して、この世界が崩れ落ちる前に、また別の世界を作り出したの。と言っても、エネルギー源がなんなのか分からなかったから、使える量も限られてたんだけどね。それで、何とか作り出せたのがこのギルドハウスだったってわけ」
セリカ「そうなんだ......」
ヒカリ「今は海面に向けて飛んでる最中よ。外を見てご覧なさい。面白いものが見えるから」
面白いもの......?
窓の外に目を向けると、不思議なことに、若干暗いながらも水の景色が広がるだけだった。
当たり前か。深海の中にいたんだし......
ヒカリ「まあ、海面までの脱出はできると思うから、とりあえずは安心しなさい」
セリカ「うん。分かった......」
ネイ「アホなんですか。水の中だから火のマナなんてどこにもないでしょう。大人しく氷でも出しといてください」
ヴァル「あいよ」
氷か......つっても、炎の方が使い勝手がいいからって全然氷魔法を鍛えなかったからな。
まだ出発したばかりだが、目の前にはうようよとした鞭......?みたいなものが見える。鞭というより触手って言った方がいいか?
ネイ「ヴァル、突っ切りますから、横から手を出してくる奴らがいたら打ち返してください。でないと、もれなく死にます。または死にます」
ヴァル「Dead or Dieな大冒険かよ......まあ、任せとけ。なんとかする」
ネイ「頼みますよ」
ヴァル「うわっ......」
いきなり加速して、本当に触手だらけの空間を突っ切っていく。横から来たらうんたらかんたら言ってたけど、こんな速さなら誰も手出し出来ねぇだろ。
セリカがいる光の核まであともう少し......このままの勢いなら......
ネイ「ヴァル、投げますから、急いでセリカさんを取り上げてこっちにまで戻ってきてください」
ヴァル「は?なんでーー」
ネイ「えい!」
ヴァル「ぎやぁ!」
投げる力強っ!めっちゃ水流が俺の顔を横切っていくんだけど......でも、セリカがいるところに手が届く距離にまで来た。なんで投げ飛ばしたんだろうなって思ったら、いつの間にかあの触手群がネイがいる周りを囲っていた。
ネイ「ヴァルー、こっちは気にしなくて大丈夫ですー」
ヴァル「お......た」
あれ?なんか声が出ねぇ......水の中だからか。知らんけど。
まあいいや。ネイが食い止めてるうちに、さっさとセリカを引っ張り上げちまおう。
ヴァル「......っ!......っっ!」
セリカの肉体と、この光の核がかなり強い力で繋がってるせいで、引っ張り上げることは愚か、1ミリとしてセリカの肉体から離れてくれない。心臓部分とは言ってたが、マジで大事な部分だけはどんなになっても守ろうとするんだな。
だが、こっちにだって譲れねぇもんがあるんだ。どんなにセリカを離さまいとしようが、俺の馬鹿力で引っ張り上げてやるぜ。
ヴァル「っ、っ......うぉゴボゴボゴボゴボ」
水ん中で思いっきり口開けるとかアホかよ俺。
ヴァル「ゴボゴボゴボゴボ」
もう、多少見栄えがダサくてもいいや。やっとの思いでセリカの腕だけを引っ張り上げられたし、このままの勢いで全身を......っ!オラァっ!
セリカ「ヴァ......ル......」
引っ張り上げると同時にセリカが目を覚ました。
ヴァル「コボ!ゴボッゴボゴボゴボゴボゴボ!」
セリカを抱えてネイの方へと向かう。セリカの意識はまだ曖昧な状態だが、しばらくすればすぐに戻るだろう。
ヴァル「ゴボゴボゴボゴボ!?」
ネイ「すみません。ちょっと助けてくれませんか?」
あいつ、何やってんだ......?
セリカから目を離し、ネイの方を見ると、あいつはなぜか追い払っていたはずの触手に絡まれ、身動きが取れないでいた。
お前、まさか急にMに目覚めたんじゃねぇだろうな?最近そういう素振りを見せなかったからって、思い出したかのようにその設定を引っ張り上げてこなくていいんだぞ?
ネイ「あの......別に、Mに目覚めたとかそういうわけじゃなくて、ただ単に水中だと思ったように動けなかっただけであって......その......」
言い訳は聞かねぇよ。いいからさっさとその触手から解放されろ!お前、このまま行ったらエロ同人みたいな流れにするだろ。絶対そうだろ。んじゃ、俺が止めねえといけねぇじゃんかよォォォォォ!
なんでこんな面倒な手間を作らねぇといけねぇんだよ!お前、最強系ヒロインなんだから、変なところで変なことを起こすな!
ヴァル「ゴボゴボゴボゴボ!」
こんな男の触手と言えど、刃物で切れば簡単に千切れ落ちる。変な展開だったが、これでネイも救出成功だ。
ヴァル「よし、ネイ、上まで飛んでくれ」
ネイ「分かりました」
セリカ「待って!」
......セリカ?
セリカ「あの子、助けを求めてるの」
ヴァル「あの子って誰だ?」
まさかとは思うが、あの男だと言うんじゃねぇだろうな?
セリカ「お願い。私、あの子を助けなきゃならないの」
ネイ「ダメです。こんなところで時間を割いたら、最悪の場合地上に出られなくなります」
セリカ「でも......」
俺としても、あんな奴を助けるより先に、俺達だけで脱出を図ったほうがいいと思う。
セリカ「みんながダメって言うなら、私だけでもあの子を助けに行く。止められても、私、言うこと聞かないから!」
ヴァル「......クソっ、分かったよ。俺も付き合ってやる」
ネイ「ヴァル......」
ヴァル「さっさと終わらせればいいだけの話だろ」
ネイ「......分かりました。1分だけ協力してあげますよ」
1分か......まあ、俺もネイも早く終わらせたいし、タイムリミットとしてはそれくらいが妥当だな。
ヴァル「セリカ、何をすればいいのか、俺達には分からない。だから、ここから先はお前の指示に従う。1分だけな」
セリカ「うん。1分で助け出してみせるから!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
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「誰か......誰か......1人に......しないで......」
深海の中、真っ暗な暗闇の中で、1人の男の子が涙を流している。でも、その涙は海の中に溶け込み、少年の泣き声諸共全てをかき消してしまう。
「何も見えない......何も聞こえない......誰か......!」
どこに手を伸ばしても、手が掠めるのは冷たい水だけ。
「誰か......いないのか......」
伸ばした手も、助けを求めた声も、孤独に震える涙でさえ、誰の元へも届かない。
そんな、孤独に震える少年のために......いや、『王子』のために、誰が手を差し伸べられるのか。
私しかいない。一時と言えど、彼と同期し、彼の記憶を覗くことが出来た私にしか、彼に手を差し伸べることは出来ない。
待ってて。私が、あなたを助けてみせるからっ!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカ「っ......!ん゛っんんんっ......!」
ヴァル「まだかっ......セリカ!」
セリカ「あと......もう゛っちょっ......ど!」
ヴァル「早くしてくれ!腕がもげる!」
分かってるんだけど、全然手が届かない......!あまり近づきすぎると、私を核の外から引っ張ってくれているネイりんまでもが吸引力に耐えられなくなるからとかで、これ以上は縄を伸ばすことはできないらしい。
そして、足りない長さをヴァルが補ってくれてるんだけど、本当に千切れそうな具合で筋肉がめっちゃ伸びてる。
セリカ「っ......届けぇぇぇぇぇぇ!」
指先が僅かに彼の髪の毛を掠めた。あともうちょっとの距離なんだ。まだ可能性はある。
ヴァル「うぉぉぉぉぉ!早くゥゥゥゥゥ!」
ネイ「縄が切れます!無理なら諦めてください!」
やっと届きそうだったのに、自分の命を守るためには諦めなきゃならない。......そんなの嫌だ。まだ縄とヴァルの腕が繋がっているのなら、まだ行ける。
それに、こんなところで諦めちゃ、私の寝覚めが悪くなる。あともう一歩で助けられた人を、自分達の命可愛さに見捨ててしまう。そんなの嫌だ。嫌なんだ。
セリカ「......捕まって!」
「......っ」
ずっと蹲っていたライトが、私の今の呼び掛けに応じ、右手を小さく差し出してくる。
セリカ「捕まえた!」
ネイ「引っ張り上げます!」
セリカ「うわぁぁぁぁぁ!」
ヴァル「うぉぉぉぉぉ!?」
凄い水圧......でも、これを耐え切れば......
......ブチッ!
......
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......聞き間違いじゃければ、今物凄い嫌な音がしたんだけど、気のせいかな?気のせいであってほしいんだけど......
セリカ「......」
ネイりんが引っ張り上げていたであろう縄は、もうどこかへと消え去っており、私達の体は、一切抵抗することが叶わずに光の核へと吸い込まれていく。
「王子!プリンセス!」
セリカ「レイア......?」
ずっと姿を見かけなかったレイアが、今更になって私達の元へと飛び込んできた。何をしていたのかは気になるところだけど、タイミング的にはナイスタイミング。
レイア「プリンセス。王子のこと、感謝致します!このまま核から離れます故、しっかりとお捕まり下さい!そこの赤髪の少年も共に!」
何か、とても焦っているように見える。レイアの引っ張り上げる力は凄まじく、光の核からグングンと距離を空けていく。
だけど、あの光の核が大きくなっているのか、徐々にこちらに近づいてきて、鼓膜を打ち破るほどの大きな爆発音とともに、私達を巻き込んで、それは爆発した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
何もかもが嫌だった。
あの人の家にいることが。
あの人と暮らすことが。
普通の人みたいな暮らしができないことが。
......友達がいないことが。
でも、そんな私にでも、初めての友達ができた。
まだお母さんが生きていた頃、私は別荘のある南の孤島に行ったことがあった。1回だけ。その年以降、お母さんの体調が悪くなって遊びに行く余裕なんてなかった。だから、これが最初で最後の家族での思い出。
確か、私は海で遊んでいて、渦潮だったかに巻き込まれて、どこか、気づいたら辺鄙な島に来ていた。
そこに、小さな、私と同じくらいの背丈の男女が2人いた。名前は聞かなかった気がする。だって、覚えてないし、それらしい欠片の記憶すらないんだもん。
とにかく、男女が2人いて、漂流したであろう私を、まるで友達かのように扱ってくれていた。薄らとそんな記憶が残ってる。
多分、あの時の2人は、今ここで出会ったライトとレイア。私の、初めての"友達"。
あの時は、結局血眼になったお父さんが探し出して、気づいた時には2人はどこかへと消えていて、私はこの事を思い出すこともなく、お母さんが死んで、お父さんと喧嘩別れをして、ギルドを転々として、グランメモリーズに辿り着いた。
思い出そうともしなかった記憶。だけど、とても大切な記憶。今こうして、あの時の2人と巡り会えたことは、"奇跡"なんだよね?
海はとても深くて、広くて、そして冷たい。でも、そんな海にだって、探せばいくらでも暖かい場所は見つかる。人間の心と同じように、全部が全部、同じ場所ってわけじゃないんだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「起きなさい。あんた達、早く起きなさいよ!全く、見てやってるこっちの身にもなってよ」
声......?それも、最近はやけによく聞くようになった、毒舌混じりのツンデレ声。
「あんた、起きてるでしょ。寝てるフリしてるなら撃つわよ」
セリカ「......っ、ここは?」
酒場みたいなカウンターに、テーブルと椅子が所狭しと置いてある。まるで、私達のギルド、グランメモリーズみたいな内装の場所......
ヒカリ「あんただけか。起きたのは」
セリカ「ヒカリん......?」
ヒカリ「安心しなさい。みんな無事だから。あんたが助けようとした、この事件の張本人さん達もね」
周りをよく見ると、私達はいつも座ってる場所で、座ったままの姿勢で寝ていたようだ。唯一ネイりんだけが椅子を3個並べて寝てたけど。でも、ヴァル、ヴェルド、シアラ、グリード、エフィ。そして、ライトとレイア。みんなここにいる。
セリカ「ここって、なんなの?」
ヒカリ「イメージの世界。あんたは城に囚われていたお姫様だからよく分からないでしょうけど、この世界、いや、私達が訪れたこのトーキョーは、ある特別な技術によって再現された街だったのよ。で、その技術を応用して、この世界が崩れ落ちる前に、また別の世界を作り出したの。と言っても、エネルギー源がなんなのか分からなかったから、使える量も限られてたんだけどね。それで、何とか作り出せたのがこのギルドハウスだったってわけ」
セリカ「そうなんだ......」
ヒカリ「今は海面に向けて飛んでる最中よ。外を見てご覧なさい。面白いものが見えるから」
面白いもの......?
窓の外に目を向けると、不思議なことに、若干暗いながらも水の景色が広がるだけだった。
当たり前か。深海の中にいたんだし......
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