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第10章-Ⅰ 【Campo proelii ex mortuis】
第10章12 【Ex desperandum est spe】
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1人、寂しく丘の上から街を見下ろしている少女の元に俺は足を進めた。
ここまで来るのに、そんな時間はかからなかったが、いざ、あいつの元に歩み寄ろうとすると、途端に足に鉛の塊でも付けられたみたいに足が重くなる。
ネイ「何少しビビってるんですか」
ヴァル「っ......」
耳のいいあいつは、俺の僅かな足音にも気づいたようで、すぐさまこちらに振り返ってくる。
咄嗟に顔を下に落とす。今更、こいつにどんな顔をすればいいのか。あんだけ酷いことを言って、今更どんな面をしろってんだ。
ネイ「......」
きっと、哀れみ、いや、蔑んだ目で見ているだろう。
怖い......怖くて、下げた顔を上げられない......
ヴァル「ネイ......俺は......」
ネイ「分かっています」
分かってる......?一体何が......
ネイ「......あの時は、その、私もヴァルの事を考えられずにいました......すみません」
ヴァル「なんで......お前が謝るんだ......悪いのは、俺なんだ......」
ネイ「いいえ、悪いのは私です。ヴァルの気持ちを考えられなかった私が悪いんです。今の私には力がない。なのに、それを認めたくなくて、ヴァルならどうにか出来るって思って、それで、ヴァルに戦ってもらおうと勝手に思ってました」
ヴァル「っ......」
ネイ「正直、周りが見えてなかったんです。こんなのになっても、今までの私の感覚でいたから、相手が誰であろうが勝てる、なんて思ってたんです。でも、ヴァルの言う通りでした。私達では、あいつに勝つことが出来ない。それなのに、私はヴァルに強要してしまった。だから、ごめんなさい......」
なんでお前が謝る。
なんでお前が頭を下げる。
なんで俺は、何も言えない。
悪いのはこいつじゃない。悪いのは俺なんだ。なのに、なんで俺は何も言えないんだ。口が開かない。あの時と同じだ。一言、「それでも悪いのは俺だ」くらい言えばいいのに、俺の口は何かに縫い付けられたかのようにして動かないでいる。
なんでだよ......なんで、簡単な一言が言えないんだ。俺は、そんなに弱くなっちまったのか......
ヴァル「っ......ネイ......俺は......」
ただ一言、謝ってしまえば全てが解決する。頭ではそう理解出来てるのに......
なぜなんだ......なぜ、俺はこんなにも震えていて、こんなにも不安になっていて、涙を流してるんだ......
ネイ「ヴァル。怖いなら怖いって言えばいいんです。ヴァルは、私によく、言いたいことがあるなら言えと言います。なら、ヴァルだって言いたいことを言ってください。なんでも聞きますし、どんな問いにだって答えます」
ネイの方から歩み寄ってきて、俺の顔を覗き込むようにして屈んでくる。
ヴァル「っ......なんで、なんでお前はそんなに優しいんだよ......」
ネイ「ヴァルが優しいからです」
ヴァル「なんで......お前は怒ってねぇんだ......あんだけ酷いことを言ったんだぞ」
ネイ「それは、私が悪かったことに気づいたからです」
ヴァル「......俺はもう諦めたんだよ。もう、あいつらには勝てっこない。出来るんなら、このままあいつらがやって来ねぇところまで逃げてやりたいって思ってんだ」
ネイ「別に、それでも構いません。ちゃんと、ヴァルが逃げる先に、私も連れて行ってくれるのなら」
......やめてくれよ。今の俺に、『優しさ』なんてもんは要らねぇんだよ。むしろ、もっと「ヴァルなんて役立たず」とか、「ヴァルなんて必要ない」とか言って、バッサリ否定してくれたっていいんだよ。
なのに、なんでこいつはそんな笑顔で俺の顔を見続けられるんだ。
ネイ「......でも、やっぱりヴァルに『逃げる』なんて言葉は似合いません」
ヴァル「......」
ネイ「ヴァルは、どんな劣勢にいたって、必ず勝利を信じて、どんな手段を用いてでも勝ちをもぎ取る人なんです。特に、ヴァルには私という存在を始め、たくさんの仲間がいます。でも、ヴァルはその仲間達に頼りすぎていたから、いざ仲間達を失った時に何も出来ないと言うんですか?」
ヴァル「......ああそうだよ。俺は、1人じゃ何も出来ねぇ弱い人間なんだ。今までだってそうだ。何1つとして、俺1人で解決出来たことなんてねぇ。お前を書庫から引きずり出す時だって、ヴェルドの野郎にぶっ飛ばされたからお前を引きずり出しに行ったんだ。あれがなけりゃ、今もお前は書庫に引き籠もってる。それに、お前にもう1つの人格が出た時だってそうだ。俺は何もしてやれないでいた。全部、お前が1人で解決することになった。傍にいながら、俺は何もしてやらなかったんだ。いや、違うな。何かしてるフリをしてたんだ......」
ネイ「......」
ヴァル「大会の時だってそうだ。仲間がやられてんのに、俺は何もしないでいた。やろうと思えば、相手の宿とか運営組織に直談判という名目で殴り込みに行くくらいのことは出来たんだ。でもしなかった。龍との戦いだってそうだ。俺は、龍を殺す魔法を持っていながら、ただの1匹として龍を倒すことなんざ出来なかった。ダークソウルの野郎共がギルドを襲ってきた時もだ。セリカを守るなんてほざきながら、俺は肝心のセリカを前線に立たせてしまった。依頼人を守るのが俺達の仕事。なのに、俺はその依頼人に危険を及ぼしちまった......」
他にも、上げ出せばキリがない。それほどに、俺は何もかもを1人で出来ず、それなのに、自分は何かをしていると思い込んでいた。
ヴァル「臆病者だ。俺は、なんだかんだ言っても、実は臆病でいざという時に何も出来ない、どうしようもない臆病者だったんだよ。ただ、その事に今気づいただけだ」
ネイ「ヴァルは臆病者なんかじゃありません」
ヴァル「じゃあ、なんだって言うんだよ。この体たらくを見て、臆病者意外になんの言葉が出てくるんだ。弱者とでも言うか?それとも、意気地無しとでも言うか」
ネイ「ヴァルはそんな人じゃありません」
ヴァル「だったらなんだって言うんだよ!」
俺は、ずっと笑顔でい続けるネイを突き飛ばし、ようやく顔を上げてネイの顔を見る。
ネイの表情は変わらない。でも、俺の表情は変わってる。
好きだと思っていた奴に対して、俺は初めて憎しみという感情を抱いている。それに、怒りという感情も同時に湧いている。
ヴァル「ハッキリ言えばいいじゃねぇか!お前が信じるヴァルって男は、本当は1人じゃ何も出来なくて、何が起ころうが何とかなるって気楽に思ってて、その裏でどれだけ辛い思いをしてる奴らがいるかも知らずに毎日毎日好き放題やってるだけのただの魔導士だって......!いや、魔導士でもない。そうだ。こういう奴を言い表すピッタリの言葉があったじゃねぇか!」
臆病者とか、弱者とか、そんなもんじゃない。俺は......俺という人間は......
ヴァル「クズって言うんだよ......俺は、俺に対してそう思う......。何もかもを他人任せにして、どうにかしなきゃいけない状況でもお前の力ばっか頼って、で、いざお前が力を失えば、もう何も出来ないとか言って逃げ出すだけのクズなんだよ!お前が信じてるほど、ヴァルって人間は聖人でもなんでもねぇんだよ!」
ネイ「......」
泣いている......そりゃそうだ。突きつけられた現実が、どれほど悲惨で悲しいものなのか。俺は、ようやくそれに気づいた。
俺は、しゃがみ込んでもう1回頭を俯かせる。そして、両耳も手で押える。もう、何も見たくねぇ。何も聞きたくねぇ。何も感じたくねぇんだ......。
ネイ「ヴァル。私の顔を見てください」
ネイが耳を塞ぐ俺の手をはらって、俺にそう言ってくる。
恐る恐る、俺はネイの顔を見る。
ネイ「......」
ヴァル「おま......」
右目が金色に光っている。
ネイ「実は、この力をメモリに移したなんて嘘だったんです。ヴァルが書庫に入り出してから、自然とこの力をコントロール出来るようになってたんです。だから、ずっと隠し続けてきたんです」
ヴァル「......」
ネイ「......ヴァルの心、全て読ませていただきました」
......クソっ。何もかも、お前にはバレてたってことかよ......畜生。
ネイ「辛かったですね。ヴァル」
何と言われるかと恐れていたが、ネイが行ってきたことは、そっと優しく俺を抱きしめてくることだった。
ヴァル「なん......でだ......よ」
ネイ「......」
ヴァル「俺は、お前が信じていた俺じゃねぇんだ」
ネイ「知っています」
ヴァル「俺は、お前に酷い言葉を浴びせた」
ネイ「えぇ。ちゃんと、心の叫びも聞こえていましたとも」
ヴァル「......なんで、お前はこんなにも優しいんだ」
こんな、クズに成り下がった人間を見て、なぜお前はここまで優しくできるんだ。俺は、そうされるほどの資格なんか持っちゃいない。お前には、不釣り合いな人間だよ。
ネイ「......私は、ヴァルのことが好きです。大好きです。初めて出会ったあの時、ヴァルは私のために色々としてくれました。暴走するジークを抑え込んで、私を仲間として迎え入れてくれて、私が何もかもが嫌になって逃げ出した時も、ヴァルだけが助けに来てくれました。あの時、ヴァルは誰かに言われて私を追いかけてきたんですか?」
ヴァル「っ......」
違う。あの時は、本心でお前を探し出した。俺は、誰に言われるでもなく、お前を助けるためだけに動いていた。
ネイ「それに、いくらヴェルドに言われたからって、私のことがどうでもいいんだったら、あんな無駄な時間をかけて私を説得しに来ませんよ。折角の貴重な時間を削ってまで、当時の私に価値はなかったんですよ。それを分かりきっていたのに、ヴァルは『私のために』と動いてくれました。果たして、これのどこに『仲間の意志』があるのでしょうか?」
ヴァル「っ......違う。そんなもん......どこにもない......あの時は......ただ、がむしゃらに......」
ネイ「そうです。ヴァルは、ただがむしゃらに私のために動いてくれた。何もかもが1人で出来ないなんて悲しいこと言わないでください。ヴァルにも、1人で出来ることがたくさんあったじゃないですか。それに、何も大きな問題に対して1人で挑めなんてバカなことは誰も言いませんよ。ヴァルは、自分達のことを弱い人間だと自負している。でも、弱い人間の何が悪いんですか。弱い人間だからこそ、誰かと手を取り合って、1つの大きな問題に取り掛かる。昔の数学者達は、そういう風にして難しい問題を解いていったんですよ。だから、恥じることなんてないんです。自分1人で出来ないことがあるなら、無理矢理にでも誰かの手を取りに行けばいい。ヴァルが、普段からやってた事じゃないですか」
......情けねぇ。情けねぇよ。
ただの女の子に成り下がっちまった神様に対し、ボロボロになるまで泣き崩れた顔を胸に埋めて泣いている。情けねぇ......。
俺は、こんなに弱い人間だったのか。いや、違う。お前は、もっと強い人間だったはずだ。お前にしか出来ねぇ事がいくらでもあるじゃねぇか。
ネイ「今は泣いててもいい。でも、涙を私の胸に染み込ませて、その涙が枯れたら、また立ち上がってください。立ち上がって、私に『大丈夫』の一言をかけてください。私は、どんな事があっても、大好きなヴァルについていきます」
......クソが。なんだってこんな情けねぇ姿を晒さなきゃならねぇんだ。
こんなに大泣きしたのはいつぶりだろうな。フウロとの喧嘩に負けた時か?いいや。あの時は悔し泣きだった。大したもんじゃねぇ。今のこれは、悲しくて泣いてるわけでも、悔しくて泣いてるわけでもねえ。
嬉し泣きだ。俺には、俺を信じてくれる仲間がいる。その事に気づけて、嬉しいんだ。
......
......
......
ネイ「ヴァル。もう大丈夫ですか?」
涙を枯らし、俺は頬を伝った涙を腕でぬぐい取る。
こんだけ泣いたんだ。もう泣くことなんてないだろう。
ヴァル「......」
俺は立ち上がる。もう一度、こんなに無様な姿をさらけ出す原因になったあいつに向けて、拳を突き上げるために。いや、それだと理由がちょっと違うな。
俺のことを信じてくれて、こんなにも好きだと言ってくれる子がいる。
立ち上がった俺は、握り拳を振り解き、同じように立ち上がったネイを引き寄せる。
ヴァル「俺は諦めねぇ。俺は、ただがむしゃらに突き進む。どんな無茶な道だろうが、お前はついてきてくれるよな?」
ネイ「もちろんです。私の命は、ヴァルと共に......」
ヴァル「そうか。なら、1つ約束してくれ」
ネイ「なんなりと」
今から言おうとしてる一言は、『死亡フラグ』そう取れるかもしれねぇな。だが、だからこそ、あえて言わせてほしい。
ヴァル「ネイ。俺もお前のことが大好きだ」
ネイ「知っています」
ヴァル「......2人で生き残って、また、いつも通りの日々を遅れる日が来たら......」
ネイ「......?」
ヴァル「......ネイ。結婚しよう」
ネイ「......!?」
その一言を放った時、途端にネイの顔が真っ赤になって、その直後に大粒の涙を零れ落とした。そして、ネイは口元を緩めてこう言った。
ネイ「はい。喜んで」
ここまで来るのに、そんな時間はかからなかったが、いざ、あいつの元に歩み寄ろうとすると、途端に足に鉛の塊でも付けられたみたいに足が重くなる。
ネイ「何少しビビってるんですか」
ヴァル「っ......」
耳のいいあいつは、俺の僅かな足音にも気づいたようで、すぐさまこちらに振り返ってくる。
咄嗟に顔を下に落とす。今更、こいつにどんな顔をすればいいのか。あんだけ酷いことを言って、今更どんな面をしろってんだ。
ネイ「......」
きっと、哀れみ、いや、蔑んだ目で見ているだろう。
怖い......怖くて、下げた顔を上げられない......
ヴァル「ネイ......俺は......」
ネイ「分かっています」
分かってる......?一体何が......
ネイ「......あの時は、その、私もヴァルの事を考えられずにいました......すみません」
ヴァル「なんで......お前が謝るんだ......悪いのは、俺なんだ......」
ネイ「いいえ、悪いのは私です。ヴァルの気持ちを考えられなかった私が悪いんです。今の私には力がない。なのに、それを認めたくなくて、ヴァルならどうにか出来るって思って、それで、ヴァルに戦ってもらおうと勝手に思ってました」
ヴァル「っ......」
ネイ「正直、周りが見えてなかったんです。こんなのになっても、今までの私の感覚でいたから、相手が誰であろうが勝てる、なんて思ってたんです。でも、ヴァルの言う通りでした。私達では、あいつに勝つことが出来ない。それなのに、私はヴァルに強要してしまった。だから、ごめんなさい......」
なんでお前が謝る。
なんでお前が頭を下げる。
なんで俺は、何も言えない。
悪いのはこいつじゃない。悪いのは俺なんだ。なのに、なんで俺は何も言えないんだ。口が開かない。あの時と同じだ。一言、「それでも悪いのは俺だ」くらい言えばいいのに、俺の口は何かに縫い付けられたかのようにして動かないでいる。
なんでだよ......なんで、簡単な一言が言えないんだ。俺は、そんなに弱くなっちまったのか......
ヴァル「っ......ネイ......俺は......」
ただ一言、謝ってしまえば全てが解決する。頭ではそう理解出来てるのに......
なぜなんだ......なぜ、俺はこんなにも震えていて、こんなにも不安になっていて、涙を流してるんだ......
ネイ「ヴァル。怖いなら怖いって言えばいいんです。ヴァルは、私によく、言いたいことがあるなら言えと言います。なら、ヴァルだって言いたいことを言ってください。なんでも聞きますし、どんな問いにだって答えます」
ネイの方から歩み寄ってきて、俺の顔を覗き込むようにして屈んでくる。
ヴァル「っ......なんで、なんでお前はそんなに優しいんだよ......」
ネイ「ヴァルが優しいからです」
ヴァル「なんで......お前は怒ってねぇんだ......あんだけ酷いことを言ったんだぞ」
ネイ「それは、私が悪かったことに気づいたからです」
ヴァル「......俺はもう諦めたんだよ。もう、あいつらには勝てっこない。出来るんなら、このままあいつらがやって来ねぇところまで逃げてやりたいって思ってんだ」
ネイ「別に、それでも構いません。ちゃんと、ヴァルが逃げる先に、私も連れて行ってくれるのなら」
......やめてくれよ。今の俺に、『優しさ』なんてもんは要らねぇんだよ。むしろ、もっと「ヴァルなんて役立たず」とか、「ヴァルなんて必要ない」とか言って、バッサリ否定してくれたっていいんだよ。
なのに、なんでこいつはそんな笑顔で俺の顔を見続けられるんだ。
ネイ「......でも、やっぱりヴァルに『逃げる』なんて言葉は似合いません」
ヴァル「......」
ネイ「ヴァルは、どんな劣勢にいたって、必ず勝利を信じて、どんな手段を用いてでも勝ちをもぎ取る人なんです。特に、ヴァルには私という存在を始め、たくさんの仲間がいます。でも、ヴァルはその仲間達に頼りすぎていたから、いざ仲間達を失った時に何も出来ないと言うんですか?」
ヴァル「......ああそうだよ。俺は、1人じゃ何も出来ねぇ弱い人間なんだ。今までだってそうだ。何1つとして、俺1人で解決出来たことなんてねぇ。お前を書庫から引きずり出す時だって、ヴェルドの野郎にぶっ飛ばされたからお前を引きずり出しに行ったんだ。あれがなけりゃ、今もお前は書庫に引き籠もってる。それに、お前にもう1つの人格が出た時だってそうだ。俺は何もしてやれないでいた。全部、お前が1人で解決することになった。傍にいながら、俺は何もしてやらなかったんだ。いや、違うな。何かしてるフリをしてたんだ......」
ネイ「......」
ヴァル「大会の時だってそうだ。仲間がやられてんのに、俺は何もしないでいた。やろうと思えば、相手の宿とか運営組織に直談判という名目で殴り込みに行くくらいのことは出来たんだ。でもしなかった。龍との戦いだってそうだ。俺は、龍を殺す魔法を持っていながら、ただの1匹として龍を倒すことなんざ出来なかった。ダークソウルの野郎共がギルドを襲ってきた時もだ。セリカを守るなんてほざきながら、俺は肝心のセリカを前線に立たせてしまった。依頼人を守るのが俺達の仕事。なのに、俺はその依頼人に危険を及ぼしちまった......」
他にも、上げ出せばキリがない。それほどに、俺は何もかもを1人で出来ず、それなのに、自分は何かをしていると思い込んでいた。
ヴァル「臆病者だ。俺は、なんだかんだ言っても、実は臆病でいざという時に何も出来ない、どうしようもない臆病者だったんだよ。ただ、その事に今気づいただけだ」
ネイ「ヴァルは臆病者なんかじゃありません」
ヴァル「じゃあ、なんだって言うんだよ。この体たらくを見て、臆病者意外になんの言葉が出てくるんだ。弱者とでも言うか?それとも、意気地無しとでも言うか」
ネイ「ヴァルはそんな人じゃありません」
ヴァル「だったらなんだって言うんだよ!」
俺は、ずっと笑顔でい続けるネイを突き飛ばし、ようやく顔を上げてネイの顔を見る。
ネイの表情は変わらない。でも、俺の表情は変わってる。
好きだと思っていた奴に対して、俺は初めて憎しみという感情を抱いている。それに、怒りという感情も同時に湧いている。
ヴァル「ハッキリ言えばいいじゃねぇか!お前が信じるヴァルって男は、本当は1人じゃ何も出来なくて、何が起ころうが何とかなるって気楽に思ってて、その裏でどれだけ辛い思いをしてる奴らがいるかも知らずに毎日毎日好き放題やってるだけのただの魔導士だって......!いや、魔導士でもない。そうだ。こういう奴を言い表すピッタリの言葉があったじゃねぇか!」
臆病者とか、弱者とか、そんなもんじゃない。俺は......俺という人間は......
ヴァル「クズって言うんだよ......俺は、俺に対してそう思う......。何もかもを他人任せにして、どうにかしなきゃいけない状況でもお前の力ばっか頼って、で、いざお前が力を失えば、もう何も出来ないとか言って逃げ出すだけのクズなんだよ!お前が信じてるほど、ヴァルって人間は聖人でもなんでもねぇんだよ!」
ネイ「......」
泣いている......そりゃそうだ。突きつけられた現実が、どれほど悲惨で悲しいものなのか。俺は、ようやくそれに気づいた。
俺は、しゃがみ込んでもう1回頭を俯かせる。そして、両耳も手で押える。もう、何も見たくねぇ。何も聞きたくねぇ。何も感じたくねぇんだ......。
ネイ「ヴァル。私の顔を見てください」
ネイが耳を塞ぐ俺の手をはらって、俺にそう言ってくる。
恐る恐る、俺はネイの顔を見る。
ネイ「......」
ヴァル「おま......」
右目が金色に光っている。
ネイ「実は、この力をメモリに移したなんて嘘だったんです。ヴァルが書庫に入り出してから、自然とこの力をコントロール出来るようになってたんです。だから、ずっと隠し続けてきたんです」
ヴァル「......」
ネイ「......ヴァルの心、全て読ませていただきました」
......クソっ。何もかも、お前にはバレてたってことかよ......畜生。
ネイ「辛かったですね。ヴァル」
何と言われるかと恐れていたが、ネイが行ってきたことは、そっと優しく俺を抱きしめてくることだった。
ヴァル「なん......でだ......よ」
ネイ「......」
ヴァル「俺は、お前が信じていた俺じゃねぇんだ」
ネイ「知っています」
ヴァル「俺は、お前に酷い言葉を浴びせた」
ネイ「えぇ。ちゃんと、心の叫びも聞こえていましたとも」
ヴァル「......なんで、お前はこんなにも優しいんだ」
こんな、クズに成り下がった人間を見て、なぜお前はここまで優しくできるんだ。俺は、そうされるほどの資格なんか持っちゃいない。お前には、不釣り合いな人間だよ。
ネイ「......私は、ヴァルのことが好きです。大好きです。初めて出会ったあの時、ヴァルは私のために色々としてくれました。暴走するジークを抑え込んで、私を仲間として迎え入れてくれて、私が何もかもが嫌になって逃げ出した時も、ヴァルだけが助けに来てくれました。あの時、ヴァルは誰かに言われて私を追いかけてきたんですか?」
ヴァル「っ......」
違う。あの時は、本心でお前を探し出した。俺は、誰に言われるでもなく、お前を助けるためだけに動いていた。
ネイ「それに、いくらヴェルドに言われたからって、私のことがどうでもいいんだったら、あんな無駄な時間をかけて私を説得しに来ませんよ。折角の貴重な時間を削ってまで、当時の私に価値はなかったんですよ。それを分かりきっていたのに、ヴァルは『私のために』と動いてくれました。果たして、これのどこに『仲間の意志』があるのでしょうか?」
ヴァル「っ......違う。そんなもん......どこにもない......あの時は......ただ、がむしゃらに......」
ネイ「そうです。ヴァルは、ただがむしゃらに私のために動いてくれた。何もかもが1人で出来ないなんて悲しいこと言わないでください。ヴァルにも、1人で出来ることがたくさんあったじゃないですか。それに、何も大きな問題に対して1人で挑めなんてバカなことは誰も言いませんよ。ヴァルは、自分達のことを弱い人間だと自負している。でも、弱い人間の何が悪いんですか。弱い人間だからこそ、誰かと手を取り合って、1つの大きな問題に取り掛かる。昔の数学者達は、そういう風にして難しい問題を解いていったんですよ。だから、恥じることなんてないんです。自分1人で出来ないことがあるなら、無理矢理にでも誰かの手を取りに行けばいい。ヴァルが、普段からやってた事じゃないですか」
......情けねぇ。情けねぇよ。
ただの女の子に成り下がっちまった神様に対し、ボロボロになるまで泣き崩れた顔を胸に埋めて泣いている。情けねぇ......。
俺は、こんなに弱い人間だったのか。いや、違う。お前は、もっと強い人間だったはずだ。お前にしか出来ねぇ事がいくらでもあるじゃねぇか。
ネイ「今は泣いててもいい。でも、涙を私の胸に染み込ませて、その涙が枯れたら、また立ち上がってください。立ち上がって、私に『大丈夫』の一言をかけてください。私は、どんな事があっても、大好きなヴァルについていきます」
......クソが。なんだってこんな情けねぇ姿を晒さなきゃならねぇんだ。
こんなに大泣きしたのはいつぶりだろうな。フウロとの喧嘩に負けた時か?いいや。あの時は悔し泣きだった。大したもんじゃねぇ。今のこれは、悲しくて泣いてるわけでも、悔しくて泣いてるわけでもねえ。
嬉し泣きだ。俺には、俺を信じてくれる仲間がいる。その事に気づけて、嬉しいんだ。
......
......
......
ネイ「ヴァル。もう大丈夫ですか?」
涙を枯らし、俺は頬を伝った涙を腕でぬぐい取る。
こんだけ泣いたんだ。もう泣くことなんてないだろう。
ヴァル「......」
俺は立ち上がる。もう一度、こんなに無様な姿をさらけ出す原因になったあいつに向けて、拳を突き上げるために。いや、それだと理由がちょっと違うな。
俺のことを信じてくれて、こんなにも好きだと言ってくれる子がいる。
立ち上がった俺は、握り拳を振り解き、同じように立ち上がったネイを引き寄せる。
ヴァル「俺は諦めねぇ。俺は、ただがむしゃらに突き進む。どんな無茶な道だろうが、お前はついてきてくれるよな?」
ネイ「もちろんです。私の命は、ヴァルと共に......」
ヴァル「そうか。なら、1つ約束してくれ」
ネイ「なんなりと」
今から言おうとしてる一言は、『死亡フラグ』そう取れるかもしれねぇな。だが、だからこそ、あえて言わせてほしい。
ヴァル「ネイ。俺もお前のことが大好きだ」
ネイ「知っています」
ヴァル「......2人で生き残って、また、いつも通りの日々を遅れる日が来たら......」
ネイ「......?」
ヴァル「......ネイ。結婚しよう」
ネイ「......!?」
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ネイ「はい。喜んで」
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